chapitre 0 記憶の水底
どうして、どうして居るのかしら。居なきゃいけないのかしら。この世に。
どうして、どうして作るのかしら。作らなきゃいけないのかしら。失うための記憶を。
どうして、どうして存在するのかしら。存在しなきゃいけないのかしら。死んでしまいたいのに。
どうして。
その言葉が私の中からなくなることはない。問うのが、考えるのが無駄だと知っていても。だって、私は答えを持っているのだもの。変えることなんてできない答えを。
いっそのこと、死んでしまえたら楽なのかしらね。けれど、それすら与えられない。この身が朽ちるその時まで、ただただ失い続けなければいけない。大切なものを。なくしたくない思い出を。
せめて、狂えたらいいのに。狂って、おかしくなれたら、全部わからなくなれるもの。まあ、意味のない願いなのだけれど。……そんなことは許されない。それに、もし狂えたとしても、すぐに修正される。
ねえ、どうして?どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないの?どうして?なんで?ねえ、ねえ!!
こんな憤りさえ、無意味なんだけどね。だって、知っているんだもの。これは、使命だから。これが生まれた……存在させられた理由だから。知りたくなかった。知らないままでいられれば、憤ることだって出来た。けれど、知ってしまったらなにも言えないじゃない。その為だけの存在だと言うのなら、理由に逆らえるわけないじゃない。
もう嫌なの。失うとわかっている記憶を作ることは。失うための記憶を作るのは。こんなに辛いことなんてない。せめて、自分の中に残るのならいい。その思い出を振り替えられるから。その思い出を糧に頑張ることが出来るから。けど、自分の中にすら残らない。何も、何一つ残らない。こんなに虚しいことがあるかしら。こんなに意味のない行為があるかしら。
確かに忘れてしまえば、辛いことも、哀しいことも、寂しいことも、腹立たしいことも全て忘れられる。けどそれと以上に、嬉しいことも、楽しいことも、幸せなことも全部忘れてしまう。
もう、嫌、いや、イヤ……
忘れるのなら、この苦しみも一緒に忘れられたらいいのに。死ねないなら、狂えないなら、忘れてしまえればいいのに。全部全部。私がなんなのかも、この世がなんなのかも、使命だって。忘れて、なくしてしまえたら……!
絶望は、希望がなければ生まれない。だから、お願いだから、希望を幸福を与えないで。そうすれば、絶望も不幸も与えられることはないから。幸せなんて望まないから。不幸でなければそれでいいから。
……けど、もしも願うことが許されるなら、誰か助けて。誰でもいい、何でもいい。助けてくれるなら。どうか私たちを助けて。
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