Odei

汚泥/メモとクソ

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沖田くん
「死神だったんですか」
「どうかなあ、わかんないや」
「労咳だなんて。ねえ。知っていたの」
「……知識としてなら、ね」
「酷いひとですね」
「人って言ってくれる沖田くんは本当に優しいよ」
「まさか。斬れたら斬ってます」
「俺がチート持ってたら全部変えてるのにね」
「なんですかそれ」
「神様になりたかったって、そんだけ」



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葛駄楼
「楼くんってかなりパワー系の強い声で歌うよね」
「えっ?」
「いや、だから、結構響く歌声だねって」
「えっ!?」
「楼くんそういう顔するんだ……」
「いや、ゲキちゃん……ほどじゃ……」
「対比がおかしいんだよねそれ」



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沖田くん
 沖田が虚空に向かって時々刀を振ることがある。と、言われてるのを小耳に挟んでちょっと笑ってしまった。きちんと毎回斬られてはいるんだけど。
 霊感不思議ちゃんキャラ似合ってるよと笑ったら、意味は半分くらいしか伝わってなかったけど気に触ったという理由で木刀ですっぱ抜かれた。ウケる。

「本当に変な人ですね、あなた」
「俺からしちゃ、沖田くんのほうが変なんだけど」

 俺は、幕末にいた。
 新撰組一番隊組長沖田総司の目の前にいた。

 ごくごくごく普通の社会人である。ジーパンとTシャツで休日は寝てすごす怠惰な社会人である。帰宅してワイシャツとスラックスでそのままコンビニの飯を食うような、ありふれた社会人、で、あった。あったのだ。

 タイムスリップなのかパラレルワールドなのか、全部妄想幻覚走馬灯なのか、そんなことはわからない。ただ俺は気が付いたら幕末と呼ばれる世界にいた。
 トリップモノやら転生モノなんざまともに読んだこともないけど感覚では知ってる。それから教科書に書かれてる程度の歴史なんかも分かる。トラックにも轢かれなかったし社畜で過労とかもないし、ただ、瞬きみたいに、目を開けたらこうだった。直前になにをしていたかなんて何も覚えちゃいない。目を開けたら知らない映画セットみたいな景色のなかに放り込まれてたんだ、全部の記憶がすっ飛んでないだけマシだろ。
 
 よくあるトリップや転生ならチートの一つ二つ持ってみたりしててもいいはずだけど、俺は逆だった。何一つ持っちゃいなかった。つまり、身体を。実体を。その身一つすらも、持っていなかった。
 誰にも見えない、触られることもなければもちろん斬られることもない。そうでなきゃ町中に放り込まれた瞬間お縄について死んでただろう。お陰さまで生き延びている(いや、生きているのかは怪しいのか)のだから、ある種のチートなのかも。はは、笑えんわバカ。

 誰一人知らない世界で誰一人にも認識をされることのないという、こと。
 想像がつくだろうけど、まあ、辛い。意味がわからん。叫び散らかしても誰にも振り向かれない。唯一の救いはどこにでも忍び込み放題で好き勝手にできるところだ。疲れもなく、ふらふらと漂うように移動することもできたから、好きなところに行けた。
 でもこの世界も時代も俺の感覚とは違いすぎてどこもかしこも苦しかった。俺の場所はどこにもなく、俺のものもなにもない。眠り続けて消えてればいいやと百回は思ったけれど、そんなところばかり人間のままで、ある程度眠るとどうしても目が覚めるのだ。また漂い、徒に人の中をすり抜け、死にたくなる。眠る。その繰り返し。

「何してるんですか?」

 だから、彼が俺の神様みたくなるのは一瞬だった。

 漂っているうち、自分が京都らへんにいることは俺にも流石にわかったから、やけくそで観光なんかしてたわけだ。ふーん、ここが壬生寺ってやつねえ。……なんか知ってる感じとちゃうけど。
 え? あ、なんかなるべく認識しないようにしてたけど、ここって俺の知ってる江戸時代じゃねかも。この上更に絶望的な状況にする必要ありました?
 人間じゃない、人間かもしれないけど、振るう力は少なくとも、俺が歴史で習ったような歴史上の人物たちとはかけはなれていた。夢でもばからしくなるような存在たちがそこで暮らしていた。
 新撰組。大河で見たくらいの知識しかなくても、この人たちの行く末は知ってる。実はちょっと気になってウィキ程度の知識は入ってる。だから、名前と顔が一致すれば誰がどんな人なのかの理解は早かった。死ぬのだ。この人たちは皆。そのことにぞっとして立ち竦んでいた。後ろから声をかけられるその瞬間まで。

 振り向、く、動作をしてしまう自分にすぐ後悔した。俺じゃない。この世で発される言葉はすべて俺に向いていない。後悔はコンマ二秒と経たず弾けとんだ。ばち、と、火花が散るほどの鮮烈さが脳天を揺すった。少年の瞳は間違いなく間違いのひとつもなく、疑い無く、迷いなく、俺を見ていた。
「総司、どうした」
「どうしたって、この人誰ですか近藤さん」
「いや誰もいないだろう」
「いやだなあ、こんな変な格好のひとが見えないなんて」
「ははあ。総司、からかってるんだな」
「からかってるのは近藤さんの……、えっと、うーん、なんでもありません」
「ははは、構ってほしいなら久々に一本やろうか」
「えっ! いいんですか? やったあ!」
 近藤さん、つまるところ新撰組局長は、笑いながら彼の頭を撫でて歩きだす。俺が見えていないようだった。微塵の気配も感じていないだろう。俺のことをそのまますり抜けて行った。その様を見て、沖田総司は目を見開いた。沖田総司の鋭い視線が俺を刺した。心臓を凍らされるような視線だ。沖田総司の視線に疑念と殺意が込められていたことは明白だ。明白でも、良かった。なんだって、嬉しかった。



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クジャネリ
 時限爆弾が埋まってるのは彼らと俺はおんなじだなと言えば、クジャは世界一憎い相手のように俺をにらんだ。
「そんなわかりきったことを言うバカと話す暇はないんだけれどね」
「あは、俺があの顔に似ててイヤかい? その上、俺が生きていることは彼が生きていることの証ときた」
「お前を殺してもあいつが死なないことが心底残念だよ」
「そいつは仕方のないことだ。俺は彼の証でしかないからね、残念かもしれないが、そう作られたのは互いだろ」
「虫唾が走る。今すぐ立ち去ることだね、短いこの先の命を楽しむといい」
「どうだろう、長い命の始まりかもしれないぜ」
 ぱち、と、火が着くような音がして、俺は急ぎそこから後ろに飛び退く。舌打ちを見せるお前にへらへらと笑えばごうごうと火が吹き雷鳴が轟いた。


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ジタン
「は? なんでいまのでひっくり返るん? 全然わからん」
「全然わかんねえのによくそこらの人に挑むよな……」
「ビビも好きなんだって聞いたし、練習」
「おまえ、ビビのこと気に入ってない?」
「お? やきもち?」
「珍しいっつーか、なんか……意外だな」
「ジタンが知らないだけで俺は世界中のひとのこと愛してるかもしれないのに」
「はい、これで全取り」
「はあー!? 待ってよ俺のいただきキャット!」


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リンク
ミファー! と、叫んだ。俺だったのか、リンクだったのか、わからない。びっくりしたように振り向く。きみは、俺たちを見つめてもう一度だけ笑った。
「だいじょうぶ。だいじょうぶだよ」
 ゆっくり、相手の気持ちを思いすぎているほどにやさしい声音できみは、きみは、

「世界がほんとうにキラキラと光っていて俺はびっくりしたんだ、それだけだ」
「置いていくなよリンク、俺はきみと一緒じゃないと俺ではなくなっていく」

いくら記憶を取り戻しても、きみはもうアレには戻れないんだ。いくら過去をねじ曲げて、いくら歴史を書き換えても、俺たちはずっと此処にいる。リンクは笑った。
「百年ってすごく途方もないよ、知っている人はみんな居ない。姫様もそれは同じではあるのだけれど、俺にはその百年がすっかり抜けていて、」
 リンクはぱたんと横になった。土の上にも迷いなく転がるのはどうかと思うし、きっとあの頃はこんなこと、しようと思うことすらなかっただろう。夜空は遠かった。
「でも、大丈夫だ」
 同じことばを口にしている自覚はきっとない。俺に器も涙もなくて良かったよ。死んでしまうほど泣き続けてしまったかもしれないから。


char
リンク
 おまえマジに地図読めないの? それはこっちの台詞なんだけど……。はあ!? 地図出してやってるのに! 見せてやらんからな!? あー! それは待って! 方角だけ! 方角だけ分かればなんとかなるから!
 俺たちの大騒ぎの旅路だ。ようやっと、夜がくる。スカルの相手も面倒だから、夜が明けるまで時間を潰そうとリンクは火元で座り込んだ。従って俺もそこに居る。
 ちなみにこの炎は持ち運んでいた薪……ではなくゴブリンから強奪した鍋である。肉もほしいな……とリンクは呟いて、じっとゴブリンの心臓を見つめた。嘘だろ。えいっ、とかわいこぶった掛け声でそいつを鍋にぶっこむ。百回見ても嘘だろとしか言えない。
「でもさ、不思議だな、なんか、」
「俺からしたらそれ食ってるリンクのが不思議なんだが?」
「いや、これが意外と……、食べる?」
「心底俺が生きてなくてよかったと思った」
「結構いけるんだけど……」
「ハイラル人への偏見が深まるからやめろ」
 俺はシーカーストーン。……の、なかにある、知能を持った存在だ。リンクと殆ど感覚を共にしている。今のところ味覚の同期は行われていない。断固拒否の姿勢。知能に加え、こちらは常識と良識と感情を持ち合わせております。
「……不思議なんだ、一人じゃないから」
「昔のおまえはもっと人といたんじゃねえの?」
「そうかもしれない。でもシークみたいな近さに居る人は……ん? 人? まあいっか」
「図太い。さすがリンク図太い」
「プルアに言われるまでなんか、みんなそんなもんなのかなって思ってたし……」
「俺も分かってなかったからあれだけど、本当に俺たちよくここまで生きてるよな……」
 ずず、と、スープの最後の一口をリンクが飲み干す。ふぅ、と一息ついた。鋼鉄の胃袋。俺の持ち主じゃなきゃあもっと面白がるんだけどさあ。
「きみで良かったなと、思っただけだ」
「あは、それはおれもそう!」


char
葛駄楼
 低く唸り声をあげる。ベッドの上に丸くなって毛布をかぶって、人間を辞めるみたいに。心臓が痛い。胃の奥が焼ける。喉元から舌が呼吸器を塞ぐ。苦しい。
「おまえの身体にそんなことは起きていないよ」
「うるさい、うるさい、わかるもんか」
 想像の臓器が煩わしいほどに喚くことがきみにわかるものか。きみには人間の腸などとうに無いのだ。この苦しみが、この痛みが、ただひとつ俺を人間に繋ぎ止めている。

「死にたいのに、死にたいのに」
「残念だけど、それは難しいかな」


char
ビビ
「ねえ」
「なあに、ビビ」
「あの、ネリネもジタンと……ジェノムのみんなと同じ……なんだよね」
「そう、ジタンとおんなし程度の時間はあるはずだ。少なくとも、俺があいつのもとに帰りつくまでは保つといい」
「そっか……」
「君は君のことだけ考えていてくれたら俺はうれしい」
「……うん」


char
刀と人間
「水、どこにあったの」
「井戸」
「ないよ」
「あったよ」
「池……」
「ちょっとお前があの水飛び込んでから言ってくれる?」
「うそ!」
「お前此処でどうやって生きてたわけ」
「……生きてはないもん」
「あったよ」
「いつから此処がこうだと思ってるの」
「知らないよ、お前も覚えて無いんだろ」


char
ジタン
「俺は演劇というものはてんで知らないけれど、お前の台詞は全て好きだな」
「すべて?」
「すべてさ、俺の聴いたことのあるものもないものも、すべて」
「んなこと言って、俺の口説き文句は数知れないぜ」「輝きたい、」
「なんで知ってんだよ!」
「俺がジタンに帰りつくために」
「はあ……。お前、よくそれ言うよな」



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葛駄楼
 随分と。随分と僕も人間みたいなことを思えなくなってしまったものだなあ。夜音さんにお茶を淹れる。夜音さんの中にある不審は、僕に向けられることはないだろう。ひとつも疑わない。
 僕が鬼になっていることだけが彼女の真実だ。だから、きっと大丈夫だ。僕は君から、痛いを消してやろう。

 痛いよ、痛い。たすけて、たすけて。声に出している、つもりなのはぼくだけだ。誰にもこの叫びが届くことはない。焼かれる。叩かれる。折られる。臓物を潰すように。生あることを忘れるように。嘔吐するものもない。食ってない。いつからだ。わからない。なんでなんで、あれ、あれ?

「痛く、ない?」

 君の目がいつ白くなったか覚えているかい。目を片方は酸で、片方は炎で焼かれたときだ。
 君の髪がいつ白くなったか覚えているかい。首の折れるほど引き回され、そのまま泥に浸された日だ。
 君の肌か、血が、肉が、まっさらになったのは、

「楼くん、ぼくは死ねるのか」
「あはは、そう、生きてくれよ」



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葛駄楼、夜音
「あれが楼くんに鬼にしてもらおうなんて思っているのなら、もらえるなんて思っているなら、あたしはあれを一番いやな方法でいたぶるかもしれないわ」
「夜音さんは苛烈な女だ、よく知ってるよ」
「そう、知ってるよね」
「怖い顔をしないで、僕は夜音さんが大切なんだ」
「そうよ、そうでしょう」


char
葛駄楼
「楼」
「どうしたの」
「楼くん、あのねえ、ちょっと刺してみてくれるかい」
「ええ……? なんでそんなことを」
「最近、痛いが、なくなっている? 気がするんだ」
「ふぅん」
「楼くん」
「なんだい」
「楼くん、ぼくは死ねるのかね」
「さあねえ、夜音さんに訊いてみな」
「そんなことできるもんか」



char
ジタン
ジタン、と声をかける。君は振り向いて俺を認めると笑った。
「お! お前か」
「そこは“君”が良かったな」
「はいはい」
「最近あなたの調子はどう?」
「すこぶるいいぜ、惜しむらくは「惜しむらくは君がジタンで俺がネリネであるだけで」」
「……いや、お前の名前をダガーに入れ換えてくれ」
「ひどいや」


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てすと
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