「凪くんってなんか綿菓子みたい。うんちとかもしなそう」
「……するけど」
「するの? 快便なほう?」
「それ気になる? てゆーか女の子がする話じゃなくない?」
「うんこじゃなくてうんちって言ったからセーフじゃない?」
「いまうんこって言ったからアウトだよ」
「そっかぁ」
そんな話をしながらボールを片付ける。凪くん……凪誠士郎という男の子は、我が弱小白宝高校サッカー部に突然稀代の御曹司御影玲王と共に入ってきた期待の新人(?)である。ちなみにわたしはマネージャーである。
凪くんは隣のクラスの男の子で、ついでに言うと去年は同じクラスだった。でも近くの席になったことはないし話したこともない。だってそもそも彼はいつも寝ていたのだから。だからまあ、そんな凪くんがサッカー部に入部するなんて、最初聞いたときは槍でも降るんじゃないかと思ったけれど……槍は降らなかったし数週間もすれば凪くんがサッカーをしているところにも見慣れてしまった。人間の順応能力というのはすごいものである。
「凪くん、サッカー楽しい?」
「別に。めんどくさい」
「そっかぁ。わたしは凪くんくらい運動神経がよかったらサッカーどころか生きるのもめちゃくちゃ楽しそ〜って思うけど、そうでもないもんなのかな」
「さあ」
凪くんは面倒くさがりだし、すぐにサボろうとするし、すごい寝ようとするけれど案外お喋りには付き合ってくれる。わたしはなんというかそれが異文化交流というか、外国人……いや異星人? とお話をしているみたいで好きだった。だから隙を見ては凪くんに話しかけてしまう。
なんだか凪くんといると時間がゆっくり流れているみたいで好きなのだ。たぶんそれは凪くんが肩肘張らずにのんびりと生きていて、穏やかに過ごしているからだろう。
「それより俺は、マネージャーみたいなめんどくさそーなことをそんなに楽しそうにやってる方がすごいと思う」
「え、そう? わたし楽しそう?」
「楽しそう。いつもなんか、目がキラキラしてる」
「ほんと? なんかそう言われると褒められてるみたいで照れるなあ」
「……褒めてる、と思う。たぶん」
「えー! じゃあしっかり照れとこ。ありがとう」
あはは、と笑いながら言うと、凪くんがまんまるの瞳でじっとこちらを見つめてきた。見下ろされている形になるので、わたしは彼を見上げて首を傾げる。190cmもあるのに、お顔がかわいいからか、そんなにプレッシャーを感じさせないのが凪くんのすごいところだ。……なんて思ってると。
「……変わってるよね、君」
「えっわたし?」
「うん」
「凪くんに言われると思わなかった。凪くんの方が変わってるというか、珍しいタイプじゃない?」
「そう?」
「そう。わたし凪くんとお話するのすきなんだ。なんだか違う星のひとと話してるみたいな気持ちになるのにとっても落ち着くから」
「……俺、君にとって違う星の人間なの?」
「うん。たぶん凪くんが実は俺火星人だよってカミングアウトしてきても、そっかぁ〜って言うと思う」
「もし俺が火星人だったらもうちょっとリアクションしたほうがいいんじゃない?」
「そっかぁ〜」
笑いながら言ったところで最後のボールだ。それをよいしょとカゴの中に入れ終えて倉庫の方へ押そうとする。すると「やるよ」と凪くんが声をかけてカゴの取っ手部分を掴んでくれた。それにありがとうと言って、他にやることないかなと辺りを見回したとき。
「……異星人だと思ってるから、俺が何しても響いてなかったりする?」
「えっ?」
「いつも君がいるところにわざわざ向かって、手伝ったり話したりしてるの、俺的にはけっこう頑張ってるつもりだったんだけど」
凪くん???
言葉の真意が掴めなくて目をぱちくりさせる。すると彼は、うーんと少し唸ったあと、ため息をついてから言った。
「でもそれが意味ないなら、無駄な努力ってことだもんね」
「?」
「どうやったら同じ星の人間になれるの?」
「えっ、えっ? ……わっ⁉」
言葉の真意が読み取れずにいると、急に目の前が真っ暗になった。いや、真っ暗というか、あれ? わたし、もしかして、これ。凪くんに、抱きしめられているんじゃ。
「あ、シャワー浴びてないや。汗臭かったらごめん」
「えっ、あっ? な、えっ、凪く、えっ?」
「お、さすがにこれはいい反応してくれるんだ」
何⁉
全く状況を飲み込めずに固まっていると、凪くんがわたしの耳元で囁いた。
「無駄な方向で頑張りたくないから、君の攻略方法教えてよ。俺、君のこと好きみたい。……多分」
「……た、たぶんなの?」
「嘘。普通に好き、ちょっと逃げ道作った」
「……あはは」
思わずわたしが笑っていると、凪くんは「どうなの」とでも言うかのように少し腕の力をゆるめてわたしを覗き込んできた。まんまるの瞳にばってんのお口、かわいいうさぎちゃんみたいな顔をした異星人の男の子は、どうやら本当はわたしと同じ星の人間で、なんとわたしと思いを通じ合わせてしまっているらしい。
「この方向で大丈夫です。どうやらたぶん、攻略済なので」
「……たぶん?」
「ふふ。逃げ道作った」
「やだ。逃げ道消して」
「……はい」
逃げ道の消し方は、この腕を彼の背に回すとかで大丈夫なのだろうか。わからないけど凪くんの腕の力が強くなったので、きっとこれは正解なんだろう。……たぶん、ね。
何光年でもひとっとび