「あわわわ…」
相変わらず携帯電話のアラームは効かずに二度寝、三度寝と布団の上でぐうたらを繰り返した結果、何度停止しても収まらぬ爆音が着信によるものであると気づいた時には既に遅く、耳元で弾け飛んだ相方の罵声でようやく浮ついた脳内は一気に目覚めを迎えた。
慌てて飛び起きたところで時計の針は昼飯時をとっくに過ぎており、本来ならば午前中のうちに皆でハイカラシティへと出向くはずだったのだが、どうやらしばらく自分が待ち合わせ場所に来ないと察した三人は先に各々でバトルを始めているらしい(大変申し訳ない)。
昨日からだらけ続けてしまったせいか、ろくな着替えも残っておらず、とりあえず山盛りになっていた洗濯物を全て放り投げ、何も深く考えないままに洗濯機のスイッチを力強く押し込んだ。
「げっ!」
大抵、失敗というものは取り返しのつかない行動をしてから気付くものだから相当質が悪い。慌てて洗濯槽を覗くも時既に遅し、給水口から溢れ出した水に全てが浸っている事を確認してはがっくりと肩を落とす。もしかしたら、という微かな希望を頼りにタンスを引っ張り開けるも、誠に残念な事にやはりその中に今必要としているものの在庫は一つも残ってはいなかった。
「う、嘘だろ…? パンツないとか、どうすんだよ! 俺のバカ!」
どれだけ探しても替えの下着がない。それもそのはず、日々洗濯をしつつもぎりぎり回る程度の数しか持っていない下着は今先程全て洗濯機の中へ放り込んでしまったのだから。他に履くものとすれば、ナワバリバトルの際にいつも履いている黒いスパッツしか残されていない。かと言って、今日ばかりは散々相方やチビッコ達の怒りを買ったばかりの為、一緒にバトルをするという約束を断る訳にはいかず。
「う、ぐぐっ…し、仕方ないか…!」
一度試してみるもやはり普段とは全く違う履き心地に思わず眉間に皺を寄せるも、他にこの窮地を脱する方法はない。意を決し、降ろした黒のスパッツを自棄糞気味に履き直してはいつもよりも誇張されているようにも見える下半身から目を背けつつ、壁に立てかけておいた布袋に入れてあるブキを肩に掛けながら慌てて履いたアケビコンフォートの靴紐を強く結んだ。
***
ハイカラシティへと向かう途中、受信したメールを見てはげんなりと肩を落とした。チビッコ二人はあまりにも到着の遅い自分に呆れ果てたのか、二人でタッグマッチに行くとの旨、そして最後の希望として残された相方である彼はというと、単身ガチマッチで先に稼いでいると、息を切らして必死に広場へ到着した後にそう連絡が来ていた事に気付いたものだから居たたまれない。
せっかく急いで出向いたのになぁ、と遅刻をした癖にぼやくのもなんだか罪悪感が募り、せめて彼が戻ってくるまではナワバリバトルで肩慣らしでもしておこうか、と重い腰を上げ、スロープの陰からイカスツリーのロビーへと足を延ばした瞬間。
「っ!」
突然背後から延びてきた太い腕が手首を掴み、ずるずると暗い路地裏へと引き込まれていく自身をその場に留めようとするも、どうやら力では到底敵わないらしく、なんとか転ばないように体勢を整えるだけで精一杯だった。
人目のつかない暗がりの奥へと引き込み挙げ句の果てには壁に背を押しつけられ、あまりの恐怖に瞑っていた瞳をゆっくりと開いてみると、そこには意外にも見知った存在が目の前に立ち尽くしていた。
「サ、サキ…!?」
少し草臥れたようにも見えるサファリハットとジップアップカモ、足下を覗けば普段から愛用しているトレッキングライトを履き、ちょうど鍔に見え隠れしている、感情の読めない真っ赤な細い瞳がこちらを見据えていた。
「ガチマッチ、行ってたんじゃ…」
「質問に答えろ。何をしていた」
「何って…ちょ、待、うわぁっ!」
顔のすぐ脇に大きな手のひらを押しつけられ、股の間には左足をずいずいと押し込んでくるものだから最早逃げ場などない。あまりの突然すぎる展開に追いつけていない頭と体は硬直したままで、心臓を打ち抜かれているかのように突き刺さる細い視線に息を飲み込んだ。
「…ど、どういうつもりだよ。こんなところまで引きずり込んで」
「オマエがその状態でバトルをしに行くのを、俺がそのまま見過ごすとでも思っているのか」
「は!? そ、それどういう、意味…」
目の前のぎらついた彼の赤い視線がゆっくりと下がっていくのにつられて自分の下半身へと目を向けると、スパッツを押し上げる程に自身のものが膨れ上がっている状態に陥っていた事に今になってようやく気付き、一瞬で頬に熱が籠もり全身から冷えた汗が溢れ出てくるのが嫌でも分かった。
「あっ、いや、これは、その…」
「全く…ちゃんとインナーを着るようになったかと思ったら、今度はそっちか」
家を出る前は目立たない程の膨らみだったというのに、いつの間にか完全に反応を示していた下半身に羞恥心がこみ上げ、慌ててそれを隠すように両手で覆った。すると、その隙に腰へと回った腕が体を反転させ、壁に手を付くように体勢を変えられたかと思えば、突然背中に密着してきた彼のがっしりとした胸板と臀部の割れ目にぴったりとくっついてきた、明らかに普段より一回り膨れ上がっている彼の陰茎の熱がスパッツ越しにじわじわと伝わり思わずごくりと音を立て息を飲んだ。
「お、おい…嘘だろ。まさか、オマエ…」
「そのまさか、のつもりだが」
「ば、馬鹿! ここ、外…だ、って…あ、うあぁっ」
臀部を撫でるように這う手のひらが次第に前の方へと降り、咄嗟にその腕を掴み引き留めようと必死に力を籠めるも、いとも簡単に掴み返されるどころか、頭の上へと両腕を纏め上げ壁へと押し付けられた。みしみしと痛みが帯びる程に締め付けてくるその手はどこか怒りさえも混じっているようにも感じて、文句の一つも返せないままに彼のもう片方の手がするすると再び下半身の方へと流れてゆき、押し上げられたスパッツの上から揉みしだくようにその手で握り上下に扱き始めた。
「や、だっ、こんな、とこで…っ! あ、んぅっ」
「…その割には、随分乗り気のようだが」
「だっ! 誰のせいだと思ってんだ、このっ」
遠慮をする気持ちなど既に残っているはずもなく、肘に突くようになんとか抵抗を試みてみるものの力では到底勝てるはずもなく、両腕は相変わらず押さえつけられたままにたった一枚の防壁であるスパッツはずるずると地へ落とされてしまった。すっと冷たい空気が晒された下半身をぶるりと震わせて、思わず小さく呻くと顔に寄った口元からそっと名前を囁かれごくりと息を飲む。
「…いいな」
「っ…! で、も…誰か来たら、どうす…」
「オマエが我慢すればいい、それだけの事だ」
有無を言わさないどころか、責任まで押し付けてくる彼の強気な態勢に思わず苛立ちが募るも、気付かない間に互いに乱れていく息と、ぼんやりと熱に浮かされ歪む視界に危うく項垂れそうになっては必死に唇を噛み締めた。
(あっ…う、うそ、だろ…)
密着するように臀部に当てられた彼の陰茎が布越しでも分かってしまう程、既に大きく膨れ上がっている事に気付いて思わず息が詰まる。ずりずりと擦るようにその割れ目に押し当ててくる熱さに息も絶え絶えになる中、いつの間にか頭上に纏め上げられていた両腕は既に解放されていて、力の抜けた体が落ちそうになるのを支えるようにその手を壁についた。
「っ、ぅっ…ひ、あぁっ」
もぞもぞとフクの中へと潜り込んでは腹から胸にかけて撫でるように手のひらを這わせ、指先で弾くように突起を弄る度に小さく肩が揺れる。そのままたくしあげられたフクと完全に外へと晒された背、それによって身に付けていたものがほとんど剥ぎ取られてしまっている事に気付いて、赤く染まった頬を隠すように陰の中へ俯いた。その間にも肉付きのいい臀部を大きな手の平で揉み下されながら次第にその入り口からずぶずぶと侵入してきた太い指、ゆっくり中へと沈められたその奥にある一点を指先でとんとんと突付いた瞬間、腹の奥底から体全体へと痺れるような快感が体中へと広がっていく。
「あっ、んうぅ! お、ねがいっ、も、やだっ…!」
「なんだ、もう降参か」
「ん、っ、だって…! あ、っく、うぅ」
熱に浮かされ意識がぼやけていく程に過剰に力が抜け落ちていく体を支えるように、彼の腕が腰に回り中を圧迫していた指をようやく抜き取ったかと思えば、一息つく間もないうちにみしみしと肉を引き裂くような衝撃の波が一気に押し寄せてきた。
「だ、め…ん、ひ、あぁあっ!」
「っ、声、抑えろっ…誰にもバレたくなかったらな」
「うっ、ふぅ…く、うぅう」
ずぶずぶと埋もれては奥底から湧き出る快感に腰が落ちる度に突き上げられ、次第に地へと崩れていく体と共に下がる彼の体と、そのまま四つん這いになり相対するように上がっていく腰を持ち上げては何度も中を擦るように打ち付けていく。
「は、あっ…くる、し…ふぁ、ぁっ」
「…っ、ヒナタ…!」
「あっ、ん! や、んっ、あ…あ、うぅ!」
無駄な肉一つない締まりのある胸筋が自身の背中にぴったりと合わさり、しかし動きは決して止めないままに首元へと寄せられた唇と、耳に入ってきた熱の籠もる声にそっと伏せていた顔を上げ後ろを振り向いた直後、噛み付くように貪るような口付けが舞い降りてきていた。
真っ赤に染まった舌が唇の間を割り入るように口の中へと侵入し、その先で水色と絡まり合う度に乱れた息が漏れ、端からだらりと黄緑色に混ざった唾液はだらりと垂れていく。
「は、ぁっ…い、やだっ…苦し、ってば! あ、う…わぁあっ!」
体勢的にも苦しく長い口付けで息も絶え絶えになり、いい加減にして欲しいと訴えを起こそうとしたその時。ようやく閉ざされ続けていた口が解放されたかと思えば繋がったまま視界が一気にぐるりと反転し、すぐ側で淡く光る街灯の光に背を照らされた彼はその陰に表情を沈めていた。力尽くで仰向けに体勢を変えられた体はそのまま地に背を打ち付け、呻く声さえ零す間もなく浮つき始めた視界の中でなんとか見通したその先に映ったのは、こめかみから頬、顎を伝い、つうっと透明色の汗を落としながら眉間に皺を寄せ酷く苦しそうに、しかしどこか柔らかさを醸し出しながらそっと口角を上げた相方の嬉しそうな表情だった。
「さ、き…っ? あっ、だめ…ふ、あぁんっ!」
「っ、ヒナ…!」
サファリハットの鍔の陰で光る赤い瞳を既にぼやけ始めた意識の中で見上げていると、その視界を引き裂くように再び訪れた強い快感が全身へと流れ込んだ。両膝の後ろから足を押し上げられ本来ならば人に見られるはずのない部分から膨らみ切った彼の陰茎がごつごつと奥底をぶつかる程に押し入られていく。
「あっ、あん! や、ら、そんなのっ、むりぃ!」
「声が、でかいッ…誰かに聞かれても、俺は知らないからな…!」
「は、あぁっ、そんな事、言ったっ、て…! ん、あぁっ!こんな、激し、の…! ひ、うぅっ!」
今この場所が外である事の羞恥心など気にしている余裕は一つもなかった。ただただ目の前で己の欲を次から次へと注ぎ込んでくるその熱に溺れるだけしか出来ない事に悔しくも幸せを感じている自分がいて、その気持ちに嘘をつけるはずなどない。自身を抱き込む一回り大きな体、がくがくと体を揺さぶられながら必死に彼が着ているジップアップカモの袖を掴んでは胸元に顔を埋め、絶頂を迎えるその瞬間まで力いっぱいに歯を食いしばった。
「や、やだっ! っ、も、でちゃう…!」
「…俺も、このまま出すぞッ…いいな!」
「あっ…ん、ひうぅ! だ、だめっ…あ、つい、しんじゃ…ぁ、ん、さきっ! ん、あぁあっ!」
じゅぽじゅぽと厭らしい水音が脳内で何度も反響し、背と頭の後ろに回された腕がしっかりと自身の体を抱き締め、静かに吐き出された汗ばむ息が辺りに浮かび、ごぽごぽと想像以上に大量に溢れ出した彼の欲が中に満たされていく。短く繰り返される互いの呼吸が高まった鼓動を静かに落ち着かせてゆき、ぬくもりに包まれたまま引き抜かれたその入り口からぽたぽたとその名残が零れ落ちていく。
「あっ…は、あぁ…ん」
「……我慢の、がの字もなかったな」
「あ、のな…誰のせいだと思って…!」
「いつも以上に興奮してたくせに良く言う」
「おっ…オマエなぁー!」
こちらを嘲笑うかのように、先程の柔らかな笑顔とは裏腹なにやにやと嫌な笑みを浮かべた彼に苛立ちが募るも、反撃の言葉を放つ程の力は残ってはおらず。事実、興奮したか否かと聞かれれば答えはイエスで、残念ながらこちらの対抗する手段は何一つ持ち合わせていなかった。
広場から遠く離れた場所のおかげか、奇跡的に周りには人の気配もなく、あられもない姿を目撃した人物もどうやらいなかったようで一人静かに安心しては胸を撫で下ろした。
「ううっ、くっそお…。今日はバトルしないでこのまま帰るかぁ」
「当たり前だ。俺の家に行くぞ。下着、貸してやる」
「あっ…え? な、なんだよ! オマエ、もしかして知ってて」
「さっさと立て。帰るまでの辛抱だ。根性出して歩けよな」
「あぁもうー! ほんと嫌い! オマエのそういうとこ、ほんと嫌い! ばーか!」
おちょくられていた、という事実をようやく知っては沸々と怒りが腹の底から湧いてくるもそれを吐き出す余裕と時間など今の自分にはなく。体液と吐き出された熱の後片付けをすぐにでも始めなければここで致してしまった事が今にも誰かにばれてしまうのも時間の問題で、違和感は残るものの急いで脱ぎ捨てられたスパッツを履き乱れたフクを直して、地面に転がっていた大事な布袋に入ったブキを担いでは既に先を行きその姿が小さくなりつつある相方の後を慌てて追い掛けたのだった。
***
「ただいま…」
「あ、おかえり」
そろそろ開店時間が迫っている夕刻時。今日はきらきらと輝く程の晴天だった為、その日差しの暖かさにうっかり昼寝をしてしまったおかげで飯を食べ損ねてしまい、中途半端な時間に急に体が空腹を訴えてきたものだから、今夜に限り早めの夕飯を作り始めていた時だった。
今日もがっぽり稼いでやるぜ、とかなんとか言いながら調子の乗ってハイカラシティへと向かっていった今朝方の態度から一変、肩を落とし足取りも重そうにホクサイ・ヒューを担いでは帰宅した幼馴染はどうやらいつもと様子が違うようだった(負け越しで落ち込む事は幾度とあれど、それとはまた違った負のオーラを感じる)。
「…どうしたの、そんなげっそりして」
「いや、その…な、なんでもねぇ。なんでも、ねぇから…」
「はぁ…」
いつにもなく力の篭っていない声を零しながらのろのろと居間へ入っていく彼の小さな背(より小さく見える)を目で追っていると、気付かない間に吹きこぼれていた鍋の悲鳴にぼうっとしていた意識がはっと覚醒し慌ててガスの火を止めた。ちょっと焦げてしまったカレーにやれやれと小さく溜息を吐き、濡れた手をそっとエプロンで拭き取りながら後を追うように居間へと足を運ぶ。
「…ヨリ?」
こちらへ背を向けるように腰を降ろし、胡座を掻きながら幾度目かの大きな溜息が部屋の中に響いた。
「ねぇ、ちょっと。何か悩みごとでもあるの? いつまでもそんなうじうじされても鬱陶しいんだけど」
「あのなぁ…それが落ち込んでる恋人に対して言う台詞か?」
「はっきり言わないお前がわるーい」
着ていたエプロンを脱ぎ捨て畳の上に丸めて脇に寄せる。そっと柔らかいぬくもりが篭もるコタツの中へと足を入れ、机の上に肘を付きながら静かに彼の表情を窺った。しばらくの無言が互いに続き、この奇妙な空気に彼がすぐ折れるかと思いきや意外にも耐えている。どうしたものか、このままでは時間の無駄にも程がある。そう思い、今回ばかりは負けを認めようと再び立ち上がり夕飯作りの続きに取り掛かろうと襖に手を伸ばそうとしたその時だった。
「み、」
「…み?」
「見ちまった、の。そんだけッ!」
こちらの怒りを買ったと勘違いしたのか、慌てて振り向いては苦虫を潰したような少々戸惑いが含まれた表情で咄嗟に幼馴染の叫んだ言葉は意味深なものだった。一体何を見たのだろう、と不思議に思いつつ、膝立ちで固まっている彼の目の前へと歩み寄り、ゆっくりとその場に屈んではもう一度その言葉の意味を問い質した。
「…何を見たって言うんだい」
「だ、から…その」
「ちゃんと主語も言ってくれないと分からないなぁ」
「お、まえ…ほんとは分かってんだろ!」
「んー…まぁ、何となくだけど」
幼馴染、と言い表せる程に付き合いが長いと自負している彼を一体何がそこまで落ち込ませているか、くらいはそれなりに理解しているつもりだった。
以前もあるアパートの一室で見てはいけないものを見てしまった経験があり、その時の落ち込みようといったら酷いもので、もしや何か病気でも患ってしまったのではないかと心配になってしまう程の暗さに驚いた時の事はまだ記憶にも新しい。今回もあの時と同じような状態に陥っているのだと踏んでおり、つまり今日彼が見たものというのはあの日と同じ、見てはいけないものを見てしまったのだろうと確信していた。
「まさか…ヨリ、お前…」
「ぎくっ」
「またあの二人のアレ、見ちゃったんだね!」
「…あぁもう、嬉しそうに正解してんじゃねぇー!」
やはり、この男…途轍もない強(不)運を持っている。幼馴染である彼は単身、ある場に直面してしまった事が一度だけあった。それは、この店の常連客である、いつもサファリハットを被っているマサキくんというボーイとその友人のガチホワイトを着たヒナタくん、二人の情事である。たまたま店に置いていってしまったらしいマサキくんの忘れ物を、買い物ついでに彼のアパートまで返しに行ってもらった時の事だった。渋々ながらも店に置きっぱなしにしておくなど気に食わない、と意外にもお願いを引き受け、苛立ちながらも目的である部屋の扉は何故だか鍵が開いていたのだという。インターホンを押しても応答なし、仕方なくそっと中へと入り、何処からか聞こえてくる物音のするリビングへと向かってみればそこには、という事だった(ずるい)。
「…で、今日はどこで遭遇しちゃったの! 教えてごらん!」
「何でそんな楽しそうなんだよ! ったく…今回ばっかしは大丈夫だと思ったのに…」
「もしかして外! 外なの!?」
「はいはい、そうです! 広場からちょっと離れたところの路地裏ですー!」
どうやら今回は若気の至りからか、外で盛ってしまった二人は誰が見ているかもわからない外で事を致してしまったらしい。そこに偶然、ガチマッチで稼ぎに来ていた幼馴染が静かな裏道を通ってイカスツリーへ向かおうとしたところ、ちょうど甘い声と厭らしい音で満たされた現場に遭遇をしてしまった、という事である(と予測できる)。
「はぁ〜すごいなぁ。さすがの俺もそんなところでシたいとは思わないよ」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよ、アホ!」
「…まぁ、ヨリがしたいっていうなら、シてあげてもいいけど」
「えっ…な、何…? 今日のマゴ、なんかすっげーえろい…いつもだけど」
にやにやと広角を上げ目を細めながら見下ろした先の幼馴染は何故か女々しくも頬を染めながら手のひらで口を抑えて何かから耐えている(ちょっと気持ち悪い)。彼にそのような趣味があっただろうか、と記憶の中を探ってもどうやら該当する案件は見つからなかったが、もし新境地を開拓しようとしている瞬間を今まさに垣間見えようとしているのであれば話は別だった。
「まずは先輩の話を聞く事から始めようか。今頃きっと二人はマサキくんの家なんだろう? いっちょアポ無しで突撃…」
「あっー! もう、それだけはやめて! 俺もう、アイツんち二度と行かねぇからなー!」
今回こそはついに自分も見てはいけないものを見る事が出来るかも知れない。何やら後ろでぎゃあぎゃあ騒いでいる幼馴染の声には聞く耳を立てず、これから面白いものと出会える楽しみに胸を躍らせながら、店の入り口に臨時休業という立て札を掛けてすぐ、必死に引き留めようとする彼を引き摺りながらも勝手口に放り投げていたホワイトアローズに足を履き入れた。
(2017.04.16)
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