泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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「フン、この僕に勝負を持ち掛けようだなんて。君も命知らずのようだね。君じゃ僕には勝てないよ」

「御託なんざどうでも良いですわ。いざ、ぷよ勝負!」

それはお決まりの口喧嘩。
彼女とは目が合えばいつもと同じように皮肉の言い合いを始め、いつもと同じようにぷよ勝負で勝敗が決まる。
意地でも負けられないこの戦い。それは相手があのラフィーナだっていう事もあるけれど、それだけじゃあ決してない。
勝った方が正義。それが僕達の暗黙のルールだからだ。

「これで終わりよ、フー・ダルディー!!」

「言っただろ、君じゃ僕には勝てないって。ディフェクチオ・ルナーエ!」

「なっ!!?」

僕の方へ飛ぶ筈だった膨大な量のおじゃまぷよが、反射してそっくりそのままラフィーナの頭上へ返っていく。
僕の余裕の反撃が予期しない出来事だったようで、アイツは慌てて周りを見渡した。期待するのは新たに連鎖できる程に積み上がったぷよ。
生憎とはまさにこの事だと僕は思うね。積み上げたぷよは先程の攻撃に使ってしまっている。
つまりラフィーナにはもう、反撃も攻撃の手段も残されていない!

「終わるのは君の方だったね、ラフィーナ」

「……っ、きゃーっっ!!!」

ぼたぼたぼたっ。
大量のおじゃまぷよが降り注がれ、埋もれていくラフィーナ。良い気味だ、この僕に勝てるわけないのにね。
僕は勝ってアイツは負けた。最初に言ったと思うけれど、僕達には暗黙のルールってのがある。勝った方が正義。負けた方は勝った者の言う事を一回だけ聞かなければならない。

「大人しく僕の忠告を聞かないからこうなるのさ」

負けたアイツにはどんな罰ゲームをしてやろうか。ああ、屈辱に歪む顔を早く拝みたい。

「…………?」

あれから1分、いや1分30秒が過ぎたといった所か。何かがおかしい事に気付いた。
そうだ、ラフィーナの姿が見えないんだ。ぷよに埋もれているから、なんて事は言われずとも分かっている。そうじゃない。
そろそろ蹴りやパンチをかましてぷよ地獄から這ってでも出てくる筈なんだ。それこそ他の奴が苦労したり、人の手を借りないと出てこれない量のおじゃまぷよでもだ。
今まで喧嘩して勝負しあってきた僕には分かる。ラフィーナってのはそういう奴だから。それがないなんて、やっぱりおかしい。

「……ラフィーナ?」

問い掛けた所で返事は返ってこない。
首に嫌な汗がわいて出てきた。
まさかぷよに溺れて出て来れない……?
いや、そんなラフィーナに限ってそんな事あるわけがない。
でも本当にそうなっていたら?それだけじゃない、もしアイツに出てこれない理由があるとしたら?例えば怪我をしたとか。

よせよ、そもそも僕がここまで考える必要がどこにある?アイツが僕の立場だったらどうした?考えるまでもない。きっと僕の事なんか放置して去っていくだろうね。
そんな奴の為に何で僕は助けようだなんて考えているんだ?良い事なんて何もない事は分かりきっているんだぞ。

「……あーもう、貸し一つって奴だからな、ラフィーナ!」

僕はわらわらと溢れるおじゃまぷよの中に飛び込んだ。
中を掻き分けながら必死に掘り進んでいく。奥の奥でうっすらとピンク色を見つけた。アイツの髪だ、間違いない。
よく見ると横に倒れているじゃないか。もしかして、衝撃で気絶したのかもしれない。身動きが取れないのも頷ける。

「ラフィーナ!!」

横たわって動かないラフィーナを抱えてぷよの山から脱出。
ラフィーナを下に置いた後、乱れる呼吸を整える為にゆっくり深呼吸をする。
はぁ、全く。僕は頭脳労働が得意なんであって、肉体労働なんか僕の役目じゃないんだからな!

「ラフィーナ、おい起きろ」

ぺちぺち頬を軽く叩いてみる。するとラフィーナは、ん、と小さな声を漏らした後、薄く目を開ける。
ぱちくりと瞳を大きく開いたラフィーナは、自分が今寝かされいる事を知った瞬間に、ババッとそれはもう素早い動きで身体を起こして後ろへ下がっていった。
そして僕に向ける疑いの目。

「……私に何か、してないでしょうね」

はぁ?君は何を言っているんだ。
意味が分からないよ。誰が何をしていないか、だって?

「誰がラフィーナなんかに手を出すか」

「なっ、それはそれでムカツキますわ!!」

「僕にどうしろって言うんだよ!」

「うっ。うるせーですわよ!」

「……まぁ良い。君がおじゃまぷよに溺れていたのを僕が苦労して助けてあげたんだ。ラフィーナ、君は僕に感謝するべきじゃないか」

「おじゃま……ぷよ?」

「見てごらんよ。あのおじゃまの山を」

いくら君の馬鹿力を以てしても、あの山を抜ける事は出来なかったみたいだね!
満たされる優越感を抑え切れず、見せ付けるように山を指差して笑ってやった。

「この私がクルークなんかに負け、その上でぷよに埋もれて自分で抜け出す事も出来ずクルークなんかに助け出されるなんて。史上最悪の屈辱ですわ!」

「フン」

「でも、まぁ、助けてくれたのは事実。悔しいけれど、お礼はちゃんと言いますわ。……ありがとう」

「…………」

普段、アイツの口から出た事なんかない感謝の言葉に僕は正直驚いていた。
そして何故だろう。罰が悪そうにチラチラと目を配り、頬を赤らめ恥じらう姿に、僕は見とれてしまっていた。

「なんですの、その顔。私がちゃんとお礼を言っているのに」

「えっ、あっ、ごめん」

不意をつかれ、僕らしくもない謝罪を入れてしまう。

こういうのをギャップと言うのかは分からない。でも、普段とは別の顔を見せた事による衝撃は想像以上に大きいらしい。
僕自身信じられないよ。だって僕があのラフィーナに『可愛い』なんて思ってしまったのだから。
正直言えば、この気持ちを認めたくはなかった。だってそうだろう。よりによって、馬鹿力で口が悪くて脳筋なあのラフィーナにだぞ?

「……まぁ良いですわ。とにかく、私はちゃんと言いましたからこれの話は終わりよ」

(……っ)





「待て、ラフィーナ!」

「……まだ何かありますの?」

「僕達の暗黙のルール、負けた方は勝った方の言う事を聞かねばならない。これが果たされてない」

「……はぁ、良いですわ。私は負けたのだから、煮るなり焼くなりどうぞお好きにしてくださいな」

「僕は今日、この後図書室に行って調べ物をしようと思っていたんだ」

「それで?」

「その調べ物は膨大な量でね、体力も精神力も大きく消耗する。しかし僕は先程ラフィーナを助けて体力を大幅に削ってしまった。つまり、調べ物で消耗される筈の体力をラフィーナを助ける事に使ってしまったんだ」

「だから?」

「だから、ラフィーナ。今日は僕の調べ物に付き合え!!」

ぽかんと驚いたように目を丸くするラフィーナ。
ああ、最悪だ。
最初に思ったのは、屈辱に歪むラフィーナな顔が見たいという事だった。なのに、僕は。この僕が、彼女ともっと一緒にいたいだなんて思ってしまったんだ。
馬鹿力で口が悪くて脳筋な奴なのに。
それだけしか思っていなかった筈なのに。
ちくしょう。
……どうやら僕は、あのラフィーナを本気で好きになってしまったらしい。

内心認めたくないけれど。

「……本当にそんなので宜しいんですの?」

「君に拒否権はないよ」

「別に拒否なんかしてませんわ。その、ただちょっと驚いただけ。まぁ、仕方がないですわね、少しだけなら付き合いますわよ」

「せいぜい僕の役に立ってくれよ」

「あーもう、むかつく!」

「負けたのが悪い」

慣れたように繰り返される調子の中で、僕が彼女の前で素直になれるのは相当先の事で、相当努力が必要らしい。

「次は絶対に勝ってみせますわよ!」

「受けてたってあげるよ。まぁ、勝つのは僕だけどね!」


12.2.4
//不器用にも程がある