急にはじまったり急に終わったり急に飛んだり台詞だけだったり地の文だけだったりどっちもだったりとにかく書きたいところを書いただけのorangeDC

沖矢さん夢

2020/11/04


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「なるほど」

 俺の顔を見てなるほどとつぶやいたこの女性に目を眇める。

「何がなるほどなんでしょうか?」
「ああすみません、不躾でしたね。ただ美人の周りには美人が集まるんだなあ、のなるほどです」
「……あなたもお綺麗ですよ」
「ああ、髪はただ切ってないだけなので。でも嬉しいです」

 なぜかお返しにと返した言葉はピンポイントにその長い黒髪へ向けられたものと思ったのか髪を触りながらお礼を言う姿に目を見開きそうになる。

「せっかくの美人さんは見つめていたいですが、そろそろ引っ越しを考えていて」
「そうなんですか」
「良いところだったんですけど」
「何か問題でも?」
「いえ、……まだ起きてませんが、そろそろもう少し職場の近くに住んでも大丈夫かなと。そこで働き続ける決心もついたので」
「そう、ですか」








「うーん早い。まあでもそりゃそうか。こんなもんよね」
「……何がですか」

 燃えてるのを見ながら言う台詞でもない。そもそものんびりしすぎである。一般人ならもう少しわあきゃあうるさく騒いでもいいはずだ。犯人、ではなさそうだが。

「貴重品は持ち歩くようにしてるんでいいんですけど、……アルバムとかは返ってこないですよねえ」
「……そう、ですね」
「なんで火なんてつけちゃうんだろう。キャンプファイアーがしたいならキャンプで思う存分やれば、……」

 のんびりとしていた女性の台詞が固まる。何だ、と注意して見ようと一挙一動を見ようとした瞬間、カバンを投げつけられる。消防士が来るまでに近所の人たちがバケツリレーをしていたそれを横取って全身にかけたかと思えば火の中に躊躇いもせず走って行った姿に呆然とする。FBI失格だ。なぜそんな自殺行為を。いや、水をかけたのだから死ぬ気は無いはずだ。だが、なぜ。そんなのわかりきったことだ。彼女の耳には、助けを呼ぶ声が聞こえた。
 助けに行こうと駆け寄っても、二人目は許さないとばかりに止められる。一人ならば振り切れないこともないが、流石にこの人数を相手には振り払えず皆が暗い顔をしながら彼女の帰りを待つしかできない。
 あっ、と誰からともなく声が上がったかと思えばゆらりと炎の向こうに人影が見えて彼女と、小学低学年であろう子供が抱えられて出てきたのを見てホッとした。

「生きてる? 生きてるね、私も生きてる。君も生きてる。もう大丈夫。頑張ったね。熱かったね。大丈夫だよ。もうすぐ痛いのもなくなるからね。お姉さんと同じ病室になったら一緒にあそぼ、う、ね」
「!!」

 子どもを受け渡したかと思えば緊張の糸が切れたのかかくりと力が抜けた彼女を慌てて支えた。








「……無事ですか」
「あ、いやあ、無事なんですけど髪の毛がばっさりですねあはは」
「……そう、ですね」
「あの、そんなに落ち込まないでください。もともと切るつもりだったので大丈夫なんですよ」
「いくらなんでもそこまでばっさりする予定ではなかったでしょう」
「あ、いいえ、むしろまだ長い方なんです」

 ヒーローの彼女の髪は焼け落ちてしまった。女性の髪は命よりも大事だと聞いたことがある。まあさすがに比喩であることはわかっているが、そんな比喩ができるほどのものなのは理解しているから眉をひそめる。なのに当の本人はあっけらかんとこれでもまだ長い方だとのたまうから目を見開いて驚く。

「なぜ。あんなに伸ばしていたのにはきっと訳があったんでしょう」
「よくある理由ですよ。失恋です。好きだった人が、綺麗で長い黒髪の女性が好きだったので、つい無意識に真似を。でもやめたんです。そもそもそういう好きではなかったことに気がついて」
「……失恋なのに、好きではなかった?」
「うーん、なんていえばいいんだろう。私はずっとその人のことが好きだったんですけど、ある日その人が絵本の中の王子様だったことに気付いたんです。次元が違うというか」
「そう、ですか。あなたがすっきりしているのでしたら第三者が何かいう権利はありませんのでもう深追いはしませんが、……あなたの髪は、綺麗だった」
「……ありがとうございます」










「ショートカットもお似合いですね」
「ありがとうございます! ものすごく手入れが楽です! お風呂上がりのドライヤーが! 一瞬!」

 気持ちがわかって思わず、ふ、と笑みがこぼれてしまう。彼女もとても嬉しそうで、この前の時のように影のあるお礼ではなかったことに安堵する。でもそれもそうか、他の男のために伸ばしていた髪を興味のない男から褒められても微妙な顔をしてしまうだろう。

「……あんなことがあって、家は決まりましたか?」
「今は友達の家にお世話になってるんです。もうすぐで家も決まりそうなのでこれでようやく一安心です」
「お手伝いできることがあれば遠慮なくおっしゃってくださいね」
「あはは。大丈夫ですよ。ありがとうございます」










「お久しぶりです」
「……あ、」

 思いきり驚いた表情をされて思わず笑顔が固まる。もう少し、喜ばれると思った、なんて、飛んだ自意識過剰だった。今の驚きは、久々に会えて驚いた表情なんかじゃなかった。会うはずもない男に出会って驚いた、そんな表情だった。いつの間にそこまで嫌われたのか。いや、そもそも嫌われているというのも自意識過剰か。嫌いも好きもない、ただ以前燃え落ちた家のお隣さん、喋ったのは数回、なんて男にどんな感情を抱けばいいというのか。

「……すみません、馴れ馴れしかったですね。火事は衝撃的な出来事だったのでつい」
「いいえ、いいえ、そんな、ただ驚いて。ここ、県が違いますから、他人の空似かと」
「……それもそうだ。すごい偶然です。ご旅行か何かですか?」
「いえ、はい、……いや、転勤というか。もうあの街には住んでないので。そちらはご旅行ですか? 楽しんでくださいね」

 今度こそ顔に出た。

「……どうして、……いや転勤なら仕方ない、です、ね。……なんでしょう、戦友みたいな気持ちに勝手に思ってたので少し寂しいです」
「わ、ありがとうございます。確かにあんな事件、滅多にあいませんか」

 ら、と続くはずだったろう言葉はかききえてしまった。
 咄嗟に彼女を庇ったけれど、彼女は泣きそうな表情で彼女の声をかき消した音の正体を見ていて内心舌打ちをする。本当に、あんな事件、滅多にあわないものなんだ、普通は。なのにあれよりひどい、銃だなんて。

「……お、きやさん、とりあえず通報はしました」

 震えながら俺にしか聞こえない声で囁かれた言葉に目を見張る。彼女は驚くことばかりしでかす。さすがに鳴らしただけだろうが、それでも背後の音で緊急性に気付いてGPSでなんとかなるだろう。だが時間の問題だ。やつは顔を隠しもせず、人質を取ろうともせず、ただ空に向けて銃を乱射するだけ。ただ、撃ちたいだけなのだろうか。だがそれがなににむけてなのかがわからない。いつこちらにその凶弾が向くか分からない。

「……じっとしていてください」
「大丈夫です、うごけないです」

 ふ、と思わず笑ってしまいそうになる。なんで少しユーモアを含んでしまったんだこの子は。

 

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タイトルを考えるのが死ぬほど苦手