泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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考えろ。そうは言ったけれど、彼女に何を考えさせるというのだろう。
俺から見れば、選択肢は残されていないも同然だ。何を選ぼうと、結果は変わらない。俺が変わらせはしない。
彼女も分かっている筈だ。最終的に、俺が手段を選ばないという事。
だったら何を?消える事を受け入れるまでを、か?友達に別れを告げるのを?それとも――。
……考える為の時間が、受け入れる為の時間が欲しかったのは、他でもない、実は俺の方だったのかもしれない。

「はは……、参ったな」

(俺は、ソラを目覚めさせる為に何でもすると決めた筈なのに……)

「リク、どうしたの?」
「いや、何でもない。それより決めたのか?」
「あたしは……」
「その様子じゃまだみたいだな」
「うん、ごめん……」
「シオンはシオンのペースで考えればいい」
「でも、時間はないんでしょう?」
「そうやって時間を気にしては、考えられるものも考えられなくなるぞ」
「そう、だよね。……あ、そういえば、ずっと気になっていたんだけど」
「なんだ」
「あの星型のフルーツみたいなの、あれは何て言うか知ってる? この世界にしか成っているのを見たことがないの」
「あれは、パオプの実だ」
「パオプの実?」
「パオプの実を食べさせあった二人は、どんな事があっても必ず結ばれる。懐かしいな」
「ここの世界って、もしかしてリクの――」
「俺たちでやってみるか?おまじない」
「え……」
「冗談だ。もしかして本気にしたか?」
「もう、リクっ!」

あと何回彼女とこうして話していられるだろう。あと何回数少ない彼女の笑った顔を見る事が出来るのか。
彼女は消えてしまう、それは既定事項だ。
俺のこの想いも、彼女と話した記憶も、それらを攫って全ては在るがままに。
そんな時が少しでも遠くなるように。心の奥底で祈るのは親友の為にあってはいけない事の筈なのに、俺は願わずにはいられなかった。




『お願い、ロクサスを止めて!』

「シオン。もう名前しか思い出せないが、俺は……」

彼女と接した人々が彼女の事を忘れ行く中で、彼女の残り香を少しでも感じる事が出来たのは彼にとって幸か不幸なのか。それは彼自身にも分からない。それでもと彼女は思った、『ありがとう』と。


忘れぬ心=紫苑


12.11.24


//忘れぬ心