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「アルル、お前がほしいっ!」
「〜っ!もう変態!いつもしつこいよね!」
いつもボクらはこのやりとりから始まる。
見知らぬ誰かが聞いたら勘違いするようなシェゾのこっ恥ずかしい台詞。それが、いつしか戦闘の合図になっていた。
負けたら、ボクは魔導力を吸い取られる。やるか、やられるかの命のやりとり。
言葉で言うと、何だか重みのある言葉だけど。実際、ボク達はいつも軽々とやってのける。
こんな事思うのは不謹慎かもしれない。
(それでも、ボクがいつも勝っちゃう事もあってか)この命をかけた戦いがとても楽しい。
キミと戦うこの時が、とても楽しい。キミと軽口を叩き合ってるのが、とても楽しいんだよ。
そして、この時のキミも笑っていて、血を好む闇の魔導師故の性なのか、戦闘を楽しんでいて。
互いが互いに、殺し合いをしつつ楽しんでいる。だけど、いつもいつもそういう殺伐としているわけじゃない。戦いをしていない時のボク達は普通といっても良い程で。馴れ合いを好まないキミだけど、ボク達は笑っていた。
…つくづく不思議な関係だ。
キミはボクの力を手に入れる為に戦いを挑み、ボクが退ける。
終らない戦いの連続。
この戦いに終止符が打たれる時は、ボクが負けた時、もしくは―――。
「アレイアード!!」
「――っ!?」
ふと、気付いた時には遅かった。気を抜いた瞬間、シェゾの古代魔導が発動。対応を取ろうとした時には、もうすぐそこに迫っていた。
唸る轟音。
咄嗟に身を守り、直撃は避けたものの、ボクの状態は酷いものだった。体のあちこちはもうボロボロ。もう、戦う事も、立ち上がって逃げる体力もない。倒れた状態で起き上がる気力もない。
そんな状態のボクの目の前に、シェゾは剣を突き立てた。
「あはは、今日はボクの負け。…良いよ、奪って。ボクの、魔導力」
「………あぁ」
ボクは目をつぶった。
覚悟を決めたんだ。
閉じられた瞳の隙間から、光が溢れてくるのが分かる。シェゾが、魔導を発動しようとしてるんだ。
あぁ、ボクとキミのやりとり。
もう終わっちゃうんだ。
残念だったな…。
もっと、戦いたかった。
楽しみたかった。
キミと一緒に居たかった。
キミともっと話したかった。
うっとおしがるキミに付き纏って、笑いあいたかった。うっとおしかったけど、もっとキミに付き纏ってほしかった。
あぁ、敵同士だったのに、なんでこんな感情を抱いてるんだろ。
本当に楽しかった。
今までありがとう。
「やめた」
「…………え?」
今なんて?
思わず目を開いた。
さっきまでの魔導の光は収束していき、やがて…、消えた。
「……どうして?」
シェゾにとって、ボクの魔導力は待ちに待った獲物の筈だ。その獲物を手に入れる絶好のチャンスなのに…、何故?
「別に。…只、面倒になっただけだ」
そう言って、シェゾはボクに背中を向けた。これはキミの気まぐれなのかな。そのままにしていれば、見逃してもらえるっていうのに。ボクはシェゾに思わず声をかけてしまう。
「見逃してくれるの?」
「…か、勘違いするな。お前の魔導力は必ず頂く。今は、その時じゃない」
そう言うと、シェゾはテレポートの魔導を唱えて、どこかに消えてしまった。
一人残されたボク。
シェゾの台詞に呆気に取られていた。
「……今はその時じゃない、かぁ」
その時っていつ?
キミがボクに楽勝した時?
ボクがキミに抵抗するのを止めた時?
それでも、ボクはもう負けないし、追われるのを止めないよ。
だって、ボクとキミ。
終らせたくないんだもの。
ボクは、いつもここにいるよ。
だから―――。
(ボクを追うのを止めないで、)
(それを止めたら終わっちゃうから)
//ヤメナイデ