べるばぶ東条さん夢
2020/10/29
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たくさんの男の人たちに囲まれて恐怖で声が出なくなる。真昼間なのに、そこら中にたくさん人はいるのに、誰も助けてくれない。警察を呼ぶ素振りすら見せてくれない。みんな視線を逸らすばかり。でも私にこの人たちを責める権利なんてない。私だってきっと立場が逆なら何もできない。せいぜい安全地帯に入ってから匿名で警察に電話をするくらい。それをしたところできっと、その時には手遅れ。
もう、仕方ない。
そう諦めの境地に入った瞬間、目の前に広い背中が広がってヒュッと喉が鳴った。
「つまんねーことしてんじゃねーよ」
一瞬の出来事だった。
私を恐怖のどん底に陥れていた人達が全員地面に伏していて、伏し、……土下座では?
「おら、ちゃんと謝れ」
「すみませんでした!!!」
「謝って済んだら警察いらねーんだよ」
「えっ」
「えっ」
思わず固まっていたはずの声帯が働いた。不良の人達と思い掛けずハモってしまう。こんな経験はきっともう二度とない。じゃなくて、えっ待って、そこまでしなくてもえっ。地面コンクリートですよ顔埋まってませんか死ぬ。死ぬその人達。
「声出なくなったな。これで一緒だろ?」
声が出ないとかそういう問題ではなく死んだのでは???
ぐるりと振り向いて尋ねられた言葉にはてなが脳内を駆け巡る。何が一緒なんだろうか。これ早く答えないと私も土下座させられる羽目になるんだろうか。でも聞かれてる意味がわからなくて焦りにはくはくと口が動くだけ。
「声出ないほど怖かったんだろ?」
それはそう。こくこくと頷く。
「だからこいつらも同じ目に合わせた」
それは私の知らないルールです。
でもとりあえず、目の前に立つこの人は本当にただの善意から私を助けてくれたとわかって緊張をと、……ときたいけどこの人はこの人でこわい。
「あ、の」
「何?」
「助けてくれて、ありがとうございました」
でも震える声でも、どうにかお礼は伝える。頭も下げて、下げると不良の屍がそこかしこにあってこわいので目を閉じた。こわい。
「別に礼言われるためにやったわけじゃねーよ。つまんねーことしてんなと思っただけで……まあ受け取っとく」
屍が視界に入らない角度で目を開いて頭を上げた。言葉通り本当につまらなそうにあくびをする姿に苦く笑う。不良独特のルールがあるんですね、私にはわかりかねますが。それでも私が助かったことは事実なので感謝を受け取ってもらえてホッとした。でも言葉だけじゃいけない気がする。みかじめ料というか。
「あの、……何かお礼を」
「あ? いらねーよ」
言葉通りに受け取るべきか否か迷って、大人として引けなくなった。というか、若干怖くて目が離せなかっただけとも言う。
「……じゃあせめてお茶でも」
「フッしつけえ人だな」
びく、と肩が揺れたのには気付かれただろうか。笑って放たれた言葉だけど、いつ不良ルールが発動するかわからないので少しこわい。良い人なのかもしれないけど、……良い人かなあ。過剰に痛めつけられた不良達を薄目で見て考え直す。
「じゃあこれでいいよ」
「えっ」
私の命、120円。
指差された自販機の炭酸飲料に唖然とする。
「……オレと顔突き合わせて椅子に座るの、イヤだろ?」
フッ、と再度楽しそうに笑われて思考回路が二転三転して忙しくなる。でもその笑みにつられて私もようやく緊張が解けて頬が緩む。いや下を見るとちょっとこわいけど。でも、私にこの力が働くことはないと確信した。
「あなたがイヤじゃなければ、私は一度あなたと話してみたくなりました」
「……お前、変なやつだな」
ほら。
私の言葉にむしろ戸惑いを見せた目の前の男の人を見上げて今度こそ微笑む。
「助けてくれてありがとうございました」
「……さっきも聞いた」
結局あのあと東条くんと名乗った男の子はバイトの時間だからと120円の炭酸飲料だけ受け取ってくれて現れた時と同じように颯爽と去ってしまった。さすがに命の危機を助けてもらって120円は酷すぎるから挽回のチャンスがどうしてもほしいのだけど、高校生の男の子の好きそうなものがまったくもってわからない。図書カードが一瞬頭をよぎったけれど、本を読みそうにないしなあだなんて失礼な偏見で却下する。
「うーん」
「また困ってんのか?」
心臓が文字通りキュッとなった感覚に固まる。ぬっ、と横から圧迫した何かを感じたかと思えば昨日出会ったばかりの東条くんが立っていて肩の力を抜く。
「オレ見てホッとするのか」
「え、あ、命の恩人なので……」
「わかんねえなぁ。普通の奴らからすりゃあいつらもオレもそう変わんねえだろ」