ヒーロー科の1日は長い。
他の学科とは違い7限目まであるカリキュラムを終え、轟は昼と同様の校舎裏へと赴いていた。
春になったとはいえ、夕方はやはり冷える。
手には再びコンビニの袋を携え、また同じように辺りを見回した。

「いねえのか」

轟はまた小さくため息を漏らした。
今日はもう帰宅しようと考えていると、ある一角から小さな甲高い声が響いていることに気がつく。

「こんなところにいたのかよ」

垣根の下。体勢を低くして、やっと見える場所。
そこに轟の探しているものはあった。

「お前、ちょうどいい時に現れるな。ほら、飯だぞ」

再び甲高い声を出し、それはひょっこりと姿を現す。
真っ黒い、鮮やかな毛並みの黒猫がまた1回、鳴き声を上げながら轟の足元へと近づいた。
コンビニの袋からソーセージを取り出し、猫はそれをおいしそうに味わう。

轟は気づいていなかったが、ゆっくりと口角が、わずかに上がった。
普段見せる事のない、あの冷たい表情が少し和らいでいる。
猫はそんな轟をみて、また1つニャー、と鳴いた。

「うまいか」

人と積極的に関わらない轟だが、動物には心を開くらしい。
喉を鳴らす猫の顎を優しく撫でるその姿は、普段の轟からしたらまるで別人だ。

「お前、寒くねえのか」

猫は腹が満たされたのか、轟の膝の上で気持ちよさそうに丸くなっている。
轟の問いに対して反応する事もなく、うずくまっているままだ。
そんな様子を見て、轟は右手で優しく猫の背を撫でる。
1度だけ、猫はまたゴロゴロと喉を鳴らした。

「……そろそろ帰るぞ」

轟が立ち上がると、猫は軽々と床へ飛び移った。
片耳をぴくりと動かし、轟をじっと見つめている。

「またな」

猫の頭を優しく1度だけ撫でる。
目をつむり、手が離れたと同時に猫はまたニャー、と鳴いた。
轟が踵を返す前に、猫はそのまま早々と去っていく。

「本当、ちょうどいい時に現れるな、お前は」

それで、ちょうどいい時に去っていく、と轟は思った。
そんな鍵尻尾を眺めながら、轟は踵を返す。
薄暗くなった夕暮れの日差しが、轟の髪を照らしている。

ニャー、と。
後ろから、甲高い猫の声がもう1度響いた。




You're come at just the right time.








melt
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