SSおきば
※:性的描写あり25.03.24
ヨリ×マゴ
すき、を再確認する話
https://odaibako.net/gacha/242
風邪を引いた気がする、と気付いたのは、アパートの部屋で一人夕飯の下ごしらえをしている時だった。今の今まで平気だったのに今更になって頭痛がする。かといって、いつものようにバンカラマッチに参加して家賃を稼ぎつつ、街中のインクリングたちから情報を集めているヨリのためにも、飯の用意くらいはしてやりたいという気持ちもあって、とりあえず少しだけ仮眠をしようとベッドに横になった。
(無理、してたかな)
ハイカラシティの近くで営む銭湯は臨時休業をしていて、時たまに帰って開けてはいるが、そっちの仕事に比べたら今の生活は幾分楽だと思うけれど、やはり慣れない調査や知らない他人との交流が増えている分、ストレス的な疲労は溜まっていたのかも知れない。それでも、ヨリのために出来ることをしたいと自分で決めたのだから、こんなことで弱音を吐く自身のひ弱さに今は呪いたくなった。
昔から運動は苦手だ。ヨリはよく一人でサッカーのシュート練習をしたり、シノブによく追い掛け回されていても足が早くていつも逃げきっていた記憶がある。それに比べて、体力もなければ読書や料理に興味を示していた自分はいつも病気がちで、よく熱を出しては二人に心配を掛けていた。それは今も変わらずで、もちろん昔ほど体調を崩すことはなくなってきたけれど運動が苦手なのはあの頃のままだった。
横になった途端、頭がぼうっとしてきて、この感覚も自分にとっては慣れたものだった。この調子だと熱が上がって次第に息が苦しくなっていく。水分を取れば幾分か楽になるが、キッチンまで汲みにいくのも億劫でこのまま寝てしまおうとそっと目を閉じる。
それから何時間経っただろう。少しばかり頭の痛さが緩和された頃、体の熱さのせいで寝苦しくなり、仕方なく重い瞼を開いてみれば、いつの間にやら頭の下の枕が氷枕になっていて、そっと横目でベッド脇を見ると小さな水のペットボトルと薬らしきものが入ったビニール袋が置かれていた。
「あれ……?」
寝ている間に貼られていたのか、額には冷却シートが貼られており、ゆっくりと上体を起こしては物音がするキッチンへと辿々しい足取りで向かうと、そこには先程まではいなかったはずのヨリが珍しくコンロの前に立ち尽くしていた。
「うーん、どんくらい煮るんだっけ……」
「もう卵落としていいよ」
「そうか? じゃあ……って、おい! なんで起きてんだよ!」
どうやら土鍋で卵入りのお粥を作ってくれていたようで、そっと助言をしてみたら自然と受け入れた彼に思わず笑ってしまった。
慌てて溶き卵を鍋へ流し入れたあと、いいからいいからと背中を押されベッドへ押し返され大人しくお粥の到着を待つ。数分後、早く冷めるようにわざわざ小皿へ取り分けたそれをスプーンと共にヨリから手渡され、ありがとうと返すとベッド脇に腰を下ろしては、安心したかのように大きく息を吐いた。
「火傷すんなよ」
「まさかそんな、子供じゃあるまいし……いただきます。あち、あちち、おいし」
「そんだけ食欲あるなら、もう大丈夫だな」
「うん、その、えと。ありがとう」
照れ臭いながら素直に感謝を述べると、おう、とだけ呟いては、風呂に入ると告げてそのまま脱衣所へのそのそと姿を消していく。
(あれ……?)
ふと、携帯電話の画面を見てみると、仮眠を取ってからまだ一時間ほどしか経過していないことに気付いた。てっきり帰ってきて潰れていた自分を見て、慌てて色々と用意してくれたのかと思っていたが、それにしても手際が良すぎる気がする。元々部屋に常備してなかったものも多かったし、恐らく今日買ってきてくれたものが殆どのはずだ。
(うそ、もしかして、朝からもう)
彼は、気付いていたのか。自分自身でさえ自覚していなかった不調を。だから早めに切り上げて、帰る途中で必要なものを買って、それでいて案の定寝込んでいた自分のために手厚い介抱をしてくれていた。この優しさを、世間ではなんと表現するか。
「わ、わぁっ〜〜。どうしよう、やば……俺、ほんと……」
せっかく落ち着いてきた熱が一気に急上昇して、しっかり食べ尽くしたお粥の土鍋と小皿をキッチンへ下げては、潜り込むように布団の中へと飛び込んで、真っ赤に染まった顔を枕に押し付けながら、今はただ声にならない声をそこに吐き出す他なかった。
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