泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

Text



植木誕生日での話。
アニメ版準拠。






7月4日。
またこの日がやってきた。
俺の誕生日であるこの日。
俺にとっては勿論、家族にとっても特別な日である今日は、もう一つ別の意味で特別な日だった。
そう、今日は母ちゃんの命日だ――。

毎年毎年、この日は俺の誕生日であり、母ちゃんの死んだ日でもあった。
この日が休みであれば、必ず家族で墓参りに出かけるし、それが出来なかったとしても、せめて家で供養として家族揃って母ちゃんの好物だったカレーを食べるという、そんな行事が行われていた。
そして、カレーを食べた後に、俺の誕生日を祝うケーキが振る舞われる。それが、7月4日の植木家恒例となっていたんだ。

『耕ちゃん、今日はフルーツケーキをつくってみたの』

『わあぁっ…!』

姉ちゃんがつくるケーキ。忙しい時は、駅前で買ってきたものだったけれど、どんな時でもケーキは美味しかったし、姉ちゃんや父ちゃんの優しさが伝わってきて、嬉しかった。姉ちゃんや父ちゃんが笑って祝福してくれるのが嬉しかったんだ。

『………』

『耕、ちゃん…?』

『なんでもないよ』

でも、それでも、俺の心が満たされる事はなかった。喜ぶべき日なのに、笑って感謝の気持ちを言うべきなのに、そんな気にらなれない。
だってそうだろう?
俺が生まれた日に母ちゃんが死んだんだ。母ちゃんが死んだ日に俺が生まれた。

俺は自分の誕生日を喜ぶ事は出来なかった。ケーキを振る舞う時は隠すけど、カレーを食べている時の父ちゃんと姉ちゃんが、少しだけ悲しそうに瞳を伏せるのを、俺はいつも何となくだけど感じとっていたし。
それに、前まで母ちゃんが死んだのは俺のせいだと思ってたから。幼いながらも、赤ちゃんが生まれると、お母さんは死んでしまう事があるのを原理は分からずとも知っていた。
だから、俺は自分の生まれた日を、どうしても喜べなかった。むしろ自分を呪ったりもした。姉ちゃんや父ちゃんに「母ちゃんが死んだのは自分のせい?」と一回尋ねた事もあったけど、困らせるだけで何も答えてくれなかった。今思うと、馬鹿な質問してたなって思う。


(俺は天界人だ―――!!!)


後に俺が天界人だとわかった時、人間じゃないというショックも少なからずあったけれど、正直、ほっとした自分もいたんだ。
俺は人間じゃない。
俺は天界人。
天界から落とされた子供。
俺は母さんを死なせていなかった。俺が殺していたわけではなかったんだ――。



「誕生日おめでとう、耕ちゃん」

「おめでとう、耕助」


ああ、またこの日がやってきた。
俺に向けられる笑顔。包むように祝福してくれるその言葉。心地いい。ずっと前まで素直に受け取る事が出来なかった祝いの言葉も、暖かく見守ってくれている眼差しも、全部が全部、自分が愛されているのだという証明だ。

「ありがとう。毎年毎年、ありがとう」

「耕助、家族なんだから当たり前だろう」

「うん。だから俺……、母ちゃんの話しが聞きたい」

「……耕ちゃん?」

「良いかな?」

俺が人間界に落とされた日に、死んでしまった俺の母ちゃん。風貌は写真でしか見た事ない。母ちゃんの事で、俺の出生について勘繰られたくなかったのかどうかは分からない。多分、俺の為だったんだと思う。姉ちゃんや父ちゃんは自分から母ちゃんの話をしなかった。俺自身も、母ちゃんを想っている時の姉ちゃんと父ちゃんの複雑な表情を見ていたし、昔馬鹿な質問をした時の悲しそうに顔を歪める姉ちゃん達を見てからは、聞こうとも話そうとも思わなくなっていた。
そんな俺が、初めて自分から母ちゃんの事を話したのだ。姉ちゃんは瞳を揺らして、父ちゃんは真っ直ぐこちらを見ていた。

「俺、昔は家族に愛されてるって自信がなかったんだ。母ちゃんが死んだのは、自分のせいだって思ってたから」

「耕ちゃ…、」

「でも、今なら自信を持って言える。俺、こんなにも家族に愛されてるんだ」

「耕助…」

「俺の家族は父ちゃんと姉ちゃん、そして母ちゃんだ。俺だけ、血は繋がってないけれど、三人は俺の家族だ。だからこそ知りたい。母ちゃんがどんな人だったのか、知りたいんだ。駄目、かな?」

俺は母ちゃんがどんな人なのか、知らない。どんな風に父ちゃんと姉ちゃんと接していたのかも知らないし、父ちゃんと姉ちゃんが母ちゃんの事をどう思っていたのかも分からない。もしかしたら、母ちゃんの事を聞かれるのは辛い事なのかもしれないし、俺はその傷を刔っているのかもしれない。家族を傷つけているのかもしれない。
それでも、俺は知りたい。母ちゃんの事を知りたい。
家族だから、家族の事が知りたい。

「……耕助、お前は家族だ。父さん達の家族だ。そして母さんも、お前の家族だ。何の遠慮もないさ、家族なんだから」

「お父さん…」

「……!それじゃあ…、」

「ああ、母さんの話をしてあげよう。さて、何から聞きたい?」

母さんの話をしてあげよう。
そう言った父ちゃんは、とても穏やかな顔をしていた。姉ちゃんは優しく微笑んでいた。
聞きたい事はいっぱいある。母ちゃんはどんな人だったのかとか、母ちゃんと父ちゃんの出会いとか。色々聞きたい。話したい。その事を父ちゃんに言ったら、驚いた顔をしたけど、こう言ってくれた。

「一つ一つ話していけば良いさ。家族の時間は、まだまだこれからあるんだから」

「うん」

「やっと、やっと本当の家族になれたのね、私達」

「何言ってるんだ、父さん達はもとから本当の家族じゃないか」

「…!そうね、そうなのよね」

「じゃあ耕助、母さんと姉ちゃんのとの思い出話と、母さんの学生時代の話。どっちがいい?」

「んーと…、」

「あ、私、お母さんの学生時代聞きたいー!」









title by カタリグサ

10.7.4
//帰りたい場所