「…っ」
「た、確かに、王様の命令は絶対、だけど…その」

 もうすぐ日付が変わりつつある夜更け。現在地、相方である彼の住む古いアパート。そして、二人が座るリビングの真ん中に鎮座されている黒のソファーベットの上で、今まさに黒のスパッツを膝上まで下ろし、正座する自分の目の前で彼が息を荒くしながら自身の陰茎を手で握り上下にゆっくりと扱いているという、稀に見ない複雑な状況に至極頭を悩ませている次第である。

(どうしよう…こ、興奮してきた…)

 なんだかんだで彼とは長い付き合いになれど、さすがにこの目で拝見した事のなかったあられのない姿にごくりと息を呑みながら静かにその様子を眺めつつ、しかしあまりに目のやり場に困ったものだから、別の事を考えて冷静さを取り戻そうと今日あった出来事を必死に頭の中で思い出していた。


***


 本当は今日、彼のアパートに泊まる予定はなかった。いつものより早目にナワバリバトルを切り上げ、帰り道で夕飯の献立を考えながらスーパーに買い出しへ行き、今夜はゆっくり家で炒飯でも作ってのんびりするつもりだった。ところがそのスーパー内で何故だか先程別れたばかりの相方とばったり遭遇し、まさかお互いに同じ店へと向かうとは知りもせず、こんな事なら一緒に帰れば良かったなぁ、と零したところで瞬時に返された言葉が、泊まっていかないか、との一言だった。
 結局自分の買い物は後日する事に決め、買った荷物を半分持ちながらそのまま彼の住むアパートへと向かい、シャワー上がりに味わった舌に合う久々の手料理に頬が落ちそうになった。そこから何故だか調子づいて、たまたま冷蔵庫の中に放置してあった酒類を飲んでしまおうという話になり、お互い強くもないクセに負けじと缶を空けてしまったものだから性質が悪い。
 そんな中、たまたまテレビで流れていたバラエティ番組で数人の出演者が王様ゲームでおもしろおかしく遊んでいた映像を見ていた彼が、絶対に興味のないと思っていた彼がまさか、二人でやろうと誘ってきたものだから、今現在のような取り返しのつかない状態へと陥ってしまったのだった。

「二人でやっても、面白くないと思うけど…」
「なんだ、負けるのが怖いのか」
「そうは言ってないだろ。その、別に、嫌なワケじゃないし」
「なら、決まりだな」

 お菓子の空き箱にたった二本のチラシを引き裂いたクジを放り投げる。何せ参加者が少ないので、クジにフク屋のチラシであるボンボンニットの写真(定価から三割引きという財布に優しい値段で売られるようだ)が載っている方が王様、そしてハズレを引いた方に命令が出来る、という互いに相談をして決めた特別ルールで行う事になった。
 クジ運は然程悪い方ではない。かといって、良いという訳でもないが。箱の中身が見えないように蓋をして、その隙間から同時に手を挿し込み掴んだそのクジを、せーの、の一声で引き抜いた。

「おっ…やった!」
「…チッ」

 結果、ボンボンニットクジを引く事が出来たのは自分だった。悔しそうな表情を浮かべ、横目に睨みを利かせてくる彼の視線も構わず、こんな機会などまずないので自分に有益な命令を、酔いの回った頭で必死に考える。しかし、いざ考えてみるとなかなか思いつかないもので、小さく唸りを上げながらじっくりと頭を悩ませている中。

*(あっ…そうだ。アレがいい。むふふ)

 ふと、頭上に浮かんだナイスなアイディアに一人ほくそ笑む。とはいえ、冗談交じりの考えであり、彼に拒否をされたら大人しく別の命令にしようとこの時ばかりはそう思っていた。

「決まったならさっさと言え」
「あの、ええっと…もしよろしければ、なんですけどぉ」
「だから、何だ」
「…俺の前で、その…イくまで自慰、とか」

 ぎろりと目を細めていた彼の目が、その言葉を聞いた瞬間にかっと開き、命令しているこちらの方が少々びびってしまい体を縮ませてしまった。やはり調子に乗り過ぎているその内容に、さすがに彼の怒りを買ってしまっただろうかと咄嗟に顔を隠して視線を外した両手の平を恐る恐る解放すると、意外にもそこにはいつもと同じ、しかし寧ろその方が怖いとさえ思う程に冷静さを保つ相方がじっとこちらを見詰めていた。

*「あの、えと…じょ、冗談だからな? 酔った勢いでなんか言っちゃったけど、そ、そんなの誰だって嫌だよな! そうだな! ごめんごめん、やっぱり別のに…」
「それでいい」
「うんうん、それでいいよな…いいの!?」

 自分から提案しておいて彼の返事に疑問を持つのはおかしいという事くらい重々承知しているのだけれど、今回ばかりはさすがに何を言っているんだコイツは、と心の底から思った。他に人がいる場所で自慰をするなんて、常人には耐えがたく考えられない状況でしかない。自分とてやれと言われても絶対にやらない。強要するものならばとりあえず一発顔面を殴る。それほどに恥ずかしく、人前でやるような行為ではないと彼も分かっているはずだというのに、この男、聞き間違いでなければ確かに了承の言葉と共に軽く頷いている。

「…その代わり、命令したオマエはちゃんと俺がやり通すまで見届けろ。それが条件だ」
「え、えぇえ〜」
「当たり前だろ、そんなの」
「は、はぁ…」

 ここに来て初めて、冗談でもそんな命令を彼に下した数分前の自分を酷く呪った。言われてみれば、自慰をする彼を最後までじっと見続けていなければならない自分もある意味では罰ゲームなのではないか、と今更気付いたところで時すでに遅し。
 さっそくとでも言うように邪魔になるジップアップカモを脱ぎ、颯爽と膝上まで黒のスパッツと下着の黒いパンツを同時にずり下げ、背もたれへ肩を預けるようにこちらを向いては膝を立てて座り込む。すると、彼は何の躊躇も無く、足の間から見えている自分のものよりも遥かに大きいそれをゆっくりと扱き始めた。

「…絶対、目、離すなよ。いいなっ…!」
「う、うぅうっ…そ、そんな事、言ったって…」

 次第に熱くなっていく顔に耐えながら少し離れたところで眺めていると、空いた左手に腕を掴まれ、ずりずりと更に近いところまで体を引き摺るように寄せられ、両足に挟まれるような形で正座をし、目と鼻の先でむくむくと膨れ上がっていく自身のものより遥かに大きいそれにごくりと喉を鳴らした。

「っ…どうした…。そっちまで、大きくなってるぞっ…!」
「…ち、がうっ…うぅ、そんな訳…」
「俺は、オマエに見られながらするの、結構…興奮するけどな…っく」
「ちょっ…! あぁもう、何言ってんだよバカ…!」

 あまりに言葉の通り、視線を落とさなくてもわかる誇張ぶりにまた違う意味で顔が熱く火照り始める。その時、自分でも恐ろしいくらいに止める事の出来ない欲が腹の底から沸々と湧き上がっていた。無意識なままに口を開け、むしゃぶりついてしまいそうになる程に。

「おい」

 胸の内に隠しておく事もままならず、それを察してか、にやりと口角を上げ怪しい笑みを零した彼は、今にも爆発しそうな自身のそれを前へ突き出し、あろう事か耳元へ顔を寄せ一言、浮ついた声でそっと呟いたのだった。

「…もう一つ、命令させてやってもいい」
「っ…!」

 今の心境を見透かしているかのように自信満々にそう告げる、ぞわぞわと体が震える程に熱の籠った甘い声に心臓がどくどくと震え始め、既に履いているスパッツを押し上げるように反り立った陰茎を剥くように揉みしだかれた。

「俺が何を言いたいか、分かるか」
「ひっ! んっ、あぁもう、やめろよっ!」
「早くしろ、じゃないとオマエの顔にぶっかけるぞ」
「ちょ、待って! 分かった、言うから、ほんとに、やめっ…ん、あぁあっ…!」

 手首を掴んで剥がそうとしてもそれなりの力が込められているその左手は生半可なものでは外れる事もなく、こちらが条件を飲むまでは容赦なく扱いてくるつもりであるらしい彼に仕方なく観念し、恥ずかしさを腹の奥に押し込めながら、喉元でつっかえていたあまりに口にしたくない言葉をぽろぽろと弱々しく紡いだ。

「………て、くだ、さい」
「声が小さい、やり直し」
「うぐ、ぐ…くっそ、オマエなぁ!」
「早くしろっ…! もう、持たん」
「ち、くしょ…えと、その…くっ、口で…させて、くださいっ…んの、バカッ…!」
「…よく、出来ました」

 真っ赤になっているであろう、顔を俯かせながら吐いた言葉に小さくそう答えた彼の表情は、絶対に酒の力だけとは思えない程に蕩け淀んでいたはずの瞳に強く灯るような力を感じた。びくりと体を震わせている間に、そっと額を優しく撫でられたかと思えば、その直後に獣のように首根っこを掴まれ、上半身だけを低く頭を下げるように屈められれば目の前には怖い程にそそり立った彼の陰茎が立ち塞がっていた。


***


 普段は絶対に見られない行動を、例え見てみたいと心の何処かで思っていたとしても、突如半ば強制的に見せられてしまうというのは非常に心臓に悪いものだと、先程の出来事でよくよく理解した。
 お互い酒には弱い事を熟知してはいるものの、ここまで開放的になる互いが末恐ろしいとさえ思える。特に深くは考えずに提案し、暇潰し感覚で始めたはずのゲームの行く末は散々たるもので、今まさにはち切れんばかりに苦しさを主張する自身の陰茎を必死に咥えては、息の漏れる声といやらしい水音を立て、吸い上げるように上下に扱いていく。

「んっ…う、ふっ…んんっ」

 初めてこの行為を始めた時はなかなか上手く事が及ばず、ただでさえ負けず嫌いである彼がよく、イけるようになるまで何度でもやってやると啖呵を切っていた頃を思い出してはこっそりと陰で苦笑した。今となっては慣れたもので、特別秀でているという訳ではないものの、少しずつ勝手が分かりつつあるのか、柔らかな刺激がじわじわと全身に流れていくのが分かった。
 額を撫でてやればぶつかる視線と、普段よりも細められた瞳がふわふわと浮かび、結った二本を留める黄色のゴムをゆっくりと外してはだらりと顔の脇へと垂れた。

「…もっと、奥まで、いいか」
「ふ、ぁ…あっ、ぐ、ううぅうっ!」

 腰を突き上げ喉元近くまで押し込むと、息の詰まる声が聞こえるも引っこ抜く素振りは見せず、両手を重ねるように握り、眉を顰めながら何度も出し入れを繰り返しては亀頭を回すように舌先で舐め、貪るかのようにその裏へ舌を滑らせ再び喉の奥へと突き刺すように擦った瞬間、びりびりと下半身を走る快感に熱い息が零れ、無意識に彼の後頭部を掴んだ。

「っ…! ひょ、まっへ…ふ、あぁ、んうぅっ!」

 抜けないように押し込んだ陰茎は彼の口内で一気に熱を吐き出すと、苦しそうに目を瞑ったまま溢れないように喉へと流し込もうとしている事に気付いた瞬間、頭を抑えていた左手を慌てて外して、落ちたままだった視線を無理矢理に上げさせた。

「飲むな」
「…や、ら」
「無理をするなと言ってる」
「ぅ…ん、うぅ…むり、なんか、ひへな…」

 両頬を挟むように顎を掴み、口の中で今にも零れそうな程いっぱいになったものを吐き出させようと詰め寄るも、何故だか頑なに譲ろうとしない彼は目の前で一気にごくりとその全てを飲み込んでいた。

「…う、へへへ…げほっ」
「だから言っただろ」
「んっ…でも俺、ほんとに嫌じゃ、ないし…その、寧ろ好き、だから…」

 口元から一滴、たらりと垂れた白の名残と共に浮かんだ照れくさそうな笑顔に胸の奥がどくんと深く鼓動が鳴り響いたのを感じた。気付けばその乱れた表情のまま噛み付くように口付け、歯列をなぞるように舌を挿し込んだ。絡まる赤と青がじんわりと混じり、染み渡るように互いに侵食していく色が鮮やかな黄緑色へと変化していく。

「はぁ、あっ、ん…!」

 ぴちゃぴちゃと厭らしく弾む音を響かせながらそっとスパッツの裾を掴み、器用に足を運びながら下着と共に一気にそれを脱ぎ捨てた。ようやく狭い空間から解放された彼の陰茎は今にも爆発してしまいそうな程に膨れ上がり、咄嗟に掴み上げ親指で亀頭を擦りながら上下に扱けば、次第に高らかになる彼の嬌声にぞくぞくと体が震え上がっていった。

「ん、うぅっ…ふ、あぁっ! や、ら、ひゃめ、てっ…! いっちゃ、あ、んうぅっ!」

 未だに口付けを交わしながら上手く息をする事の出来ない彼を察し、つうっと真っ直ぐに伸びた間を繋ぐ唾液を垂らしては、目元からぽろぽろと生まれる無数の涙でぐしゃぐしゃになった顔を右腕で力任せに拭い、そのまま腕を引き太腿の上に跨る形で体を乗せる。最早絶頂を迎える寸前まで掻き立てられた互いの陰茎がぶつかり合い、力なくへにゃりと胸元にへたりこんだ体を抱き締めながら耳元で囁いた。

「…何て言えばいいのか、分かるな」

 両肩を掴み皺の出来たハラグロラグランに顔を押し付けて、その額に籠った体温がじんわりと伝わり、押し込んでいたはずの愛おしさがぼんやりとした意識を更にぼやかしていく。顔を上げさせようと一度離そうとするも、首を横に振り唸るばかりで顔は見えず、どうしたと一言声を掛けてやれば、独り言のように俯きながらぼそりと呟いた。

「は、早く……お、ねがい、だからっ…はやく、入れてっ…!」

 あれだけ頑なに俯いたままだった顔をゆっくりと上げ、視線の合った先には伏し目がちに瞳を潤わせた、頬を赤く染め涙目の彼の表情に思わず息を呑み、明らかに下半身が更に反応を示した事に気付いた。

(もう、これ以上はこっちが無理だな)

 ようやく密着していた体が離れた隙に両脇の下から掴んでは持ち上げ、立ち膝になるような形で自身を跨がせると、反り立つ陰茎を後孔へと挿し込むように自分からゆっくりと腰を下ろしてきた。先から入口をぐいぐいと広げていく感覚と、そのままこじ開けるようにずぶずぶと深く沈んでいく自身が中で擦られていく焼けるような快感に、歯を食いしばるも小刻みに滲んだ息が隙間から漏れていく。

「あっ、ん…う、うぅうっ! は、っ、あっ…はぁ、はぁ…」
「…自分で動いてみろ。出来るな?」
「んっ…う、わ、わかった…」

 上体をゆっくりと前へ倒し、寝そべるように自分の胸元に頬を寄せて、下ろしたばかりの腰をゆっくりと持ち上げ中で擦れる快感に声を殺しながら大きく息を吐いた。繰り返す度に乱れる呼吸が余計に欲を掻き立てて、動かすのに必死な彼を余所にそっとあの日からずっと残ったままの、左脇腹にじんわりと紫色に侵食した痣を、腰を掴み親指で撫でるように触れた。

「あっ! や、だっ…今、そんなとこ、触っ…ダメ…! ひ、うっ!」
「…どうした、集中しろよ。それとも、そんな余裕はないか?」
「ぐっ…! ば、バカにしやがって…この! 見てろよっ」

 普段から誰に対しても優しく接しようとする性格とは裏腹に、実は見かけによらず負けず嫌いで、勝負事になると彼の中の内なる熱さが浮上する時が稀にある。そんな知る人ぞ知る、といったようなその態度の差に自分も惚れ込んだ一人でもあり、そんな彼を見ていると不思議と出会ったばかりの頃を思い出すせいか、割と煽り耐性の低い年相応の若さを感じさせる様子を見て、顔を歪めながら動いているのに対してこちらも負けじと強く腰を突き上げた。

「いっ! はっ、あ、っく…んあぁっ! そこ、だめぇ!」

 既に壁へとぶつかっているにも関わらず、ごりごりと捻じ込むように挿し入れれば、臀部に生々しくぶつかり合い撥ねるような音と心臓が震える程の嬌声が頭の中で延々と響き渡り、体勢を崩さぬよう爪が肉に食い付いては痛みを伴うくらいに両肩を掴む手を引き寄せた。ついに胸の中へと落ちた上半身と、その背中に両腕を回し、きつく抱き締めながらも腰を止めずにいれば、耳元で抑えきれずに次々と流れる声が更に欲求を高めていった。

「ひっ、う、んんっ! さ、き…さき、サキっ! も、でちゃ…出ちゃうからぁ!」
「…俺も、もう…っく! 出す、ぞ…いいなっ!」

 びくびくと下半身に意識が飛びそうになる程の震えが生じ、収まりきらない大きな激流が今にも溢流しようとしたその瞬間。

「ん…うぅっ! ふあぁ…あ、あぁあっ!」

 自身の腹へだらりとあたたかいものがじんわりと広がり、彼の中では搾り取られるように大量の白濁が窮屈さを訴えてくるかのように隙間からだらりと糸のように長く伸びては黒の中へと落ち、あれだけ力の込められていた両手とその腕が体の脇にだらりと垂れた。焦点がぶれ、互いに酔った意識は既に朦朧とし始め、ようやく降りてきた重苦しい眠気がくっきりと映していたはずの視界をゆっくりと黒く染め上げていった。


***


「…いってぇ…」

 願わずとも二人繋がったまま、ソファーベッドの上で体を重ねたまま迎えてしまった次の日の朝。
 頭の中からがんがんと叩かれているような痛みと、ずんと沈むような重みが増した瞳を無理矢理こじ開ければ、まだ意識が落ちたままらしい彼の気持ちの良さそうな表情が映った。目が覚めるまで全く気付かなかったがどうやら寝ている間はずっと腕枕をしてもらっていたらしく、もう片方の右腕は自身の背中へと回り、ソファーベッドから落ちないようにしっかりと抱き留められていた。ただ、下半身が繋がったままだというのはどうも腑に落ちず(しかし、だからと言って一方的に責める事も出来ない)、どうにか上手い事それだけでも解放してもらえないかと身を捩るも、寝ているながらも腕の力が強く、足先も絡み合うように彼の足の間に挟まっているものだからなかなかそう簡単に外せそうにもない。

「…おい」
「う、わ! お、おはよう…」
「無理に動くな、ゆっくり抜け」

 奮闘している間に覚醒していたらしい彼は、意外にも素直に拘束を解き、少々無理な体勢だったせいか痛めた腰を摩りながら上体を起こした。彼も膝を曲げた状態を長く続けていたせいか節々が痛むらしく、刺激を与えないようにゆっくりとその体を持ち上げた。

「…っ、う…ふ、ぅ」

 昨晩の名残である、奥に溜まっていたものと共にだらりと抜けた陰茎とその擦れる感覚に思わず声が漏れる。急に力が抜け、ソファーベッドへと後戻りしてしまった体は、想像以上に疲労が溜まっており、どうやら今日はしばらくこの場から動けそうにもない。

「シャワーくらいはしてこい」
「ううっ…動きたくない…」
「…もう少し、だけな」

 彼も同様に体を倒して寝そべれば、再び背中へ回された腕が自身を引き寄せ、あたたかい胸元へ預けた頬と彼の匂いがうるさかった鼓動を落ち着かせて自然と瞼を下げていった。

「ヒナ」

 不意に上から掛けられた名前と、薄ら濃さを増す影、顎に添えられた手が上を向かせるように顔を上げさせられたかと思えば、気付いた時にはもう唇には柔らかい感覚が重ねられ甘さを帯び始めていた。

「んっ…」
「…変な顔」
「人の事、言えるか…ばか」
「まぁ、そうかもな」

 珍しくにやにやと笑みを零す彼に苦笑しながら、淀みゆく意識に身を任せながらそのぬくもりに包まれそっと瞼を下ろした。起きる頃にはもう昼で、体が空腹を訴えてくるだろうと予測し、勝手に頭の中で彼に何を作ってもらおうか、未だ王様の気分でメニューを考えながら深く息を吐けば、無意識のうちに気持ちよさに溺れていった。


(2016.10.14)


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