泣かない君へ

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再会の才 / よろずりんく

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2終盤にて。





敵の本拠地――存在しなかった世界で、立ちはだかるハートレスやノーバディ達。だけど残念なことに俺達の敵じゃないんだよな。そりゃ、俺一人だったらキツいかもしれないけど、隣には俺を支えてくれる友達がいる、後ろには背中を任せられる親友と守りたい女の子がいる。これでどこに負ける要素があるって言うんだよ。
それに友達にも親友にも好きな女の子にも、格好悪い所なんか見せられないだろ!




「……ソラ」

それは一帯の敵を倒した後、休憩中の事。俺も体力を回復させる為に適当に休んでいたんだけど、そしたら幼なじみの女の子――カイリが話しかけてきて俺は平常心を保ちつつ返事をした。
一年ぶりに会ったカイリは何というか、その、女の子らしくなったというか、ともかく可愛くなったと思う。髪も伸ばして、ピンクの可愛い服を着て、ちょっとした仕草や振る舞いといったものが女の子っぽい。いや、前まで女の子っぽくなかったとかそういうんじゃなくて! とにかく、始めに再会した時は一年前とは違うという事自体に驚いて、細かい変化まで気にとめていなかった。でも、少し落ち着つくと途端に目に入ってきて、今ではどうしても意識がそっちにいってしまう。

「ソラ、聞いてる?」
「な、なに」
「腕出してよ」
「うで?」
「そう、腕。あ、左腕ね」
「う、うん」

動揺を必死に隠しながら言われた通りに腕を出す。すると、何故かすべすべした感触が広がった。何故すべすべしているのかというと触られているからで、誰に触られているかといえば目の前で立っているカイリで……。女の子の手ってやっぱり小さくて気持ちいいんだなぁなんて思ったり。じゃなくて、

「カ、カイリっ!?」
「あー、やっぱり?」

腕の外側、カイリが指を差した部分には擦り傷があった。傷自体は軽いもので血が滲んでいる程度。多分、さっきの戦いで付いたんだと思う。傷なんて日常茶飯事だった俺はあまり気にしてなかったんだけど、カイリは違うらしい。

「私、絆創膏なら持ってるから」
「いいって。このくらい唾つけとけば治るよ」
「駄目だよ、ばい菌が入ったらどうするの」
「でもさ」
「だ、め」

言い切ったカイリに苦笑すると同時に、俺はほんの少しだけ安心していた。変わってしまったカイリ。でも、こういう所は全然変わってないんだな。俺がリクと勝負して負けた時も、よくこんな問答をしてたっけと思い出す。こうなったカイリの頑固さは俺達三人の中でも飛び抜けていて、いつも俺が折れていたんだ。
……変だな。たった一年前だっていうのに、ずっと昔の事みたいに、今ではひどく懐かしい。

「ねぇ覚えてる? ソラったらリクにいつも負けててさ」
「カイリに手当てしてもらってたな」
「拗ねて手当てなんかいらない!ってごねてた時もあった」
「あっ、忘れろって」
「えー、どうしようかな?」
「なら、俺だって覚えてるぞ。リクと喧嘩してボロボロになった俺を見たカイリは、お願いだから手当てさせてって泣きついたんだ!」
「そんな事もあったね」
「だからおあいこだ」
「ふふっ。あはははっ」
「何がおかしいんだよ」
「だって、おあいこって……!」

それから思い出話に花を咲かせながら俺達はたくさん笑いあった。思えばカイリとこんなにも笑ったのは久しぶりだ。再会してからというもの、ゆっくり喋る余裕もなかったし変わったカイリを見て戸惑い、勝手にぎこちなさを覚えてたりもしたから。
案外、カイリも俺と同じようなものだったのかもしれないと気がついたのは途中からだった。擦り傷なんて只のキッカケだったのかもしれないって。見る事が少なかったカイリの笑顔が段々増えていく。声の明るさが俺の知っているカイリのものに近付いていく。もし俺と喋っている事がカイリの笑顔に繋がっているのなら、こんなに嬉しいことはない。カイリの屈折のない笑顔はたちまち俺をも笑顔にさせてくれる。だからこの笑顔を誰にも奪わせたくないと思った。

「本当はね、少し……。ほんの少しだけど不安だったんだ」
「……カイリ、あのさ」
「うん?」
「俺、カイリのこと守るから。絶対に守るから」
「ソラ……。うん、すごく嬉しい」

カイリのとびきりの笑顔は反則級に可愛くて、ドキドキする。
やっぱり俺、カイリの事、どうしようもないくらいに大好きみたいだ。出来る事ならカイリを守るのはこの俺でいたい。せめて、カイリが誰かを選ぶまでは……。




「ねぇ、いつまでこうしていればいいのかなぁ?」
「アッヒョ、二人だけの世界になっちゃったね」
「ったく、あいつらは……」


13.4.22
//キミの笑顔で爆発寸前