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「覚えておらへんのや。お前の事も、俺達の事も、何もかも」
今までどんなに辛くても、どんなに孤独でいようとも、後悔なんてしなかった。自分が苦しむ変わりに大切な人達の日常を守れると信じていたからだ。
ああ、これが夢だったら良かったのに。
今切実に思うんだ。これはあの時孤独だった俺が見ている悪夢なんだって。
(貴方は誰ですか―――?)
それは死刑宣告のように重くて。
放たれた言葉は鋭く鋭く尖っていて。
俺の心臓を真っ直ぐ確実に貫いていた。
俺が100年の時を過ごしながら苦しみに苛まれ孤独と戦っていた頃、あいつも同じように苦しんでいたんだ。
佐野は重苦しそうにこう語った。
こちらの世界に帰って来てからのあいつの有様は酷いものだったと。
周りに笑顔を振り撒きながら"あいつは必ず帰ってくる。だからここで待つんだ"と気丈に振る舞いながら、己の内ではかつての約束を守れなかった自分を責め続けた。隠れて泣いて何度も何度も自分を傷付け、死にかけた事もあったらしい。そして最後には、何も映さないような光のない虚ろな瞳をした人形のようだった……。
心身ともに過大なストレスを抱えていたあいつが取れた、たった一つの方法。
それは、自分自身の心と身体を守る為に"全てを忘れる"という事だけだったんだ。
「植木さん」
佐野が今までの経緯を全て語り終わったその時、まるでタイミングを計ったように鈴子に連れられて現れた森。
佐野も鈴子も、表情にこそ出さないが重い視線を送りながら見守っている。
おどろおどろに視線を少し下げて、申し訳なさそうに俺を見つめる森。
違う。俺を呼ぶその声色も、呼び方も、態度も、全部違っていた。森によく似た別人なんじゃないかと錯覚してしまう程に。
「森……」
「あの、ごめんなさい。私、貴方のコト覚えていなくて、」
『貴方は誰だ』
そう聞かれるのは二度目だったけど、一度目と違うのは敵対する必要なんかないって事と(元からありはしないけど)俺がどう足掻いた所で記憶を取り戻すことは出来ないって事だ。
あの時はキューブを取り戻せば何とかなると知っていたからこそ、絶望せずに済んだのかもしれない。
「だから、その……、」
「俺は植木耕助」
「えっ?」
「君の名前は?」
「森、あい…です」
「これから宜しくな」
「……はいっ」
思い出せないのなら、ここからまた始めれば良い。
辛くないって言ったら嘘になるけれど、それでも進むしかないのだから。
待つ事に堪えられず自分を責めて記憶をなくしてしまった森。
佐野達は帰って来ない植木の事を話して下手に思い出させても、また森が苦しむだけだと思って植木の事は一切教えていなかった。
壊れ物を扱うように優しくされすぎた森は、何故自分がここまで優しくされるのか理解出来ずに戸惑い、周りに気遣っているうちにおどおどするようになってしまったっていう設定。
11.8.8
//忘却へ、堕ちる