SSおきば
※:性的描写あり19.04.06
ひおくん×ナルジオ先輩
嘘が下手くそな話
普段であれば絶対に口にしたいとも思わない言葉を自然と、しかも世界で一番大好きな相手に言い放ってしまう日が来るとは昨日までの自分は思ってもいなかっただろう。しかし、いくら彼に対して自覚がある程に彼に甘い自分の口から、あれよあれよというままに吐き出されていったその瞬間は、悲しみよりも驚きの方が勝っており、言い合うような喧嘩へと発展する前に相手はその場から逃げるように一人、部屋の中へと籠もってしまったのだった。
(あんな悲しそうな顔してるひおくん、見たことなかった…)
すぐに追い掛ければ良かったものの、今では滅多に見る事のなかったひおくんの薄い緑色の瞳に帯びた暗い影、それに気付いた瞬間には時既に遅く、何も言わないまま背を向け姿を消した彼を引き止める事さえ出来なかった。
事の発端は二人でリビングのソファーに座ってレンタルしたDVDの映画を鑑賞していた時の事だった。テレビドラマとして大ヒットした恋愛ものストーリーの劇場作で、妹のなるじおんから勧められて見てみると気付かない間に自身もどっぷりとハマってしまい、その続編があると知ってリリース直後にレンタルしては一緒に見ようとひおくんを誘った。初めは渋々了承した彼だったが、手作りのおつまみとケーキもあるよとそっと誘惑の言葉を囁やけば、仕方ないなと頬を赤く染めては静かに頷いたのだった。
そして二人仲良く並んで座りその映画を見ている最中、クライマックスシーンとも言えるあるシーンに到達した瞬間。自身が無意識にぼそりと呟いた一言がどうやら彼の中に潜むある爆弾を起爆させてしまったようで。何も考えずに発してしまったものの、その上で喧嘩腰に対立してしまったものだからこちらに反省点が多々あるという事実は否めず、どうしたものかと今は彼が引き篭もっている部屋の扉の前で静かに佇んでいるのであった。
(あんなに怒らせたのも久しぶりだったからなぁ…話、聞いてくれるかな)
ごくりと息を呑み、漂う緊張感の中で恐る恐る扉にコンコンとノックをする。予想していた通り、やはり反応はなく、そして中から鍵まで掛けているようで開ける事も出来ない。しかしこのまま彼を放ってはおけず、仕方なしに扉越しにでも自身の気持ちを伝えようと声を掛けたのだった。
「あ、の…ひおくん。聞こえてる?」
扉に手のひらを当てながらぽつりと言葉を落とすも返答は無し。しかしここで挫ける訳にもいかず、そのまま繋ぐように言葉を続けた。
「さっきは、ごめんね…僕、ひおくんを怒らせるつもりで言ったわけじゃなくて…その。つい、勢いというかなんというか…ヒロインの子が主人公のボーイくんに大好きって、言ってもらえてるのがどうしても羨ましくて、でも、言葉じゃ言わないけどひおくんがちゃんと僕の事、そういう風に思ってるって分かってるよ! 分かってる、んだけど…えと、ほんとに、ごめん…我儘だよね。側にいてくれるだけで幸せなの、に…!? う、わわわっ!」
「先輩うっさい! んなこっ恥ずかしい事をつらつらつらつら平気で喋るな!」
ひおくんに許してもらう為には全てを曝け出して自身の思いを伝えるしかない。そう思い、後々思えば人に聞かれでもしたら死ぬほど恥ずかしいような事を一人廊下で(しかも割と大声で)目の前の扉へぶつけていると、突然開かずの間が開かれ顔を真っ赤に染め上げた彼に腕を掴まれては部屋の中へと引きずり込まれた。あまりの突然さに体勢を崩し倒れた体を抱き留められ、不覚にもきゅんと疼く胸の内、やはり優しいひおくんは許してくれたのだとにこにこと笑みを浮かべては表情を伺うように見上げると、そこには意外にも厭らしく口角を上げにやりと怪しく微笑む彼が耳元で静かに一言呟いたのだった。
「…って、先輩が言ってくれたら許す」
「へ…?」
「だから、そっちが言ったらボクも言ってあげるって言ってんの! 人の話はちゃんと聞けよ、センパン!」
「いだっ! いだだだっ、わか、分かったよ! 分かりました言わせて頂きますぅ*!」
おそらく照れ隠しであろう、顔の前に長く垂れた一本のゲソをぐいぐいと引っ張りながら騒ぎ立てるひおくんに慌てて了承の意を伝え(思い出す度にこの時のひおくんは非常に可愛かった。写真に収めたいくらいだった)、最早何故喧嘩をしていたのか互いに分からなくなっていた状況の中、彼の肩を掴みそっと口を耳元に寄せ、ごくりと息を呑んでは普段散々言っているはずの三文字を緊張しながらもぼそりと絞り出した。
「…ひ、ひおくんっ…だい、しゅけ…」
「噛んだ。やり直し」
「うわぁあん! ひおくんごめんね、大好きー!! …あ、へぁ?」
ぎろりと睨まれる中、必死に思いの丈を放ったその直後、両頬を掴まれそのまま真っ直ぐ視線が合うようにぐいっと顔を曲げられては視界いっぱいに映る青緑の綺麗な瞳、その輝きがスローモーションで目と鼻の先まで近付いてきたかと思えば、ふんわりと重なり合う唇に頭の中は真っ白に染まってゆく。鼻先を掠る焼き立てのチーズケーキの香り、こちらの意思を無視するかのように強引に入り込んできた下が中で絡み合い、次第に荒くなる互いの熱い息が僅かな隙間から溢れていた。
「んっ……ぁ、んぅ、ひお、く」
「……ッ、次、ボクに向かって大嫌いなんて言ったら、無理矢理にでも言い直させるからね」
「はひっ…しゅき、ひおくん愛してるよぉおッ!」
そっと距離を置き、ぷいっと視線を逸らしながら照れ臭そうに頬を染めるひおくんの可愛さに堪らず胸元へと抱き着くと、やめろと言わんばかりにゲソを掴み引き離そうとする彼の照れ隠しに更に愛しさが増し、不思議と喧嘩をする前よりも熱を感じる体温に静かに身を任せたのだった。
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