SSおきば

※:性的描写あり

20.04.07

241×061
オンリーワンの話
 派手さはないそれも陽の光が差し込めばきらりと輝きが増し、自然と視界の中へ入る褐色肌の耳元に目を奪われる。両耳に付けられた小さなピアスはファッションが趣味でもある彼らしい、シンプルで洒落ているデザインでそういったものを付けない自分から見てもよく似合っていると思った。

「よぉ、ネズ。奇遇だな」

 衣装ばかりに気を回していたせいか、気付かない間に枯渇していた普段着をいくつか買っておこうと古着屋を梯子している途中で偶然キバナと会った今日。目的が同じであったからか、それとも食事へ連れ込む口実か、おまえのオススメを知りたいから連れてってくれよ、なんて勝手な事を言い出した挙句、断る間もないまま腕を取られ自分の倍はあろうかと思われる歩幅で踏み出す彼にあれよあれよというままに引き摺られていった。
 キバナはセンスがいい。何時だって最先端のファッションを取り入れ、自前の服装を身に着けて撮った写真をSNSに上げればその度に人々から賞賛を受けるだけの事はある。しかし、だからといって好みが合うとは限らない、というよりは恐らくジャンルそのものが違うので確実に合わない。だのに彼はこちらが好んで顔を出す店に付いていく言って聞かなかった。無駄足になっても知らねえぞ、そう一言吐き捨てて店内へと足を踏み入れると、早速キバナは陳列棚に並べられた服を粗方眺め、一つ気に入ったらしい黒いジャケットを手に取ってはそれを押し付けるようにこちらへ寄こしたのだった。

「ネズ、これ着てみて」
「はぁ」
「あとこれと…こっちのライダースも」

 結局、代わる代わるに試着させられたのは自分ばかりで当の本人は私物を選ぶ様子もなく、ただただ狭い一室で着せ替え人形にさせられてはにこにこと笑顔を浮かべて吟味しているキバナにげんなりと肩を落とす。しかし、どういう訳か選ぶ服は意外にも好みのブランドやデザインのものばかりで、どれがいいと思うかと問われると暫し悩んでようやく数点に絞る事が出来た。

「…どっちにしましょうかね」
「悩んでるならどっちもだな。なぁ、これ会計頼む」
「は? おまえ何勝手に決めて…」
「今日は俺の奢り。前から選んでやりたかったんだ」

 結局、切り捨てたはずの他の服も合わせて十分すぎるくらいの枚数を無許可に購入されてしまったものの、さすがに申し訳ない気持ちが勝り、今すぐにでも店を出そうになっていたキバナの腕を咄嗟に掴んでは、自分でも思ってもみない事を勢い余って口走っていた。

「こ、これ! 俺が、買ってやります」
「へ?」
「あ、えと…おまえに似合うと、思ったので」

 もう片方の手に掴んでいたのは、ちらりと視界の隅に入った琥珀色の飾り気のないシンプルなピアス。無意識に見せたそれはあまりにも深い意味が込められているように見えて(実際何も込められていないのに)、堪らず頬を熱くさせるも目の前の彼は互いに挟まれたそれに視線を奪われて気付いていなかった。

「ネズが…オレさまに? プレゼントしてくれんの?」
「勘違いしないでください。ただの礼です、特に意味は…」
「やっべー…嬉しい、すごく。…あ、そうだ。もう一つ頼みがあるんだけど、いいか」

 普段よりもとろりと垂れた目、余程嬉しかったのかすぐ側の棚に置かれたピアッサーを手に取り、これも欲しいと渡されて思わず首を傾げているとそれを見たキバナは何処か照れ臭そうににんまりと顔を綻ばせていた。

「もう一個、ネズが開けてくれよ」
「何でまた」
「…ネズ専用の穴、欲しいから」

 そっと耳元で呟かれたその言葉にじわじわと耳が熱くなっていく。深い意味はないけどな、なんてにやついた表情で零す彼の腹を反射的に殴り付けては、すっかり握り締めたままのピアスまで投げ付けないうちにレジの前まで早足で向かったのだった。

「どうせ付けるなら未貫通のところがいいもんな」
「いちいち表現が汚ぇんだ、テメーは!」



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