遅刻はしたくない
菜々子が最初に夢に出て来たときのことは、今でもよく覚えている。
当時友達らしい友達がまわりにいなかった自分にとって、菜々子は初めて仲良くなった女の子だった。
夢の中、突然現れた公園。
幾分か年下に見えた菜々子は、スコップを片手に砂まみれになりながらそこで遊んでいた。
あまりにも楽しそうにしているので、一緒に遊びたくなったけれど。
俺が近づいたらどうせ髪色に驚いて嫌がられるんだろうと思いどうすべきかと躊躇った。
すると突然目が合って。
菜々子はただ、にこっとひまわりのように笑いながら俺に声をかけてきた。
『ねえねえー、おしろつくろうー!』
俺はそれに面食らい、うん!と答えて菜々子のそばにいった。
『わたし、菜々子ー!』
『おれ、零。おしろなら、こうしたほうがいいよ』
『ほんとだー!』
そして疲れるまでふたりで遊んで、そのまま公園で寝てしまった。
目が覚めたとき、菜々子もお城も砂場も公園もなく、ただいつもの自分の部屋があるだけでひどく驚いたことを覚えている。
あの頃自分は幼かったから。
夢の中でも、現実世界でも、また菜々子に会えるような気がしていた。
それからもう二十年の月日が流れて。
俺は今でも、情けないような気もしながら彼女の夢に救われている。
会いたいなんて、もう柄でもないのに。
「だれかー!!!いませんかーーーー!!!!!」
白い世界があまりにも続くこの状況が嫌になって声を上げた。
変な夢だなあ。夢だと認識していることすらちょっと珍しい。ほっぺたを抓ると痛かったし、現実味がつよいタイプの夢なんだろうか。
とりあえず、このまま寝ていたら遅刻は確実だしもう電車も乗り過ごしているに違いない。
こんな変な夢のせいで怒られたくなんかない。
ウーーーーン・・・。
ほっぺたをもう一度抓ってみる。やはり痛い。
現実世界でも抓ってたりするのかなあ。だとしたら相当変なやつでは。誰か大丈夫ですかって起こしてくれないかなあ・・・。
はあ。
そう、ため息をついたときだった。
ばいん。
そんな感じのSEと共に、突然人が現れた。
「うおっ?!」
綺麗な緑色の長髪に、緑色の服。
瞳は青く澄んでいて、色の白い美しい人だった。
「ついにここまで来てしまったか。求める力が強すぎたね」
「?」
綺麗な人だなあ。
そう思っていると、その麗人が口を開いた。
「夢ではないよ。でも、夢の世界に行ってもらわないといけない。
君を想いすぎて、違う世界にも関わらず君を呼び出してしまった人がいるんだ」
「・・・どういうこと?」
「そのうちわかるよ。最低限の生活は、私が保証する。ここまで来てしまったら、元の世界には戻れないけど・・・元の世界のことも、うまくやっておくからそこは心配しないで」
「あの、言ってる意味が」
どんどんどんどん話を進められ、置いてけぼりになる。
なんだこいつ。話が通じないクライアントか。その割には綺麗な見た目してるけど。
どうしたもんかなあ、とりあえず全部話させてそれから質問して要領を得ていったほうがいいのかなあ。私厄介な対応に慣れすぎでは・・・などと思いながらとりあえずそうしよう、と決めた瞬間。
「時間だ。行っておいで。
大丈夫、君も行きたい世界だから」
そう言われて、突然。
目の前が真っ白になった。
なんだこれ、いったい。
次に目が覚めると、また白い空間だった。
でもさっきまでいたぼやっとした白さではなく、無機質なそれは。
「・・・びょう、いん?」
「あ、目が覚めましたか中村さん!」
なんか頭痛い・・・と思いながら声を出すと、少し年の行った女性の声がした。看護師さん?
「災難でしたね、ここは米花総合病院です。
すぐにお医者さんを呼んで来ますね」
「・・・は?」
「住んでいたアパートが火事になったんですよ。木馬荘って名前だったかしら・・・。覚えてない?」
「へ、いや、木馬荘・・・?」
「まあ、事故のショックで混乱していてもおかしくないわね。それではちょっとお待ちください」
そしてその看護師さんは、私の制止も聞くことなく去ってしまった。
え、火事?え、木馬荘?いや何それ。人違いでは。
でもそれよりも、聞き覚えのある二つの名前が引っかかる。
「木馬荘」に「米花総合病院」・・・。
いやそんな。まさか。
まさかね。
コナンの世界なんて、関係ないよね。
・・・っていうか、夢だよね?
(早く出勤させてくれ、今日、月末なんだ・・・!)
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