SSおきば
※:性的描写あり16.03.14
ヨリ×マゴ
見なきゃ良かった話
期待など一つもしていなかった。世間で騒いでいるイベント事に疎いというよりは、そもそも年齢的にお互い興味がないといっても過言ではなかった為、先月思わず勢いで渡してしまった手作りのクッキーも人生において最初で最後のものになり兼ねないと心の底では思っていた(来年も、なんて約束は照れくさくて出来たものではない)。
看板娘からは自分の給料(という名のお小遣い)で買った駄菓子のチョコレートを数個貰っていたので、そのお返しという名目でちょっとした寒天ゼリーにみかんの缶詰を乗せたお手軽デザートを作ってあげたら大層喜ばれたので、逆に普段は本当に大したものを食べさせてあげられてないのだなぁ、と謎のマイナス面が浮き出ては少々罪悪感が生まれてしまった。
珍しく一日中バトルに明け暮れていた幼馴染がへとへとになりながら店に帰ってくると、途端に背後から忍び寄られどっと重くなった体を伸し掛けられたので、あまりの鬱陶しさに脇腹を肘打ちすると予想だにしていなかったのか、突然訪れた痛みの衝撃にその場でのた打ち回っていたけれど、ちょうど客の姿が見えたので蹲る彼を放っては番台へと早足で戻った。
そして夜も更け店を閉めた後、コタツに足を入れながらマルベッコーを掛けて一日の仕上げである家計簿を記入していると、ぼちぼちな忙しさで大した会話も交わしていなかった幼馴染が暗い顔を下げながら背後にしゃがみ、自分を後ろから抱きかかえるように座った。腰に腕を回し、両足で挟むように腰を下ろせばぴっとりとくっ付いてきた体がじんわりと熱を伝えて意外にも心地が良い。疲れからなのか、その優しい温かさと何故だかべっとりとくっ付けてくる彼の柔らかい頬が気持ちよくて段々と瞼が落ちてきてしまう。目を擦りながらなんとかその眠気に耐えていると、ぼそぼそと落とされた声が後ろから聞こえてきて、必死にペンを動かしていた手を止めて、ちらりと顔だけを振り向かせるとそこにはすっかり大人しくなった幼馴染がそのままの体制で寝静まっていた。
「随分、気持ちよさそうなこって」
ぐぅ、と安心しきった深呼吸のような長い呼吸を繰り返し、しかし回した腕の力は一瞬たりとも緩める事はなく、寄り掛かるように背中で潰れた間抜けな表情が、なんとも言えない面白さを醸し出していて思わず小さく笑ってしまった。
「…あれ?」
ふと、彼が着ているジップアップカモの左ポケットから何かが飛び出している事に気付き、そっとそこから落ちかけているそれを抜き取った。横に細い長方形がそれなりに洒落ているブルーの包装紙に包まれ、黄色のリボンの巻かれたその箱。一枚のメモに近い手紙のようなものがその間に挟まっており、勝手に開いても良いものかどうかで悩んだものの、まぁ別にいいかと深く考える事もなく、とりあえず箱はテーブルに置いて、先に折り畳まれたものの中身を見てみようと手に取った直後、正直、深く後悔した。
「…はぁー…。これだもんなぁ」
その手紙に書かれていたのは、たった四文字の一文のみだった。一瞬で熱を帯びた頬に戸惑いを隠せず、すぐさま四つ折りにして元の場所に戻した手紙と箱を彼のポケットへと乱暴に突っ込んでやる。襲い掛かってきていたはずの眠気は気付いたら何処かへ消えて無くなってしまっていた。
「…んの、バカヨリッ」
「んがっ」
そんな中、未だ気持ち良さそうに眠る彼の表情を見ては寧ろ腹立たしくも感じ、ぺしんとがら空きの額をそっと引っ叩きながら、最早微かにしか残っていない集中力を掻き集めながら再び家計簿と向き合い始めたのだった。
「うー…あいしてんぞぉ、まごぉ…」
「っ…、あぁもう…! 寝るなら静かに寝ろっ」
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