SSおきば
※:性的描写あり22.12.08
マゴ+ヨリ+リン
親の心子知らずの話
「チャレンジ精神は認める。が、やめとけこんなん」
「えーっ、なんで? こんなカッコいいのにい」
店の一角にある和室。ここは三人にとって憩いの空間であり、客が入ることのないプライベートが守られた部屋とも言える。そしてその部屋で熱い茶を飲みながら、一つの本を仲良く眺めては意見を飛ばし合っているのはこの店の看板娘と、共に暮らしている幼馴染である。
二人は案外仲が良い。年の差はあれどお互いに遠慮はないし、思ったことはすぐ口に出る。喧嘩もよくするけれど大抵は最後にヨリが折れて仲直りをするが、自分が悪いと分かっている時はリンも素直に謝るのでまるで親子というか、兄妹のように見える時もあった。
ヨリは子供が好きだ。実際に本人がそう言っていたことはないけれど見ていれば誰にだって分かる。銭湯に遊びに来た子供たちがガヤガヤと彼を囲んではプロレスごっこをしていたり、少し目を離すと知らない間にアイスやフルーツ牛乳を奢ってあげていたりもする。そのおかげか、子供たちからは店に行くと相手してくれる良い兄貴分と慕われ、満更でもなさそうに照れ臭がっていた彼を見ていると非常に微笑ましかった。
「こんなハゲちまってどうすんだ! 母ちゃん泣くぞ!」
「違うの、これはハゲじゃなくて刈り上げてるだけだってば! 今流行りのツーブロックってやつ。あとはこの編み込むやつとか、すっごいかっこいい」
リンちゃんにはお団子かあのぴらぴらしたツインテールとかの方が可愛いのに、なんて口を出すと恐らく怒られてしまうので心の中だけで呟いておく。
可愛いものが好きだった彼女が今こうしてボーイッシュな髪型を好むのは一応理由があって、恐らく最大の理由は異父姉妹である焼きイカちゃんの影響が大きい。年の離れた姉である彼女も結構な尖り具合のセンスを持っていて、且つ元ヤンだった頃からの腕っぷしの強さ、そして時に大胆な服装と髪型を拵えてくるものだから、そういった部分にリンちゃんが憧れているのは目に見えて分かった。最近なんて時々革張りのジャケットや、何かよく分からない金具のついたガッチガチのパンクロック系ブーツを履いて店にやってくる時もあるから驚きだ。
(憧れつつも、独自の路線を切り開こうとしているな……さすが焼きイカちゃんの妹と言うべきか)
血は争えない、とも言う。しかし、どうやらヨリは納得のいかないようで(いいぞ、負けるな)どうにかこうにかもう少し大人しめの方向へ路線変更を図ろうとしている。
「彼氏できなくなっても知らねーぞ」
「うるさいよ、ヨリちん。あたしはあたしのなりたいものになるって決めたの」
そう言われてしまってはお手上げだと言わんばかりに反論する余地のなくなったヨリは、そのまま大人しくごろりと畳の上に寝転んだ。彼は彼なりにリンちゃんを心配しているだけなのだが、親の心子知らずならぬ、幼馴染の心看板娘知らず。下からの見上げるような視線に気付き、反射的に首を横に振った。この年頃の若者は、周りにどうこう言われたところで考えを曲げないということくらい自分たちがよく知っている。たとえその選択が失敗だったとしても、経験として記憶に残りそれがいつか役に立つかも知れないことも。
(本当に助けが必要になった時だけ手を貸せばいい。そう考えると、俺たちに出来ることって意外と少ないのかも知れないな)
ぷんすかと頬を膨らませている彼女は、善は急げと携帯電話を取り出して美容院の予約を取っていた。その傍で大きな溜息を吐き捨てながら目を閉じたヨリはすっかり抵抗を諦めてしまったようで、菓子鉢から取り出したしょうゆ煎餅を横になったまま音を立てて食い散らかしている。
「……よし、やっぱ思い切ってドレッドにしてみよ。ヨリちんもやる? 今なら一緒に予約取るけど」
「しねーよ! もう床屋だなんだはこりごりだっての!」
「なんだ、つまんない。じゃ、明日またお披露目するね!」
明日はどんな新しいリンちゃんに出会えるのだろうかと期待をしながら、憂さ晴らしに早速二枚目の煎餅に齧り付いたヨリを横目に胸に抱えていた洗濯籠を軽い足取りで庭へと運んだ。
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