泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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数年後のクルークとあかアミ











「クルーク。ねぇ、クルークでしょ?」

彼女から声を掛けられた時、クルークの心臓はどきりと跳びはねた。どこか懐かしい聞き覚えのある声だったから。
振り向くとそこには赤い帽子という変わらぬスタイルと笑顔を携えた、けれども見慣れない白い服を纏い記憶していたよりも身長も魔力も伸びた彼女が、にこりと大人びた微笑みを浮かべてそこに居る。
姿を認めたクルークは無性に嬉しくなって、彼女に微笑みを投げかけて一目散に駆け寄った。
そして呼ぶ。

「やあ。久しぶりじゃないか、アミティ」
「うんっ。久しぶり、クルーク!」

偶然の邂逅。こうして彼女と会うのはいつぶりだろうか。長い事会っていなかった気がする。
魔導学校を出てからというもの、それぞれが自分の目指す道へ歩きだして行ったが為に、昔のように会う事も喋る事も今ではもう殆どなくなっていた。
昔は煩わしいとさえ感じていた友人達とのおふざけも、なくなってしまえば当時は淋しく感じたものだ。知的とは程遠い彼女との会話もその一つと言って良いだろう。

「元気だった?」
「見れば分かるだろう? 元気にやっているさ。君のほうこそどうなんだい?」
「勿論元気だよっ」

ぱぁっと太陽のごとき笑顔を見て、クルークは内で安心する。
外見や雰囲気こそ変わったものの、彼女の浮かべる笑顔は記憶の中にあるものと何ら変わっていない。それが何よりも嬉しい。

「クルークってば、随分背伸びたね」
「そうかな?自分じゃあまり自覚ないけど、まぁ昔よりは伸びたかもね」
「それに格好良くなった」
「相変わらず恥ずかしい事を堂々と言うんだな、君は。……君も随分綺麗になったんじゃないか」
「うふふっ、そう? あたし素敵な魔導師になれた?」
「素敵、そうだね。素敵だ。……まぁ、まだ発展途上の部分があるみたいだけど?」

視線の先を察した彼女は、顔を真っ赤に染めて眉を釣り上げながら両手でその部分を隠しクルークってばヘンタイ!と言った。
彼なりの冗談のつもりだったが、ぷくぷく頬を膨らませて怒る様を見れば、それは図星なのだろうと思い苦笑。

「じゃなくてっ。見て見て、クルーク」
「ん?」

促しながら懐から何かを取り出す彼女。
目の前に差し出された物を見てクルークは大変驚く。
それは意外でありながら、懐かしい物だった。

「太陽の、しおり?」
「うん、クルークが昔にくれたやつだよ」
「まだ持っていたのか」
「捨てるわけないよ、だってクルークがくれたものだもん。ずっと大切にしてたに決まってるよ」
「ゴミだって言ったものをわざわざ大切にしていたのかい……?」
「だって、あたしは嬉しかったよ?」
「……」
「見て」

彼女の言葉が合図となって、手の中にあるしおりがぱぁっと光を放ち始める。最初は驚き身を引いてしまったが、彼女が魔力を注ぎ込んでいるという事はすぐに分かった。
そしてぱっと開かれた手。放されたというのに、光を灯したしおりは重力に逆らいながら空中に尚留まり続け、ふわふわ浮いている。

「!」

直後、光が一際強くなった。
ゆっくり光が伸びて、丸みを帯びた棒状なものに変化していく。彼女はその棒状の光に手を伸ばし掴んだ。
すると、光は収束していき、やがて真の姿を現すかのように音もなく霧散した。

「な、これは……」

それは、見覚えのある形状をしている。
それは、黄の棒の先にしおりと同じく太陽があしらわれた飾りが付いていた。

「うふふ、しおりを媒介にして杖を造ってみたんだ。戻せば持ち運びも楽ちんだよ。どう、素敵でしょう?」

言うなれば太陽の杖といった所か。まるで子供が玩具を見せびらかすように、杖を全面に押し出しながら得意げな顔で彼女は胸を張っている。
杖や箒といった何かに魔力を宿らせて扱う魔導師は多い。箒ならば浮かんだり出来るし、杖ならば魔力を橋渡しする事によって魔法の効果を倍増させたり、コントロールを良くさせる効果を望める。
元々、魔力を帯びたアイテムだったしおりは、橋渡しとして理に適っていると言えるだろう。
と彼は分析した。
(……)
だがしかし、彼の思考は既にそちらにはあらず。浮かんだ一言。それが彼の頭の中を支配していた。
その、言葉とは――


「――ラボレスソリス……」
「クルークが使う呪文、だよね。どういう意味?」
「それは」

嬉しかった。ゴミだと言って押し付けたも同然のものを彼女が未だに大切に持ってくれていた。クルークがくれたものだから、と言って、喜びを口にしながら。
満面の笑みを見せて自慢する彼女と手の内にある杖のシンボルマーク。そして、目立つ白と共に混在する赤。
元々太陽のような奴だと思っていた彼女は、最早、ようなではなく、太陽と一体化して見えて。
だからこそ、彼は思い出してしまったのだ。この魔法の名を。



「日蝕さ」



静かに、それでいて高らかに。
転じて“太陽を喰らう”という意味を持ったそれをクルークは躊躇いなく彼女に告げた。



あかアミは夢を叶えた未来の姿(if)、杖は太陽のしおりが変化した説を推したいです。


13.8.17
//太陽を蝕む恋心