SSおきば
※:性的描写あり18.12.27
ヨリ×マゴ
満ち溢れる話
貴方はヨリマゴで『たった二人の世界』をお題にして140文字SSを書いてください。
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元々人見知りは激しかった。祖父の経営していた古い銭湯の手伝いを始めた頃も客とは禄な会話も出来ず、風呂の掃除や炊事洗濯を済ませてはそそくさと居間の奥に引き篭もっては一人携帯電話を弄ったり布団の上に横になる日々が続いた。それでも祖父は何か文句をつける訳でもなく、ただただ静かに頭を撫でてはそっと体を抱き寄せてくれた。
シノブがこの世を去り、小さな頃から世話になっていたヨリの義母から祖父の存在を教えられるまで、施設で共に過ごした人々以外自分には家族がいないと思っていた。確かに血が繋がっていると伝えられたところで受け入れる事など出来る訳がなく、途方に暮れ行く先を失った自分を引き取ってくれた他人としか思えない祖父に冷たく当たってしまった事も少なくない。今まで一つも顔を見せなかったくせに今更家族面をされるのも許せず、自分が家族だと思っていた存在と同じ立場に無理矢理入ってこようとしているように見えた彼に苛立ちさえ覚えた。それでも独りぼっちだった自分に手を差し伸べてくれた祖父はとても温かく、理不尽に怒りを示しても叱りつける事さえ一度もないまま自身の目の前で大切な命は再び遠く果てしない先へと旅立ってしまった。
「二人なら、ここはいつだってあたたかい」
冷たい畳に何度涙を染み込ませたかはもう覚えていない。微かな血溜まりが幾度無く広がった台所も今ではすっかりその影もなく、出来たての鶏の唐揚げが山盛りに積み上げられたトレーが佇んで、あの生臭さも思い出せない程に遠い過去のように感じる。
買い直したばかりのふかふかの布団に沈んだ体を包み込むように黒い影で溶かした褐色、肉付きの良い腕が頭の後ろへと入り込み、そのまま持ち上げては落ちてきた口付けにゆっくりと瞼を下ろした。
(俺の居場所は、今もこれからもずっとここだけだ)
自然と灰色の瞳から溢れた涙はじんわりとぬくもりを帯び、そっと指先でそれを拭った彼の不思議そうな表情と、そして全てが枯れる程に流してきたにも関わらず、性懲りもなく頬を伝わせる自身の弱さと情けなさに思わず小さく笑みを溢したのだった。
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