彼の帰りが遅くなるという事だけは確信があった。新しい地での環境に未だ慣れないナワバリバトルで疲労した体で横になって小一時間、いつの間にか眠っていたベッドの上に投げ捨てられた携帯電話の画面には数分前に受信していたらしいメールの通知が表示されていて、そっと画面にタッチをして内容を確認すると道路が混んでいるから予定よりも帰りが遅くなる、との連絡だった。
一週間程前、相方の知人であり以前から自分も世話になっていた、夫婦で居酒屋を営んでいるヒカルさんという年上のボーイに店で使う材料の買い出しを頼まれていたらしく、半端ではない量の野菜や肉を購入する為に荷物運びを手伝って欲しいという事で力のありそうな相方が指名されたという次第である。
今回は少々遠い場所にある業務スーパーへとヒカルさんの車で向かったらしく、その帰りである今、道路が渋滞をしていて夕方帰宅する予定だったところ、明るいうちには帰れないかも知れないという旨の連絡だったようで、ベッドの上でひとりがっくりと肩を落としながら再び柔らかなシーツの上へと身を沈めた。
普段ならば、引っ越しをしてから共に暮らすようになったチビボーイとチビガールがいつも一緒にいるので寂しさなど感じない日々を送っていたものの、今日に限って二人は友人と共にお泊り会をしているらしく(カーボンローラーを持っていた少々取っ付きにくいボーイとガール、そしてにこにこと常に笑顔を掲げた双子のボーイと少々大人しそうなタコマスクを身に付けたボーイ、がメンバーらしい)、四人で暮らしている部屋はどこもがらんとしていて尚更広さを感じるせいか、情けないながらに胸の奥がきゅっと締め付けられたかのように心細さを感じてしまう。大の大人が一体何をしているんだ、とふるふると首を振り立ち直そうと思ってもどうも気持ちは晴れないままで、結局こうしてのたのたとベッドの上に寝転んだ末にいつの間にか数時間が経過していた。
「はぁ…ちょっとだけ、期待しちゃった自分がアホすぎる…」
もしかしたら、互いの部屋を行き来していた数年前の時のように二人きりで過ごせるのではないかと身勝手に一人楽しみにしていた過去の自分が恥ずかしくて堪らない。普段ならばそんな風に自身の我儘としか思えない期待を寄せようなどと引っ越しを終えた後は思わなかったのだが、何せ咄嗟に原因として挙げられる確定的な事案が今の自分の中には一つある。
(……最近、全然シてない…んだよ、な…)
淡く頬を染めながら小さく溜息を吐いてここ最近の出来事を思い返しても、そんな事をしている余裕はお互いになかったのは事実で。連日の引っ越し作業とその上で変化した生活に慣れるまでは日々を過ごすだけでも体力が根こそぎ奪い取られ、自身にとっては珍しい事に日付が変更する前に眠気に襲われる日が幾度となく続いていた。よって、勿論今日という日まで恋人である相方と体を重ねる事も全くなく、以前のように一人の時間がほぼゼロに近い状態であった為に意識する事なく今日という日まで過ごしてしまっていたので余計に一度その事実を思い出してしまうと、なかなか沸いた煩悩が頭から離れなくなってしまうのも当然致し方なく。
「っ…い、今なら…いっか」
今日の仕事は荷物運びがメインである為、邪魔になるからとベッドの上に投げ出されたままだった相方のジップアップカモを胸元で皺になる程にぎゅっと抱き締めながら、体を沈めたままそっと右手をスパッツの中へするすると挿し入れる。恥ずかしながら既に固くなりつつある自身を根元からぎゅっと握り締めて、一息呼吸をおいてはゆっくりと上下に扱き始める。途端にじわじわと奥底から生まれる小さな熱と、昇るようなその流れが次第に呼吸を乱していき、籠もる吐息にぬくもりが混じってはぼうっと滲む靄を振り払うように首を振った。
(は、ぁっ…これだけは、したくなかった、けど…うぅ、我慢できないっ…!)
数年前までは元々自慰という行動自体に苦手意識を持っていて、一度吐き出すだけでも苦労が絶えなかったのが相方を体を重ね始めてからは寧ろ、後ろを弄らなければ溜まった熱を解き放つ事さえ難しくなっており、その自覚をする度に余計複雑化してしまった自身の体に心底肩を落とすのは最早日常茶飯事でもある。慣れた手つきで空いたもう片方の手を背中へ回し、そのまま臀部の下へと滑らせ自身の唾液で湿らせた人差し指をゆっくりとその入口へと宛がった。ごくりと息を呑み、ずぶずぶと肉壁に圧迫されながらも指が沈んでいく感覚に身震いして、それでも普段挿入されているものとの大きさの違いに違和感を覚え、堪らず二本、三本と入れる指を増やしては奥の領域を押し広げるように沈ませていった。
「…苦し、んっ…こ、ここ、かな…? …ぁ、ひぁっ…は、んうぅ」
これまでに何度も彼が挿入する前に慣らしてくれていた時の指の動き、彼であればこの中でどういった箇所を攻めるのかを頭の中で想像して、記憶に残る感覚と同等のものを出来る限り再現をするように指先を動かしてみれば、ちょうど自身の敏感な場所に触れたようで全身に突然流れた熱い波に思わず身を捩らせた。
「あっ、や、んうぅ…だめ、サキっ…! そこ、やっ…ぁ、ひあぁ!」
後ろで感じながらも自身を扱いていた手は止めず、二点から沸々と湧き出す快楽に火照り始めた体は汗でべたべたになりながらも、自分しかいない広い寝室の中でひとり妖艶に喘ぎ響く声、ぎゅっと目を瞑りながらその瞼の裏で相方に犯されている記憶を呼び起こしては口元から自然と零れる彼の名前と、今すぐにでも包まれたいその匂いとぬくもりを胸元のジップアップカモに求めるかのようにぐりぐりと顔を押し付けては深く息を吐き捨てた。
「あっ、あ、んぅ…だ、だめっ! 出ちゃ、ぁ…はぁ、はぁっ」
「…そのまま出せ。手は止めるなよ」
「え…あ、な、何で…!?」
「…まさか、オマエがこうなるまでに我慢していたとは思わなかったが、まぁいい。手伝ってやる」
「ば、バカ! 帰ってきたなら帰ってきたで、ちゃんとただいまって、言え…ぁ、ひうぅっ」
自分自身が行為に夢中になってしまったとはいえ、このような酷い仕打ちがあっていいものだろうか。あと僅かな時間さえあれば、自身の力のみでこの熱さから解放されそうになったというのに、先程帰りが遅くなると連絡を寄越していた相方がいつの間にか忽然とその姿を現し、話が違うと文句を吐こうとするもすぐさまガタイのいい体をベッドへと沈ませ、背後から下半身へと伸ばしてきた腕、そして陰茎を握る手を包むかのように自身の手を重ねていた。
「あ、んっ、うぅ! おま、何で…買い物、してたんじゃっ」
「…もう一度店に寄って材料を車から運び出すつもりだったが、そこまではしなくていいとヒカルに言われたついでに、ここまで車で送ってもらった。その言葉に甘えて帰ってみれば、部屋の外からオマエの声が聞こえてきたから慌てて入った結果、こういう事になってた、というだけだ」
「う、ぐぐぐっ…! 自業自得なだけに反論できない…ッ」
そのまま上体を持ち上げられ彼の胸元へと自然に背を凭れさせる形になり、上下に扱く手の動きを止めないままに、にやにやと嫌な笑顔を掲げながら淡々とそう説明を始めた相方に唸りを上げるも、言い返せる程の言い訳の一つも思い浮かばず、ただただ歯を食いしばる事しか出来ずに、今はただ再び流れ込んだ痺れから逃れようと耐える他なかった。彼の吐息が聞こえる程に耳元へ寄せられた顔、そのまま項へと落ちる口付けと、赤く染まっているであろう耳朶を優しく噛み付かれ、その都度びくりと震える体と次第に自覚していく沸々と生まれた欲がもじもじと立てた膝を擦りつけ合っては、後ろを弄る指を無意識にじゅぽじゅぽと水音を立てながら指を挿し入れていた。
「…後ろの方が好きか」
「あっ、ひ、うぅ…! そんな、事…」
「素直になれ。オマエが一番気持ちいいと思える事を俺はしたい」
「あ…あぁあっ! さ、サキ…だめ、そんな、まだ俺…ひ、やあぁっ!」
まだ自身の指が三本も奥へと入り込んだままだというのに、その僅かな隙間から肉壁が悲鳴を上げるのも構わずに、するりと臀部へと後ろから差し込まれた腕が入口へと伸び、二本もの太い指を詰め込むように押し入れるものだから危うく呼吸をする方法を一瞬で忘れかけてはそのまま声を上げて咽た。荒々しく吸っては吐いてを繰り返し、その苦しさを睨み上げた視線で訴えるもにやけた表情は変えないままに、こちらの指を巻き込むように出し入れを試みては内側へと擦りつける動きに自然と弓なりに曲がる体と今にも彼の手の中で吐き出しかけている自身の波に口答えする余裕もなく、最早ふるふると無心で首を振る事しか出来なかった。
「あ、んっ…こんなの、やだ! 恥ずか、しっ…ん、うぅっ」
「痛いか?」
「ん、っく…そんな、事、な…ぁ、やぁあ! 出ちゃう、だめぇ!」
ぐちゅぐちゅと乱れた音を大きく響かせながら、握られた陰茎を大きく上下に搾り取られて次第に湧き出る自身の欲が汗ばんだ互いの手の中へと勢い良く飛び出した。視線を逸らすように顔を背けた先で待っていたとでも言うように唇を重ねられ、舌を挿し入れながら貪りその苦しさで涙が浮かばせて、ようやく解放された時には既に体中の力が抜け切ってしまったのか、せめてもの反撃だと心の中で嘆きながらずっしりと彼の胸元へと身を任せたのだった。
「は、はぁっ…あ、うぅ…くっそ。この、ばかっ! すかぽんたん…!」
「なんだ、欲しがってたクセに文句ばかり垂れやがって」
「それとこれとは話が…! って、え…?」
「…まさか、これで終わりだとか思ってるんじゃないだろうな」
「え、いや、だって…えと、ほら! オマエ、ずっと力仕事してきて疲れてるだろうし! 今日は大人しく休…」
ようやく荒く繰り返していた呼吸が落ち着いてきたところで汚れてしまった体を動けるうちに清めてしまおうと再び上体を起こした直後。途端に腰の辺りで感じ始めたごつごつと押し出すように訴えてくる熱にどくりと心臓が唸り、まさか、と咄嗟に振り向くと、そのまま背を沈ませるように彼の足元へと頭が沈み、まだ汚れの一つない綺麗な天井を背景にして、視界の中心へぬるっと姿を入り込ませた相方の有無を言わさぬ瞳から放たれた赤い閃光にすぐさま降参の旗を揚げる他なかった。
***
相方の言う通り、勿論疲労が溜まっていない訳ではなかった。しかし、朝から晩まで馴染みの居酒屋を営んでいる友人夫婦に頼まれていた買い出しを手伝い、遠出だった為か長時間車の中で揺られた体は想像していたよりも疲労が溜まっていて、家に帰ったらすぐに風呂を済ませてベッドへ横になろうと思ってはいたものの、その矢先にあんな甘い声を耳にしてしまい目が覚めてしまったのは致し方ない事実で。着替えを取りに行こうと寝室へと向かっていた途中の廊下、壁一枚向こうの部屋の中から聞き慣れた声が漏れているのに気付いて、扉の前でそっとノックをして相方へと呼びかけようとしたその時。情事の時以外では絶対に聞き得ない彼の苦しそうな、しかし艶のある喘ぐ声が聞こえ、もしかして体の調子でも悪いのだろうかと思いつつ慌ててドアノブを捻り押し開いたその後は思わず目を見開いてしまった。
(まさか、そこまで我慢させていたなんて)
少々寒くなりつつある今朝方、インナーの上に羽織っていたジップアップカモをダブルベッドの上に放り投げ、最近気に入って購入したマウンテンフローズンを身に纏い、一人置いてけぼりにしてしまう状況に罪悪感は残れど当の本人が笑顔で送り出してくれたものだから、致し方なく小さく手を振りそのまま家を後にした。その後にそっと落とした寂しげな視線に気付かないままに。
彼の腕の中でくしゃくしゃに丸まったジップアップカモと、その中に顔を埋めながら自身の陰茎の根元を握り締め、唸るように零す声とは裏腹に上下に扱く手を止める事はなく、底から湧きだす熱を今にも放とうとした瞬間、自分の意志とは無関係に身体は既に行動を取っていた。
未だ自分の存在に気付かない相方の背後に回り、行為を幇助するかのように手を重ね、そのまま胸元へと凭れさせた彼の熱を持つ背、今か今かと待ち望んでいたとさえも感じる手中で震える欲がようやく解き放たれた時、むくむくと興奮を抑えきれずに相方の臀部を押し上げようとする自身に小さく溜息を落としてしまった。
「あっ…う、そ…それ…」
「…もう、止められないぞ。いいな」
「っ…! あの、え、っと…その…」
「何…っ」
胸の奥で響く鼓動が脳内を支配していた中、ゆっくりと振り向き気まずそうに目線を落としたまま頬を赤らめ、ぼそりと零した彼の言葉に思わず目を見開いた。
そして、無意識に離すまいと腰に回した腕にそっと力を込めて、項の辺りにぐりぐりと額を埋めては冷静さを取り戻す為に深く息を吐いた直後に、自分の背後でほんの数秒間とはいえ、相方にとっては謎の行動とも思える挙動不審さに自分自身でもようやく気付いたところでごくりと息を呑む。想像もしていなかった誘い文句を耳にしてつい悶え苦しんでしまった現状に、自分でも気色悪いと自覚がある程に緩んだ表情を見られないよう、そのまま力任せに腕を掴み互いに態勢を反転させ、急な動きに声を上げながらそのままベッドへと背を沈めた彼の両足を大きく開くようにぐいぐいと体を押し入れていった。
「あっ、う…ま、待って! 俺、だって…心の準備ってもんが…!」
「…心配するな。オマエのお望み通り、じっくり優しく抱いてやる。ただしクレームには対応しない、いいな」
「や、やっぱり…言わなきゃよかった…っ、は、ぁあっ! ん、うぅ」
既に皺だらけになったシーツに沈む膝をぐいぐいを彼の下半身へ捻じ込み、覆い被さるようにふかふかの枕に包まれた頭の後ろへ右手を差し込んで、そのまま持ち上げた顔と重なるように唇を押し付けながら、もう片方の手をするすると滑るようにフクの中へと侵入させていく。まるでお守りのように抱いていたジップアップカモを引き剥がしながら、くちゅくちゅと水音を立て舌を絡ませる厭らしい音の響き、微かに空いた隙間から漏れる小さな甘い声、その声が胸元にぷっくりと浮いた飾りを指先で弾く度に震える体とは熱い吐息に胸の奥で響く鼓動が煩わしい程にうるさく早まる様に思わず下半身までもが熱を帯びてゆく。
「んっ、は、あぁんっ…さ、き、苦し…っ、や、あんっ!」
「…相変わらず、厭らしい顔をする」
「な、なん、だよ…それっ。ワケ分かんない事言うなっ」
「仕方ないだろ、全部オマエのせいだ」
「は? ちょ、待…っ、あ…ん、ひうっ! くすぐった…ぁ、んっ」
出来れば、優しく、シてください。そんな甘い言葉を蕩けた青い瞳とその表情で恋人に呟かれてしまっては、それに逆らう事の出来た自分は過去にも未来にも果たして存在していただろうか。
名残惜しいように重ねていた唇から顔を離し、そのまま首元、フクをたくし上げ露となっていた胸元とその飾り、そして両脇と柔らかな腹、そして自身の罪の象徴でもある左脇の痣を順々と口付け、連れて後ずさりながらふと見上げた先には、顔を背けて薄らと涙を浮かべながら赤く頬を染める彼にぞくぞくと底から何かが激しく奮い立った。
スパッツがはち切れんばかりに誇張してその中が一体どうなっているのか、などという想像は実に容易く、引き剥がすように一気に脱がせればぶるりと飛び出した、今にも破裂しそうな程に膨張された相方の陰茎ににやりと口角を歪めた。ひっ、と慌てて足を挟んで隠そうとするも時既に遅く、根元を左手でしっかりと掴んでは上下に扱き始めると同時に、その後ろ、臀部の下へと潜り込ませた右手の人差し指をほとんど緩んでいる排泄口からずぶずぶと挿し入れて、その奥の奥、指先にぶつかった壁をとんとんと叩いてやれば、一瞬で弓なりに曲がる背と叫び声に近い嬌声に自身の息も荒くなってゆく。
「あっ、だめ…そこ、触っちゃ…ぁ、やぁあ! ひ、うぅ…や、優しくって、言ったの、にぃ!」
「これでも、いつもよりペースを落としているつもりだが」
「ふ、普段が激しすぎるんだよ、この、ばっ…! ひ、あっ! もっと、ゆっくり、お願…あ、やっ、んあぁ!」
次第に熱くなっていく体、身を包むフクが邪魔くさく感じて陰茎を離した左手で咄嗟に着ていたマウンテンフローズンとインナーを脱ぎ捨て、彼と同じく、しかし一回り以上大きくスパッツを張った窮屈そうな自身を見下ろして思わず苦笑を漏らした。普段は持っているはずの余裕などとうの昔に消し飛んでいて、眉間から流れシーツへと幾度となく落ちる汗が滲む中、ベッドの外へするすると落ちていく長スパッツに目もくれぬまま、相方の両足を掴み上げ目の前に姿を現した、ひくついた入口に宛がったものをそのまま沈ませるようにゆっくりと中へ挿入していった。
「は、あぁっ…! あ、あうぅ、サキ…さ、き…っ」
「っ…、ぅ…前よりキツいな…しばらくシてなかったからか?」
「あっ…ん、おっき…っ、や、あぁ! そんな、奥まで、だめっ…!」
彼の中に潜む、自分以外は支配した事のないナワバリの奥へと押し進んでいく事に対する興奮は何度繰り返しても収まる事を知らない。自身の陰茎が深淵へと沈み、詰まる息を大きく胸の奥から吐き出しては滑るように太腿の裏の肉を揉みしだくように掴んだ。そのまま膝が胸元にくっつく寸前までに持ち上げ、宙に浮かぶ足を両肩で担ぎながらぬちゃぬちゃと撥ねる水音と共にゆっくりと腰を前後に動かしてゆく。
「っ、ひ、あぁ…んっ…! う、うぅ…そんな、まじまじと、見るなぁ…っ! あ…や、ぁんっ」
「…隠すな。ちゃんと、俺に見せてみろ…!」
肩に掛かっただらりと伸びた一本の前髪が視界の隅を埋め、その薄い影の中でふるふると首を横に振っては照れ臭さで彼が互いの間に挟んだ腕、その裏に隠された蕩けた表情を覗こうと半ば無理強いに邪魔になる全てを退けば、背が浮く程に早い呼吸を繰り返す中、溶けた海色の瞳から生まれる透き通った涙を薄らと浮かべながら熱い息を吐く彼に腰の動きを止められずにはいられなくなる堪え性のない自分に呆れつつも、力なく開いてた彼の唇を貪っては下半身に募る熱でその奥底をじっくりと掻き回していく。
「んっ、は、あぁっ…ひ、う! さ、きぃ…っ、恥ずか、し…や、あぁっ」
「ヒナタ…っ、は、くっ…下、苦しいか?」
「すごく、あついっ、の…気持ち、いっ…ぁ、は、うぅ」
何度も何度も内壁に誇張した自身を擦りつけるかのように挿入を繰り返している中、枕元でシーツを掴み快感に耐えていた彼の右手がするすると下半身へ伸びている事に気付き、そっと視線をその行く先へ落としてみる。するとどうやら相方の方が先に我慢の限界を迎えているらしく、自分自身の陰茎を自ら握り締めては上下に動かしながら甘く喘ぐその姿を目の前で垣間見てしまい、これ以上は最早ペースを合わせる余裕さえ無いに等しく、危うく怪しい笑みを零しそうになるのを耐えながら、より一層彼の中で質量を増した自身を力強く前へと押し入れた。
「あっ、ん、やあぁ! そんな、いきなり…っ、ひ、うぅ! だ、めぇえ!」
「嫌だと言う割に、その手は止まらないみたいだがな」
「あっ、あ、も、イッちゃ…ひ、あぁ! サキ、もっと…もっと、早くちょうら、ぁっ…ん、うぅ! も、やら、変になっちゃ…ぁ、や、ぁあん!」
これでもかという程に最奥の壁に何度もぶつかっているのを理解しつつも、それ以上に掘り進めようとする体を止める術はなく、ごりごりと削るように押し入れた陰茎がびくびくと震えては、最早声にならない声で艶やかな甘い嬌声を吐き出す事しか出来ずに、欲望のまま動かしていた手もそのままに、まるで悲鳴のような涙声と共に吐き出した熱が互いの腹へと飛び散った瞬間だった。決壊した自身の熱波が中の全てをあっという間に満たしては、乗じて弓なりに曲がっていく相方の背、その衝動で肩からずり落ちた両足に構わず背に回した腕で思い切り体を引き寄せては、覆い被さるようにそのまま力が抜けてゆく相方を力強く抱き締めていた。
「はーっ…ぁ、は、あぁっ…ん、うぅ…あ、ついっ…」
「…っ、悪い。中に、出した」
「…サ、キ……」
「あぁ?」
「もっと、こっち…いい、から」
次第に全身へと込めた力がお互いに抜けつつある頃、二つの体が密着したままにあれだけぎしぎしと唸りを上げていたベッドへ沈んでいる中、自然と彼の口元へと耳を寄せるように落ちていく顔、そのまま首元へと口付けてしまおうかなどと悠長な気持ちで寄り添ってみれば、ぼそりと呟かれたその言葉に思わず勢い良く上半身を持ち上げて、その見下ろした先に浮かんだしてやったりと言わんばかりの生意気そうな微笑みにつられて口元が歪んだ。
「…いい度胸だ、褒めてやる。ただの虚勢じゃなけりゃいいが」
「う、うるさいな。仕方ないだろ…ひ、久しぶり、なんだからっ」
「なんだ、今日は随分誘い方が上手いな。…今夜は寝られると思うなよ」
「は!? ちょ、おま…そ、そこまでやれとは言ってないぞ! おい、待てって!」
あまりのおかしさに危うく腹の底からげらげらと声を上げて笑いそうになったのを必死に奥底で堪え、颯爽と密着していた相方から身を離しベッドから降りて背中を向ける。すると、置いていかれると理解したのか慌てて体を起こした彼は微かな反抗のつもりかつい先程まで握り締めていたジップアップカモを素肌の上から着込むと、すぐ隣りまで走り寄ってきては脇腹に肘打ちをかまされ、してやったりと言わんばかりににやにやと舌を出したかと思えば、そのまま浴室へと逃げるように駆け込んでいった様を眺めながらついに我慢していた感情が腹からくすくすと飛び出して、小さく溜息を吐きながらそのご機嫌の良さそうな背中を追った。
(2017.11.13)
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