fall in
どうしてこの男に惚れてしまったのだろう。
会話の途中で爆睡したエースを目の前に、何度目かも分からぬ自問自答をしてため息をつく。
「ハッ…………寝てた」
鼻ちょうちんをパチンと綺麗に割ったエースがむくりと頭をもたげ、まだ眠気の残る目を瞬かせた。
「で、なんの話だっけ」
「はぁ……ナワバリの島が荒らされたって件だよ。2番隊でシメに行くことになったけど誰を派遣させる?」
「あー、おれとナマエだけでいいんじゃねーの」
なんとも適当な采配。
確かにエースのストライカーに私の小舟をくくりつけて任務に行くのが定番となってきている。戦闘はエース、事後処理は私、という分担がスムーズに事が運んで丁度いい。
「却下。こないだマルコ隊長に他の隊員の腕が鈍るから私らばっかで行くなって怒られたでしょ」
「一緒に上陸してェだけだもん」
「もん、じゃない。ばか」
わざと拗ねる姿に少し胸をくすぐられる。それを隠すためにも私は悪態をつく。
「じゃあ私と中堅隊員の誰かの二人で……」
「却下」
「……」
……私は真面目に仕事の相談をしているのにこの隊長ときたら。
エースは西の空からやってきたニュース・クーから新聞を受け取り、ばさりと開いた。隊長たるもの最新の情報にはしっかり目を通しているらしい。近くにいたナースたちが「ニュースを読む知的な姿もギャップがあって素敵」とうっとりとした視線をエースに向けている。当の本人は気付いていないのか、はたまた気にしていないのかのんびりと記事をさらっている。
「お、本部のお偉いさんが第3子をもうけたとよ。めでてェな」
「あっそ」
「なァ、おれらもそろそろどう?」
新聞を少しずらしてこちらを窺う。
挑発するような雄っぽいその視線に背筋がぞくりとしたのを悟られないよう努めて冷静を装う。
「……どうもこうもないよ。その手の冗談は一隊員に言うもんじゃない」
「冗談じゃねェよ?」
「告白されてもないし」
「あれ、そうだったか?」
じゃあ、と居住まいを正すものだからたちが悪い。待ってと声を掛けるよりエースの方が早かった。
「ナマエが好きです。おれと付き合ってください」
シンプルで直球な愛の告白。真っ直ぐ差し出された右手。
この魅力的な手を取ってしまえば簡単だ。晴れて私の恋も成就、船公認のカップルになれる。
でも、でも。
「〜〜っ、エースはマイペースすぎるから駄目!」
「……は?」
「いっつも私が振り回されて、そ、そんなのやだ!」
エースという強力な引力に私はいつも振り回されてしまう。自分の調子を崩され、気付けばいつも彼のペース。まるで大渦に呑まれた小舟だ。懸命に抗おうとも転覆しないのが精一杯で決して敵わない。
それがなんと悔しいことか!
この駄々っ子のような言い種にエースも私の顔をぽかんと見つめている。
「いや……そんな真っ赤な顔で言われてもよ……」
惚れた方が負けと聞く。
恋に落ちるとはよく言ったものだ。
何度この恋から這い出ようと足掻いても、
「可愛いだけだぞ?」
こうしていとも容易く落とされる。
私の返事も聞かぬまま、エースはにやりと笑ってその腕に私を納めた。
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