不本意ながら店を閉める他に方法はなかった。この店の看板娘である彼女は、常連客であるサファリハットのボーイの傍によくくっついては一緒に店へと訪れてくれる幾分か年上の小さなガールと仲が良く、今日はそんな彼女が世話になっているというおにいさんの家へ一緒に泊まろうと誘われ二人で遊びに行ってしまった為、少し寂しいけれど明日の昼までは帰ってこない事になっている。
 夜も更け始めた頃、全ての部屋の電気を消灯し、常夜灯のみで照らされた薄暗い居間の中で二人の影が静かに重なり合ってはじっと動かないままでいる。
 約束なんて、一つもしていない。最近になってようやく自分の居場所として捉えてくれるようになったものの必ず毎日帰ってくる訳でもなく、店を閉める時間になっても一日顔を見せなかったので、今夜限りは一人寂しく静かな世界の中で夜を明かしては温もりのない朝を迎える事になるだろうと思っていたのに、今まさに触れている自分より少し黒い肌の筋肉質な腕が自身を包み込むように抱き締めて、体重を掛けられた体はそのまま薄い布団の上へと沈んでいった。
 敷布団越しに畳の固い感覚さえ感じてしまうくらいの薄さに思わずそろそろ買い替えたいという欲望が頭の中に過ぎるうちに、温かみのある手のひらがフクの裾からゆっくりと侵入している事に気付いて、普段では絶対に見る事の出来ない撫でるようなその優しい仕草にごくりと喉を鳴らした。

「…いい、よな」
「あっ…う、ん。その…大、丈夫、です」
「声が上擦ってんぞ」

 ほとんど差はないはずの年齢、身長、体重だというのに明らかに身の引き締まり方が違う彼に何処となく悔しさが生まれ、にやりと口角を上げながら摘まむように脇腹を撫でるその行動が少々腹立たしい。しかし、彼は彼で目と鼻の先まで寄った余裕のない汗ばむ表情が何とも言えない可愛さを醸し出していて(おっさんに、しかも本人を目の前に可愛いなんて言葉が言える程、自身の精神面は強くない)我ながら侵されてしまっているな、と微笑ましささえ感じる。

「…何笑ってんだよ」
「いや、なんというか、ふふ、くすぐったいんだもん…あ、う、んんっ」

 少し不機嫌そうな顔を掲げながらぐいっと目の前まで身を乗り出すと、かさついた唇にふわりと優しい温もりが重なった。軽すぎずしつこすぎず、ただただ交わるだけの口づけがじんわりと体中に心地の良い熱を伝えていく。

「ふ、あっ…ちょ、っと! お前、なんだそれ…う、んっ…! あ、ははっ」

 顔から腹にかけてこれでもかという程に口づけを散りばめていく様が体中に不思議なむず痒さについ腰を捩じらせる。しかし笑っていられるのも今のうちとでも言うように、徐々に下半身へと降りていく幼馴染の顔を見下ろしながら、まさかと思いつつも軽い気持ちのままでいるとそのまさかの事態にびくりと体を震わせた。

「あっ、ちょっと! それは、さすがに」
「俺がやりたいの。以上」
「う、そ…! う、わぁっ……ん、くっ…」

 眉を顰めた幼馴染を止める暇さえなく咥えられた自身が擦り合うように口内で扱かれ、それに併せて空いた右手で根元の部分から上下に擦り上げていく。どくどくと全身に流れる快感から必死に耐えるように目を逸らして唇を噛みながら強く瞼を閉じた。

「っ…も、い、から…ヨリッ…!」
「んっ…出ひて、ひい」
「い、やだ! そんな、汚いっ…」
「ひたなくにゃい」

 裏筋から亀頭、竿の両サイドに緩急をつけて扱きながら舐められ貪られ続ける感覚と、乗じて押し寄せる波に思わず声を漏らしそうになり、一体どこでこんなテクニックを覚えてきたのかは分からなかったが、あまりの恥ずかしさに頭がぼうっとしている中、むくむくと誇張してゆく陰茎は怒涛の勢いで咥えられたままにその欲望を吐き出していった。

「…っ、く…はぁ、はぁ…。あ、ちょ、それ出して。早く…!」
「もう飲んじった」
「はぁ!? おま…あぁもう、なんで、そんな」
「…ゴチソーサマ。次、俺の番な」

 口の端からだらりと垂れている、最早目も当てられない白濁を腕で拭い、ずりずりと履いていたスパッツを脱ぎ捨ててどかりとその場に腰を下ろした幼馴染が、ちょいちょいと手招きをしてきたので素直に従い立ち膝でずりずりと近付いた途端、すぐさま腕を掴まれてはその勢いで凭れ掛かるように彼の胸の中へと倒れこんでしまった。

「あ、の、これは、どういう」
「…早くこれ、どうにかしてもらわないと、頭ぶっ飛びそうっ…」
「なっ…!? あっ…く、そ、ふざけん…」

 目の前でそそり立つ、自身の萎え始めたものより遙かに太く大きく勃ったその上へ跨るようにジェスチャーで伝えられ、一瞬戸惑ったものの既に腰をがっしりと両手で掴まれてしまい、そのままずるずると引っ張り上げてはびくびくと震えている先端をひたりと後孔へ押し付けられていた。

「ちょっと、待…こ、このままじゃ、俺、死んじゃ…あ、あぁあっ!?」

 彼の腰を前から膝を付き両足で挟むように跨って、不安定な体制故に強く抱き締めながら背中へと腕を回し、突然下半身へ舞い降りた衝撃から耐えるように力を込めて顔を胸元へと埋めた。萎えていた自身が押し寄せるように雪崩れ込んだ快感で再び膨らみを増し、苦しい程の熱が一点に集中して思考を斑に淀んでは溶けていく。

「あっ、ん、やだ、奥、こわ、いっ」
「…っ、しっかり、掴まってろ。俺が、動くから」
「ふ、あ、あぁっ…く、うぅうっ!」

 腰を何度も浮かせては奥まで突き入れるピストンを繰り返し、中で擦れ合う度にびりびりとした痺れが思考さえも真っ白に塗り潰していった。撥ねる水音、ぶつかり合う肌の弾み、そして自分の声と認識出来なくなる程のガールのように高い嬌声に興奮が収まりきれていないのが嫌でも分かった。
 すると、腰に抑えていた腕から解放されたかと思えば、突然胸に押し付けた頬を両手でぶにゅりと潰され、驚いて見上げた先にあった顔の目の前に不満そうに睨む彼の表情を見た。呼吸を荒げながら、しかし意味は分からず無意識に首を傾げてみる。

「っ…あ、の、何…?」
「マゴの、顔が見たい」
「え、あ…ふぁ、ああぁっ!」

 背中に両腕を回されて胸と胸が押し合うくらいに密着したまま彼の上半身が布団へと沈み、そのまま胸板の上へとうつ伏せになるように雪崩れ込むと、するすると首の後ろ、そして後頭部を撫でるように右手が上り、再び重なり合った唇と次第に中へと侵入した下に口内を犯されていく感覚、そして再びぐちゅぐちゅと上下に体を揺らしながら強く抱き締められた。息を荒げようやく距離を置いたその目の前にはとろりと蕩けた茶色の瞳と、互いの乱れた呼吸が混じり合っては空へと消えてなくなっていく。

「ん、うぅっ、や、だっ! もう、むりぃ!」
「……出すぞ、いい、よなっ」
「あっ、つ…んぅ、や、ぁ、ふあぁっ!」

 視界がぐるぐると混じるように掻き回され、中で暴れ回るびくびくと震える男根が爆発しそうになっている事を身をもって感じ、高まる鼓動を欲望のままに彼を受け入れては滅茶苦茶に壊して欲しいとさえ思ってしまう程に幼馴染の全てが欲しいと我が儘にも心からそう思った。

「マゴっ、マゴ…! う、くっ…」
「ふ、ぁっ…ヨリ、あっ、んっ…だ、だめっ! う、くっ…あ、ああぁっ!」

 瞬間、中にあたたかい大きな波が一気に注がれ広がってゆくのを感じ、突き上げられる衝撃とぐりぐりと全てが溶け出した熱いものが真っ白に視界を塗り潰してはゆっくりと夢の中へと意識を飛ばしていった。


***


「………う、んんっ」
「…お。目、覚めたか」

 上から伸し掛かる怠さに横たわったままの体を見下ろす幼馴染を寝惚け眼で見詰める。慣れない体の繋がりに疲弊した自分は思っていたよりも長い時間寝てしまったのか、その間にあれだけ汗ばみべたついた体はすっかりきれいに清められていた。
 ごしごしと目元を擦り、ゆっくりと上半身を持ち上げて体勢を整えると、用意してくれていたらしいミルクコーヒーの淹れられたマグカップを、ん、という一言を添えられながら手渡される。ちょうど喉がカラカラだったこともあり、素直にありがとう、と一言だけを零し、受け取ったカップの縁を口元へ寄せてすっと鼻を掠る香ばしさに浸りながらそのあたたかいものを流し込んでいく。

「…おいしい。よく分かったなぁ、俺が甘いコーヒー好きだって事。飲んだ事無かったろ、お前の前じゃ」
「まっ、野生の勘ってヤツ…っていうのは嘘だけど。そもそも、小さい頃から好きだっただろうが。甘い飲み物」
「…あぁ、そっか。そうだった、かも」

 昔懐かしい深く思い出が残っている、二人が小さい頃に暮らしていた養護施設の記憶を思い出して、玄関口に置かれた自販機の前に立ってはいちごミルクやらホットココアばかりを購入して飲んでいたような、と朧気に残る景色が今ほんのりと甦ったような気がした。それを覚えていた目の前の幼馴染も幼馴染ではあるが、何故だかそれが嬉しくてにやけた表情を白い湯気で隠すようにもう一度ぐいぐいとマグカップに口を付けた。

「…悪かったな、中に出して。一応、やれる事はやった」
「あ、うん。えと、その…こっちこそ、ごめん。色々手間掛けて」
「それは別に構わねぇけど…腹、平気か? 痛くなったらすぐ言えよ」
「あははっ、お前って変なところ心配性だな。大丈夫、そんなの、大丈夫だから…」

 持っていたマグカップを机の上に置き、すぐ傍まで寄ってきていた幼馴染は心配そうな面持ちで子供の頭を撫でるようにそっと頬に触れると、ただただ茶色の瞳を揺らしながらこちらを見詰めていた。
 どうやら今の彼が感じている不安な気持ちをどれだけ柔和しようと思っていても、どうやらそれはどんな言葉を返したところで不可能であるらしい。しかし、こちとら嘘を言っている訳でもない為、何とかして信じてもらう事は出来ないだろうかと、ない頭で必死に考えては静かに深呼吸をしながらそっと同じように彼の頬へと触れた。すると、未だぼんやりとしたままの意識がふわりと浮かび、無意識に前へと身を乗り出しては目の前の乾いた唇へと小さくリップ音を落としていた。

「っ! ちょ、おま…いきなり、何して…」
「あ…なんか、その、ええと…えへへ」
「いやいや…えへへ、じゃなくて」

 ほんの数秒間、重なり合った唇が自然と離れていった直後、不思議とその温かさが名残惜しく感じ、頬を染めたままごくりと息を飲んだ彼の膝に置かれた両手に自身の手を重ねては、照れ臭さを胸の奥へと押し付けつつ、じんわりと熱を帯びてゆく顔を俯かせながらも独り言のようにぽつりと言葉を落としたのだった。

「あ、の…これからもずっと、傍にいて、くれ。その…お前が、好きだ。ヨリ」
「っ…! んの、バカ! 急にそんな…あぁ、くそ!」

   ちょっと、してやったり。この年になって、ましてや幼馴染である彼に告げる言葉がこんなにも甘酸っぱいものになるなんて思ってもみなかった。しかし、胸いっぱいに広がるぬくもりを噛み締めた今、どうしても本人に直接伝えたかった故の幸せのお零れなのだと、一人心の中でそう思い込む事にした。


(2016.09.28)


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