お手紙ついた



 幼馴染のエースは指折りのモテ男。
 そして私は、そんな彼とお近づきになりたい女の子たちにとってはていの良い郵便配達員。



「これ、エース君に渡してください!」

 今日も今日とて色白で可愛らしい白やぎさんからお手紙を預かる。

 自分でいきなよ、と思った時期もあったが直接渡そうとすると絶対に受け取ってもらえないらしい。となれば、直球勝負で遊びに誘うか告白するかになるがそんな度胸もない奥ゆかしい女の子が大半だ。

 私に託せば必ずエースの元に届く。
 そういうシステムなのだ。



「はいよ」

 預かった手紙を癖毛の黒やぎさん、もとい我が幼馴染に差し出す。
 自分の部屋で漫画を読んでいたエースは横目でそれを見て、面倒臭そうに受けとる。裏面にある差出人の名前を見ると、ぽいと放って漫画鑑賞に戻った。

「もー、読むくらいしてあげたら?」
「めんどくせーからやだ」

 この黒やぎさんは届いた手紙を捨てはしないが決して開封しない。
 小学生の頃は、あからさまに嫌そうな顔をしながらもちゃんと読んでお返事をしていた。
 中学生の頃に2、3度だけ、私の目の前で手紙を読み上げたことがある。気持ちのこもった良い手紙だと褒めたら、眉間に深く皺を刻んでもういいとだけ言った。
 高校生になってからは宛名だけ見て放置するようになった。
 放置した手紙は空き箱に溜められ、お守りのお焚き上げよろしく年に1度焼却しているらしい。変に律儀なところがエースの良いところだ。

「つーかナマエもこういうの預かってくんなよ」
「なんで? 時間を割いてわざわざ書いてくれたんだよ? 嬉しくない?」
「そんなの向こうの勝手だろ」

 エースは漫画に視線を向けたまま言った。なんでそんな冷たい言い方をするんだろうか。

「エースは手紙嫌い?」
「言いてェことがあるなら直接話せばいい」
「私は好きだけどな、手紙」

 相手に想いを伝えるために何度も文章を練り直し、便箋とにらめっこしながら費やした時間には意味がある。手紙は顔を合わせていた時間以外にも自分に想いを巡らせてくれたひとつの証だ。

「素敵だよね」

 毎週のように手紙を預かるのは確かに億劫だが、色んな子がエースのために時間を費やして書いたものだと思うと届けずにはいられなかった。手紙が好き、というのは郵便配達員もどきを始めた小学生の頃からずっと言っていることだ。それを話してもエースの反応は毎回素っ気なかったが。

 ふとエースの方を見ると、いやに真剣な顔で私を見ていた。のそりと立ち上がり、机の引き出しを開ける。

「ん」
「……ん?」
「ん!」
「ん〜……?」

 手紙だ。
 ずいと差し出されたそれを戸惑いながらも受けとり、裏面の差出人を見る。見慣れた字でエースとあった。


「……こんなの柄じゃねェけど、ナマエが手紙好きだってんなら、」


 くれてやるよ。俯きがちに珍しく歯切れの悪い幼馴染。
 エースの言葉の意味を呑み込むと私の口許は盛大に緩んだ。

エースが私に手紙をくれた!
何が書いてあるんだろう!

 嬉々として手紙を開けようとする私をエースが慌てて止めた。

「家で読め!」
「え? なんで?」

 必死の形相だったエースの顔がかぁっと赤くなる。

止める理由がないなら今読みたい。
エースが私のために時間を割いてなにを伝えようとしてくれたのか、今知りたい。

 視線を泳がせ、何か言おうとしては口を閉じ、そわそわしている。今日は本当に珍しい。
 最後は観念したように私の目をじっと見つめてこう言った。



「ラ、ラブレターだからだ」



 黒やぎさんからお手紙ついた!


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