泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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シグVSシェゾ。
皆20thより。
シグアミ&シェアル有り。










力が欲しい。
あいつに負けない為の力を。
彼女の笑顔を守れるだけの力を。
その為には何が出来るんだろう。
どうすれば力を得る事が出来るんだろう。
もっともっと、力を、力を――!!



「はぁ?! 俺と戦いたいだって?」

「強くなりたいから」

薄暗い洞窟の中に少年と青年が佇んでいる。最近この洞窟に住み着いた、この場所の主である(と本人は主張している)シェゾは、切りだった平らな岩で出来た寝床(と本人が呼んでいるスペース)で腕を枕にする形で寝転びながら突然押しかけてきた来訪者へ困惑の表情を見せていた。
持ちかけられた勝負。それも、只のぷよ勝負などといった生温いものではなく、正真正銘の実力と実力がぶつかり合う闘争。
まさか、殺伐とした争いとは無縁そうな平和な世界の住人に、戦いを申し込まれるとは思っていなかったのだ。しかも、こんな幼い少年に。
意図が分からずうろたえるシェゾとは対象的に、戦いたいと彼に申し出た当人――シグは真剣そのもの。真っ直ぐ見下ろす少年の瞳は決意を秘めている。
彼は悟った。決して冗談で言っているのではなく、本気で戦いたいらしい、と。

「強くなりたいって、鍛錬って事か?」

その問いにこくんと頷くシグ。
肯定。
それを見た彼は、ますます分からなくなった。何故わざわざこんな所に来たのか理解が出来ない。
彼は渋々身体を起こし、疑問を投げかける。

「また、何で俺となんだ? 鍛錬するだけならお前の友人でも、あの格闘女王様でも良いだろう」

「……」

彼の言う事も一理あった。一応シグもじっくり考えたつもりだ。もし、力を求めて頼るとすれば誰が良いのだろうと。
まず友人では駄目だった。戦うのにどちらも本気になれるか分からないし、強くなりたいと思ったならより強者を頼るのが必然であるからだ。そこで浮かんだのは、どこからともなく現れた異世界の住人達だ。彼らなら十分な力を持っているとシグは考えた。
だが、彼の言う格闘女王様も駄目。というか、まず彼女では相手にしてくれないだろう分かりきっているし、高飛車な彼女の元で強くあろうとする自分をどうしても想像出来なかったので除外した。
自称魔王様も除外。神出鬼没でどこに居るのか分からないというのもあるが、訳の分からない事で膨大な魔力を使って遊んでいるのを見ると、多分、彼の力は強大すぎて只でさえ力不足である自分の手には負えないだろう。
魔導師見習いと魔女見習いも除外。自分の魔導系統や戦闘スタイルを考えると、魔導一辺倒よりも近距離もこなせる方が望ましい。
という事はだ。
あとは目の前にいるこの、闇の魔導師しか残っていなかった。
だが、シグとて残り物だからだけで彼を選んだのではない。
普段はへたれているが、多分、きっと彼の実力はこんなものではないと感じている。確証などない。憶測でしかないが、彼は自分達には見せていない一面も隠し持っているのではないか。
何より彼の通り名が示すように、その内側で抱える闇が最たる理由だ。紅い魔物も持っている、闇。そして恐らく、魔物の半身である自分の中にも……。

「おまえ、強いんでしょ」

「シェゾだ」

「シェゾ、強いんでしょ。お願い、強くなりたいんだ」

「どうして今すぐに強さを求める。学校に行ってりゃ強い魔導も教えてくれるだろうに」

「闇に打ち勝つためだ」

シグの言葉を聞いて、シェゾは思わず笑みを浮かべる。
それはある種の矛盾を抱えていた。闇に打ち勝つ為に闇の魔導師に鍛錬を申し入れると、その張本人に言うとは。

(なかなか面白い)

先程まで感じていた腰の重さはとうになくなっていた。彼は立ち上がりさっとシグを追い越す。

「お前の態度は気にくわないが、ま、良いぜ。この世界に来てから身体がなまり気味だったしな。俺も身体を動かしておきたいと思っていた所なんだ。ただし、条件がある」

「条件?」

「本気でかかって来い。最も、生半可な覚悟でこの俺に臨むのなら――」

くるりと振り返った彼が携えていたのは、見た事もないような恐ろしく歪んだ笑みと冷えた視線と愛剣、そして鋭く突き刺さるような敵意。

「お前は死ぬだけだ」

背中にぞわぞわと形容しがたい感覚を覚えたシグは、生唾を飲み込む。
闇の魔導師という肩書きに持つもの。その片鱗が伺えた気がした。






場所を移した彼らはプリンプの一角にあるとある平原にて戦っていた。
人通りが少なく見渡しも良い、単純な実力を見極めるに相応しい場所だとシェゾが提案した為だ。現に彼の意図は著しく反映されている。障害物が見当たらないので小細工を仕掛けるような真似は中々出来ない上に、術や技などといった全ての動作が互いに見通せるからだ。

「闇の剣よ」

(また、来る……!!)

「切り裂け」

シグは飛んで来た剣撃を全て避けていく。剣の軌道が見えるのでこれぐらい簡単な事だった。
だが、これだけで済まないのはシグ自身が分かっていた。休む一瞬の暇さえ与えまいと間を入れずに雷撃の嵐が降りかかり、何とか防御魔導を展開。攻撃自体は防いだものの、気を抜く事は許されない状況が続く。

「シャドウエッジ!」

予想通り次の攻撃、影で出来た剣がシグを仕留めるべく襲いかかる。
直線的な魔導故に先程の雷撃の嵐、サンダーストームよりは派手さは全くないと言っていい小規模な魔導だ。たかだか小さな魔導。しかし、されど小さな魔導。侮る事など許されない。
シェゾが繰り出す魔導は速度、範囲、精度が三拍子で揃っていて、おまけに桁違いな威力を発揮する。ほんの小さな魔導すらも侮ってはならないシェゾの魔導。
加えて彼は剣術まで習得しているのだ、素手のシグとはどうしてもリーチの差が出てくる。シェゾは剣の長さを利用してシグを牽制、攻撃を避けるのに生まれた隙を魔導で攻める。そこからまた生まれた隙を剣や魔導で叩いていくという戦法でシグを一方的に翻弄していた。

「逃げてばかりか!」

「っ、く……!!」

中々手が出せないシグは苦戦必至。
魔物の子孫としての特性か、シグ自身が持って産まれたものなのかは定かではないが、元から運動神経や胴体視力といったものが高かったシグはギリギリの所で攻撃を見極め、大きな怪我こそ負わないでいた。だが一方で疲労が溜まっていくのを避けられず、それもいつまで持つのか分からない状態だ。

「シレスティアルッ!!」

「そんなもの、目を閉じてたって避けられる」

目の前に青い光のカーテンが出現し、やがて爆散。
信じられないものを見るかのようにシグの瞳は揺れる。
シェゾは宣言通り瞳を閉じながら綺麗に避けてみせたのだ。
彼は思う。シグの魔導は威力こそ高いものの、それだけだと。
実際にシグの魔導は速度も範囲も精度もシェゾに遠く及ばず、こういった実戦は殆ど経験をした事がない為に判断も追いついていない。それ故に必死にシェゾの攻撃をかいくぐり隙を付いたとしても、嘲笑いながら軽くかわされてしまうのだ。
噛み締める思いで前を見据えるシグに、シェゾは追い討ちをかけるかの如く余裕に済まして笑った。
お前の力はこんなものか?とでも言うように。

繰り返すやり取り。それは極めて一方的。
先程戦いと表現したが実際は違う。彼にとってもはやこれは戦いではなく、只の戯れ。シグがシェゾに遊ばれているのはどう見ても明らかだった。


(こんなんじゃダメだ……)

無力感に打ちひしがれた時、シグの脳裏に蘇るのはあの紅い魔物の姿。
シグ自身、未だにその存在の全てを理解しているわけではない。魔物が口にした『我が血を受け継ぐ者』という言葉の通りに、先祖の片割れで自身の身体を狙っているという事を他者に聞かされてもピンと来なかったくらいだ。
しかし、そんなシグでも一つだけ確かに思ったのだ。"彼女"の笑顔が見れなくなるのだけは絶対に嫌だ、と。

『あたしね、シグがいるから笑えるんだよ。シグがいなくなっちゃうなんて、嫌だからね』

ある日、彼女からその言葉を聞かされた時から――。
彼女にとってはさり気ないたった一言だっただろう。だがその言葉はシグの中にしっかり刻みつき、やがて確固たる目的へと昇華させ、無関心だったシグに強くなりたいと思わせるのに十分なものになった。
彼女の笑顔の為に強くなりたい。その思いを糧にシグは再び向かっていく。

「ラピスラズリ!」

一つ、二つ、三つ、四つ、五つ……。
シグの手から放たれた水色の淡い光は地表のあちこちに置かれた。ラピスラズリ、踏むと発動する設置型の魔導だ。
右、左、後ろ。シェゾは言わば地雷原となった平原を見下ろし、鼻を鳴らす。
それが行動を制限するものなのか、それとも誘導するものなのか、どちらにしても彼にとっては子供騙しでしかない。

「シレスティアル!」

シェゾの後ろ側に放たれた魔導とピンポイントにまっさらな場所である方向。それは、あまりにも分かりやすすぎるお粗末な誘導だった。
だが、シェゾは誘いにあえて乗った。第一にどんな攻撃だろうと退ける自信があったというのもあるだろうが、何よりもどんな事を考え付いたのかに興味があったからなのかもしれない。
シグの魔導が爆散する前に踏み出し一気に距離を詰める。剣と素手、高精度な魔導とそれの足元にも及ばない魔導。比べるまでもない。
これは賭けだった。シェゾの驕りを利用した一か八かの。
分かりやすい誘いに乗ってくれた事で一つ目の賭けはクリアされ、そして、
シェゾは止まらぬ速さで剣を振り上げ、今にもシグを仕留めようと狙っている。

「はぁっ」

結果、シグは賭けに勝った。
シェゾの目が大きく見開かれ、この戯れで初めての動揺が走る。
シグの取った行動。それは、防御魔導を張る事でも、避ける事でも、攻撃には攻撃を以て対抗する事でもなく。左手で刃を受け止めるという事。
シェゾはシグの左腕が魔力を秘めた異質な腕だとは感じていたが、硬くなっているとまでは知らなかった。……いや、語弊があるので言い換えるが、本人から聞かされていたのもあって硬いという事そのものは知っていたが、強度自体は今まで知りようがなかった。ましてや、迷いなく振り下ろされた剣を"掴める"などと――。

「これで、逃げられない」

「――……っ」

シェゾの腕がガタガタと震えている。どうやら腕力においてはシグの方に分があるらしい。
手の内から逃れようとぐっと力を込めている間にも空いた右手はシェゾを捉えるべく青とも赤とも呼べる光を発し、それは段々強くなっていく。
そして。
練り上げられたシグの魔導が正に発動されようとした刹那的瞬間。

(……?)

彼の口元が孤を描く。
笑みだ。シェゾが不敵に笑ったその一瞬をシグは見逃そうにも見逃せなかった。

「ハイ――」

そして、そこであろう事か、シェゾはガッチリと掴まれている愛剣をそのまま手放す。

(!?)

さっきまで逃れようともがいていた筈なのに、それはとてもあっさりした動きに見えた。
ここで彼は諦めたのだろうか?
分かりきった答えをあえて言うが、それは否だ。彼はここで諦められる程物分りが良い訳でもないし(でなかったら、アルルにいつまでも執着しない)、そもそも諦めという選択肢はハナから存在していない。それを示すかのように彼の笑みは崩れてはいなかった。
彼が踏んできた場数、経験が瞬時な判断を取らせる事となる。
相手に剣を掴まれて動けないのなら、自分から手放してしまえば良いのだと。彼は逆転の発想に至り、それを実行した。もはや、今の彼には己の愛剣が自らを縛る楔にしか見えていないのだ。
武器を扱う者にとって、自分の獲物を失う事は最大の致命傷になりえてしまう事もある。だからこそ慎重にならなければならないのだが、生憎と彼は生粋の剣士ではない。魔導師で、本業はあくまでもこちらなのだ。
今度はシグが動揺を走らせる番がやってきた。
ここでようやく彼の狙いに気付きはっとした所でもう遅い。脳から発せられた命令信号は身体の隅々まで行き渡り尽くしている。簡単には止められない、止めようがない。

「ドレ――」

次に彼は今にも強大な魔導が降りかからんとするその場をバックステップで離脱。
この間1秒に満たない。
もはや人間離れした彼の動きをシグはかろうじでしか捉えられないでいた。いや、かろうじでも捉える事が出来たのは褒められるべきかもしれない。常人には彼の動きを捉える事はおろか、その素早すぎる動きを魔導か何かで"ただ瞬間移動しただけ"と判断してしまっていただろうから。

「ンジ――」

次に高速魔導詠唱の展開を開始。
簡易式の詠唱にて必然的に威力は落ちるが、それでも十分だと彼は踏んだ。
しかも、それは彼の得意中の得意技なのだ。速度も威力も他とは桁違い。
魔導特有の光が手元で収束し、一瞬にして詠唱完了を彼自身に伝える。

「――ア」


そして、シグの右手の中にある魔力が強烈に膨らんだその時――、



(――アレイアード!!)



シグの最強の魔導とシェゾの古代魔導が、そこでぶつかった。







力の衝突によって引き起こされた爆風と、視界が遮られる程の土煙が巻き上がる中、シグは地べたに背中を預ける格好となっていた。
無理もない。二つの力がぶつかり合ったのはシグの手元だったのだから。つまり、シグは衝撃を直に受けた事になる。
身体のあちこちはボロボロ。全身にまわる痛みを堪えながら何とか起き上がるも、次に動こうとした時にはもう、後ろから首筋へ冷たいものが尽き立てられていたのだから、驚愕する。

「これで、終わりだ」

背後から浴びせられる鋭い殺気。

(いつのまに……!)

どうやら爆風とこの土煙で視界が狭まる中、シグが設置したトラップ魔導を避けながら、どこかへ吹っ飛んだ愛剣を拾い、相手の正確な位置まで割り出し、その上で気配を悟られずに背後に回ったらしい。そもそもこの短時間で、だ。
言葉で表すと何ともシンプルだが、それを実際にやるのは容易ではない。だが彼はいとも簡単にやってのけて見せた。彼とシグの埋められない圧倒的な力の差がそこにあった。
それを思い知った今、シグは自分の無力さを感じる他なく。仕方がなく両手を上げ、降参の意を示す。しばらくすると、今にも襲いかからんとしていた切っ先が引いていったのを見届け、安堵の息を漏らした。
この時既に土煙は殆ど晴れていた。
この戦いの結果は言うまでもなくシグのボロ負けだ。
彼の事をそれなりに強いとは思っていたが、正直これ程までに実力差を突き付けられるとは思っていなかったシグは、自分がどれだけ弱い存在であったか再確認し、うなだれ、しまいには自信までも喪失する。
こんなのであの魔物に打ち勝つ事が出来るのか、と。


「シグーっ!」


聞き慣れた声がシグの耳に入ったのはそんな時だ。
振り返ると見知った顔が走ってくるのが見えて、無意識の内に頬が緩んだ。

「シグ」

「……アミティ、どうして」

「大きな爆発音がしたから、見に来たんだよ」

先方を見ると、これまた見知った顔が。魔導師のタマゴを名乗る女の子が、キョロキョロと辺りを見渡しているのを見つけた。
なるほど、と納得する。恐らく二人で喋るなり何なりしていたのだろう。それで先程の戦闘音が聞こえてきたので駆けつけたのだ。

「だいじょうぶ?」

「うん、ちょっと鍛錬してただけだから」

「鍛錬? ヘンタイなお兄さんと?」

「おい、誰がヘンタイだっ!」

「え、お兄さんヘンタイじゃないの?」

「ヘ、ン、タ、イ、じゃ、な、い!」

「でも、アルルが言ってたよ?」

「アルル?」

「やーい、ヘンタイ、ヘンタイシェゾー!」

「アルルっ! お前かっ!!」

あらぬ事を好き勝手に吹聴してくれた元凶(これはシェゾ視点である)の姿を認めると、彼は一目瞭然に駆けていく……のだが、1メートル離れた辺りで突如立ち止まり振り返って言った。

「お前と手合わせして気付いた事を言っておく」

「!」

「攻撃が、いや、一つ一つの動きが大降りすぎる。そのおかげで読むのは簡単だった。もっと自分の素早さを生かせ。相手を翻弄しろ。パワーだけに転じていても当たらなければまるで意味がない。しかも、魔導を使う時、お前は魔力を完全にコントロール出来ていないな。力みすぎて無駄に魔力を消費している。体力気力共に自信があるようたが、持久戦に持ち込めば今の戦い方だとあっという間に尽きるだろう。力を持て余さず、加減を覚えろ」

次から次へと出てくる数々の駄目出しがシグの気を沈ませる。
分かっていた事でも、実際に指摘されると痛いものだ。
しかし。

「だが、最後の機転は悪くなかった。ま、俺にとっちゃまだまだ子供騙しでしかないけどな。大切なのは経験だ。経験が物をいう。だから、今言った事を意識してもっと鍛錬を詰め。気が向いたらまた付き合ってやるよ」

認めるべき所は認めてくれた。
アドバイスもくれた。
今のシグにとってはそれだけで十分であった。

「……うん。ありがとう、……シェゾ」

「ふん。いつかお前が成長したあかつきには、お前の力を必ず俺が頂く。それだけだ」

いつか力を頂く為。本人は確実に否定するが、それはシェゾの照れ隠しのようなものだった。そう、不器用な彼なりの。
シグはそれを知ってか知らずか彼の背中に微笑みを投げかける。そして、次に横で不思議そうな表情で双方を交互に見つめる彼女に目を向けて胸に決意の炎を灯した。

「お兄さん、行っちゃったね……」

「アミティ」

「ん、なに。シグ?」

「……だいすき」

「うんっ。あたしもシグがだーいすきだよ!」

シグは彼女の答えを聞きながら満足げに頷き、そして誓った。
もっと強くなろう。
もっと、もっと強くなろう。
彼女のこの笑顔を見続ける為に。
この、突き抜ける程に青い空の下で。








「ね、シグと戦ったの?」

「ああ。あいつ、今は全然だが伸びるぜ。これからが見物だな」

「ぷっ」

「何がおかしいんだよ」

「だって、シェゾったらなんだかすごく楽しそうなんだもん」

「そうか?」

「うん。活き活きしてると思うよ」

「まぁ、最近はぷよ勝負ばかりだったからな。それなりに楽しめたのは確かだな」

「ふーん」

「という事でだ、アルル。今日こそお前をくれ」

「またすぐこれだ。何がという事でだ、なんだよ。あげるわけないでしょ。いい加減言葉を抜く癖直したら?」

「う、ぐっ」

「で、今日はどっちでやるの? いつもの? それとも……」

「愚問だな。勿論、こっちでだ!」

シェゾが手をかざすと、闇の剣が現れ手元に収まった。その切っ先はアルルの首筋に向いている。
一方、アルルは剣を向けられているにも関わらず、表情をそのまま変える事なく余裕しゃくしゃくな笑みをシェゾに見せつけた。
こうやって対峙するのはいつぶりだろう。二人は同じ事を思い、そして――。

「今日こそお前の力、頂くぞ」

「やれるものなら、ね!」

こうして、今日のプリンプにおける、2度目の戦いが今始まったのであった。



13.6.26
//それでも突き抜ける程に青い空