この時点で既に、何かに酔っていたのだと思う。足を踏み入れる度にぎしぎしと唸る古い廊下で不規則に落ちる滴が妙に耳に障った。しとしとと庭の土を湿らせる雨粒を聞きながらコタツ机に広げた家計簿兼売上を記入する帳簿へとペン先を走らせる。そして右隣に使い古された小さな電卓を置いては、次々とキーを指で叩いては画面へと浮き出る数字を慣れた手つきで記入していった。
 本来ならば店を閉じた時に行う作業であったが、天気が荒れている影響なのか人っ子一人訪れる客はおらず、がたがたと建物が揺れる程に吹き付ける強風にこれ以上は望めなさそうだと肩を落としては、早々に諦めては番台から居間へと戻る事にした次第であった。
店の看板娘もこの酷い天候のせいか、店に顔を出しそうな気配はひとつもなく、刻一刻となだらかな時間だけがゆっくりと流れていく。
 居間中に干された洗濯物とまだ温かみの残る色とりどりのおかずが詰められたタッパーが並んだ台所、はち切れんばかりに紙くずや菓子袋が詰め込まれたゴミ袋を倉庫に放り投げ、のんびりと一つ一つこなしていたはずなのに、それでも未だに時計の針は頂点の少し右寄りの数字を指し示していて、忙しさであっという間に一日が過ぎていく日常に慣れてしまった今ではそれが不思議で堪らなかった。
 今、共にこの店に住んでいる幼馴染が、雨の中傘も差さずに近くのコンビニへと駆け足で向かったのは今から数分前の事。番台のカウンターにふかふかの新しいタオルを一つ置いておき、暇になってしまった自分は居間の奥に敷きっぱなしだった布団の上へごろりと体を転がしている。
 窓ガラスに吹き付けては地面へと流れていく雨粒、どんよりとした厚い雲に覆われた辺り一面の空気は暗く重い。それでも耳当たりの良い滴の弾けてはとけていく音がどこか心地良さを齎していて、そっと瞳を閉じればすぐにでも意識を沈められるような気がした。

「…ん、う」

 瞼の裏の真っ暗闇の中。
 遠い何処かで自身を綽名で呼ぶ声が聞こえた気がして重みを増した薄暗さにゆっくりと光を差し込んでみる。木目の荒い天井を背負いながら目の前で見下ろしていた見慣れた褐色に思わず口角を上げ、柔らかさが漂う視界を拭うように腕で目を擦っては、自然に零れたおかえりという一言に彼もつられるように小さく笑った。

「鍵。開けたまま寝るなって、何度言わせりゃ分かんだよ」
「んー…こんなボロ店に泥棒なんて入らないって」
「…そういう問題じゃねぇの」

 大きく欠伸を漏らしながらそう告げれば呆れたように肩を落としつつも、陰の中へと落とすように顔を近づけては自然な流れのままそっと触れるだけの口付けを交わした。ん、と小さく漏れた声は次第に行き場のない息と共に荒く零れ、互いに赤く染まりゆく頬に苦笑しながらも、頭の後ろと布団と背中の間へと回った彼の腕、身を寄せ合うように両脇から彼の背中へと自身の腕をも伸ばせば、肩口へと酷く熱が帯び始めていた顔をぐりぐりと埋めた。
 耳元に落ちる自分を呼ぶ彼の熱い声と、逃すまいとフクが皺だらけになる程に力強く抱き締められた体は既に反応を示しており、赤らめた自身が映った薄茶色と視線ががっちりと相まみえると、そっとその瞳が大きく揺れたその後にゆっくりと頷いては目を細めたのだった。


***


 滅多に買い込む事がないせいか、必要としそうだと思った時に限って不足している現状に気付いた。かと言って急いでいる訳でもなかったのだが不思議と今すぐ買いに出かけないといけないような義務感に駆られ、荒れた天気の中びしょ濡れになりつつあるフクやクツもお構いなしに、財布だけを手に取っては点々と広がる水溜まりを弾けさせては整備されていないがたついた歩道を駆け抜ける。
 店に帰ってきた頃には結局どこもかしこも濡れた状態で思わず小さなくしゃみが飛び出し、重みの増したブラックビーンズを玄関に投げ捨てながら番台の前を通って居間へと向かおうとした時。カウンターに置かれた真っ白なタオルが目について、一人顔を綻ばせながらそっと手に取って濡れた髪をがしがしと拭きながら狭い廊下を抜けていく。
 ガラス戸に当たる雨風の音だけが部屋の中で響き、台所を抜けて居間へと足を踏み入れるも家主の姿は見当たらなかった。便所にでも行っているのだろうか、と踵を返そうとした寸前に奥の居間から小さい呻くような声が聞こえてきて、腹の底から吐き出した溜息と共に襖を開けば、そこにはゆっくりと胸を上下させながら腕を縮こませ、布団の上に横向きで静かに眠っている幼馴染の姿があった。

「…マゴ」

 そう独り言のように呟き声を掛けるも反応はなく、足音を立てないようにすぐ傍へと歩み寄り、腰を下ろしては無防備にも晒された寝顔に思わず真っ白で艶やかな額をがさついた手のひらで優しく撫でていた。そこでようやくこちらの存在に気付いたのか、閉じていた瞼を持ち上げて姿を確認すると同時に自身の影でその表情を隠すかのように顔を近付けてはかさついた唇を押し付けた。

「んっ、うぅ」
「…口、開けろよ」
「あ…っ、は、ぁ…や、んんっ」

 ねじ込むようにぬるりと舌を差し入れ、しかし拒否するどころか受け入れては絡まり合い次第にぴちゃぴちゃと漏れ始めた水音も構わず、自然と引き寄せ合うように背中へと回った互いの腕に思わず口角が上がった。しっとりと滲んだ空気の中で汗ばむ背中と細められた彼の目元、ずいずいとずり上がった手のひらで頭を持ち上げては更に密着した仄かに染まるその表情を食い尽くすようがむしゃらに貪っていく。

「は、あっ、んぅ…よ、り…だめ、お店、閉めてな…」
「っ…こんな天気ん中、客なんかもう来ねえよ。…余計な事、考えてんじゃねぇ」

 そっと唇を離しては彼の上体を持ち上げて、胸の中へと雪崩れ込んだ体とへたり込んでは正座した足を崩して沈む下半身を挟むように両膝を立てた。自然と胸を張るように弓なりに曲がる腰、それを支えるように片手を添えて、ふつふつと奥底から滾る欲のせいか普段よりも艶やかさが滲む幼馴染の雰囲気にごくりと息を呑むと、自分の頬を撫でるように細い手で触れた彼の口元から一言、視線を外したままにとても小さな声が目の前にそっと零れ落ちていた。

「…だったら」
「あぁ?」
「ヨリも今は、俺の事だけ見てて。それって…そういう意味、でしょ…?」

 がっちりと結び合った甘い視線とぶっきら棒にもそうぶつけられた言葉にこれ以上何もしないでいる事など出来る訳はなかった。胸に引き寄せた細い体を端から端まで食らい尽くすかのように、顔を首元へと埋め、たくし上げたハラシロラグランの中で薄い胸、ぴんと張り始めた小さな突起、脇、腹と流れるように口付け、ゆっくりと後ろに数歩下がっては彼のスパッツを脱ぎ捨て、足の付け根、太腿、膝と頭を屈ませては流れるように跡を付けていった。その度に小さく漏れる嬌声と、力が抜けつつある上半身が布団へと倒れ込まないよう必死に肘をついては耐えている様子に思わず笑みが漏れる。そのまま既に反応を示し始めていた幼馴染の陰茎を、根元から掴んではぐちゅぐちゅと音を立てながらゆっくりと上下に扱いていく。

「はっ、あ…そんな、早いの、だめっ」
「怖いか?」
「そ…じゃ、なくてっ…! すぐ、イきたくない、のっ…」
「へぇ…ンな事言えるっつー事は、まだ余裕があるってこったな」

 太腿の内側を外へぐいっと押し開き、より露になったがちがちの陰茎の先、親指でぐりぐりと亀頭を撫で回しびくびくと体を震わせる幼馴染を他所に、舌先を伸ばして太く膨らんだそれを口で咥えながらも手の動きは止めずにじゅぽじゅぽと空気と共に吸い込むように何度も慰めてやる。

「は、あっ…や、だ、そこっ! なめちゃ、ダメ…ぁ、んっ」
「んっ…ひもひいは?」
「あ…う、ん…気持ち、い…っ、ひうぅ! で、出ちゃ…あっ、やぁん!」

 荒く息を漏らしながらも細めた瞳は甘さを醸し出し、ゆっくりと大きく息を吸い込んでは呼吸を整え上半身を持ち上げると、見上げた先にはじんわりと頬を染め眉を顰めながら耐えている幼馴染のその表情が自身の陰茎をむくむくと膨れ上げていった。同時に彼の今にも熱が放出されようとしていた寸前に口を離し、それに驚いたのか一瞬体を震わせて見開いている間に腰を掴み上げ太腿の下へと自身の足を滑り込ませた。そのまま跨らせるように体を落としお互いの陰茎がぶつかり合った瞬間に、ごくりと息を呑みながら怪しく口角を上げる。心の奥から焦燥する気持ちばかりがのし上がり、ぴんと反り立った陰茎を見せつけるように摺り寄せると、意外にも幼馴染は積極的にそれを手で掴み、いつの間にか布団の横に転がしておいたローションを手に取り指に垂らすと、自らの後孔へゆっくりとねじ込んでいた。

「は、ぁ…んぅっ!」
「おい、マゴ…!」
「ちょっと、待って…もう少し、だからっ」

 すらっと伸びた細長い人差し指を沈めるように中へと埋め、入り口から手首へと流れ太腿へと垂れた透明なローションの冷たさにぼうっと沸いた頭が晴れ、慌ててその腕を掴み止めようとするも目の前の幼馴染は首を振るばかりで到底やめる気はないようだった。仕方なしに厭らしくじゅぽじゅぽと水音が撥ねる中、彼の口元から小さく漏れる声に耐えかねて下を向いていると、しばらくして突然に陰茎が温かいものに包まれた事に気付いて一気に目を見開けば、そこには自ら腰を落としては自分の陰茎を彼自身の中へずぶずぶと挿し込んでいた。

「っ、ん…うぅう! は、っ、あ…ん、ふあぁっ!」
「この、ばかっ…あ、っく」

 思わぬタイミングでずぶずぶと押し入っていく欲がごりごりと壁にぶつかる程に奥底へと沈み、壁に擦れ尚更全身へと流れ込んでくる痺れるような快感に声を飲み込む事も許されない。それが嬉しかったのかそのまま身体を跨ぐように膝をつき、ハラシロラグランの裾を掴み引き上げながら上下に腰を揺らし始めていた。抜き差しを繰り返す度に乱れる音と互いの声、そして先端から既にとろとろと漏れ始めている白。してやられているだけでは悔しさを感じ、その膨れ上がっていた彼の陰茎を握っては動きに合わせ片手で扱き上げ、もう片方の手でフクの中へと手を滑らせてぷっくりと浮かんだ胸の飾りを指先で摘まんでは親指の腹で撫で回した。

「やっ、ん! だめっ、今日は、俺が動く、からっ…!」
「何、言ってんだっ…! ぼうっと見てろって方が無理に決まってんだろ、あほ…っ、ん、あぁっ」

 顔の近くまで捲り上げたハラシロラグランを落ちないように裾を口で噛ませ、うつ伏せに倒れ込まないよう必死に腕を掴んでは打ち付けられながらも体勢を保とうとする幼馴染を見ているだけで最早我慢のしようもない状態へと追い詰められていた。

(このまま主導権握れると思ってんじゃねぇぞ…!)

 必死に我慢しているのか、意外にも絶頂を迎えないよう留めている幼馴染より先に欲を放つ訳にはいかないという謎のプライドが沸々と腹の底から生まれて、未だ跨ったまま降りるつもりのない彼の体を歯を食いしばりながら力ずくで押し倒した。その衝撃で挿入されていた陰茎がぶるりと抜け落ちると、不意打ちのせいでふあぁという情けない声を上げながら幼馴染が布団へと背を沈めた隙に膝を付き、立場を逆転させるように倒れた体をそのまま押し付け彼の両足を持ち上げた。

「や、やだっ! 何、して…」
「随分、生意気な事してくれたじゃねぇか…次、俺の番な」
「あっ…うそ、そんな、話が違…っ、あ、ん…ひ、あぁあっ!」

 とうにあった余裕など既に無く、ひくつく後孔へ奥深くへと再び自身の陰茎を挿し込むと、途端に大きく響き渡る嬌声にぞくぞくと震える身体は遠慮というものを知らず、ぬくもりに包まれる気持ち良さに思わず彼の体を抱き寄せる形で左腕を脇の下から潜り込ませ、もう片方の右腕は頭を支えるように後頭部を持ち上げては胸の中へ密着するように抱き締めた。肩口に顔を埋めすぐ傍から聞こえてくる荒い吐息、奥の奥へと押し入れた陰茎が彼そのものに包まれているような感覚に思わず大きく息を吸い込んでは自身の体をより強く密着させるように息を吐きながらずんと沈ませていく。

「……っ、ふぅ…」
「っ、は…ぁ…ヨリ…? どう、したの」

 そんな普段とは違う様子に戸惑ったのか、息が未だに整わない中で不思議そうにこちらを見上げてくる彼に小さく微笑みを返しながら、体は動かさぬままにそっと耳元へと顔を寄せては吐息交じりの声で小さく呟いた。

「…マゴん中、あったけぇなぁ、って…。そんだけ」
「あっ…何、それっ。やだ、恥ずかし…っ、ん、やぁあっ」

 既に染まりきっていた頬がじんわりと赤みを増していき、視線が合うのも照れ臭いのか横を向きぎゅっと瞼を閉じる彼に思わず苦笑を漏らしながらも、熱い頬を撫で頭を撫でてはそのまま顔を引き寄せて貪るように口付けを交わしては、これ以上負担を掛けないよう動かした腰の動きを少しずつ速めていった。

「あっ、ん…うぅ! っ…もっと、ヨリが欲し、っ…お願…ぁ、うぅっ!」
「っ…、一緒に、イこうな…!」
「…ふ、あぁっ! 中…そんな、おっきくしたら、だめっ…だめぇっ! や、ぁあ…ひ、あぁあっ!」

 ぱんぱんと薄い臀部の肉へと腰を打ち付け、奥底から勢い良く中へ溢れ出した熱と同時に彼の陰茎から飛び出した白濁が上半身へと散り、細い体から滴るように流れてはしわくちゃになった布団へ大きな染みとなって広がってゆく。ぽたぽたと首元から落ちていく汗と、大きく息を吐きながら抜いた後孔からは自身の吐き出した熱があまりの量の多さにぽたぽたとおちる音と共にだらりと纏わり付き、それを見上げた幼馴染が小さく笑っては静かにその灰色の瞳を瞼を落とし隠していく。

「は、ぁっ…はぁ、あ、ん…」
「…トキ」
「……ね、ヨリ。こっち…来て…」

 数枚引き抜いたティッシュで乱雑に汚れた陰茎を拭っては、指で目を擦り辛そうに上半身を持ち上げながら腕を伸ばす彼に溜息をつきながらもその手を取り、枕をくっ付けては寄り添うように横になればどこか安心したかのようにとろりと顔を綻ばせ、そのまま静かに意識を沈めていった。

「アホ面かましやがって…このっ」

 なんとなくそのまま逃げられてしまうのが腑に落ちずに、真っ白な額へぺちんと指を弾かせると、んあっと情けない声が寝ぼけたままに飛び出して一人で小さく笑った後、体を重ねている間にぐちゃぐちゃに丸まった掛け布団を足で引っ張っては手に取り、体がはみ出さないよう適当に掛けてやっては自分もその中へともぞもぞと入り込んでいく。本来ならば体を清めてからひと眠りしたいところだったのだが、どうやら今まさに掴まれている腕が解放される様子はなく、無理に振りほどこうとすれば怒りを買う事になるであろうと肩を落としては仕方なく観念する事に決めた。


(2017.05.02)


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