SSおきば

※:性的描写あり

19.12.12

だいきくん×ナナオくん
今夜も完敗だった話
だいナナちゃんで「この気持ちも君とするコレも、全部が初めてで」とかどうでしょう。
https://shindanmaker.com/531520
 

 するりと侵入する温かい手が肌を触れる感覚に違和感がなくなったのはいつの日からだっただろうか。住む家も過ごす時間も食べる物も、それどころか自身の胸の奥に募る無自覚な熱も気付けばすっかり変わり果てていて、それでも今がとても幸せだと思えるのは彼のおかげなのだと今になって強く思えた。新しく住まいで過ごす二人の時間も今では当たり前の日々となり、時には薄暗い寝室で時間を忘れる程に体を重ねる夜もある。白いシーツに背中を沈ませる中で見上げた先に見た余裕のない顔、しかし熱い息を荒く吐き出しながらもいつものようににこりと笑みを浮かばせ、首元に顔を沈ませる彼が自身も愛おしくて堪らなかった。

「ボク、幸せだ…」

 それは自分だって同じだ、と返す代わりに背中へと回した両腕に力を込め、まだ火照ったままの顔をそっと額に寄せてはお返しだと言わんばかりに小さくリップ音を落としてみる。すると、ゆっくりと顔を上げた彼がぽかんと気の抜けた表情を掲げていて、しめしめと厭らしく口角を上げると頬を赤く染めながら再びにっこりと綻ばせていた。
 そんな微睡みを経て幸せな一夜を過ごした後でも、これは自身の我儘なのかはたまた自信の無さ故に生まれる事なのかは分からなかったけれど、いつまで経っても消えない不安は心の奥底で確かに存在していて、それは彼と知り合った時から既に未経験ではなかったという事も関係していたのかも知れない。故に自覚を持ってからというものの、その事実を思い出す度に一人胸を締め付けられるような気持ちになったり、ボーイの自分が彼と今の関係のままでいられるのはあとどれくらいの事なのだろうと誰も知り得るはずのない未来を想像しては溜息を吐く。するとソファーにずっしりと背を沈め、手に持っていたスナック菓子を貪りながらテレビを見ていた彼がふと勘付いたのか、気付かないうちにこちらの様子を心配そうに窺っていたらしく。

「…あ、えと。何?」
「いや、その…元気ないなぁって。何かあった?」

 どうやら顔に出てしまっていたようで、慌てて大丈夫だと手を振るもやはり誤魔化せきれないのか、真剣な顔つきのままじりじりと距離を詰めてくる彼に動揺しながらも今にも喉の奥から飛び出しそうな声を必死に押し込めた。

「ご、ごめん。別に、大したアレじゃないん、だけ、ど」

 その言葉がどうも癪に障ったのか気付けば仰向けに押し倒される勢いで迫られ、暴かれるように太ももの間に膝を押し入れ天井を背景に見下ろしている目の前の表情はあまりにも鬼気迫るものがある。ばさりと床に落ちた菓子の袋に見向きもせず、珍しく無言のままの彼に思わずごくりと息を呑んだ。

「…ナナちゃん、また変な事考えてる」

 また、というのはつまり、以前にも抱いた気持ちを今も募らせているのを彼は気付いているという意味で。
 いつも前向きで優しく、楽観的で何も考えていない(と言うと失礼な話ではあるが時々本当に何も考えていないので嘘は付いていない)ように見えるが意外にもこういう場面で変に鋭いところもある。それはナワバリバトルに参加している時も垣間見えるもので、相手の一瞬の隙を突きつつ想像もしないアグレッシブな直感的動きで圧倒するスタイルにいつも目を奪われている。そして今、透き通る青が真っ直ぐにこちらを見詰められ、しばらく無音が続いたもののその間に耐えきれず先に口を開いたのは自分の方だった。

「考えてない!」
「じゃ、やらしい事とか?」
「もしかして、わざと言ってるな!」

 やはり確信犯だった事に沸々と怒りが生まれ、上体を持ち上げ中指で額をぱちんと力強く弾くと口から飛び出した小さな悲鳴、それでも負けじと腕を掴み突然に胸の中へと体を引き寄せられ、真っ暗になった視界と彼のぬくもりに包まれたその直後。頭上から落ちた優しい声がどくりと鼓動を高鳴らせたのだった。

「……いつも、不安にさせてごめんね」
「だから、別にそんなんじゃ」
「でもボク、ナナちゃんの事が好きになって、一緒にナワバリバトルして、ご飯食べて、二人で暮らすようになって…時々、その、えっちもして。こんなに幸せだなぁって心から思えたの、初めてだから」
「えっ…?」

 両腕に僅かに篭もる力、頬を擦り合わせるように顔を埋める彼に沸騰した熱が伝わってしまいそうで堪らずフクを握った手がじわじわと汗ばんでゆく。みるみるうちにどくどくと震えるペースを早め、このまま心臓が胸を突き破ってどこかへ飛んでいってしまうのではないかと思う程にうるさい鼓動の音が頭の中で延々と響き渡ってゆく。

(ずるいよ、だいき…)

 心の中で一人、欲しいと思っていただけの言葉を現実で聞く事になるとは微塵も思っておらず、溢れそうになったものを隠すように彼の胸にぎゅっと顔を押し付ける。きっと今、自分の顔は酷く滑稽な表情が刻まれている、そう思っただけで照れ臭くて堪らなくなった。

「…ボクだって、同じ、だ」
「それって…」
「幸せすぎて、おかしくなりそうなくらい」

 そっと見上げた先で溢した、ずっと伝えられずにいた気持ちは自然と彼に笑みを浮かばせて、それが少しだけ悔しくて力任せに唇を押し付けると、そのまま倒れ込む形で雪崩れた二人の身体はゆっくりとソファへ沈んでいった。



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