泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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アルカ時代の魔物の片割れと女神の話。



















目覚めた時誰かに話しかけられた気がする。でも、あの頃のことは本当によく覚えていないんだ。宙に浮いているような凄くほわほわした気分で夢の中にいるみたいな感覚だったから。何も覚えていない何も考えられない自分が何をしているのかすらも分からない。気付いたら目の前で微笑みをたたえた彼女が手を差し伸べていたものだから、釣られるように自然と手を伸ばし返したのが僕という人間の始まりだったんだ。
彼女は僕に様々なことを教えてくれた。空はどうして青いのかとか綺麗に咲くあの花の名前はとかそういうちょっとした疑問から始まって、魔導や勉学や他人への振る舞い方などといった常識的な事まで。ただ一つ、僕が何者なのかという疑問だけは困った顔をして何も答えてはくれなかったけれど、それ以外なら何でも教えてくれた。
直に沢山の知識を身に付けた僕が彼女の役に立ちたいと思うようになるのは至極当然の事で。僕は彼女に忠誠を誓い彼女に仕えるようになった。彼女の傍で拾ってくれた恩を返す日々。充実した喜びが僕を満たしていく。自分が何者なのかという疑問は、もはやどうでもよくなった。



人々の争いとか戦争とか珍しくはない今の時代。
負が渦巻くこの世界で『死』というたった一文字から最も遠いところにいた彼女にはずっと僕が傍にいて、僕の傍にいてくれるものだと思っていた。そう、思って『いた』。横たわる彼女を目の前にしてそんな些細な願いは間違いだったんだという事を僕は思い知らされている。
ぎゅっと唇を噛み締めた所で過ぎていった時間は取り戻せない。やり直せないからこそ生きとし生けるものは明日の為に努力をし、後悔するからこそ学ぶ。これも彼女に教えられた事の一つだ。何度も何度も刻みつけた言葉だけれど、いざ自身が痛感した時、やはり考えてしまう。自分にもっと力があればこれは避けられたのだろうか、彼女は自身にある全ての力を使い果たしてしまう事もなかったんだろうか、もし出来るならあの時をやり直したいと。
後悔で沢山な僕の想いが伝わってしまったのか、彼女は衰弱した様子で辛いはずなのに僕に精一杯の微笑みを向けた。しかし、それも長くは続かない。ああきっと彼女は、もう……。
もっと未来に渡って貴方を見守っていきたかったな。
小さくそっと告げられる最期の言葉。僕は哀しみのあまりに泣き崩れるしかなかった。





後に僕は一人の女性と出会い結婚し子供を授かった。それらが遠い未来に大きな影響を及ぼすのを僕が知る事はない。



(そして女神の生まれ変わりと片割れの子孫の物語が始まる)


13.3.7
//最果ての空に溶けた想い