ハイカラシティから二駅分程離れた町の外れに佇む、空へと伸びた大きな煙突とその足元には昔ながらの古い家屋兼、歴史のあるようでないような銭湯がそこに建っている。亡くなった祖父から受け継いだこの店で、その孫である自分が一人暮らしを始めてから十年以上も経過し、単調な生活習慣と共にあっという間に過ぎてゆく時間に流されていた最中。自身の年齢が三十五歳を迎えた昨年は人生のメインイベントを一気に体験してしまったのではないかと思ってしまう程に様々な均衡が一気に崩れた末、人生三十六回目の冬をついに迎えては現在に至る。
今となっては店の看板娘でもある、突然に両親とはぐれ一人ぼっちになってしまった幼子リンとの出会いと、十五年もの長い間行方不明になっていた幼馴染のヨリとの再会、そして同性であるにも関わらずそんな彼とまさか恋仲になってしまうとはその時ばかりは想像をしてもおらず、様々な苦悩を経た先で二人暮らしをするようになって初めての冬でもあった。
若い頃からナワバリバトルに興味がなく、最近になってようやく手に馴染むらしいホクサイ・ヒューを振り回している、まだまだウデマエの低いそんな幼馴染と共に使い慣れたバケットスロッシャーでサポートをしながらバトルに挑む日々にも慣れ、それと併せて営んでいる店は常連客はいれど、経営難には変わりない銭湯で無事に新年を迎える事が出来た事は大変喜ばしく、多大なる安堵に思わず胸を撫で下ろしている。
そして、大晦日である今日。無事に再会を果たす事の出来た母親と共にアパートで暮らしている看板娘と夕飯を店で一緒に食べたものの、明日は二人で朝早くに初詣へ行くと笑顔で報告しつつ嬉しそうに帰っていくものだから、そんな彼女を引き留める術など自身には在らず。致し方なくいつもの通り、年越しの夜は幼馴染と二人で過ごす事となった。
「…ねぇ、ちょっと」
店の奥にある居間のど真ん中に置かれた炬燵に足を入れ、その向かいで珍しく頬を赤らめテレビに映るお笑い番組を見ながらけらけらと笑っている幼馴染に声を掛けるも、聞こえていないのか応答は無し。正月だからと言って倉庫の奥底へと眠らせていた酒瓶を引っ張り出してしまった時点で最早手の付け所もないと思ってはいたものの、覚えているかぎりでは彼も決して酒に弱い訳ではなかった為に少々戸惑いを隠せずにはいた。
「顔、真っ赤だけど。大丈夫なの?」
「あぁ? へーきへーき。ちゃんといつも通りの俺、だっつーの」
「はぁ…そうでごじゃますか」
今日は店を閉めたままで日頃の忙しなさもなく、看板娘も交えて一日中ゆっくりと過ごす事が出来たからか、どうやら機嫌も大層宜しいらしい(その証拠に取っておいた好物の抹茶アイスをぺろりと平らげては、再びテレビへと視線を向けて緩んだ顔を綻ばせている)。
(…今日くらい、好きにさせておくか)
酔ってはいるものの眠気はないらしく、といえど昼間から今の今まで普段通りに家事をしつつ、看板娘の遊び相手となっていた自分としては少々体がお疲れ気味のようで、今にも横になれば睡魔に襲われそうな状態であった。それなりに年を重ねた幼馴染を放置したところでそのうち勝手に布団の中へ潜り込んでくるだろう、と考えた反面、このまま炬燵で寝ないでくれよと心の中で祈りながら、未だちびちびと盃を啜る彼を他所に奥の寝室へ入るとそっと襖を閉めたのだった。
***
実際に時計を見た訳ではないので正確な数字は分からないものの、体感のみで判断するならば恐らく意識を沈めてから二時間程は経過していると思う。
新しいものには疎い自分が珍しく最近変えたばかりの、巷で若者を中心に流行している髪型でもある輪郭に沿うように前へ垂れた一本のゲソと、生まれつき他人よりも少々長めの二本ゲソを頭の後ろ、首よりも下へ下ろすように纏め、自然と年相応な雰囲気を醸し出してくれている今のスタイルは自分の中で密かに気に入っていたりする(時々面倒臭くて今まで通り全ての髪を一つに纏めてしまう事も多々あるけれど)。
さすがに床に就く時はヘアゴムを外してだらりと枕から垂らしたまま寝るようにはしているものの、面倒くさがりらしい自分は留めたまま朝を迎え、ただでさえ若々しさのないゲソにゴム跡が付いてしまう事も日常茶飯事である。
おそらく年が明けているのであろう新年の夜更け。疲れが溜まってはいたものの左手首にきちんとヘアゴムがきちんと嵌っていたので、寝惚けながらも縛っていた髪をきちんと解いてから寝たのだろうな、などとそんなくだらない事で自分を褒めてはみたものの、実際のところ今現在そんな事をしている場合ではない。
こんな夜中に目覚めてしまった理由は間違いなく、横向きに眠っていた自分の体を背後から包み込むように伸びている見慣れた褐色肌のこの腕。居心地の良い体温から離れられなくなったのか、人が寝ている布団の中に潜り込んできた幼馴染の胸元に自身が抱き込まれている状況に今まさにあるというのは瞬時に理解する事が出来た。
「っ…ちょ、っと…ヨリッ」
相変わらず全裸で寝る習慣はそのままに、故にスパッツ越しといえど嫌でも伝わってくる下半身の熱に思わず息を呑む。
眠っていた間に枕と頭の隙間に潜らせていたらしい、真っ白な肌である自分のものとは正反対の褐色肌である右腕。そして腰を撫でるように滑らせた左腕が胸元へと入り込み、その指先で既にぷっくりと立ち始めていた突起を焦らすように撫で回し始めるものだから心底居た堪れない。そして、嫌でも分かる程に熱くなってゆく頬と、不規則な動きでぐりぐりと押し込まれる度にびくびくと震えてしまう、あまりに正直すぎる自身の体の奥底から沸々と溢れてくる熱で次第に呼吸が乱れ始めていた。
「…何だよ、いつもより随分声出てんな」
「だ、誰のせいだと思…っ、や、やだ! だめ、放せって!」
器用にも布団の中でもぞもぞと体勢を立て直し、ぬくもりに包まれながら体を起こした幼馴染は驚いて仰向けになったところをチャンスとばかりに覆い被さるよう腕を立て、こちらを見下ろすその表情は、酒が抜け切れていないのかほんのりと頬が赤く染まり、想像していた以上に蕩けた瞳とそこから落ちる優しい視線に思わず素面のはずの自分まで熱に浮かされそうになっていた。
「し、新年だからって…ちょっと、我儘が過ぎるんじゃないの?」
「んなの関係あるかよ。悪ィけど、そういう所は自分に正直だかんな、俺」
「…自慢になってない、それ」
普段であれば意地悪そうににやつく場面だというのに、今回に限って目を細めては異様に温かい視線を送ってくる彼の微笑みにぐうの音も出ない。
着ていたFCジャージーのファスナーをゆっくりと下ろされ、次第に露わとなっていく自覚をする程に薄い胸元、その上を滑るように撫でる褐色の手のひらからじんわりと伝わるぬくもり、そして同時に首元へと顔を埋めた先からくんくんと匂いを嗅がれ、恥ずかしさで思わず頭を押さえると、それを無視して鎖骨の辺りに跡が付いてしまうくらいの強い力で口付けられていた。
「んっ、も…酒、くっさ! 寄るな、アホ!」
「あんだとぉ? 新年早々、そんなひでぇ事言っちゃうヤツは…こうだ!」
「は? …ぁ、そこ、だめ…っ、や、ぁ…ひ、うぅうっ」
そこはかとなく鼻に障るアルコール臭に目を細めると、彼の視線は顔の脇へだらりと垂れた一本の髪へと移り、その先、インクリングであれば誰しも内側についているぽっこりと浮かんだ吸盤へと吸いついては、そのまま貪るように舌で舐め何度もリップ音を響かせる度にびくりと小刻みに体が震えた。
そして、手のひらの中で髪そのものを揉み下すようにむにむにと握られながら、もう片方の手の指先でぷっくりと胸元に浮き立つ飾りも摘ままれ、思わず我慢出来ずに口元から零れる自身の甘い声で両頬に熱が帯びてゆく。
「…あーあ、腹減った」
「っ、さっき年越しそば食べたばっかりじゃん。この、くそ燃費」
「そう怒るなって。仕方ねぇだろ、好きなもんは最後にとっておくタイプなんだから、よ」
「何それ、どんな言い訳だ、っ…ん、うぅ」
そんな中で零された彼の一言に眉を顰め、小さく溜息を吐きながらそっと体から力を抜き身を沈めた途端、落ちてきた口付けに声が漏れ、ぬるりと口の中へ侵入した彼の舌と絡み合い、ぴちゃぴちゃと居間に響く水音が次第に脳内を支配していった。
ぴりぴりと奥底から生まれる痺れのような刺激から逃げようと腰を捩じるもすぐさま彼の腕に捕らえられ、その際に顔の脇へ垂れた髪が無意識にもシーツが皺になる程に掴んでいた手と重なり、いつの間にかくすんだ自身の群青色が彼の色である濃い深緑に染まりつつある事に気付いて思わず目を逸らした。
「は、ぁあっ…それ、触るのやめてっ…こそばゆい…!」
「気持ちいいの間違いだろ? 下、もうこんなになってる」
ぺろりと唇を舌で舐め、眉尻を下げながらゆっくりと手のひらでスパッツ越しに撫でられる下半身は窮屈そうに既に誇張していた。太腿を閉じて隠そうとするも手慣れた動きで剥がし取られては、ぶるりと姿を現したそれは最早直視できない程に強くそそり立っていたのだった。
最低すぎる、と文句を零す間に初めからフクを着ていなかった幼馴染(彼は寝る時、普段から常に全裸である)の顔が見えなくなったかと思えば、足の付け根から太腿にかけていくつもの口付けを落とし、その最後に立ちはだかっている陰茎をあろう事か口に咥え、じゅぽじゅぽと水音を強く立てながら空いた右手で根元を握り上下に扱き始めていた。
「あっ…ん、も…っ! ばか、この…酔っ払いっ」
「ん…ふなおになえよ、こにょいりっぱり」
「く、咥えながら喋るなっ…ん、ぁ、やぁあ…! そんな、やだっ…も、出ちゃ、あっ…ん、うぅっ!」
腹の底からどくどくと熱が湧き出そうになったその時、突然ぬくもりに包まれていた感覚から解放されたかと思えば、根元は握られたままに空いた片手で右足首を掴み上げられた。そのまま自然と彼の目の前で露となった、自身の陰部に宛がわれた血管の浮き立つ陰茎にごくりと息を呑む。
「あっ…う、お、おっき…」
「そうやって煽んなって、いつも言ってんだろっ…!」
「え? 何、そ…っ、あ…うそ、待って、まだ後ろ慣らして、な、っ…ぁ、ひ、あぁあっ!」
ふと視線を布団の脇へと向けた時、用意していたのか買っておいたらしいローションが転がっていて、てっきりそれを使って中の滑りを良くするのかと油断をしていた事もあり、我慢がならんとでも言いたげに突然押し入れられた幼馴染の陰茎が、突然ずぶずぶと肉壁を破くように入ってきたものだから危うく意識が飛んでしまいそうになった。
一瞬ホワイトアウトした視界がぱっと弾け飛び、既に先から漏れ始めていた白濁が少しずつ中に充満して滑りが良くなったのか、何度も腰を前後に動かす度にぐちゅぐちゅと中で擦れる水音と、その度に体全体へと電撃のように走る快感に沈んでいた背筋が弓なりにしなってゆく。
「はっ、あ…んうぅっ! だめ、深…っ、ぁ、やぁ…奥、ぶつかって…っ、あ、あんっ!」
「っ、く…はぁっ、ど、した…! 何が、ダメ、なんだよっ」
「い、やだっ…ぁ、ひ、うぅ! も…無理、だってばぁ…!」
「あぁ? …へー、それならもうやめるしかねぇよなぁ」
自制が効かず次から次へと自身から溢れ出す甘い声に羞恥心が高まって、気付かぬ間に溢れていた涙を振り払うように首を振って拒否してしまっていた。しかし、その反応を見た幼馴染がどうやらご機嫌を損ねてしまったらしく、にやりと口角を上げながら意地悪くも奥の奥まで押し込んでいた自身の陰茎をゆっくりと抜き取ろうとするものだから思わず慌てて彼の腕を掴んだ。
「待って…っ」
「あんだよ、もう無理なんだろ。優しい俺がやめてやるって言ってんだから、素直に甘えとけ」
「う、うぅうっ…この、ケチで意地悪なポンコツコゲコゲおじさんめぇえ…!」
「お前こそ、素直じゃねぇツンデレおっさんだろうが…ったく。おら、たまにはちゃんと言葉で言ってみろよ。今のお前が欲しいもの」
珍しく自信あり気にそう言いのけた彼に今抱いている自身の気持ちを見透かされているようにさえ感じて、上がる息と共にじわじわと熱く火照りゆく顔、そして目の前でがっくりと肩を落としつつも自分の素直な言葉を今か今かと待ち侘びている幼馴染に対して、向けられている視線に合わせるよう意を決して顔を見上げてみる。すると、その先でぶれない薄茶の瞳に移り込んだ自身を見つけては、途端に照れ臭さで今にも目を逸らしてしまいそうになり、勢いのままに慌てて吐き出した声は細めていた彼の目を見事に見開かせていたのだった。
「っ…も、もっと、いっぱい、ヨリが、欲し…です。くだ、さい…っ、ぁ…う、わぁあ!」
目頭が熱く滾るまでの恥ずかしさに、ついにがっちりと合っていた視線を咄嗟に外してしまったその直後。
固まって動けずにいたはずの彼の顔が急激に目と鼻の先まで接近している事に寸前まで気付かず、反抗をする間もなく訪れた息が出来ない程の乱暴な口付けと、掴まれた片腕をそのまま布団に縫い付けられては再び上半身ごと押し倒されていた。
「ん、う…っ、ヨリ…? どうし…」
「ほんっとに、お前ってヤツはよ…! そこまで言うならお望み通りたっぷりくれてやるっ!」
「ま、待って…! そんな、中…おっきく、なって…ぁ、や、あぁあんっ!」
目を細め自身を見下ろす幼馴染の表情はどこか照れ臭そうに頬を火照らせていて、あれだけ強気に攻めてきていたはずの数分前の彼とは打って変わって垣間見える可愛らしい表情(言葉では絶対伝えられるはずもないけれど)に胸の奥がどくりと唸り、放心している間にまだ中で疼いていた熱が一気に膨れ上がっていく。
「っ、は…っ、く! マゴ、マゴッ…!」
「ひ、うぅっ! は、あん…っ、だめ、も、出ちゃ…ぁ、ひあぁあっ!」
臀部へと打ち付けるように腰を前後に動かし、先端がごつごつと奥へとぶつかる感覚を帯びながらぽずぽと侵入されては、今にも溢れそうな程に膨れ上がる陰茎がぐいぐいと壁を押し広げ、その度に体全体へと走る電流のような強い快感で反射的にびくりと腰が浮いた。
そして、枕に沈む自身の頭の下へと潜り込んだ手と腰を持ち上げる手が捩る体を密着させ、より一層深い底で交わり擦り合う中でついに決壊した彼の欲にじんわりと身も心も満たされていく。止める事など出来るはずはなく、自身の先からも抑えていた欲が勢い良く外へと溢れ、脇腹から垂れた白濁が布団に染み込んでいくと共に視界が柔らかくぼやけていった。
「あっ、あぁ…は、うぅ…あ、つい…っ」
「ん…っく、はぁっ、はぁ…。わりぃ…中、出しちまって…」
全てを出し切ったその後。随分と酔いが覚めたのか、ふと冷静な顔つきで既に意識が朦朧としている自分を見下ろし、眉尻を下げ、らしくもなく心配そうに汗ばむ額を撫でてきた幼馴染の呼吸がまだ整っていないのを他所に、何故だかその焦燥とした様子が可笑しくも感じて無意識に小さく笑みを零していた。
「っ、な、何…笑ってんだよ」
「んー、何でだろ…。自分でもよく分かんないけど…その、なんというか…幸せだから、とか?」
「……はぁ。正直なところ、お前にゃ一生敵わねぇ気がしてきたな、真面目な話」
「はぁ? 突然、何言…っ、ちょ、ちょっと! ぐえぇ、重っ…」
これでもかという程に大きく、且つ重い溜息を肩と共に落としては、疲れましたとでも言いたいのか、未だどくどくと騒ぎ立てる自身の心臓の上へと俯せに凭れ掛かるよう体を沈ませてきたものだから心臓に悪い。
ようやく落ち着いてきたはずの鼓動が再び躍動を始め、あまりの距離の近さにばれてしまう訳にはいかないと瞬時に息を顰めれば、焦る自分とは裏腹についに体力が尽きてしまったらしい彼の口元から規則的な小さな寝息が聞こえ始め、ただ一人振り回された結果となり、やれやれと眉尻を下げながら溜息を漏らしたのだった。
「…おやすみなさい」
***
「何も覚えてねぇ」
「ふ、ふざけんな…もうお前の顔なんて見たくないわ、バーカ
バーカ!」
一年の中で実におめでたい日である元旦、朝。お祝い行事だからと理由を付けて久しぶりに飲んだ昨夜の酒はあっという間に全身を巡り、視界が少々歪む程には飲み明かしてしまった自覚はある。その後、いつの間にやら先に就寝していた幼馴染の側へと寄り添ったところまでの記憶は残っているものの、如何せんその先が真っ暗闇に潰れてしまっているものだから我ながら情けない。
そんな経緯を悪気もなくぽろりと零してしまったものだから、案の定幼馴染のご機嫌は頗る悪く、まだ太陽も昇り切っていない時間帯から受ける叱咤はなかなか心にくるものもあり、必死に頭を下げ額を畳へ擦りつける程に許しを請うた後にようやく会話を交わす許可を得たのだった。
しかし、向けた視線は合わせてもらえない、どんなに話題を振っても素っ気ない返事ばかり、店の準備など午後からでも間に合うというのに側にいたくないのか早すぎる風呂掃除が始まり、戻ってきたかと思えば丁度いいタイミング(自分にとってはバッドタイミングである)で終わったらしい洗濯物を胸に抱えながらすぐ隣りを素通りしては縁側のある庭へとひとり出て行ってしまった。
(これは謝るだけじゃダメなヤツだ…)
今日だけで済まされるレベルの危険度ではないかも知れない、と思い立っては吉日。湿ったフクの端と端を掴み、パンパンと音を立てて皺を伸ばしては慣れた手つきでハンガーに掛けると、物干し竿へとどんどん引っ掛け干していく彼の背後へ気配を悟られないようゆっくりと近付いていく。
「あ…そうだ、ヨリ。今日の昼飯なん、だけ、ど…っ!?」
まだ冷たさの残るロッケンベルグTブラックを胸に抱えながら、不意に何かを思い立ったのか、自分に話し掛けようと幼馴染が振り向いたその直後。
今しかないとすぐさまその左腕を掴み、空いた左手を腰に回しては急激に詰まった彼との距離と、その先でようやく綺麗な灰色の瞳と視線が交わったその瞬間だった。
「んっ…!」
噛み付くように奪った唇、重なり合うその隙間から漏れた甘い吐息と声にどくりと心臓が唸るも、これ以上失敗を犯しては身も蓋もない為、腰を捻り逃げ出そうとする体を引き寄せては、腕を掴んでいた右手を後頭部へと背を撫でるように移動させていく。そのまま離すまいと押さえ込むように力を入れ、息苦しいのか僅かに空いた隙間から舌をぬるりと入り込ませ、彼の口内でぴちゃぴちゃと厭らしい音を立てながらゆっくりと絡ませていった。
「ぁっ…ん、やら、待…!」
「……これで、どうにか!」
「は、ぁ…はぁ、この、アホッ…! 朝っぱらから何すんじゃあボケ!」
「い、でぇ! ちょ、待っ…ごめ、ごめんて! ほんとにごめんなさぁい!」
気が済むまで彼を堪能し、ようやく一歩下がっては彼との距離を置いたその後。目の前にあった表情は真っ赤に頬が染まっていて、明らかに息苦しさのせいだけではなく、どうやら驚きと照れ臭さが一気に頂点を迎えたせいか目元にはぷっくりと涙が浮かんでいた。
もしやこれは最大のチャンスなのでは、とすぐさま目の前で手のひらをすりすりと擦り合わせながら懇願するも、結果は上記の通り、再びお怒りの言葉を頂きながら股間を蹴り上げられるという散々たるもので終わり、その後も立て続けにご機嫌取りを失敗してはついに一週間お触り禁止令というあまりに重すぎる刑を下される事になったのだった。
(2018.3.25)
← →
‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐
★