SSおきば
※:性的描写あり23.02.02
マゴ+リン+ヨリ
柿ピーがびしょびしょになる話
「うひゃー、こりゃすごいな」
ぽつぽつと地面を打つ音と共に吹き付ける風が雨戸を激しく揺らし始めた頃、この家の住人が今まさに外出中であることを思い出した。斜め向かいでオレンジジュースを飲みながら炬燵に足を入れている看板娘のリンはすっかり家へ帰り損ねてしまい、今日は仕方なく店に泊まることとなっている。
「これ、傘あってもたぶん帰れなかったよ」
「確かに。それにしてもリンちゃんのお母さん、一人で大丈夫かな。少し心配だよ」
「別に台風とかきてるわけじゃないんだしさ、これくらい平気だって。この雨だってそんな長引かないでしょ」
「ま、それもそうか」
家で一人、娘の帰りを待っていた彼女の母親から連絡があったのは今から十分程前のことだった。突然荒れ始めた天気に気付き、もしやこの雨の中帰路を辿り始めてしまったのだろうかと心配をして店へと電話をかけてきたため、慌ててまだ店にいることと、このまま今日は店に泊まらせることを伝えるとようやく安堵の声を漏らしたのだった。
「ママもさ、これくらいで慌て過ぎなんだよ。あたしもう十三歳だし、そもそもマゴにいがこんな中一人で家に帰すはずないじゃん」
「あはは。まあ……そうだな。そう思う気持ちもよーく分かるけど、リンちゃんもママの気持ち、ちゃんと分かってやりなさいよ。親心子知らずってやつさ」
「何それ、よく分かんなーい……あれ?」
随分と独り立ちをした彼女を側で見てきて、大きくなったなあと会う度にそう思う。初めて会ったあの日の、今にも消えそうなほどに弱々しく、手を離したら二度と会えなくなってしまいそうな小さな存在が、こうも頼り甲斐のある目標を持った立派な女性に成長している。それが誇らしくて仕方がない。可能であればこれから先もずっとリンという家族を見守り支えていきたいとつくづくそう思うのだ。
などと感慨に浸っていると、ふとテレビに映るニュース番組に目が行った。ゲリラ豪雨とも言える天気の荒ぶり具合を、合羽を被ったお天気キャスターが雨風に翻弄されながらその状況を事細かに言葉で伝えている。
「ここ……めっちゃ近くじゃない?」
「やっぱそうだよな? このスーパー、いつも行ってるとこだ」
不思議な既視感はやはり画面に映っているその場所だった。町外れの田舎にテレビの関係者がやってくるだなんて滅多にないのに、まさかのご近所スーパーがこのタイミングで地上波デビューするとは思わなかった。
「あ、え……あれ!?」
なんとなく、店にいつも来ている客やナワバリバトルで知り合った者が誰か一人くらい映らないだろうか、と背景の町並みを凝視していると意外な人物がそこに映っているのに気付いて堪らず吹いた。
「リ、リンちゃん。これ」
「ブフッ! あは、あはははっ! 間違いない、絶対間違いない!」
いた。本当にいた。それも一番身近で毎日顔を合わせている一番よく知っているヤツが、開いた傘を盾にしてどうにか前に進もうと躍起になっている。正直、傘を差したところで体はもうびっしょびしょに濡れている。カメラマンもその存在に気付いたのか、ゆっくりとアップにされた彼の表情はいつになく機嫌が悪そうだった。腕にはビニール袋がかかっており、恐らくあの中身は自分が買ってくるように頼んでおいた柿ピーの大袋が入っているはずだ。
「あ。録画、録画するか」
「だめ、間に合わないからイカホで直撮りしとく!」
「めっちゃ面白いな、この映像」
「千回見ても多分笑える」
「分かる」
どんなに雨が酷くなろうとも傘を閉じようとしないその根性に賞賛を与えたい。しかし、そのせいで風邪を引かれてはたまったものではないと気付いて、なんとか笑いに耐えながらもふかふかのバスタオルを抱えながら、少しばかり早い時間であったけれど今すぐ風呂を沸かすことを決めた。
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