泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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シグアミ前提で限りなくあや+アミに近いあや→アミ。








「アミティ――」

あたしを呼ぶ彼の声。
優しくて、愛おしくて、いつでも何度でも聴いていたくなる彼の声。
その甘ったるい声色は、まるで恋人へ呼びかけるように自然で。だから、あたしはまだ、それに気付けない。
後ろで彼の姿を認めた瞬間に、胸の中では喜びと嬉しさで一杯になって浮かれてしまったからだ。
それもそのはず、彼とは先日互いの想いを確かめ合ったばかりなのだから、浮かれるなと言う方が酷いと思う。
胸をはずませて彼の名を呼んで応えた。

「シグっ!」

嬉しさをこれでもかという程に振りまきながら、彼の元へと駆け寄っていく。
1歩、2歩、3歩、4歩……。
近づく彼の姿。近づく彼の微笑み。近づく彼の気配。
シグ。あたしの大切な人。あたしが好きな人。あたしの事を好きって言ってくれる人。
なのに。
…………。
(あれ……?)
歩を進める度に、近くなっていく距離が嬉しいのに、それと比例するかのように何とも言い知れない違和感が増していく。
一度でも不安が心を過ぎれば、浮かれていた思考も紙にインクが滲んで広がるように、そのまま染まっていった。

「アミ、ティ……?」

彼の胸へ飛び込むまであと5歩といった所か。
勢いは徐々に弱まり、そして遂には止めてしまった。
不思議そうに首を傾ける彼を、あたしは素直に見つめる事が出来ずにいる。
間違いなく目の前にいるのは彼のはずなのに、この胸に抱く不安を拭えないのは何故なのか。
彼から感じる魔力が濃いのは、彼の左目に加えて、右目が燃えるように"紅い"のは何故?
そして導き出される答えとは、

(ああ。違う、違うんだ。彼は、もう――……)

辿り着いた一つの結論。
それは、どうしようもなく哀しいけれど、望んだ結末の内の一つだった。


「……キミは、シグじゃないんだね」

「何いっているの、アミティ?」

「とぼけないで。キミはシグじゃない。そうでしょ?」

「……」

何かが違う彼。紅い左目、感じた事のある濃い魔力。
それが意味するものは、この人があたしの知っているあの人だという事。
紅い魔物。本当の名前があるのかも、過去に何があったのかもよく知らないけれど、分かっているのは、遠い昔に魂の半分を本に封印されてしまった存在だという事。
魂を半分を得る事で完全を目指していた、シグの半分を持っている人。
そして、シグと彼は、自身の存在の為に争っていたんだ。
その彼がシグの姿をしているという事は、つまり。

「違う。私が……シグだ」

「そっか。キミは、シグに勝ったんだね?」

「そうだ。だから、私はシグになったのだ」

「シグに……なった?」

「ああ」

彼は、失われていた魂の半分と身体を取り戻して完全になったというのに、どういう訳か『シグになった』と繰り返す。
どうしても訳が分からなくなる。
彼は『彼自身』になる事を望んでいたんじゃなかったの。

「キミは、どうしてそんなこと言うの?」

「お前こそ何故認めない。この姿、この声、この力、この魂。全てをとっても、私がシグであるという証拠だというのに。お前と過ごした記憶も有しているぞ?先日ファーストキスを奪った時の記憶もな。ほうら、私はお前の知っている恋人そのものだろう、アミティ?」

「違う。キミはシグじゃないよ」

「ねぇ、アミティ。ずっと一緒にいようって言った。そうでしょ?」

「違うよ。シグのフリをしても、キミはシグじゃない」

「何故だ!何故認めようとしない!いやそれよりも……、お前はどうしてそんなにも冷静でいられる!?お前は恋人を失った事を肯定しているのに、何故取り乱そうともしない?!」

違うよ。
これでも、結構動揺しているんだけどな。
……本当はね、すごく悲しいよ。どうしようもなく苦しいよ。
もう、シグに会えないんだって思ったら、胸が締め付けられるくらいに痛い。
でも、それでも、あたしは受け入れたいと思うんだ。キミという存在を。

「決めてたから。どんな結末になろうとも、受け入れ、認めてあげようって」

「認…める……?」

「キミはここにいていいんだよって、あたしはキミを一人の人として認めたいんだよ」

「一人の人として……。はは、ずっと言われたかった言葉を今更お前の口から言われるとはな……」

「ねぇ、お願い、教えて。キミは、どうしてシグになりたがったの?」

「羨ましかったのだ。周りから愛されるシグが、お前から愛されるシグが。私が持っていない全てを持っているシグが羨ましかった。……ああ、これで私は、また元の通り、孤独に生きていかねばならないのだな」

「どうしてそう決め付けちゃうのかな。キミは元通りになったかもしれないけど、周りは違うでしょ?また始めればいいんだよ」

「始める?」

「あたしはキミの事、シグとして愛してあげる事は出来ないけれど、キミがキミとしてなら好きになってあげられる。皆もそうだと思うよ。最初は反発もあるかもしれないけど、最後はきっと皆キミの事が好きになる」

「ああ、そうだな。……そうだと、嬉しいな」


12.11.9
//エピローグ