SSおきば
※:性的描写あり22.06.12
ヨリ×マゴ
誰にも渡したくない話
ヨリマゴへのお題は『ふたりっきりでいたかった』です。
https://shindanmaker.com/392860
友人を作るのは苦手だった。元々人見知りの部分がある自覚はあったし、そもそも素性を知らない他人との会話がほとんど成り立たない。もちろん番台での仕事には接客も含まれるけれど、仕事は仕事、伝えるべきことは決まってくるのでそうそう難しいことではない。あとは気さくな客が相手なら、そこに軽い世間話くらいを含ませておけば自然と会話は成り立っていく。しかし、その世間話が主体となるならば話は別だった。
(……昔と比べれば、随分丸くなったと思うんだけどね)
ぽつりぽつりと訪れる客の僅かな波がついに途切れ、暇潰しにと漫画雑誌を手に取る。紙の擦れる音だけが淡々と店の中に響き、小さく溜息を落としていると奥の居間から人影がのそりと身を乗り出した。そして一言、つまみ買ってくるとだけ零した彼が玄関でぼろぼろのブラックビーンズに足をつっこんだその時、がたついた引き戸がゆっくりと開いていく。
「ちわーっす」
「げっ、出たよ詐欺師野郎」
「そういえば今日俺、運勢最下位だったっけなあ」
「あっはっは。相変わらず酷いな〜二人とも」
さり気ない嫌味など慣れたものだとすいすい躱してくる彼はヨリと付き合いの長い知り合い、そして依頼人から受け持った仕事を紹介してくれるプロの仲介屋でもある。自身もあの手この手で上手いこと言いくるめられ散々付き合わされては酷い目に遭ってきたけれど、根はいい人なので妙に憎みきれない謎の魅力が彼にはあった。
「どうせまたクソみたいな仕事持ってきたんだろうが。帰れ帰れ!」
「いやいや、今日は俺オフなのよ。そんでもって用事があるのもお前」
やれやれと肩落としながらもダビデさんの顔つきはどこか楽しそうで、それはまるで絵に描いたような古くからの友人で、悩みや相談事、つまらない話でも何でも楽しく言い合えるような、そんな二人にも見えて。そう感じるのは今に始まったことでもないし、事実彼らはきっと仲が良いのだろうけど。
「どうせ今夜のつまみ買いに行くんだろ? だったら外で一杯俺と付き合えよ。昨日ちょっといいな〜と思ってた子にバッチリ振られちゃってさ、傷心中なワケ」
「ンなモン知るか。振られ慣れてんなら一人で慰めんのも慣れてんだろ。俺を巻き込むな、アホンダラ」
「まあまあ。今夜は奢ってやるからそう言うなって。ほら、な?」
白くて長い、すらりと伸びた手が、薄く焼けた茶色の腕をがっしりと掴む。相変わらず人に流されやすい恋人は今にも諦めそうになっていて、ちらりと助けを求める視線に堪らず声を出しそうになって、止まる。
「……っ、あぁ〜もう、しゃあねえな! 本当に一銭も出さねえぞ!」
「よっしゃ! そうと決まれば話は早……あれ?」
悩む悩まないの話以前に、体が勝手に動いていた。羞恥心など感じる暇さえなかった。こんなにも余裕がないことに自分自身が一番驚いている。胸の奥の鼓動が頭の中でうるさく響き、馴染む匂いとぬくもりで次第に焦燥した心が安らいでいくのを感じた。ああ、やはりここが。
「……へえ。なかなか珍しいもの見れちゃったな」
「え、っと、ちょ……あの、マ、マゴ……さん?」
「こりゃ敵いそうにないね。今回は大人しく退散しますか」
顔が熱くて今にも溶けてなくなりそうだった。お前はおもちゃを取られた子供か、と思ってしまう程に幼稚な行動をしていることに思わず溜息が出そうになる。
何故ならば今自分は、二人が店を出ようとした直後、ヨリの細く締まったその腰へ背後から飛び付き腕を回しては、絶対に逃すまいとばかりにがっしりと抱き着いているのだから。喜ばしいことではないが、他に客がいなかったことだけが今だけは不幸中の幸いとも思えた。
「ダビデさん、すいません……」
「俺こそ空気読めないヤツでごめんな。それじゃあまた今度、その時は三人で飲みましょ」
じゃあね、と背を向けたままダビデさんは手を振るとどこか寂しそうに店の外へと出ていった。
結局、私利私欲で彼の友人を追い出してしまったのだと気付いてようやく罪悪感が腹の底から沸々と生まれ始める。でも、それでもやはり安心してしまっているのは確かで、こんなにもわがままな自分を見下ろすヨリの顔をまともに見るなんて出来るはずもなく、ただただその背中に顔を埋めることしか出来なかった。
(だって、ふたりっきりは俺の特権、だもん)
ごめんね。心の中でもう一度、既にもう姿さえ見えない友人を思い浮かべながら心の中でそっとひとり呟いた。
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