泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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それは森の一言から始まった。


「今日は七夕ね」
「おー、そうだな」
「うーん。私、七夕やりたいのよね」
「七夕を?」
「ほら、短冊作って笹の葉に飾りつけたりするアレよ」
「何か嫌な予感がすんだが、俺の気のせいか森?」
「ううん、コバセン。気のせいじゃないわ。とって楽しい事よ!」

目の前で不敵な笑みを浮かべてにじりよる森を見て、小林は焦った。
只でさえ暑くなってきた七月。いくら放課後の涼しさがあろうとも、冷房がない教室の暑さに加え、体から湧き出る嫌な汗がこれから面倒事が起きるという危険を察知していた。

「という事で、笹を出してよ。コバセン」
「は?なんで俺が笹を出すんだ?」
「ほら、バトルでの植木の能力あるでしょう?植木には能力がなくなっちゃったけれど、コバセンならぱぱっと出せるじゃない」
「馬鹿。アレはだなぁ、神を決める戦いで神の元から持ち出される事を許された特別な能力であって、俺達天界人がもともと持ってる能力じゃねぇ」
「え、そうなの?」
「俺が持ってるなら、植木だって持ってる筈だろう?それがないのは、もともとの能力じゃない証だ」
「おぉ!そういえば、俺もロベルトも他の奴等も、そんな様子なかったもんなぁ」
「えー、じゃあ七夕出来ないじゃない!」
「今年は諦めるんだな」
「そういえば森はさ、なんで突然七夕やろうなんて言い出したんだ?」
「今日登校してる時にさ、見たのよね。願い事を書いた短冊や、折り紙の飾りをたくさんつけた笹を飾ってる家。小さい頃に散々やったけれど、こういう行事って、大きくなってから楽しみを理解できると思うの。そんな事を考えてたら、三人で願い事を書いたりするのってきっと楽しいんだろうなーって思っちゃったのよ」
「でも、仕方がないか。急だったしね。来年は絶対に用意してやるんだから!」
「……あー、全く仕方がねぇな」
「コバセン?」
「俺ん家の近くに、笹を庭一杯に育てている爺さんがいる。その爺さんに頼めば、小さいのを分けてくれるだろ」
「コバセン!!」


結局、森の思いに小林が折れた形となった。急に決まった事だったので材料を集められるか三人は相談したが、小林が事務室から折り紙を持ってこれば良いという案でそれは杞憂に終わる事となる。
勿論言っておくが、これはいけない事であり、学校の備品を私用で使うなどあってはならない行為である。
本来ならば咎める側である筈の小林は苦笑しながらも、子供の頃の悪戯や悪知恵をきかせていた事を思い出し、たまにはこんなのも良いかもしれないと廊下の窓に映る夕焼けを見上げながら思った。

小林のいうお爺さんからは、事情を説明するとあっさり笹を渡してくれて、調達の問題もクリアされた。
そして、残るは笹の飾りつけをするという作業だけなのだが……、


「……どうして、俺の家でやる必要があるんだ?」
「だって、コバセンの家が1番近くて便利じゃない」
「運ぶのも楽だしな!」
「………はぁ、たまには良いかもなんて思った方が馬鹿だったか…」
「なんか言った?コバセン」
「なんでもねぇよ…」

ちゃぶ台の上で広げられる色とりどりの折り紙と、熱心に飾りを作っている子供二人と大人。小林にはこれが異様な光景に思えたが、楽しそうに作業に励む二人を見たらどうでも良い気がして、しまいには大の大人もそれに加わる事にした。

「植木はさ、何のお願い事を書いたの?」
「俺は―…、秘密だ。」
「えー、何それ!どうせ最後には皆飾るんだから隠さないで教えなさいよ!」
「じゃあ森は何を書いたんだよ?」
「私?私は植木が大きな怪我をしないように、よ」
「俺が?」
「そうよ!本当は植木が馬鹿な真似をしませんようにって書きたかったケド、どうせ無駄だと思ってこれにしたの!」
「そっか…、ありがとな」
「おーおー、二人とも青春してるねぇ」
「何よニヤニヤしちゃって。そういうコバセンは何を書いたの?」
「ビールとつまみ一年分」
「うわ、オヤジっ!」
「夢がねーな」
「うるせぇよ、夢がなくて悪かったな」
「じゃあ、どんどん書くわよー!」
「おぅっ!」
「何枚でもアリなのかよ」
「だって、たった3枚じゃ淋しいものでしょ?せっかくの願い事なんだし、沢山書いても罰は当たんないわよ!」
「いや、書けば書く程叶わない気が…」




「「完成ーっ!!!」」
「やっと終わったか……」
「楽しかった!これ作ってて俺、楽しかったよ」
「うん、私も楽しかった」
「んー。じゃあ、お前等満足したろ?そろそろ帰れ」
「……あ、もう8時半?」
「でも、笹は……、」
「俺が責任持って管理してやるから。そうだな、一週間は保管してやるよ。だから、もう帰れ。親御さん心配してるだろ?」
「うん、分かった。じゃあ帰るね」
「今日はありがとう、コバセン!」
「コバセン、また明日!」
「おぅ、気ぃつけて帰れよー」

ぱたん。
扉が閉まる音がした後、そこに残るのは静粛だけ。
小林は、先程のうるささとはまるで嘘のようなその静けさに、淋しさを覚えたが、ふと部屋の隅にある三人で飾った笹を見てその感情が吹き飛んだ気がした。

笹に飾られた折り紙や願いが込められた短冊。整った字で書かれる森の願い事は、植木への願いや物が欲しい、『ダイエットを成功させたい』等のいかにも森らしい願い事が書かれている。
逆に少々雑な字でも一生懸命書いた事が伝わる植木の書いた願い事は、日常での些細な事や家族の事、そして森や俺でさえ見られたくなかったであろう願い事、『森を守りたい』という何とも植木らしい願い事が書かれていた。

(このマセガキ…)

そんな中で小林は一つの短冊を見つけた。綺麗な字と雑な字が入り混じった一つの願い。一瞬驚いた表情をした小林だが、それもつかの間。こんなのいつ書いたんだと呆れた顔をしながらも、内心嬉しい気持ちで一杯だった。

『5年後も10年後もそれ以降も、小林先生の生徒でいられますように――』

小林はペンと残った紙を静かに取り出すと、すらすら文字を書いていく。それを笹のてっぺんの葉にくくりつけると、満足気に笑った。

窓の外を見やると、紺青の空にきらきらと瞬く天の川が見えた。あいつ等もこの星空を見上げているのだろうなと思いに耽っていたのもつかの間、夕飯も風呂もまだな事に気づいた小林はそちらを優先する事にした。

開けっぱなしの窓からは、透き通るような涼しい風が入りこみ、三人が書き上げた短冊をひらひらと揺らめかせていた。先程小林が書いた願いもまた、一緒に。



未来ある子供達に希望あれ―――。




面倒臭いと思いながらも、教え子には甘いコバセンに萌え。
コバセンは、戦いに巻き込ませた負い目と、助けてもらった恩と、正義があるとして心から認めている部分と、教師の立場と、大人の包容力と、全部ごっちゃになってたら良い。


10.7.7
//未来への願い