呪術 五条くん夢
2021/01/25
〜番煎じ救済夢の没ネタダイジェスト風味です
────七海side
「私の残機10個くらいあげるね」
そう言って彼女は灰原の肩をトンと叩いた。言われた言葉の意味がわからないなりに善意だということは理解した灰原が目を瞬かせながらもお礼を言っていて、人の良さに呆れる。
「ナナミンにも一応あげる」
意味がわからないと眉を顰めてそれを見ていた私にも肩をトン、と叩いてきた。痛くも痒くも、呪力もなにも感じないそれに眉間にさらに皺が寄る。先輩に対して失礼だと思われてもほぼ初対面の人間の意味のわからない行動に礼儀を返せるほど大人になれていなかった。
「ねえ今の何?」
「おまじない。今のところ五条くんには必要なさそうなものだよ」
「はー? 確かに俺そんな心配される必要なんてないくらい強いけど同学年のよしみで労われよ」
「また今度ね」
いつも飄々としている人が飄々と受け流されているのは気分が良いけどナナミンと呼ぶのはやめてほしい。
「私たちもその優しさがほしいね」
「私はたまに抱擁する間柄だから可愛いか可愛くないかの違いじゃないか?」
「は? こん中じゃ俺の顔面がダントツに可愛いだろ」
「そういうところが駄目なんじゃないか」
────五条side
「ねえ、今私がね、残機あげたの、灰原くんとナナミンだけなんだよね」
「あ? いつの話だよ? なんの言葉遊びか知らないけど俺を労らないやつの話なんて聞きませーん」
「私が死んだら灰原くんかナナミン、助けにいってあげてね」
「──は?」
ばちゅん、と変な音がした。ごきん、と鈍い音も。どさりとさっき声が聞こえてた場所で音がして振り返る。見るも無惨な姿になって息絶えている、さっきまで朗らかに話していた女の死体。呪力も何も感じない、異常な死にヒュッと喉が鳴った。まだ温かいのに(だってさっきまで喋ってた)、まだ柔らかいのに(だってさっきまで動いてた)、息も、心臓も動いていない。確かに死んでいるそれを抱き上げて、最期の言葉の望みをただ叶えようと、そこからの記憶は一切なかった。
────夢主side
どくん、と心臓が跳ねて長い間水中に沈んでいて久しぶりの空気に呼吸の仕方を忘れた人間のようにむせかえる。息をしたいのに咳をしてしまうせいで酸素が逃げていく。酸素を取り込まなくちゃ。生きるために、酸素を。
「──っはぁ」
ようやく落ち着いて酸素を取り込めた。久方ぶりの空気な気がする。たぶん、事実そうなんだろう。一度死んで、生き返ったはずだから。はじめて生き返ったにしては酸素と咳に溺れた時間が少ない方なんじゃないだろうか。いや、まあ、そんなことした人他に誰かいるのかもわからないから比べることもできないんだけど。
ふふ、と笑いながら起き上がる。死後硬直でもしていたのだろうか、動くたびにぱきぱきと小さな音を立てていく体を無理矢理動かす。
「なに、オマエ、どう、死ん、……確かに死、……生き、」
「あ、五条くん。灰原くんとナナミン、無事?」
五条くんの声が耳に届いたけどまだ本調子じゃないせいか暗い視界のせいで姿を確認できないけど声のしたほうに振り向く。結局彼任せの作戦に申し訳ないなと思いながらも私にはこんなことしかできなかった。
私には生まれる前の記憶がある。ファンタジーなことに神様のような何かと一方的にお話ししてファンタジーなことに読んでいた漫画の中に生まれ落ちた。神様なのか、悪魔なのか、天使なのか、私には判断がつかなかった。だって本当に悪魔がいるならこんな人を救える力をくれる意味がわからないし、本当に天使がいるなら誰も苦しまないようにしてほしかったし、本当に神様がいるなら誰も死なせないでほしかった。だから前の私が死んだ後に一方的に話しかけてきた存在がなにかなんて考えることが苦手な私にはわからない。
でも、考えることが苦手な私にとってこの力はとても楽だった。私の数えきれないほどある命を何も考えずに渡すだけでいいから。どういう思惑があるのかわからないけど何者かわからない存在の言うことを素直に信じれば地球上みんなの命の肩代わりを何度しても有り余るほどの命をもらった、らしい。
でもこわくて、死がこわくて、見知らぬ誰かの命の肩代わりをする勇気はついぞ出なくて、はじめての命の肩代わりは灰原くんになった。好きな人たちのためなら勇気を出せた。頑張れた。
命を肩代わりするわけだから痛いのは覚悟してたけど、本当に痛かった。二度と経験したくないくらい痛くて、怖くて、好きな人たちを守るためでも次は笑顔で肩代わりできるかわからないくらい、つらかった。でも、痛くても怖くても辛くても、ただ私が我慢すれば彼らが生き延びるなら、私の命くらい何個だって差し出せる。結局たくさんの命があっても好きな人たち以外の肩代わりは耐えられないと見捨ててしまう結論を出してしまって、自分の小心者さに吐き気がしそうになったけど。
「ぶ、じだよ、だって俺が、すぐ、……ちがう、なんでオマエ、どうして」
「私何回死んだ? 10回くらいあれば五条くんなら余裕で間に合うと思ったから」
「なん、……なに、」
ようやく光の眩さに目が慣れてパシパシと瞬きをしてから久し振りに五条くんの姿を目に入れて、まだちゃんと復活しきれていなかったのかと一瞬動揺する。
「まっえっ号泣じゃんどうしたの?! どこか怪我した?! えっ! ごめん! いたい? 大丈夫? いや大丈夫かごめん」
「大丈夫じゃねえよクソ」
「えっなんでなんでなんでだってまだ、えっ、五条くんも残機必要だった?!」
「……それで、どういうことだよ」
「ええとその、残機……死、の肩代わり的な……私、命がちょっと人より多くて、その、分けました。可愛い後輩が危ない目に遭うと泣いちゃうから」
「オマエが死ぬと泣かれると思わなかったわけ?」
「や、その、……」
「オマエの命がたくさんあるのは意味わかんないけどわかったよ。でも生き返るからって心配しないなんてことはない。何度だってこうやって泣くし、取り乱すし、暴れるし、説教する。監禁しないだけありがたいと思えよクソが」
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────五条side
「……私が今残機あげてるの誰だったっけな。ごめん、わかんないや。後片付けいつも押し付けちゃってごめんね」
ばちゅん。ぱきん。ぐちゃ。ごつん。びちゃ。ごきん。ぶちゅ。
何度見ても、慣れない。どうして好きな女が死ぬ姿を何度も何度も何度も何度も見なくちゃいけないんだ。
ぐちゃり。
ぐちゃぐちゃに体が何度も跳ねて、何度も死ぬ。一瞬で生き返っているのか苦しそうな呻き声が一瞬聞こえて、また死ぬ。
生き返るから心配しないでと今はもう原型をとどめていない口が何度も俺にそう言った。オマエは死んで、死んだ後を知らないから軽々しくそんなことを言えるのか? 生き返るなんてそんな与太話、普通なら一度だって信じられないのに。必ず生き返る保証なんかどこにあるんだ。