泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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懐かしい、音色が聞こえた。

「――、」

信じられない。
信じられないのだ、今までずっと望んでいたはずの光景が正に現実となっているという事実が。
いや、考えてもみれば、もう自分には現実なんか関係がないじゃないか。今更何を言っているのだろう。
もう未来は望めない。その事に深く絶望はしたものの、最後には受け入れたのだ。こんな現実、事実、もう関係ないはずだ。
それでもと、力強く思う。最後の最後に見た幸福を信じたいと思うのはいけない事なのかと。
見ての通り開き直りってやつだ。いるかも分からない誰かに、滑稽だと笑われたって構わない。
例え、都合のいい夢でも幻でも、はたまた消え行く自分が見ている走馬灯や妄想にしか過ぎないとしても。
この光景と心地よさに甘んじていたいと思うのは本当に悪い事なのか?

「ロクサス」
「シ、オ、ン」

ああ、例え嘘でもいいから言ってほしい。君は、本当に、

「シオン、なのか」

目の前の少女は否定も肯定もせずに、微笑んで見せた。
そして言ったんだ。

「おかえり」

その一言は、自分に実感を与えてくれる。
これは夢でも嘘でも妄想でもない。確かな現実なのだと。
それと同時に、ようやく理解する。何て事はない、自分はただ帰って来ただけなのだ。
帰る場所は同じだったのだから、こうやってまみえた事は不思議でも奇跡でも何でもない。
先に帰っていた少女がずっと自分を待っていた。本当に、たったそれだけ。

「シオン……」
「おかえり、ロクサス」
「ただいま。ただいま、シオン!」

勢いにかられて少女の身体を強く抱きしめる。
背中から感じる少女の手の感触が、再び現実だと思い知らせてくれるようで嬉しかった。
出来る事なら、もう離したくはない。

「もう消えたりしないよな」
「しないよ」
「どっかいったりしないよな」
「うん。これからは、一緒だよ」
「ああ、一緒だ」


その時、感じた事のある暖かさが、遠い世界で存在している事を胸の奥で何かが知らせてくれた。
似ているようでどこかが違っているが、間違いないと確信出来る。
それは少女も同じだったようで、二人で顔を合わせて頷きあった。
いつだったか少女が言った事を覚えている。自分は帰るべき場所に帰るだけだと。
だから、一回、本当に一回だけだが考えない事もなかった。
少女に会う為に、少女を自分達に戻すのではなく、自分が少女の元に行ってしまえばまた少女に会う事が出来るのではないか。
でも、出来なかった。出来るはずがなかった。消えたくない、消えるわけにはいかない、そう思ったのは、自身が消える事への恐怖だけじゃなかったから。
結果的には、置いてきてしまった形にはなったけれど。

「大丈夫だよ、アクセルなら。強い人だもの」
「それでも、さ」
「そうだね。あたしも、思ってたから」

やっぱり俺、もう一度だけでも良いから、三人でアイスを食べたかったよ。

12.11.27
//切ないほどに確かなのは