泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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どこか遠い昔、私はこの少女に会った事があるのだろうか?
いや、そんな事ある筈がない。自身が封印されて幾年も過ぎているからだ。なら何故こんな事を思う?
どこかで見た事のある面影、どこかで感じた事のある温もり。いつかの遠い昔にどこかで知った筈のその感情。
目の前で佇むこの少女は、どうしてここまで妙な気持ちにさせるのだ!?


***


大きな赤ぷよ帽が特徴の少女。あの赤ぷよ帽には何か特別な能力が感じられるのだが、今はそれどころではないと置いておく事にした。
この身体の本来の持ち主であるクルークと少女との間にある記憶が噛み合わない事に焦燥を覚えた魔物は、瞬時に身体に染み付く情報を読み取り己のものにする。

(アミティ……というのか)

クルークと同じ学校に通う、同級生の少女。
そこで魔物は深く考える。復活を果たしたとはいえ、己はまだ不完全な存在。おまけに復活してさほど時間が経っておらず、まだこの身体の能力を100パーセント引き出すには至らない。既に己の半身とわけの分からぬ娘にこっぴどくやられて、具現化するのに必要な魔導具を持ち去られてしまっている。

(もう後はない)

そこまで考えて視線を少女に戻すと、これまで無表情を貫いていた魔物は、驚きのものに変わる事となる。

「おい」

「……え、何?」

「何じゃないだろう。お前は何故泣いている?」

「え……?」

少女は頬に手をやると、呆然とした様子で濡れた手の平をまじまじと見つめていた。
どうやら自分で気付いていなかったらしい。
そんな少女の様子に呆れの色を隠せないでいる魔物は溜息をひとつはいて、少女の濡れた頬を拭った。少女は嫌がる様子を見せる事もなく、黙ってそれを受け入れる。

まるで、そうする事が自然かのように。


「……なんでだろう。あたしもよく分からないんだ。なんで涙が出てくるの?なんで止まらないの…?どうして…っ」

「泣くな…、泣くな…」


この少女には泣いてほしくない。
この少女には笑っていてほしい。
心の奥底にある熱い感情が沸き上がっていくのを感じ、戸惑いながらも、そう願わずにはいられない自分がいる事を魔物は何も言わずに受け入れた。


11.9.2
//運命の邂逅