討鬼伝 焔夢
2020/11/05
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「よぉ、隊長」
「……からかわないで」
あまり変わらない表情が、ほんの少しだけ歪む。知らない人間が見たら全く微動だにしていないと思うだろう表情筋だ。それでもこいつはこの里一番のお人好しだ。
「なにがだよ」
「……隊長は、向いてない」
その言葉に目を見開く。不安に謙遜してるわけじゃなく、本心から言った言葉だと伝わる。てめえはなにを言いだしてるんだ。お前以上の隊長なんてこの里にはいやしねえ。近衛も侍も、そんなしがらみが何もないお前だからこそみんなは頼りにしているのに。近衛も侍も頑張ってたのはわかるが。
「……てめえが向いてなかったら誰が向いてんだ?」
「焔」
「……はあ?!」
「焔は人のことよく見てるし、強いし、優しい。あと人に好かれてる」
それはお前の方だろうが、と言ったつもりで言えてない。あまりの衝撃に声が出なかった。こいつは何を。いや本気で褒めてくれてるのはわかる。わかるが、お前に言われたら何もかもが嫌味に聞こえてしまう。本気で言ってくれてても、お前はそれをさらに上回る強さのくせに俺を強いとのたまいやがる。
「……記憶がないこと、気にしてないのに、私以上に気を使ってくれる。手が滑ったり」
「あんま掘り返すなよ。てめえがよくても俺がよくねえから手が滑っちまっただけだ。恩を売りたいわけでも優しいわけでもねえ、自己満足だよ」
「……私は命令するの向いてない。もともと、命令されて動くだけの人間だった。九葉の部下はそうして生きてきたから」
お前が命令されて素直にそう動くたまには見えねえけどな。現にお前何度も俺らを無視して言うこと聞いてねえじゃねえか。結果が良かっただけで、最悪の事態になることだってあった。そんなすれすれで生きてるくせにこいつは何を言い出したのか。アホなのか。アホなんだろうけど。
「……あのおっさんも苦労するな」
「……九葉は命令の出し方も上手だった。九葉の言うことは予言なのかってくらいそれが最善の策でわたしがなにか考える必要なんてなかった」