マルコと娼婦
⚠︎ 夢主が娼婦・痛い表現あり・何でも許せる人向け
娼館のカウンターでマルコが言い渡したオーダーは簡潔だった。
「性病持ちじゃない美人」
「は、」
「?いるだろい、一人くらい」
「おり、おります、おりますが……」
「適当に見繕ってくれ」
「はひ…喜んでぇ……」
白ひげ海賊団の隊長様がご来店とのことで、挨拶もかねて出迎えたオーナーは手を揉んでなんとか笑った。マルコはその長身から小太りなオーナーを悪意なく見下ろし、無自覚に圧迫感を与える。眠たげな重たい瞼はアンニュイで一歩間違えば不機嫌に見えるのだ。
“美人”という大雑把かつ好みによって定義が異なる指定はオーナーに嫌な汗を滴るほどかかせたが、彼は店で一番人気の女をあてがうことで難を逃れた。
「よろしくお願いします」
「おお…美人だ」
「うふふ。ありがとうございます」
オーナーに指定された部屋で待っていたマルコは、現れた女に目を丸くした。月から生まれたような見事な器量だった。花の蜜だけを与えて育てたと言われても納得できそうな女である。
会話もそこそこに本題に入り、事後の気だるさの中でマルコはこれは一流だなあ…とタバコの煙が細く立ち上る様を眺めてそう思った。
そんなわけでオヤジの療養のために立ち寄ったこのナワバリの島での滞在中、マルコはその女を指名し、数日に一度通った。
別に毎回抱くわけじゃない。娼館で一番人気を得るということは夜伽以外も優れているということだ。見て良し、話して良し、遊んで良し。心をとろけさせるのにいちいち股を開く必要はなくて、ちょっとした工夫と話術で男の欲望と自尊心を満たしてやれる。男はセックスをしたい気分の日でなくとも彼女の元へ通う、というわけである。
マルコもよくいる彼女の客の一人となった。
「悪いな、立場が立場なもんで船ン中の話や航海の話はベラベラ話してやれねェんだ。代わりにお前の話を聞かせてくれよい」
「私の話が隊長さんにとって面白いかどうか……」
「別にいいよい」
「そう…?」
「つまらなかったら話をぶった切って抱くから」
マルコはさっぱりと笑った。ついぞただの一度もそんなことはしなかったけど。
彼女はマルコのリクエスト通りあれこれ話した。最初は男のひとも楽しめそうな当たり障りのない軽い話題を振っていたが、マルコが聞き上手なものだから話のストックはどんどんなくなり、結局彼女は身の回りの赤裸々な話から道端で見かけた猫の話までなんでも話すようになってしまった。
本当に、マルコがどんな話題にもついてきてくれるので。
「それでね、そのお客さんってば私よりお肌が綺麗で…なんだか悔しくてね、だからたくさんキスマークをつけてやったんです。首とかお腹とか脚のこことか……」
「怒られたか?」
「ご褒美をもらいました」
「だろうな」
「意地悪をしたつもりなのに。いまでも納得いかない」
「ばかだな」
「どうすればよかったのよ」
「そうだな……こう、肌を撫でて、女みてェ…ってとびきり色っぽく言ってやりゃよかったんだ」
「?褒めてどうするの」
「手籠にしたい相手に女扱いされるなんて、男にとっちゃ屈辱だよい」
「ま…そうなのね…」
「オスに見えねェって言われてんだ。そりゃそうだろう。……マァ、それで燃えちまう奴も中にはいるだろうが」
「むつかしいわね」
二人は下着だけをつけてベッドに寝そべっていた。三回のセックスを終え、ダラダラ喋ってリバーシをしている。白と黒が半分ほど並んだ緑の盤は二人の間に置かれ、互いに視線を盤上に落としてたまにクスクス笑う。
勝負は拮抗していた。彼女もマルコも遊びであってもそう易々と勝ちは譲らない。
「隊長さんも燃えちまうクチなのかしら?」
「おれ?」
「——『女の子みたいね』……」
「……」
「きゃっ」
するりとふしだらに首筋を撫でた手をマルコはパシ!と掴んであっという間に彼女を組み敷いた。重心が傾いてシワが寄ったベッドの上、盤は崩れて丸い白黒の駒が散らばる。
天井を背景にしたマルコは無表情で見下ろしており、気に障ってしまったかしらと彼女は少し背筋を冷たくする。彼女の不安がチラと見えたところでマルコはフッと短く笑う。
「なに言ってる。お前の方がよっぽど女らしいよい。おれがそうするんだ、当たり前だろ」
アッ…と思わず声が出てしまうほど、とびきり意地悪で色っぽい声で囁かれ。それだけで腰砕けになる感覚に陥る。
濃厚なキスが降ってきて、それからはよく覚えていない。溺れるのを怖がるようにひたすらその背に縋って善がった。
「……うん、燃えるクチみてェだ」
いけず、と睨んだつもりだったが、マルコにわしわしと髪を撫ぜられれば途端にどうでも良くなった。うつ伏せの体勢で枕を抱えるようにして体を伸ばす。片方の頬を枕に押し付けているせいで顔の半分がもちっと潰れて、あまり見栄えのいい顔でない。美人と言われて呼ばれた立場からすれば避けた方がいいしどけない姿であるが、しかし彼女は倦怠感に身を任せた。
抱いた後のマルコは、スポーツのあとのようにさっぱりしている。決して素っ気ないわけではない。必ず体を労ってくれるし、自分が飲むついでに彼女の分まで水の入ったグラスを用意してベッドサイドまで持ってきてくれる。なんなら普通よりも気が利く方だとすら思う。
甘いピロートークはいらない。腕枕をして髪を撫でてもらいたいとも思わない。だって恋人じゃないのだ。プライベートな感情を売った覚えはない。勘違いしないでほしい。かといってセックストイのようにぞんざいに扱われたくもない。
人間扱いをして、娼婦扱いをしてほしい。
この難しい塩梅にマルコの仕草はぴたりと合う。二人の関係は娼婦と客だからこれくらいがちょうど良い。
いいお客さんだな、と彼女はマルコの横顔を眺めて今日も思う。
熱のこもったシーツの中で白魚の脚を伸ばして冷たい場所を探す。その途中で最近ハマっているカフェの話をふと思い出し、彼女は「あのね、」と無防備な心持ちで口を開いた。
***
マルコが通い出してから、何度目かの夜のこと。
「はい。……ええ、はい、はい。はーい……」
通話を切ると子電伝虫は目を伏せてこうべを垂れた。
娼館の手配スタッフから次の仕事の連絡を受けたのだ。本来は今とってる客の目を忍んでおこなうべき事務連絡だが、マルコが「別にどうでもいいよい」と本当にどうでもよさそうな口調と表情で許可してくれたので、彼女はマルコといるときは普通に電伝虫を取るようになった。
しかし今回、彼女は笑顔でスタッフに応答し、通話が切れてからもジ……と同じ姿勢・呼吸・笑顔で子電伝虫を見つめていた。まるでそこだけ絵画になったようである。通話が切れた事実を受け入れたくないほど、なにか、相当嫌らしい。
「……次の客、なんかあんのかい」
「い゛ーっ」
「おうおう、なんかあんだな」
「聞いてちょうだいなっ」
次の客、聞けばどうやらいわゆるクソ客なのだという。
ずいぶん彼女に入れ込んでいるくせに優位は譲りたくないので常に威圧的。カレシを気取っているのか彼女の退勤の時間を見計らって待ち伏せをしていることも最近は多いのだという。あれこれ嗅ぎ回る姿はほぼストーカーに近い。
マルコと真逆の客である。つまり心底対応に苦労する客なのだ。
「困ってるのよね……」
「ほお」
「みんな隊長さんみたいないいお客さんならいいのに」
「はは、また指名するよい」
「もう。営業じゃないわよ。本当に切実なんだから。もう」
彼女は唇を尖らせて柳の眉をしならせる。その横顔は雨に打たれる花の色っぽさがある。床を睨んでいるからこちらを見ない、その佇まいがツンと胸を絞られるほどに憐憫だった。
マルコはそれを見てあっぱれだなと思う。嫌と言いながらもきちんと仕事に向かおうとする背中にこの女郎の気高さを感じたのだ。
「ひと肌脱いでやろうじゃねェか」
「え?」
「少し懲らしめてやろう」
「え、ええと?」
「なに、少し“お話”をするだけだよい」
マルコはひとを安心させるような柔和な笑みを見せた。彼女はぱちぱちと瞬いて、ええ……と曖昧に頷いた。
***
「よお、いい夜だな」
「っ、」
娼館から指定された宿の一室に踏み入れた男にマルコはそう声をかけた。
部屋はそういう行為をするのにお誂えむきな薄暗さであった。暖色の間接照明、クイーンサイズのベッド、細かい金模様が入ったワインレッド色の絨毯。壁一面の大きな鏡と二人掛けのソファと小さめのローテブル、その上には灰皿とマッチ。ありきたりな間取りとインテリアが揃うその空間から聞こえたマルコの低い声はなにだか異物感が強調されて男は思わず一歩後ずさる。
「怖がるなよ。少しアンタと話がしたいだけだよい」
マルコは腰掛けていたベッドからおもむろに立ち上がって友好的な笑みで男に近づく。男はマルコに警戒心を剥き出しにしてマルコの挙動から目を離さない。しかしマルコが簡単に近づいてくるから男は身の安全を確保するべく一定の距離を取らざるをえなかった。
これは当たり前の対応で賢い策に思われたが、マルコが壁にそってやや大回りに近づいてしまえば男はあっさりと唯一の逃げ道であるドアの前から離れることとなった。
そしてパタンと軽い音でドアを閉めれば。
「これならリラックスして話せそうだな……」
地獄の部屋の出来上がりだ。
マルコはニコニコと仏のように無害で穏和そうな顔をしている。それが男には逆に不気味だった。
懇ろにしている気に入りの女を抱こうと訪れた部屋に見ず知らずの男がいるのだ。訪問の理由は不明、この男の存在自体に心当たりもない。
薄暗い部屋に目が慣れてくると、男は部屋の隅に立っている彼女の存在に気づいた。その途端、男の頭にカッと血が昇る。
そうかお前の差金か。何のつもりかしらないが。なにを企んでいるのか。せっかくお前を買ってやったのに!このおれが!
「ッおい、これはどういうことだ!」
「なんだよ、おれのこたァ無視か?寂しいじゃねェか」
「うるせえ!テメェこいつ誰だよ!あァ!?」
怒りの矛先を彼女へ向けた男が猛然と踏み出す。なので。
「グェッ」
「ツレナイ真似すんなよい。おれと、お喋りしようぜ」
マルコは自分の横を通り過ぎようとした男にラリアットを仕掛けた。喉を潰され、男は大きな音を立てて真後ろに倒れ込む。
その派手な音に彼女は口元を覆って短い悲鳴を上げる。
咳き込む男の胴体を跨ぐように立ち、とりあえず、といった感じでマルコは男の右脚をへし折った。
逃げ回られると面倒だからだ。床に転がした男の太ももを思い切り踏みつけるだけで骨は簡単に折れた。マルコの戦闘スタイルは脚技が主だし、踏ん張りようがない空中戦であれだけの威力を出すのだからその脚力はまさに不死身の怪鳥のそれだった。
男は痛みに脂汗を噴き出し、喉の奥で不明瞭に呻いてひきつった呼吸をする。妙なところに関節が出来てしまった己の脚を強張った手でつかんでいる。見開かれた目に涙が滲み、絨毯の模様を歪めた。
マルコは床で悶える男を無感動な瞳でつまらなさそうに見下ろしていた。よく喚くなあ…と他人事のように思う。
「付きまとってるって本当かい」
「ヒッ、ひっ、ひ、」
「アイツ、困ってるって言ってたけど」
「ひ、ぁ、ううが、ぅ」
「どうなんだよい」
「う、う゛、ううあ…ひ、ひ、」
「なあ、聞こえてっか?」
「っ、う、」
「うーん……」
聞けるような状況じゃなくした張本人のくせに、男のそばにしゃがみこんだマルコは困ったように眉根を寄せて迷惑そうな顔をする。
脚を折ってから事実確認に入るのがそもそもおかしいのだが、人生のほとんどを海賊として生きてきた彼には割と普通のことであった。
仕方ないのでマルコは男の襟首をつかんで顔を見えるようにし、「こいつなんだよな?」とマルコの背後、部屋の隅で子うさぎのように震える彼女に確認を取る。いきなりこちらに白羽の矢が立った彼女は当然驚き、顔を青白くして一瞬戸惑ったのち、こく…とものすごく小さくうなずく。
嘘ではないけど、ないけれど……ここが殺人現場になってしまわないかと目の前に暴力に肝を炙られた心地になっていた。
「だとよ。謝れや」
「ッアが、」
「ごめんなさい、もうしません、だ」
「うう」
「彼女には二度と近づきません、言えるかい?」
「ご、ごべんなざ……」
「言えるかい?」
「ご!ごえんなざい!もうじまぜん゛!かっ、かの、かのじょにはも、ここ金輪際ッ、ちかづぎばぜん!!」
「いい子だ」
「ひっ、ひっ、はあ、ひい」
マルコは折れた右脚をぐー……と押しつぶしていた拳をどかしてやる。
男の顔は恐怖と痛みでぐちゃぐちゃだった。マルコはよく言えたじゃねェかと呑気に男の頭をぱしぱし叩いて褒めてやる。金輪際なんて言葉、よく知ってたな、と半ばバカにして。男は恐怖で身を固めて視線すらろくろく動かせないままそれを甘受する。
「分かってくれりゃァいいんだよい。まったく手間取らせやがって」
「ッギャアァッ!」
マルコは笑いながら男の折れた脚をきちんと真っ直ぐになるよう床に伸ばしてやる。男は激痛に顔を歪めながらも抵抗もできず。まるで医者のように手際のいいマルコの所作をなす術なくただただ見つめる。次はなにをされる、と浅い呼吸と酸欠の脳みそでぐるぐる考える。屠殺される豚の気分だ。
マルコの手が青く燃え上がる。男はビクッと肩を跳ね上げた。反射的に体をよじって逃れようとする。
焼き殺される。殺される。あんな女に手を出すんじゃなかった、こんなのと繋がってるなんて聞いてねえ、チクショウ。畜生!
追い詰められた思考でぐちゃぐちゃと恨み言を唱えている内に、男は自分の脚が元通り治りつつあることに気づく。炎は煌々と辺りを照らしているが熱さはない。マルコの手で正しい位置に固定された骨は、正しい向きと角度で細胞を再生していく。打ち鳴らした銅鑼のような激しい痛みの波は次第に収まっていっている。
挙動不審に目の前の青い炎を見つめ、助かった…、と訳が分からぬまま少し安堵する。マルコはじっと手をかざして治療を続けた。
「…まあ、こんなもんか」
「あ…な、なお、った……」
「ああ」
「ッア゛アァ!!」
「これでもう一度折れるよい」
そう言ってマルコはいま治したばかりの男の脚を再び踏みつけた。しかし今度はすぐには折らない。ミシミシと骨の軋みが聞こえる力加減で「次はねェぞ」と死神のセリフを頭から降らせる。
男は必死に首を縦に振って二度としないと無我夢中で誓う。マルコはそれを聞き届けると、ついでとばかりに男の腹に蹴りを入れた。男の体がどしゃ!と床に崩れた。
「待たせたな。話はついたよい。もう大丈夫だ」
「ひい……」
「んじゃおれは帰るから」
「た、隊長さん……」
「…?あ、金か?マァ商売だもんな、支払いはきちんといただかねェとだよな……あー、財布……お、あった。代金はこんなもんか?コイツしばらく動けねェだろうから、お前も帰っちまえ」
「え、あ、」
「お疲れさん」
マルコは床にうずくまる男の尻ポケットから財布を抜き取り、入っていた札をごそっとすべて取り出して彼女に渡した。この男が買った彼女の時間はこれで支払い完了。もう追ってこないし、ここにいる用事も意味もない。
マルコは彼女を指名して散々セックスした後のこの“話し合い”だったので、いい加減眠気のピークがやってきていた。早上がりなんてラッキーだね、くらいのテンションで欠伸をひとつ。モビーに帰ってひと寝入りするか…と気だるく首筋をさすってマルコは去っていった。
ぽつねんと部屋に取り残された彼女は、両手に握らされた金を見て。
「こ、こわいひと…」
と、至極真っ当な感想を述べるのだった。
***
こうしてクソ客の足が絶えた結果、彼女の仕事は格段にやりやすくなった。
白い肌につくアザは減ったし、それを隠すための白粉子の代金も浮いた。帰り道の待ち伏せを警戒する必要がなくなり、生活圏を割り出される恐れもなくなったのでお気に入りのカフェに自由に通える。
日当たりのいいテラス席で紅茶のミルフィーユを食べたのだと話す彼女に、マルコは新聞に読みながら「へえ、うまそ」とだけタバコの煙を吐くついでに返した。
しかし、ほどなくしてある噂が立った。
“あの娼館の一番人気の女は、白ひげのとんでもない奴に囲われている”——そういう噂が立ってしまったのだ。一味が療養のために滞在している事実が噂の信憑性を確固たるものにしていた。誰とまでは割れていないまでも、その“とんでもない奴”がマルコであるとバレるのも時間の問題だろう。
「そんな噂が……」
「ちょっと指名が減ったのよね」
「えっ」
その言葉にマルコはギョッとしてナイトの駒を持ち上げた中途半端な格好で固まった。
今日は気分じゃないのでセックスではなくチェスをしている。お互い服を着たまま。ベッドの上ですらない。ふかふかのアンティークチェアに腰掛け、丸テーブルを挟んで座っている。
彼女は組んだ脚をプラプラと揺らしてチェス盤を睨んでいるので顔を引き攣らせて凝視するマルコに気づいていなかった。自分のキングを討ち取らせまいと、なんとか形勢逆転の隙はないものかと頭をフル回転させて一生懸命だ。
「客……減ったって……?」
「減りましたよ。少し、少しだけね」
「し、仕事に影響が出てんのか……?」
「影響…まあ、そうとも言うかもしれませんが……あ。まとまったお休みがもらえたので今度南地区のカフェ巡りをするの。いいでしょう」
「まとまっ……、…………」
マルコはいよいよ額に手をつき、苦い顔でじっとりと黙り込む。黙り込んだまま、宙ぶらりんだった駒をことん…とチェス盤に置く。途端、きゃん!と彼女が鳴いた。指されたくなかった致命的な一手だったようで分かりやすく表情を険しくさせた。
以前なら綺麗な細面を崩さず勝負を続けたものだが、最近のマルコは彼女の腕を買って手加減してくれなくなったので彼女も簡単にムキになるのだった。
「……店の支配人はなんて?」
「たくさん稼いでくれたからねえ、と……」
「……」
『だから、ここいらで畳ませてもいいだろう』
『恩ある白ひげとはいえ海賊に見初められちゃァこの女も潮時だ』
『じゅうぶん稼いだのだ、用済みとしよう』……
マルコの脳内では支配人の声でそう言葉が続き……。頭のてっぺんから冷たい海水を流し込まれた心地だった。これはまずい、と心臓まで青くして息を詰まらせる。
なおも盤面しか見つめていない彼女は唇を尖らせ、発言権を求めて小さく挙手した。
「隊長さん隊長さん」
「なんだよい……」
「この駒と、この駒。場所を交換してもいいですか?」
「お前チェスのルール分かってんのか……」
「こうした方がいい気がするわ」
「お前にとって、だろうが……」
「お願いします」
「本当にナメたこと言うぜ……ほらよ……」
「ありがとうございます!…よし、これでどうですか?ふふん!」
「……」
「えっ…、その駒どこに動……あ。あっ、待って、戻します、よして」
「待たねェ戻さねェよさねェ。おら、チェックメイトだよい」
「あーっ」
「フン」
ズルをしてなお敗北を喫した彼女は「バチが当たった……」とチェス盤の駒を両腕でかき集めるようにしてテーブルに突っ伏す。コロコロと数個駒がテーブルから転がり落ちた。
マルコは賭けの景品にしていた葉巻を一本取り出した。シガーカッターで切った吸い口をジッポでまるく炙ってゆっくりと煙を吸い込む。背もたれに体重を預けて、天井に向かって重たい煙を吐いた。そしてしょげる彼女の唇にその葉巻を差し込んでやった。残りはくれるらしい。
彼女はチロリと上目遣いでマルコを見て……物思いに耽る、と形容にするには少し重たい表情に「なんだか艶っぽいひとね」とひとつ思うのだった。
さてマルコがいま何を考えているか。
マルコの脳内は大反省会の開催・対策本部の設置・事後処理班の派遣で大忙しだった。クールな表と反して、大汗をかいてバタバタとシナプスを駆け回って「やっちまった!!」と怒鳴り散らしながら三会場とも鬼のように騒がしい。
第一に大反省会会場。フラッシュがけたたましく焚かれる謝罪会見場よろしく、「なぜあの男にトドメを刺さなかったんだ!」「やっぱり両脚折っときゃよかった!」「つーかやりすぎ…てはないけど、なんかもっと有効な口止めの方法あっただろ!」「うるせえ眠かったんだ!!」と喧々囂々野次が飛ぶ。それらすべてが反省対象と化し、いやでも!と反論する気持ちといやまったく!と陳謝する気持ちが入り混じっている。あの男にまんまと噂を流された。つまりは、詰めが甘かったマルコの落ち度というわけだ。
第二に対策本部会場。まあここは一致団結していた。「あの男をもう一度捕まえて締め上げよう」。それだけだ。元はと言えばアイツが彼女にしょうもない真似をしていたのがいけないのだ。腹いせのつもりか、足りないオツムで一生懸命出したお粗末な答えがこれだったのかは分からんが、間違った噂は訂正してもらわねばならない。バカとは痛い目を見ないと分からない生き物なのだから(決してそんなことはない。人間にはみな平等に知性と倫理観、道徳心があり、非暴力的手法による反省と更生が可能だが、マルコはその長く根気のいる人道的なプロセスを端折る世界に生きているためこのような結論が容易く導かれるだけだ)。世ではこれを報復と呼ぶが、まあいいだろう。世界を股にかける一流の無法者に今さら何を言おうと仕方ない。
第三に事後処理班派遣会場。ここが最重要であった。彼女はいま仕事を無くそうとしている。クビを切られる寸前だ。マルコが気まぐれに手を貸してやったばかりに。彼女がここまで上り詰めるのに要した苦労はいかほどか。マルコには分からない世界だからマルコの知らない苦労が山のようにあるはずなのだ。それを台無しにする結果にしてはならない。
彼女にしてやれることは何だ。彼女のために尽くしてやれることは何だ。
彼女は本来、丸っこく笑う。ボードゲームでムキになり、美味しかった食べ物のことばかりを思い出し、それを話してほろほろ微笑む女だ。
それがひとたび仕事となれば冷たい花の香りがする精巧なビスクドールのような女になる。まばたきひとつで夢を見せ、手招きひとつで人を嬉しくさせ…彼女の物憂げなため息ひとつですべてを差し出してやりたい衝動を掻き立ててみせる。魂のふくよかな部分をどれだけ削ぎ落とせばこのような魔性になれるのか。マルコには見当もつかない。
だがこれが彼女が会得した生きる道である。ある夜、体力の尽きた彼女が眠りに落ちる間際に言った。この仕事、わたしきらいじゃないの、と。意識も曖昧な夢の淵で言うのだからこれは真心なのだろうとマルコは思った。
ここが彼女のひとつの幸せの在処だと知っているからこそ、この仕事を、この生活をマルコが勝手に奪うわけにはいかなかった。もし仮に、結果として、円満にこの仕事を辞める選択をするとしても、このまま成り行きでクビを切らせてはいけない。
そればかりを願って、マルコは必死に思考を巡らせた。
公平に彼女の視点からも話そう。
冒頭の通り、“客が減った”と言っても途絶えたのはクソ客の足だ。
大半のまともな顧客には店のオーナーとともにきちんと噂の真相を話し、理解を得て安心してこれまでどおり通っていただいている。後ろ暗い部分がある者ほど、この噂に怯えて去っていっただけのこと。オーナーも彼女のこれまでの働きや稼ぎを評価して、たまには羽を伸ばすといいよと理想の雇い主らしい采配を下しただけのこと。クビを切る気など毛頭ない。
マルコが危惧しているような事態は微塵もなく、結果は万々歳だった。
単純にあまりにも怖い“話し合い”だったので話を掘り返すのが恐ろしかった。だから、確かに彼女はこの件について改めてマルコに礼を言えていない。だが…カラダで返しているし…マァいいかしら…と彼女は考えていた。
マルコが脳内三部会を繰り広げて頭を痛くしていることなど夢にも思わず、彼女はもらった葉巻をぷかぷか吸って、今日は抱いてくれないのかしらとマルコの苦悶の横顔をうっそりと見つめるのだった。
***
西地区の地下路地にそのバーはあった。
分厚い紫煙がくゆる店内は薄暗く、壁はヤニで汚れている。赤・緑・黄色といった色つきガラスで作られた古ぼけたカンテラが天井から不規則な高さで吊るされ、曖昧に光をこぼしていた。
「シガー400」
「飲み方は」
「ジルドッグにツケといてくれ」
バーテンダーの店主は「……あいよ」と短く無愛想な返事をして、赤い酒をロックグラスに注いだ。酒を受け取ると店主が顎で店の奥をさす。ごちゃごちゃ並んだ椅子とテーブルと客をすり抜けて進む。換気性の悪い店内は蒸し暑く、シャツのボタンを外して首元を寛げた。
そのまま進むと分厚い垂れ幕のようなカーテンで区切られた半個室にたどり着く。いくつか並んだ半個室のひとつに目当ての男はおり、そいつも赤い酒を飲んでいた。
男の背後、死角側から近づいて椅子の背もたれにゆったりと手をかけ。
「よお、いい夜だな」
「っ、!?」
マルコはあの地獄の夜と同じ挨拶を男に交わした。
聞き紛うことのない死神の声に、男は息を呑んで身を固めた。トラウマがよみがえり全身の毛穴から脂汗がガッと吹き出す。
マルコは男のグラスに自分のグラスをコチンとぶつけて勝手に乾杯をし、酒を一口飲んだ。
「人間、真っ当に生きるのが一番なんだよい」
「は、はっ、……は、」
「悪いことをするとバチが当たるんだ……まさかお前が、畜生だったとはな……」
「は、…は……」
後頭部に降ってくる真っ黒な声に男の呼吸はどんどん浅くなる。マルコは静かにグラスを置き、テーブルに手をつく。小指から人差し指までをたたたたん…たたたたん…と繰り返しテーブルに打ち鳴らす。そのゆっくりとした規則的な音が男の心臓をキリキリと締め上げた。
男の体半分側を囲うように立ったマルコの2mの影は、薄暗い店内でさらに男を暗く覆っていた。
1ミリも動けなくなった男の視界にグラスが2つ並ぶ。
ここは男が薬物を取引する際によく使用する店で、赤い酒は薬物を買う人間用の裏メニューである。
普通のオーダーでは出てこないこの赤い酒を持っていることがその日の取引相手を示す目印だった。
今日この日に、マルコがこの店に現れ、赤い酒を持っている——それが何を意味しているか。
つまり、すべてバレているということだ。
つまり、“何もかもおしまい”ということである。
「お、」
「ん?」
「おっ、おれは…ただ頼まれただけでっ……何、なにも、知らな…」
「アハハ!別にどうでもいいよい。関わったやつは全部潰すんだから問題ねェ」
「ヒ……」
「つーかもう潰してきたし……お前が最後だ」
「ご、ごめんなさい…もう、もうしない……!金輪際…!」
「芸がないな。同じセリフで謝るんじゃねェよ」
マルコが部下に指示を出してからわずか3日でくだんの男へ辿り着いた。カタギでない人間の情報網とは凄まじいもので、マルコは居場所を探してほしいだけだったのに、調べてみるとあっという間にこの男が白ひげのシマで薬物の売買という悪事を働く不届者と分かった。
分かってしまったからには問題を解決しなければいけない。マルコはあくまで個人的な用事のつもりだったのにな…とため息をついて、予定にない仕事をするハメになったのだった。
あの部屋でマルコの蹴りの痛みから目を覚ました男は怒りに満ちていた。マルコもあの娼婦もいない。あるのは蹴られた拍子に出た吐瀉物で汚れた床と、そこに捨てられた紙幣が消えた財布と、頭が痛くなるほどの静寂。
このままおめおめと引き下がる気には当然ならず、男は軋む体を引きずってあの晩現れた金髪男に一泡吹かせてやろうと画策した。
あのときは不意打ちだったが、大勢で囲んでリンチすればいい。どうにか痛い目を見せてやろう……ヤクの売人とあって男も立派な悪党であった。
そうして、どこのどいつか突き止めるために少し調べて……具体的に申せばマルコの名前と顔を調べて、彼が自分のはるか上をゆく大悪党だと知った。
白ひげ海賊団一番隊隊長・不死鳥のマルコ。その首にかかる懸賞金は13億越え。青い炎を纏う怪鳥に化けるその男には海軍大将の攻撃もろくに効かない。
およそ人間が対峙してはいけないバケモノの類である。
だから男は人の当たり前としてマルコへの報復を諦めたし、今日は男にとって手持ちの仕事を片付ける最後の日だった。
男はこの取引が終わったらしばらく身を隠すつもりで、白ひげが出航するまで大人しく暮らす予定であった。ここしばらくは白ひげのクルーたちがあちこちにいるから仕事は控えた方がいい——そういったビジネスの情報を売人仲間に流すついで、未だ晴れぬ鬱憤は仲間内への愚痴にして留めた。マルコの名は出さず、虎の威を借る狐のごとく自分に海賊をけしかけたあの娼婦について恨みがましくぼやいたのだ。
“あの娼館の女、股開いて白ひげのとんでもねェ奴をたらし込んだらしいぜ”と。
だが悲しいかな、不義理な真似を働く人間には似たような輩しか集まらない。不義理な仲間をもつと身内の愚痴はただの愚痴ではなくなり、こうして一番聞かれたくない人物の耳に入って、やがて死神がやってくる。
マルコがいるだけでここは地獄の釜の中のようであったし、一片の光も刺さない深海のようであった。どこまでも続く湿った炭坑の暗がりで、錆びた針の筵が敷き詰められた窓のない独居房で、マルコは人の形をした絶望であった。
マルコが来た。自分が最後だという。
男は“薬物売買をしていることがバレて”殺しにきたのだと思っているが、マルコは男が“誤った噂を流したから”殺しにしたのだ。認識の齟齬があるが、死にゆく人間には瑣末なことである。
こうくると男にはもう自分の手足の感覚がなく、身体がひとつの泥袋になったようだった。耳鳴りがやまない。肺に上手く空気が入らない。滑車を回し続けるネズミと同じ拍動が続く。
たたたたん…と指がテーブルを打つ音がやんだ。
「ん?なんだあれ」
イゾウの腹心である16番隊の男が首を伸ばして目を凝らした。「……アート?」と怪訝そうに首を傾げる。
廃墟の鉄柵に人間が吊るされている。等間隔に並んだその人間たちは生きているのか死んでいるのか、とにかく致命傷と思しき量の血を滴らせて静かに俯いていた。
ここが治安の悪い西地区だから大した違和感も動作していないが、それ以外の地区なら立派なホラーである。
イゾウはその奇怪なオブジェを眺め、耳の下あたりをポリポリ掻いた。
「あー……こりゃマルコだな」
「え、イゾウ隊長、見ただけで分かるんスか」
「そりゃあ、やってることが百舌鳥と同じだし」
「へー」
「アイツ、意外と後始末が雑なんだよな……おい、あれ片付けとけ」
イゾウはため息をつき、ウォッカが入ったスキットルを傾けながら通り過ぎていった。
***
「ンむ、」
「や……っと見つけた…」
「ん…、隊長さん?」
「ずいぶんテイストが違ェんだな。苦労した」
「オフですもの」
マルコは南地区のカフェのテラス席にいた彼女の向かいにドカッと腰を下ろした。テーブル下に収めるには窮屈な長い脚は通路側に放り出し、疲労困憊という顔でいま一度長いため息をつく。
今日の彼女はクロップド丈のTシャツとサイドにラインがはいったカーゴパンツを着ている。アウターは肩を抜いてラフに着崩し、足元はプラットフォームスニーカー。いつもは緩く巻いて下ろしている髪も今日は高い位置でポニーテールにし、キャップの後ろの穴からするんと垂らしていた。モノトーンにコーデにライムイエローの差し色が鮮やかであった。
店で着ている衣装といえば透け感と光沢のあるヒラヒラとしたドレスがほとんどだったので、このギャップのせいで街中での捜索が難航したのだった。
突然現れた店の客に彼女は洋梨のタルトを食べるのを一旦やめて、口の端についた食べカスをペーパーで軽く拭った。
「あの、わたし、オンとオフはきっちり分けるポリシーでして……その、今日は同伴などはちょっと…」
「ちげェ」
ではなにかしら、と彼女はキュ…と唇をすぼめてマルコを見つめる。マルコはなんと答えたらよいか迷って「あー」「んー…」と無意味な音を出した。
小悪党どもを片付けた数日後、マルコは彼女の様子を見ようと娼館を訪れた。だが、彼女は暇をもらっていてしばらく店には出ないという。
オーナーの言葉はそのままの意味だったが、マルコはこれをさすがに「お前が贔屓にしていた娼婦は他でもないお前のせいでクビにしました」とは面と向かっては言えないオーナーの方便と早合点した。大ショックを受けたマルコは、遅かった……と茫然自失のよろめいた足取りで店を後にした。
まさかここで彼女を雇い続けろと言うわけにもいかない。そんなことをすれば、まさしく“囲っている”ようなもの。マルコの力で首の皮を繋げてもらった哀れな女になってしまう。彼女の努力で勝ち取った一流が紛い物になる。……
オーナーはブルーが立ち込める彼の背中を丁重に見送り、マルコほどの男を骨抜きにする彼女には一生この店にいてもらわねばと商魂たくましく強く拳を握るのだった。
マしかし、マルコは自責と自罰の念に諦めがつかず、彼女が以前こぼした言葉を頼りに南地区で彼女を探したというわけだ。オシャレなカフェが立ち並ぶ小綺麗な通りを四十路・身長約2m・海賊ファッションの男が一人練り歩く姿は大いに浮いていたのだが、そのようなことは二の次であった。
「……旅行」
「はい?」
「行くのか」
言葉を濁していたマルコはテーブルに広げられた旅行冊子にふと目が留まり、呟いた。
冊子には美しい海の写真が掲載され、特産物を活かしたグルメやらコスメやらの記事が特集されている。同じ海域に属する近隣の島で連絡船が運行しているらしい。
「はい。お休みもらえたので小旅行の計画を立ててるの。うふふ」
「……時間、できちまったもんな」
「楽しいことたくさんします」
「……こっちのは?」
マルコは織り重ねて広げた冊子の下に埋もれるように置かれた海図を見つけた。それはほかのものとは明らかに毛色が違う。観光用に作られたものではなく、船乗りが要するような実用的で簡潔で、端的に言えば面白みのない地図である。
「ああ、それ……」と彼女はマルコの手に引き取られていく海図を素直に見送る。
航海術も齧っているマルコはパサッと海図を広げて目を通した。
「ここから西の海域か?確かに観光向けじゃないな。あそこ海流が酷いだろう。まともな船はあんなとこ走らねェ」
「存じております」
「?」
「ずっと西の方に故郷がありますの。一度帰ってみようかと」
「故郷」
「はい。船で行くのはまず無理と聞いていましたが……やはり難しいみたい」
彼女は静かにティーカップを持ち上げ、紅茶を一口飲んだ。その口調に口惜しさはあまりない。端から期待をしておらず、とうに諦めているようだ。
シアーレッドに塗られた爪を見て、ああこれは見覚えがある、とぼんやり思う。服がいくら違っても彼女の所作は洗練されていて美しかった。
「ここの生まれなんだと思ってたよい」
「いいえ。私はむかし、人売りに遭ってここに来たのよ」
「……あ?」
「白ひげがここをナワバリにする2年前のことだから、あまり睨まないで。時効よ」
「……昔のことだろうと気分のいい話じゃないよい」
「もうこの辺りじゃ聞きませんよ、人身売買なんて」
「当たり前だ」
2年間。彼女は泥水を啜って生きてきた。
十把一絡げで売られた命をここまで磨いた。娼婦として一流に成り上がることで魂に箔をつけ、価値をつけ、己を守って生き延びた。
やがて島のオーナーが白ひげに代わり、店のオーナーも代わった。人売りルートから女の子が買い上げられることはなくなり、店の治安はずいぶん良くなった。辞めたいと泣いていた女の子は店を辞めていったし、彼女のように今さら行くあてもない者は店に残った。労働環境はずいぶん改善し、思うほど悪い暮らしではなかった。
彼女ほどの金を産むに特化した女神であれば、店も無碍には扱わなかった。
ノースリーブの黒いワンピースを着た彼女は湿った路地裏の日陰でタバコを吸っていた。
白いつっかけのサンダルを履き、石造りの壁の冷たさを背中で感じながらタバコを吸っていた。
変わりゆく島の営みを彼女は安いタバコを吸ってただ眺めていた。
彼女はこの島の娼婦だった。
「連れていこうか」
「え?」
「お前の故郷。おれなら簡単に連れて行ってやれるよい」
「ほんとう?」
彼女は丸く口を開けてぽや…と驚いた顔をした。
マルコはその顔を見て、ようやく自分が彼女にしてやれることを見つけて心がいくらか軽くなる。
仕事を失い、故郷に出戻る。よくある話だ。
失業が確定してしまった(してない)いま、無理と諦めかけたそれを手助けしてやれるなら、このくらいのタダ働きは安いものだった。
「あ、でもどうしてこんなに良くしてくださるの……?なんだか悪いわ」
「突然降って湧いた幸運だと思えばいいよい。おれちょうど鳥だし、青いし……デカいからご利益もありそうだ」
「うふふ。なあにそれ」
「とにかく幸運っぽいだろ」
マルコは片手に青い炎を灯し、揃えた二本指で空中にくるんと円を描いた。小さな炎でできた青い鳥が生まれ、すぐにほどけるように消える。彼女はマルコの粋な曲芸にクスクス笑った。
「お前のポリシーには反しちまうが、これを盾に店でなにか強請ったりするようなことは絶対ねェから安心しろよい」
「そうしていただけると助かります」
「いまは店の客じゃなくて、白ひげの部下としてツラ出してると思ってくれ」
「やだ…話が大きいわ」
「その方が信憑性があンだろ」
マルコはさっぱりと笑った。
ナワバリの島はみな等しく、オヤジが守りたいと思って守っている場所だ。弱さを理由に搾取し、歪な権力を笠に不当な扱いを強いる有象無象から守るための旗印である。そこに住まう者も同様。彼女もまたその一人である。
庇護対象。それ以外に特別な感情はなかった。
その日、簡単な日取りを決めて二人は別れた。
***
たどり着いた彼女の“故郷”でマルコは絶句した。
だってマルコはここで彼女の新しい暮らしが始まるのだと思っていたから。ここから彼女の第二の人生がスタートするのだと思っていたから。島に滞在している間であれば力仕事でも事務手続きでも助けてやろうと思い、いつでも自分を呼びつけられるように渡すつもりで電伝虫を懐に忍ばせていたくらいだ。
「な、なんもねェ……」
そこは荒廃した島だった。
剥き出しの岩肌からは痩せこけた草しか生えておらず、中心部と思われる場所には朽ちた家屋が数軒と残骸が並んでいるだけ。枯れた木がぽつぽつと立っており、ギョワギョワと不気味な声で鳴く野鳥がどこからともなく飛び立つ。まともに浜と呼べる海岸線は少なく、切り立った崖が荒々しく波を砕くばかりの島だった。
当然人の気配はない。
「お、おい。どういうことだ」
「?なにがですか?」
「本当にここなのか?お前の故郷って」
「そうですよ、ここです。見事になにもありませんね……あ、あの木見覚えがあるわ。まだあったのね、懐かしい」
「……」
マルコの背中から降りた彼女は天真爛漫に荒廃した島へ踏み入る。今日は白のチューブトップに麻のジャケットを羽織り、大胆なスリットが入ったボタニカル柄のワイドパンツでリゾート風にめかしこんでいる。遮蔽物がないせいでゴウゴウと吹き荒ぶ潮風に、彼女はキャアキャアはしゃぎながら帽子のつばを掴んでいた。
マルコはぐーっと眉間に深い皺を刻んで黙り込む。
理解が追いつかない。
「お前の、家族は」
「さあ……北の島に移り住んでるんじゃないかしら……」
「チッ、島を間違えたか。もう一度飛ぶ。乗れ」
「え、結構です…」
「…?な、なんで……?」
「……?」
「お前、こんな所でどうやって生きてくってんだよい」
「生きていきませんけど……」
「は?」
「夕方には帰ります」
「……は?」
「だから先に帰らないでくださいね」
「…………??」
話も噛み合わない。
お互いハテナを飛ばし、しばし見つめ合う。
「確認だが……この島に何しにきたんだ?」
「えと、故郷を一目見に来ました」
「見るだけ?」
「ええ……住めないでしょう?こんなとこ……隊長さんは何だと思ってらしたの?」
「親元に帰るんだと……」
「……」
「……」
「……」
「えっ、違うのか!?」
彼女のキョトン……とした顔を見て、ここでようやくマルコの長い長い誤解が露顕した。
「仕事クビになったんだろ!?」
「なってませんよ」
「店の支配人も暇出したって!」
「はい、長期休暇中です。再来週からお仕事再開です」
「きゃ、客も減ったって言ってた」
「困ったお客さんが減って、良いお客さんだけ残りました」
「……故郷に帰りたがってたじゃねェか」
「見たかっただけですよ」
「……」
彼女にすべてを綺麗に言い解され、マルコはこれ以上継げる言葉がなかった。なおも信じられん、としばらく目を丸くして彼女の顔を見つめたが、嘘偽りのない真っ直ぐな瞳に返り討ちにあう。
マルコはおもむろに海に向かって歩き、そのまま腰を下ろした。波が砕ける雄々しい音だけが崖下からドドウと響く。
心から安堵すると同時に、己の勘違いと迷走っぷりが気まずくて力が抜けた。立てた膝の間にこうべを垂らし首筋を意味もなくさする。深いため息をついた。
「なんだよい……笑いたきゃ笑えよい」
「アハハ」
「本当に笑うな」
「だって…、うふふ、だからあんなに重たい顔してらしたのね、ふふ」
「憎たらしいぜ、ったく……」
マルコの隣にちょこんと腰を下ろした彼女は、口もとでゆるくグーをつくって華奢に笑った。
勘違いとはいえ、マルコほどの男があれこれ気を揉んで奔走してくれていたことがずいぶん可愛かったらしい。彼女の笑いはなかなか収まらず、最後のあたりはマルコの肩に額を押し当てて目尻を涙で濡らしていた。
マルコは安堵半分・不貞腐れ半分の気持ちで、勝手にしろと海を眺めて彼女が落ち着くのを待ってやった。
「やけに荷物が少ねェと思った……逆になに持ってきたんだよい」
「水筒とおべんと」
「ブハッ」
「おべんと食べます?」
彼女はニコニコ荷物を広げた。おむすび握ったんです、と大きめのランチボックスの下段を開けてマルコへ差し出す。
「隊長さん、体おっきいでしょう。だからなるべく大きめに握ったのよ」
「……ほお」
「あれ……」
「一口で食えちまうな」
確かに彼女の手には大きめだったが、マルコの手に収まればおにぎりは途端に小ぶりに見えた。騙し絵みたいな現象に彼女はム…と少し困り、「たくさん召し上がってね」と数で解決することにした。
マルコは2個も3個も渡されて思わず笑う。
「お前の分がなくなっちまうよい」
「おやつも持ってきてます。チョコとビスケット」
「そんなもんで腹が膨れるもんか」
「おかか好き?」
「聞いちゃいねェな」
最後におかかのおにぎりをもらい、子どもの遠足みたいな食事が唐突に始まる。
二人は並んでおにぎりを食べながらぼーっと海を眺めていた。本当に一口で食べられる大きさだったが、マルコはこれ以上彼女の食事をもらうのも忍びないのでチマチマ時間をかけて食べた。
なんともヘンテコで殺風景な食事風景だが、マァ悪くない。二人は会話もせず、辺りは潮騒の音ばかりだった。ただただ凪いだ時間で、マルコはここ最近の懸念事項が見事に失せたおかげで気兼ねなくボケッとできた。
ふと隣を見ると、皿代わりに置かれたランチボックスのふたに唐揚げだの卵焼きだのが取り分けられていた。マルコは遠慮の言葉とともにそれらを辞退しようとしたが、当の彼女はビスケットをしゃくしゃく齧っていてすでにデザートタイムに移行していた。
ハムスターみたいに無心でもぐもぐ動く頬袋を見て……無性にどうでも良くなり、マルコは取り分けられたおかずもチマチマ平らげた。
腹ごしらえも終え、彼女は本来の目的通り島を見て回った。
特に行き先も決めず、ふらふら気まぐれに寄り道をしながら歩く彼女の後ろをマルコは黙ってついて行った。猫の散歩に付き合うようなものだ。いつでも空に舞い上がれるマルコがいれば道に迷うも何もないため、転ばない限りはどこをどう歩こうと気にしなかった。
「元我が家」
ニコ。と笑って指差した先にあったのは、家の基礎部分しか残っていない場所だった。彼女は律儀に玄関と思しき場所から入り、リビング、キッチン、寝室……とかつての部屋を紹介してくれた。
この島がこんなに荒廃しているのは白ひげ海賊団のせいだ。人売りがおこなわれていたという話だから、島ごと根城を潰したのだろう。別の隊が対応したためマルコはこれに関わっていない。でも1番隊が派遣されていても同じことをしたと思う。
「本当はここに何しにきたんだ」
彼女の歩いた道をたどって朽ちた基礎を跨ぐ。バキ、と乾いた木が折れた。
「何もないのを、確かめに」
彼女は振り返らずのんびり答える。それがどういう意味かは分からなかったが、マルコは「そうか」と一言、その答えをそのまま受け取った。
「隊長さん、痩せた土地でも育てられるものってなんだと思います?」
「あー、芋類……とかか?」
「人間ですよ」
気が済むまで散策をし、彼女とマルコが弁当を広げたもとの場所へ帰ってきたのは夕暮れだった。
二人はまた海に向かって座り込んでいた。あとは帰るくらいしかやることがないが、彼女が立たないからマルコも立たなかった。
「このお仕事してるとね、いろんなことを言われるの」
「……ほお」
「大抵のことは虫が喋ってるくらいの気持ちで流せるのだけどね」
「お、おう」
「“かわいそう”が一番いや」
「……」
「どこで幸せになったっていいじゃない」
彼女はぽちんと呟いた。マルコはその言葉に横目で彼女を見る。
人売りに遭って娼婦になった彼女を可哀想だという。
若い頃から海賊として生きてきたマルコを可哀想だという。
海賊と聞くと憎悪や恐怖よりも同情が先にくる輩がたまに居る。そいつら曰く、可哀想なのだそうだ。海賊という道しか選べなかったことが、憐れなのだと。
こうした色眼鏡で意味不明に見下される度、マルコはうんざりした顔でうるせえと中指を立てる。
何が可哀想だ。おれがここを選んだ。この家族と過ごす船旅がなにより楽しく幸せなのだ。知ったような口を利くなクソッタレ。
マルコはそんな奴に出会えば聞き流すまでもなく蹴り飛ばすし、そもそもマルコ相手に同情してくる奴などごく稀だけれど……彼女はこれまで何度言われてきたのだろう。買える女は見下されやすい。こんな華奢な腕じゃろくに殴れまい。
「だよなあ……どこで幸せになったっていいよなァ……」
マルコは視線を前方に戻し、心から共感してそう答えた。
「おれァいま、幸せだしな」
労いを意を込め、マルコの大きな手が彼女の頭を帽子ごとわしゃっと撫でる。夕日に焼かれた海原を見つめて噛みしめるように発されたその言葉は、このシチュエーションではあまりにロマンチックだった。
並の女なら勘違いする。
極上の女ですら、呼吸を止めて思考を揺らした。
まん丸の目で彼の横顔を見つめ、じっと黙る。
「……ん?なんだよい」
「…やだ、びっくりした……」
「あ?」
「口説かれたのかと」
「!?ち、ちげェ」
「ちょっと驚きました」
「ちげェって」
撫でた手を素早く引っ込め、身振り手振りを交えて「そんなつもりで言ったんじゃない」「下心なんかない」「おれは清廉潔白だ」とマルコは一生懸命弁明する。娼館通いの海賊の一体どこに清廉潔白な部分があるかは不明だが。
マルコが慌てれば慌てるほど、彼女はクスクス肩を揺らした。
「お、おれは今の海賊稼業が幸せだっつったんだ!」
「ええ、ええ…承知しております。私も今の娼婦稼業が幸せです」
目尻に溜まった涙を拭って彼女は綺麗に笑った。
***
白ひげ海賊団の出航の日取りが決まった。
「出航準備で忙しくなる。ここに来るのも今日で最後だよい」
「あら、そうなの……さみしくなりますね」
「だから今日は抱き潰す」
「まあ……こわいほど情熱的ね……」
「お前ほどの女は早々いねェんだよい……美人だし体力あるし頭いいし……話しててすげェ楽なんだ」
「隊長さんにそう言ってもらえるなんて嬉しいわ」
ほほほ、と涼しく笑う。
マルコは「また明日からはむさ苦しい野郎どもの相手か……」と本気で嫌そうにしている。
彼の幸せの在処は確かにあの家族のもとだというのに。
「お前にゃ色々世話ンなった」
「娼婦に言う言葉じゃないですよ。私の方が良くしてもらったわ。ずいぶんお仕事しやすくなりました」
「そら良かった」
「ふふ、なんだか思い違いがあったみたいでしたけど」
「うるせェよい」
「たくさん気にかけて下さってありがとうね。私、隊長さんのそういうところ好きよ」
彼女は親愛の気持ちで戯れを言った。いつぞやの故郷の夕暮れ時のお返しでもある。それにここは娼館で、ベッドの上で、彼女は娼婦でマルコは客だ。本気の情を絡めた言葉でないことはお互いに分かる。
もちろんマルコも分かっていた。が。
「び……美人の言う好きだは心臓に悪いな……」
戯れと分かっていながらも彼女の魔性に太刀打ちできず。マルコは汗を垂らして不自然に顔を逸らした。
彼女はアラアラ……と頬に手を添え、ただの男になってしまったマルコを見てちょっと考える。
そして、拳ひとつ分、距離を詰めて。
「照れてしまったの?隊長さんたら、『花の乙女みたいね』……」
彼女は、つつつ……とマルコの鎖骨の真ん中あたりから胸の刺青のふちまでを丸い爪でやさしく引っ掻いた。
この言葉にマルコのこめかみ辺りにビキと青筋が立つ。
じろりと視線を寄越すと、ビスクドールの乙女がいた。くらくらするような冷たい花の香りがする笑みを浮かべ、娼婦の色香で満ちた瞳でマルコをうっそりと見つめていた。
「……言ったよな。おれは燃えるクチだぜ」
事後。マルコは熱のこもった体をごろんと転がして「うおっ」と声を上げた。
「ここ天井が鏡なのか。シュミ悪ィ」
「ふぅ、ふぅ……」
「鏡」
「……?」
「見てみろよい」
「なんですか……?」
仰向けに寝転がったマルコが天井を指差している。派手に散らしたキスマークでも自慢したいのかしら、と彼女もその鏡に目を向ける。そこには意外と平気そうな顔をしたマルコと、桜色の肌を晒したしどけない艶姿の自分が写っていた。
そしてマルコは言う。
「これが本物の『花の乙女』だ」
「う……」
「分かったか、ずいぶん可愛い有様だろう」
「いけず……」
「燃えさせたお前が悪い」
「イジワル……」
「腹減ったな」
もう話に飽きたマルコはひょいと起き上がって部屋に備え付けの小型保冷庫をあさった。
宣言通り彼女を抱き潰したマルコは肌つや良く満足げである。保冷庫にあった酒を早速飲みながら、彼女にはいつものように水を差し入れてやる。
「私もそっちがいい」
「喉枯れてんだから酒はやめとけよい」
「誰が枯らしたと思ってるのよ」
「おれ」
彼女は体を起こして悔しそうにちびちびとグラスの水を飲んだ。いつもよりしおらしい姿にマルコも少しやりすぎたなと反省する。
「マァ……責任取るか」
「はい?」
「外側からでもイケるかな……」
「な、なあに?こ、こわいわ。なんですの、なにかおっしゃって…きゃっ、」
「どうどう……」
「ぅ、……こ、殺される?」
「バカ」
マルコは彼女の顎を親指でぐっと押し上げて上を向かせた。晒された白い喉に残りの指と手のひらを包むようにあてがう。
再生の炎が燃え上がると、彼女は短い悲鳴をあげて思わずマルコの手に縋りついた。脇腹にナイフでも刺されたかのように彼女は終始体を緊張させて処置が終わるのをじっと待った。
「どうだ?」
「……い」
「い?」
「インフォームドコンセントが足りないと思いました!」
「なんだそれ」
「説明義務違反だと思いました!」
「5文字より長い単語はやめてくれ」
「バカ!」
「うん、喉は治ったみてェだな」
マルコはカラカラ笑って再び酒を煽る。
確かに喉の痛みは綺麗に消えた。なるほどこれは便利、と彼女はマルコの空いた手を勝手に持ち上げて腰やら肩やらにあてた。マルコはなんかやってんなァ…と思いながら、青い炎を灯し続けてやった。
「マ、身体は大事にしろよい」
「肝に銘じております。カラダは資本ですから」
「それもそうだが……適当なところでイイ男でも捕まえろってことだよい。お前なら選び放題だろ」
「……隊長さん、おちんちん何本?」
「あ……?…え、さすがにいっぽん……」
「あらそう。私、おちんちん2本ある人じゃないと特別扱いしないと決めてるの」
つまり、誰のことも特別扱いする気はないらしい。
特定の男は作らない。マルコすらも対象外、ということを暗に言っていた。
しかしマルコは物知りだ。単純に彼女より生きてる年数が長い上、文字通り世界中を飛び回る男なので蓄えている知識量が違う。
だから親切に教えてやる。
「ヘビヘビの実を食ったやつには気をつけろよい」
「どうして?」
「ヘビのチンコは2本だ」
「えっ」
「サメの魚人も確か2本」
「ええっ」
「アハハ」
***
空は快晴。
療養期間を無事に終え、モビーディック号はもう間も無く出航する。港には多くの島民が見送りに来ていた。
マルコは仲間でごった返す船べりを避けてヤードの上にいた。どうせこのあと甲板に降りるので、飛び上がった折に燃やした黄色い長尾も鳥足もそのままだ。半獣の姿で賑やかな惜別のひと時を見守るマルコの目が、岸にいる彼女の姿を捉えた。
マルコがこちらに気づいたと分かると、彼女は微笑んで手を振ってくれた。マルコも組んでいた腕からひょこっと手を出して小さく振り返す。
声の届く距離ではないし、見聞色の覇気を持つマルコからは見えても彼女からはマルコの顔も見えないだろう。
だからマルコはあの日と同じように揃えた二本指で円を描き、餞別代わりに青い鳥を飛ばしてやった。
青い鳥は彼女のもとへ真っ直ぐ飛び、懐くように彼女の周りをぐるりとひと回りして消えた。
二人の別れの挨拶はそれだけだった。
順調に航海が始まれば、あとはマルコの日常である。
船べりから散っていく仲間たちの中にサッチがいた。ヤードから降りてきたマルコを見つけると「お〜!」と片手をあげて寄ってくる。
「マルコォ!お前、娼館に潜入捜査してたってマジ?」
「はあ?」
「なんだか手柄あげてただろ。ヤクの密売人吊し上げたって」
マルコはハッと軽く笑った。
「別に。ただの女遊びだよい」
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