シャングリラ



(あ…)

授業中、ふっと窓の外を見ればグラウンドで行われている体育の授業が視界に入った。校庭の真ん中に白線の楕円。持久走の授業だろうか。学年指定のジャージの色から察するに三年生のクラスだ。見慣れた御幸先輩の姿が目につく。それに気付いた途端、僕の視線はついウロウロと「あのひと」を探していた。

(……いた)

寒そうに両手を擦り合わせている。寒いのは苦手だ、と冬になると彼女は唇を尖らせてそう溢していた。それに続いたのは「降谷は意外と体温が高いんだねぇ」という言葉尻が少し間延びした話し方。そんな彼女が、僕の手を握った一瞬を思い出す。タオルを手渡された瞬間。指先が触れ合って、それから彼女がそうしたんだ。とても驚いたのを覚えている。あの人はいつだって誰とでも距離が近い。
くるくる変わる表情。いつも美味しそうにご飯を頬張る姿。彼女はまるでなにかの小動物みたい。
なんだろう…ウサギかな…。そんなことを考えながら、ノートの端にウサギを描いてみた。相変わらず視線は、彼女に縫い止められている。

彼女---相田祥子先輩は、ひとつ上の先輩で、その学年に三人いるマネージャーの中のひとりだった。
初めて会ったのは、…入寮式の時。

「降谷くんは背が高いねぇ」

相田先輩は、新入生に寮の部屋番号を伝える係だった。その時に言われた言葉を今でも鮮明に覚えている。へにゃりと笑ったその笑顔は、やっぱり今思い出してもウサギみたいだなぁって思ってしまう。

「そうですか?」
「すごいねぇ、牛乳いっぱい飲んだの?」
「特には…」
「じゃあきっとお父さんとお母さんの背が高いんだねぇ」
「祥子、後ろ詰まってるから世間話もほどほどにね」
「はーい」

あの時の会話を一言一句覚えてる。相田先輩は、隣に立って名簿を見ていた藤原先輩に軽く注意されてもそれでもニコニコ僕の顔を見上げていた。僕自身もそれなりにマイペースだと言われることが多かったけれど、この人はそれ以上なんだろうなって直感したし、それはやっぱり当たっていた。

多分、今になって思えば一目惚れだったのかもしれない。可愛いなって思った感情は、動物を見た時のそれに近かったけれど、二年間そばで過ごして少しずつ少しずつ育ったこの感情は、紛れもなく恋だと思う。まさか自分がそんな想いを抱くとは思ってもいなくて、意外だった。

いつでもどこでも、目が相田先輩を追ってしまう。(部活の時は流石にしないけど)ふっと集中力が切れた時とか。夜、寮の部屋で机に向かっている時とか。いま先輩はなにをしているんだろうって、そんなことばかり考えてしまう自分がいて。

(……あ、)

そんな風に相変わらず相田先輩のことを考えながら、じっと目で追っていた姿。その当の本人が、不意にこちらを見上げた。そしてパチリ、と交わる視線。ほんの数秒、先輩の目が僕をジーッと見つめて、それからパクパクと小さな口が動いた。

しゅう ちゅう し な さ あ い

なんとなくそう言ってるような気がする。でも僕は、先輩から目が離せなかった。だから、手を振ってみる。すると彼女はちょっと眉を下げたような表情になって、…ゆっくりひらひらと小さな手を振った。
それだけで、とても嬉しい。
互いに手を振り合うだけで、なんとなく通じ合った気になる。
……でも、それも、ほんの一瞬の出来事。先輩はすぐに僕から視線を外した。そしていつのまにか隣に立っていた存在の肩を叩く。その人は相田先輩に導かれるように顔を上げた。今度はバチっと火花が散るような激しさで、目が合う。ーーああ、これは、僕の妄想に近いのかもしれないけど。

ま え む け !

彼の口は、確かにそう言ってた。
そして、そのまま視線は僕から外れて、相田先輩のもとへ。そうしてふたりで顔を見合わせて「降谷は仕方ねぇな」なんて会話をしてるに違いない。思わず、む、と口がへの字に曲がった。

「降谷、次、問2。答えて」
「はい」

指名されて、席を立つ。問題の答えがわからない不安より、さっきのふたりの姿が脳裏に焼き付いて離れない。黒板の前に立って、チョークを手に持って、ちょっと考える素振り。…本当は、目の前の方程式なんてちっとも理解してなかった。数学の先生は「降谷、野球部忙しいのは理解してるけどな、予習しときなさい」と溜息混じりだ。僕は小さく頷いて、チョークを持つ手を下ろした。

……自分でも、こういうことはあんまり良くないって十分わかっている。でも、心が焦っていた。だってもう十二月だ。
先輩達はあと三ヶ月もしないうちに居なくなってしまう。

そして、相田先輩は、きっと、この卒業のタイミングで自分の想いを告げるんだろう。僕にはよくよく理解る。
だって先輩自身が、口にこそ出さないけれど、目が、態度が、恋をしているって、そう言ってるから。

好きな人の、好きな人。
いつも彼女を見てたから知ってる。

ーー 相田先輩が、倉持先輩を好きだってこと。僕には、よくよく、理解ってた。


▼▼▼



「それ」に気づいたのは、入部して一年も経たない頃だったと思う。新チームで挑んだ秋大。途中で負傷した自分の足の具合もあって大会期間中、投球が出来ず、体幹トレーニングとか、(あんまりよくないけど)ふっと気を抜いてしまう隙間が多かったからかもしれない。気付いたらその頃から、僕は相田先輩の姿を目で追っていた。

相田先輩は、おっとりしてるように見えて、マネージャーの仕事の手際はとても良かったし、周囲のことをよく見てサポート出来る人だった。縁の下の力持ち、とでも言うんだろうか。
ーーそしてそういうところが、倉持先輩と通じる部分があったのかもしれない。なんとなくそう思う。
ふたりがよく顔を合わせて話している姿を見るようになったのは、御幸先輩が準決勝でのクロスプレーで脇腹を痛めて戦線を離脱した神宮大会あたりの頃からだった。倉持先輩がキャプテン代理を務めていた時。相田先輩はよく倉持先輩の隣にいた。

「倉持はねぇ、ああ見えて繊細だからねぇ」
「……繊細……」
「うん、見えないけどねぇ」

実はそうなんだよ、と笑う相田先輩。表情はいつもより穏やかだった。先輩は、よく僕と話をしてくれた。「降谷と一緒にいると落ち着くんだよねぇ」と言っていたけど、もしかしたら色々気を使ってくれてたのかもしれない。相田先輩はそういう人だった。だから考えてみれば、僕に対してだけじゃなくて後輩たちにはみんな優しかったように思う。

「…相田先輩は、倉持先輩と仲いいですよね…?」

珍しく確かめるような言葉尻になってしまったけれど、それは確信に近かった。事実、先輩たちの間で「あいつら全然違うタイプなのに仲良いよなぁ」と囁かれているのを聞いたことがあったのだ。それはだいたい当事者のいない時。脱衣所や洗濯場の雑談で。そしてそこにはほんの少しの浮ついた空気を孕んでいた。所謂恋愛に付随する冷やかす雰囲気、とでもいうんだろうか。

「うーん、そうかなぁ」
「そう、思います」
「倉持は世話焼きだからねぇ。私、"ぼんやり"だから、気になるんだろうねぇ」

そういうことじゃないと思ったけれど、先輩の言葉を否定することはできなかった。彼女が"ぼんやり"なのは、事実だ。よくなにもないところで転んでいたし、忘れ物とかが多いらしくて御幸先輩に揶揄われたりもしていた。そんなエピソードを羅列するとキリが無い。野球に関することだけはテキパキしているのに、彼女は本当に不思議な人だ。そんな先輩を放っておけない倉持先輩の気持ちもわかる。あの人は周囲をよく見てる人だと思うし、相田先輩が言うように世話焼きだから。

(……ぴったりな組み合わせ…)

自分で内心呟いた言葉に、酷く落ち込んだ。付け入る隙もないなと思ってしまう。

なにをどうやったらこの人は、僕に向かって振り向いてくれるんだろう。そんなことばかりを、いつも考えていた。


▼▼▼



「あ、降谷」
「こんにちは」
「元気?」
「はい」
「ちゃんと授業受けなきゃ駄目だよぉ」
「……はい」

昼休みの騒がしい廊下で、相田先輩と顔を合わせた。小言というには優しすぎる雰囲気の言葉に、目を伏せる。あの後、先生から注意を受けたことを先輩は知らないだろうけれど、それでもやっぱり全てを見透かされているような気になって恥ずかしかった。
年が明けてしまえばあっという間に三年生は自由登校になって、こうして顔を合わせることも難しくなるはずだ。そして、卒業。この場所から先輩達は居なくなる。
最近はそんなことばかり考えてしまうものだから、ついつい表情が暗くなる。

「降谷、元気ないねぇ」

相田先輩は、眉を下げて、僕を見上げてそう言った。

「どうしたの?悩み事…?」
「……いえ、……ただ、…少し…」
「少し?」
「……なんでも、ないです」
「そう…?」

先輩が居なくなってしまうことがとても寂しいです、とは言えなかった。笑いはしないだろうけれど、でもどうすることもできないから仕方ないよねぇ、と言われるのが目に見えている。

「うーん…」
「………」

先輩は、少し考える素振りを見せてから、それから踵をふわっと上げて、爪先立ちになった。そして小さな手が、僕の方に伸びる。

「元気だしなぁー」

よしよし、と。まるで子供をあやすように頭を撫でられた。その瞬間、僕は思わず反射的に、彼女の手を振り払う。
驚いた表情。ぴしり、と固まったそれ。僕は先輩の顔が見れなくて、やっぱり顔を伏せた。

「……ごめん」
「…いえ、こちらこそ…すいません…驚いて…」
「ううん、子供みたいな扱いされたら、誰だって嫌だよねぇ…気をつけるね、ごめんね」
「……っ、」

違うんです。驚いただけです。確かに子供扱いされるのは嫌だけど、それは先輩だからなんです。先輩にはキチンと僕のことを男として見て欲しいんです。こんな、眼中にない、って言われてるようなことをされたくなかったんです。先輩を傷つけるつもりなんてなくて、
心ではそんな風に心はすらすらと言葉を紡ぐのに、口はギュッと結ばれたまま。そうして、傷ついた表情を浮かべる先輩の顔をただ見ることしかできなかった。


▼▼▼



「おい、降谷」

倉持先輩に声をかけられたのは、その日の夕食後だった。先輩達は引退後、寮の部屋を移るし食事の時間も僕たち現役とはバラバラだから、こうして顔を合わせるのもなんだか久しぶりな気がする。とはいえその姿は、教室から見下ろしたばかりだったけれど。

「ちょっと来い」

ぶっきらぼうな口調で手招きされた。僕は導かれるままにその背を追う。向かう先は、人目のつかない室内練習場の隅だった。立ち止まった倉持先輩はくるりと踵を返して、僕と向かい合う。三白眼が、僕を見上げた。

「相田になんか言っただろ」

その言葉には首を振った。だってなにも言っていない。倉持先輩は、僕の否定に僅かに顔を顰めた。

「…相田先輩が、そう言ったんですか?」

今日の今日でまさかこうやって倉持先輩に呼び出されるとは思わなかった。後輩に失礼なことされたって、相田先輩が倉持先輩に泣いて話しでもしたんだろうか。僕が知らないだけで、実はもうふたりは付き合ってるんだろうか。そんな疑問と疑心が胸を占める。だから僕の顔も自然と険しくなっていたんだろう。倉持先輩が「なんでお前が、」とそれを指摘した。

「……別に、僕はなにも言ってません。なんでそれを、倉持先輩が、聞くんですか?」

同室だった栄純とはまるで兄弟みたいに親しくしている倉持先輩だけど、僕とはそれほどの親しさがあったわけじゃない。話すには話すけれど、こんな話をするほどの仲じゃなかった。そうなると、やっぱり先輩と付き合っているから、こうして呼び出されたに違いない、と考えてしまう。胸がざわざわと騒いだ。

「倉持先輩は、相田先輩と付き合ってるんですか…?」

その言葉を口にする時、自然と視界が揺れた。まるで水面のように。情けないけれど、鼻の頭が熱くなる。よっぽど酷い表情をしていたに違いない。そんな僕を見た倉持先輩はちょっと驚いたように目を見開いた。そして何故か考え込む素振りで黙り込む。妙な沈黙が僕たちの間に横たわった。

「あー…」
「……」
「…とりあえず、状況は把握したわ。悪かったな、相田にはうまいこと言っとく」

それは僕の求めていた答えじゃない。だけど倉持先輩は、「自主練頑張れよ」と僕の肩を叩いてから寮の方へと戻っていった。残された僕はただ茫然とするしかない。密かに胸に頂いていた欲を自覚させられたというのに、中途半端に投げ出された。これじゃあ身の振り方を決めきることが出来ない。それにどうして倉持先輩は、去り際によくわからない笑みを浮かべていたんだろうか。…勝者の余裕…?だとしたら、すごく悔しいと思う。
マウンドへの執着心以外で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。

(そう考えると…)

僕はやっぱり思った以上に、相田先輩のことが好きなんだろうな、と思うのだ。
改めて実感して、自然と溜息が漏れた。それは冷えた空気によって白い靄になって空へと登っていく。

自分の中にある苦しい恋心も、全部、吐く息と一緒になって消えてしまえばいいのに。そうすればもうこんなに悩まなくてすむ。野球のことだけ考えていられる。

そう思うのに、やっぱり今この瞬間も、考えるのは相田先輩はどうしてるのかな、とか、少しは僕のことを考えてくれたんだろうか、とか。そういう不毛な願望だった。


▼▼▼



結局、それ以降、相田先輩と面と向かって顔を合わせる機会はなく、学校は冬休みに入って、そして冬合宿が始まった。
去年はついていくことに必死で、合宿後半の記憶がほぼないけれど、今年は違う。最後の夏の為に何が出来るか。何をするべきなのか。そういうことを考えながら、練習に励むから自然と気合が入る。引退した三年生の先輩達が、サポートしてくれることも嬉しかった。栄純と、どっちが先に御幸先輩に球を受けてもらうかという言い争いをするのも、もはや懐かしい。御幸先輩は呆れながら「ちょっとだけな」と言って本当に少しだけ投球練習に付き合ってくれた。
それで、なんとなく、これが先輩への投げ納めかもしれないって思ってしまったから、多分感傷的になってたんだろう。

12月24日は、去年もそうだったようにマネージャー陣がクリスマスケーキを作ってくれた。その中には、もちろん、相田先輩の姿もあって。僕は気まずい想いを抱えながらも、やっぱり彼女を目で追っていた。

「はい、降谷の分」
「……ありがとうございます」

切り分けられたケーキを持ってきてくれたのは、梅本先輩。その時、相田先輩はやっぱり倉持先輩の隣にいて、親しげに話している姿が視界の端に映った。それを認識して落胆した気分になって、溜息が漏れる。

「降谷、それ、ほんっと失礼だからな?!」

梅本先輩の怒った声も、正直、右から左だった。


「降谷」

穏やかな声が、僕の耳に届いたのは、ちょっとしたクリスマス会が終わって、順次入浴の為にみんながゾロゾロと食堂の外へと出て行く最中のことだった。振り返れば、やっぱりそこには相田先輩の姿。だけど隣には倉持先輩はいなかった。珍しく、彼女ひとりだ。

「ちょっと、こっち」

いつか倉持先輩が僕を呼び出した時と同じような台詞。内心ムッとしたけれど、それでも僕は先輩の言葉に素直に従った。そしてその背中について食堂を出る。各々部屋に戻ったり風呂に行ったりする流れに逆らって、僕達は反対方向に進む。向かう先はやっぱり数週間前に倉持先輩と対峙した場所にほど近かった。

「ごめんね、急に」
「…大丈夫です」

気のせいかもしれないけれど、僕と向かいあって立つ相田先輩は普段とちょっと様子が違う。いつも伸びている言葉尻は、何故かハキハキと硬かった。こういう時の彼女は、だいたい怒っていたり、なにかを物申したい時だ。今年の夏まで部活中に時折聞いていた声音。自覚して、ああついに戻れなくなってしまった、と落ち込んだ。僕はどうやら先輩を怒らせてしまったらしい。

「ごめんなさい」

理由も聞かず、頭を下げた。冬の澄んだ空気と暗闇に支配される沈黙。僕も先輩もなにも言わない。耳に届くのは、同級生や後輩たちの盛り上がる声。まだ合宿が始まったばかりだから、どこか余裕のあるそれ。これから大変なんだけどなぁ、と。どこか現実逃避なことを考えていた。

「…なんで降谷が謝るの?」
「……だって、先輩、怒ってる…」
「怒ってないよ、……緊張してるだけ」

その言葉は相変わらず硬かったけれど、それでようやく僕は相田先輩の顔を見た。

「…緊張?」
「うん」

先輩は、頷いて、そのまま地面をジッと見つめている。

「緊張…」

僕は、先輩の言葉を繰り返した。
何を緊張することがあるというんだろうか。彼女はいつだって僕の前で、みんなの前で、倉持先輩の隣でだって、穏やかで。こんな様子の先輩を見るのは初めてのことだった。

「降谷」

相田先輩がもう一度僕の名前を呼ぶ。

「これ、クリスマスプレゼント」

差し出されたのは、紙袋だった。先輩が今まで右手に持っていたもの。まさか僕に渡すものだなんて思わなくて、少し驚く。シンプルな紙袋だった。

「…中、見ていいですか…?」
「いいよ」

袋の中を覗き込めば、なんだか色々入っている。大きな物はネックウォーマーとか、バッティンググローブとか、小さい物はミサンガとか、御守りとか、とにかく沢山。

「たくさん…」
「…うん、沢山だよねぇ…」

そこでようやく先輩の間延びした喋り方が戻ってきた。へにゃりと柔らかい苦笑いも。僕はそれを見ただけでホッとする。先輩はそれからゆっくり言葉を続けた。

「どれもこれもずっとねぇ、降谷に渡したかったものばかりなんだよ。去年の降谷の誕生日から今年のクリスマスの分まで、詰まってるから」
「……どうして…」
「私、もうすぐ卒業しちゃうでしょう。…だからね、最後に勇気出せって倉持が励ましてくれたの。それで、…」
「…倉持先輩が?」
「うん。倉持はね、私の"お兄ちゃん"だからねぇ。世話焼くのが好きなんだよ」

……お兄ちゃん。
先輩が口にした単語に、思わず僕の手は動いていた。そうして彼女が胸の前で組んでもじもじと動かしていた手を握りしめる。突然の行動にびくりと相田先輩の身体が跳ねた。

「先輩は恋してるんじゃないんですか?」

我ながら直球過ぎた質問だったかもしれない。先輩は僕の言葉にちょっと驚いたように目を見開いた。それから僕の顔をじっと見上げて見つめる。

「恋、してるねぇ」

そうして彼女は、「降谷の手はやっぱりあったかいねぇ」と穏やかな顔で、笑うのだった。

「降谷くんがめちゃくちゃ片想いしている話」と言うリクエストで書かせていただきました。成就しない方向でも考えたんですが、最終的に灯台下暗し的な両片思いエンドで着地。こういう時の舞台装置っていつも御幸だったりするんですけど、今回はなんとなく倉持にしました。倉持は、のんびりおっとりな同級生を放っておけないだろうなぁ、と。ふたりは周りが疑うほどの仲の良さです。
降谷くんは最初こそ付き合いたいとかそういうことを思わずただ一途に想っているタイプだと思うんですがマウンドへの執着心を考えると、恋を自覚してしまえばちょっと欲も出てくるかなぁ、なんて思います。
イメージソング聞いた瞬間に「降谷くんだ!」とワクワクしました。是非曲と一緒にお楽しみください。改めて湊さんリクエストありがとうございました!