SSおきば

※:性的描写あり

21.12.06

相方くん×おにいさん
甘じょっぱい話
相方くんの笑顔が好きで、その笑顔を見るためならいろいろしてあげたくなるおにいさん
#お題ガチャ #推しカプシチュガチャ https://odaibako.net/gacha/963?share=tw


 忘れた頃にふと零す小さな笑みが好きだった。そんな訳がないのに自分だけが知っている特別な表情のように見えて、心の中であればいくら勝手でも喜んでいいかと思い、一人苦笑するその日は常に機嫌が良い。
 本人に直接問い質した事はないが、どうやらその笑顔は自然と浮かべているもののようで、遠回しに聞いても一体何の事だと不思議そうに首をかしげていた。それならば、どうすればサキの硬そうなあの顔つきから柔らかな笑みが生まれるのか、という胸の奥から生まれた謎の好奇心に突然駆られて色々と試してみる事にしたのだった。

「……なんだこれ」

 ある日の昼下がり。一人買い物へ出かけていたサキが帰宅する前にリビングのテーブル中央にひとつ、あるものを設置してみた。それは日頃から彼が好きでよくお菓子ボックスの中にストックしてある食べ物の期間限定商品である。

(しかも大袋の十二枚入りだ! これはかなり自信がある)

 通常のしょうゆ味とは違ってザラメが散りばめられた小さいサイズの海苔煎餅は、個包装の袋にも花柄が印刷されており大変かわいらしい。さらに煎餅の味付けもただのしょうゆではなく梅味が含まれている。甘じょっぱい、しかしざらめのほのかな甘さが美味さを引き立てる素晴らしい新商品となっている。巷の和菓子好きなインクリングの間では大好評だと聞いた。
 サキは和食や和菓子に弱い。弱いというか、甘味は好きだが洋菓子は好まない為、消去法で菓子を摘まむならそういったしょっぱいものや自然の甘さに手が伸びるといった具合である。それでも小腹が空けばチビッ子たちと混じってよく食べているところを見ると、どちらかといえば好きの部類に入っているのだと思う。

(特撰ぬれ煎餅と悩んだけど、でもきっと新発売のやつなら誰だって食いつくよな)

 実のところ、この煎餅を買ってからテーブルの上に設置するまでの間かなりの葛藤があった。自分でさえまだ食べた事のない見るからに美味そうな菓子を誰かに食べさせるだけでなく、その食べているさまを見ているだけという苦行に耐えなければならないとなると覚悟が必要で、今まさにその辛い一面を目の当たりにしている為、唇を噛んでは固唾を飲みながらその様子をじっと見つめている。
 相方が新発売の煎餅を発見して五分、今のところ動きは見られず、ただなんとなしにぼうっとテレビを眺めている。勿論袋を開けた形跡はない。もしかしたら自分で買ったものではないから、誰かが部屋へ戻るまで食べないつもりなのかも知れない。しかし、それでは元も子もない。

「……た、ッだいま」

 律儀な彼は人が買った食べ物を勝手に食べようとはしない。その可能性に転ぶかも知れないであろう事も勿論予測していた。だからこそ、もしもの時を考えてこうして当然第二の手を控えておいたのだ。

「なん、オマエ……それ」
「待て、動くな! 淹れる!」

 湯は既に沸かしてある。台所にはいつもサキが使用している急須と湯飲み、茶こしには既に適量の茶葉を用意していた。急いでポットから湯を注ぎ、普段彼が淹れているのを見よう見まねで急須を揺らし、美しく濁るその茶を静かに湯飲みへと注いでいく。新茶の爽やかな香りが鼻を掠め、湯も余っていたのでついでにもう一つ自分の分も拵える事とした。

「なんだ、気が利くな」
「ま、まあ……そういう日もあるだろ、俺にだって」

 まさかそこで褒められるとは思っていなかったので危うく変な声が出そうになった。それでもなんとか様子のおかしくなった空気を耐え抜き、平静を保ちながらも手渡した湯飲みに口を付けたサキを見てようやく自身も彼の隣りへそっと腰を下ろした。テレビから聞こえる笑い声だけが背景で流れる中、茶葉の香りが慌てる心臓を少しずつ落ち着かせていく。ほっと一息ついた後、無意識にテーブルの中央に置かれた煎餅の袋を取り出して、ごく自然な形で隣りの相方へと半分に割ったその片方を押し付けてみた。

「これ食ってみろよ。新発売らしいぞ」
「これオマエのか。誰のかと思った」
「気になってたなら勝手に食ってて良かったのに」

 別にそこまで食べたかったわけじゃ。そう、声を零したところで空いた彼の口の中へと煎餅を放り込む。はにふんだ、と謎の暗号のようなクレームが飛ぶも気にする事はない。そのままバリバリと噛み砕かれたそれはあっという間に無残な姿へと形を変え、口から喉、胃へと静かに流されてゆく。口の端に付いた微かなザラメがきらりと反射して危うくにやついてしまいそうになった。

「ど、どう?」
「どうって」
「いや、だから。美味いか美味くないか」
「美味いが」
「そうか、それなら良か……じゃない!」

 どう見ても期待していた反応ではない。それどころか食べたところで表情を変えることもなく、美味しいと感想を述べている割にはいまいちその感情は伝わってこない。しかし、今思えばそれしきのものでころころ表情が変わるような相方ではないのは長年の付き合いもあって重々承知していた。だからこそ、そんな彼が忘れた頃に垣間見せるあの貴重な笑顔が好きなのだ。

「……ま、そう簡単には無理だよなあ」
「そんなに見たいか、俺が笑ってるとこ」
「そりゃまあ、是非とも……って、え!?」

 そう零すサキの言葉にすかさず顔を上げると、そこにはにやりと口角を上げ頬を緩めている彼がいて、一瞬で燃えるような熱を顔に帯びた。この顔が一体何を意味しているのかすぐにでも説明できる。今すぐのた打ち回りたい。恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。すると段々冷静さを取り戻すと共に腹が立ってきて、しかし彼が何かしたというわけでもないので無闇に晴らす事も出来ず、そんな行き場のない怒りを発散するかのように持っていた残りの煎餅へがぶりと齧り付いたのだった。


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