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※多少、生々しい描写がございます。苦手な方はブラウザバック推奨です。
※Something Blue 83.hateあたりの話です。
その瞳は煌めいていた。
涙をいっぱいにため込んで、それを照らすわずかな光がゆらゆらと反射していた。
眉を少しつり上げて、彩海は目の前の男を睨み付けている。
「どう、して……」
乱れた息で吐き出した彩海の声は震えていた。
か細く、振り絞るような声。
その声色からは表情から感じ取れるような怒気は、不思議と感じられなかった。
いや、むしろ。
「そんなに……悲しそう、なの……?」
慮るような、心配そうな声。
少女は気づかなかったが、荼毘は少しだけ目を見開いて、すぐに元の表情に戻った。
一瞬ためらったかのように動きが遅れたが、荼毘は彩海の口元をあらかじめ用意していたハンカチで塞いだ。
強い睡眠作用のある薬を含ませた、1枚のハンカチ。
これを嗅げば目が覚めたとしてもすぐには動くことが出来ない。
「そういうところが嫌いなんだ……彩海」
長い睫毛がゆっくりと落ちていく。
荼毘にはまるで鳥が羽を休めるような、優雅な動きに見えた。
彩海はそのまま力なく荼毘の腕の中に納まっていく。
「……彩海」
先ほどとは打って変わった、とても優しい声。
荼毘は愛しそうに腕の中に眠る彩海の髪を撫でた。
当の本人はそんな様子に気づく事もなく、深い眠りに落ちている。
「あんな個性1つで、お前はいろんなことを忘れちまった」
荼毘が何を話しかけても、彩海の反応が返ってくるわけでもない。
けれど、荼毘はやめなかった。
自身の腕の中に眠る彩海を見つめながら、まるでここぞとばかりに独り言を漏らしている。
「簡単に忘れんなよ」
瞼を降ろしたと同時に、先ほど煌めいていた涙が頬に伝って落ちていた。
頬に浮かんだその軌跡を、荼毘はそっと指でなぞる。
そして再び、愛おしそうに唇と唇を重ねた。
その光景は、まるでやさしい恋人のよう。
切なくも美しい、ドラマのワンシーンのようだ。
「柔らけえ……髪」
自分の腕の中に彩海を閉じ込め、優しい手つきで撫ぜる。
まるで繊細なガラス細工を扱うかのように。
まるで生まれたばかりの赤子を撫でるかのように。
愛おしそうに。
悲しそうに。
荼毘は彩海という存在を噛みしめている。
「俺はお前が嫌いだ」
態度とは裏腹な言葉。
少しだけ、彩海の表情が歪んだ。
それをみて、荼毘は再び唇を落とす。
「……早く、俺の中から消えろよ」
その悲しそうな、今にも消え入りそうな言葉は、誰かに聞かれることはない。
そして荼毘の悲しそうな表情もまた然り。
「彩海……」
力強く抱きしめられる彩海はただ眠っている。
この熱い抱擁も。
寂しげな言葉も。
悲し気な表情も。
優しく丁寧な口づけも。
まるで、何事もなかったかのように。
一見悪気のないその寝顔は、とても罪深いものに見える。
「彩海……」
荼毘はただ、名前を繰り返し呼び続ける。
彩海の唇からはそれにこたえるような音は生まれることなく、規則正しい寝息を繰り返している。
あまりにも切なく、狂おしい、2人だけの世界がここにあった。
コール、コール、ノーレスポンス