理由としては、ジャンケンに勝ったから。より他ない。
事の発端は夕飯を食べ風呂も済ませた後、お互いにそれほど量は飲めないがたまには、という話から少々酒を嗜むことになった。
共に暮らしていたチビッ子二人がバンカラ街へ旅立つ準備に追われ、明日には不動産屋へと足を運ぶ予定らしく、それぞれ住みたい部屋を探すのだと非常に意気込んでいて、朝イチで借りる部屋の内見をすべく近くのビジネスホテルに泊まるのだと荷物を持って出掛けてしまった。普段であれば不意に出来た二人きりの時間、たまにはどうかという流れでこっそり飲むことは今までも何度かあったものの、さすがに今回ばかりは事情が違った。現実味を帯びてきたかわいい二人との別れ、これまで口にはしなかった寂しさについに耐えきれなくなったが故の提案だったのである。家族同然で同じ屋根の下で日々を過ごしてきた弟、妹たちの巣立ちを目前にして、彼らの成長を見守ってきた者としては正直大きな溜息を吐いてしまいそうになる程なのだから。
「まあ、今日は無礼講で行きましょう」
「いつもそうだが」
「俺はもう既に目頭が熱いよ」
「飲む前から泣くな、鬱陶しい」
ぷしゅりと抜けるような音と共に缶を開け、半ば自棄が混じったまま豪快に一口目を流し込む。痺れるような熱を帯びた快感が喉を通り、じんわりと火照る体から静かに汗が滲む感覚、あんなに落ち込んでいた気持ちを隠すように少しずつ浮つき始め、たまには酒に頼るのも悪くないなと思った。
そんな中、隣りで静かに嗜んでいる相方が妙な提案をしてきたのは、飲み始めてから三十分ほど経過した頃である。
「最初はグーだぞ」
「後出しは結果がどうあれ負け確定」
「分かってますう」
レンタルショップで借りてきた映画のDVDの映像が淡々と流れてゆく中、静かに、しかし熱い対決は三本勝負という形で始まり、そしてすぐさま終結を迎える。しかもストレート勝ち、土壇場での強さには正直自信があったのだ。
「よォっし! 言い出しっぺの法則、発動!」
「クソ……一回勝負にしておくんだったな」
「今更それはなしだぞ。ほら、今日は俺が存分にかわいがってやるからさ」
舌打ちとは思えない程の大きな舌打ちが部屋の中に響く。そんな相方の口や態度の悪さは実は昔からあったようで、普段こそそういう素振りは見せないものの、彼の友人である囀というボーイと十代の頃からつるんでいたと聞いていたので今では深く納得はしている(そもそも元からそういう性格だったという可能性は無きにしも非ず)。
そういうわけで相方の舌打ちなど今更どうというものでもないが、非常に悔しそうな素振りを見ると危うくにやついてしまいそうになった。それもそのはず、本日のかけ事の内容は、どっちが上になるか、そして上になった方が下の射精タイミングを決めるという、正気に戻った際にはバカだったなあ俺たち、という感想で終わりそうななんともいえない内容である。
「俺が良いって言うまでイくなよ」
「そもそも、オマエがそう簡単に俺をイかせられると思ってんのか」
「おっ、煽りのつもりか? その手には乗らないぞう!」
恥も忘れて履いていたパジャマのズボンを脱ぎ捨てると、同時に目の前で潔くスウェットから足を抜き、そのズボンを床に叩きつけた相方を見て息をするのも苦しくなるほどに笑った。潔すぎて脇腹が痛い。向こうも覚悟が出来ていると察して、早速そのガタイの良い体をソファーに押し倒しては両足をかっぴらき、最後の砦である、既にご立派な山が築かれている部分には目を瞑り、颯爽とLLサイズのボクサーパンツをこの手で引っぺがした。
「おっ、弄り甲斐ありそう」
「冗談を言っている暇があったらさっさと済ませろ」
「の、ノリが悪い言い出しっぺだなあ」
目の前に佇む山は準備が出来ていると言わんばかりに反り立ち、肉付きの良い太ももの間で恐る恐るその根元を右手で握った。無意識といえど正座をして扱きあげているその姿はさぞ滑稽だっただろう。立場が逆で、この光景を自分が見上げていたらと思うと想像しただけで吹き出しそうになった。
射精をするタイミングを図るという意味では、恐らく相方の方が上手い。一人で行う場合もある程度制御をした上で必要な分のみ出していると聞いたことがあったし、性欲も控えめらしいのでそもそも目撃したのも指で数えるほどしかなかった。しかし、そんな彼が自分のあの手この手で我慢ならずに出してしまう光景をこれから見られるかも知れないと想像するだけで非常に興奮するものだ。実際、本当に控えめなのかと疑問に思うほど、実際にセックスをしている時の彼の行為は割と激しい。それが、自分が相手である場合に限るのであれば、尚更ゾクゾクと腹の底から漲る何かに息が乱れそうになる。そして今回も、たとえ酔っている状態であれど自制できないほどに堪能してくれたらと心から思う。
「なんかまた成長してない? 前よかデカくなってる気がするんだけど」
「興奮してるだけだが」
「へえ〜、変態だなあ」
「言ってろ」
根元から握った陰茎ははち切れんばかりの太さだったが、相方の余裕そうな顔を見る限り、どうやらこれが最大値ではないということが分かる。ぐにぐにと左手で上下に扱き、その親指で裏筋を擦り上げながら、空いた右手で準備していたローションを指先に取るとひくつく後孔から人差し指を挿し入れた。
「ッ、く」
「あ、悪い。冷たかったか」
「……いい、続けろ」
びくりと震える体に驚きながらも、徐々に奥を指先で解しながら第二関節まで埋めると同時に中指も中へと入れていく。次第に息が乱れ始め、そっぽを向き視線を外したところでそっと血管の浮いた陰茎を自身の口の中へと含んだ。
「お、いッ! そこまでしろとは言、」
「ほれあやりはいはらやるろ」
してやったり。酒に酔っているせいもあるのか、どうやら相方の察しの良さが今夜は発揮されていないようで、しめしめと心の中でにやつきながら中の肉壁を指の腹で撫でるように押し込んだ。そして舌先で裏筋をなぞるとびくりと震える身体に鼓動がどくりと高鳴った。それを何度か繰り返したあとゆっくりと口を離し、血管の浮いた亀頭にそっと口付けると見上げた先には眉間に皺を寄せた相方がいた。
「どうしても我慢できないなら手で抑えてもいいけど」
「……オマエな」
少し息が上がっている程度でまだ余裕のありそうな彼に尚更火が付いて、膝裏を掴み持ち上げると煮えたぎる熱をそのまま一気に最奥まで貫いた。
「あッ! ぐ、この、馬鹿ッ」
「ん……! オマエん中、あっつい……」
自分よりも鍛え抜かれた筋肉がぎっしりと詰まり重みのある太ももの狭間から見える、酒と、与えられた快感の熱のせいで赤く染まる頬、僅かに潤む赤色の瞳に堪らず戦慄した。誰も見たことのない、自分だけの知る甘く艶やかなその姿をもっと見てみたい。そんな貪欲さが沸々と生まれていた。
「ァ、あッ、ぐ! ッの、がっつく、なッ!」
「う、るさいなッ、少しは素直になれっての」
肩へ担ぎ上げた足の重みも他所に夢中で腰を振っては、その度に漏れる吐息と嬌声に中に埋まる自身が痛みを帯びるほどに膨らみを増してゆく。しかし、このままではこちらが先に果ててしまう気がして情けないながらも慌てて引き抜くと、うぐ、という苦しそうな声に少々罪悪感を覚えた。それでもこの勝負、己のプライドに賭けても負けるわけにはいかないのだ。
「はあ、はッ……どう、した。もう、降参か」
「んな訳ない、だろッ! こっからが第二ラウン、ド!」
彼に負けじと自身の陰茎も最早爆発寸前だった。互いに息も絶え絶えで余裕などひとつもない。余裕がある振りをしているだけで、今にも欲を吐き出しそうになる。
「おい、何やって」
「へ、へへ……こんな事もあろうかと、解しておきましたッ」
意表を突く。ただただそれだけを考えて、脳の理解が追いつかぬまま身体は勝手に行動を起こしていた。呆然としている相方を他所に彼の下半身へと馬乗りになる。そして、気付けばそのまま目の前に真っすぐ聳え立つ太く固い陰茎の真上から躊躇いなく一気に腰を下ろした。
「ぁ、はぁあっ……」
「あッ、ぐ」
「ふ、ふうっ……ほら、ナカで出しちまえって、早くッ」
両肩を掴む形で前のめりになりそのまま腰を上下に動かしてはまだ狭いままの肉壁で陰茎を擦り上げていく。熱い吐息、揺れる赤、額を流れる大粒の汗、そして生々しい性の匂いが更に心臓を高鳴らせていった。
「あっ、はは、俺……なんかくらくらしてきたかも」
「調子に、乗りすぎ、だっ」
「ひッ! ぁ、勝手に動くな!」
じゅぽじゅぽと激しく水音を立てながら上下に腰を浮かせているうちに、相方も負けじと奥へ打ち付けてくる。中で唸る電撃のような快感の波に思わず項垂れてしまいそうになって、それでもなんとか持ち直しては大臀筋に力を入れた。もう勝負だとか、面倒な後始末のこととか、負ければ降りかかるであろう厄介な罰ゲームのことだとか何もかも外に捨て置いて、必死に貪りついているお互いの乱れた姿に苦笑すると、熱い吐息を交わらせながら濡れた唇にそっと口付けを落としていく。
「は、はあっ、頑固すぎッ」
「ッそれは、こっちの台詞、だが」
「あのなー、正直俺もう限界。だから次、合図……したら、な」
「……分かった」
素直で良い子だ。心の中でそっと呟いて、胸板をぴったりと密着させたまま両手の指を絡めると、突き上げる動きに合わせて何度も何度も腰を落とした。弓なりに曲がる背はその度にびくりと震え、次第に汗ばむ手はしっかりの相方の大きな手に握り込まれている。
明らかに大きく強い波が押し寄せてくる予感がした。言葉にしなくてもすぐに分かる。この血の唸る感覚が前兆であることも、そして、咄嗟に離れた手が背へと回り、頬擦りするように体温を求める彼があまりに可愛くて離れぬように頭を抑えた右手に思わず力を込めていた。
「も、っ、イく! サキッ」
「……ッ!」
勢い良く自身の先から溢れた白、それと同時に中に満たされる熱、そして声にならない声が部屋の中に弾けて響く。頬から顎先へ流れるしっとりとした汗がぽとりと落ちて、無意識にその行方を視線で追うと、その先には相方の腹の上にべっとりと自身の欲が広がっていて己の耐性のなさに思わず苦笑した。
「は、あ……あぁ、あ〜……。ぐっちゃ、ぐちゃ……」
「……眠い……」
「絶対寝るな、寝るなよ。頼むから寝るなあっ」
全てを出し切った互いの意識は明らかに限界を迎えていた。回りきった酔い、すっかり出し切ってしまった分の喪失感と満足感、そして、既に夢の入り口へと向かってしまった相方のどこか幸せそうな寝顔に大きな溜息を履いては、重みの増したその身体をどうにか起こしてはふらつく足取りで風呂場へと運んだ。
***
結果だけを申すとすれば、文字通り完敗だった。ふらふらの体で最後の力を振り絞り、眠りこけた自分を背負いながら脱衣所へと向かうも途中で力尽きてしまったらしく、二人仲良く冷たい廊下で三時間は死んだように眠った。もちろん目覚めは最悪だった。幸いだったのは、不在で寂しいと感じていたチビッ子たちが寧ろ不在であってくれたという点だけだ。
「何をしてた?」
「それを俺に聞くか」
沸かしながら入る風呂の、湯が満たされるまでの虚空な時間と空気の冷たさでようやくアルコールが抜け始め、とにかくべたついた身体をどうにかしようとシャワーを浴びている最中、目は開かないもののようやく言葉を交わせるようになった相方は自分と比べて幾分はマシな状態だった。一方こちらはというと、とにかく頭痛がひどい。調子に乗ってちゃんぽん飲みをしたせいか少し吐き気もする。それでもどうにか座り込んだ体制から重い腰を上げ、半分ほど溜まりつつある湯船に足を入れた。
「生きてるかー」
「一応」
「声やば。酒焼けしてるぞ」
「……もう、どうだっていい……」
「待て待て待て、その状態で沈むな死ぬから」
沸かし立ての一番風呂の気持ち良さは最悪だった気分を少しばかり晴れやかにしてくれた気がして、どうにも本調子の出ない身体へ鞭を打つように、湯船から両手で掬った湯を自分の顔へ叩き付ける。すると、シャワーを終えた相方が恐る恐る縮こまりながら隣へと座り、二人して窮屈そうに立てた膝、向かい合い上手いこと足の間に足を入れ、ふと顔を見上げると案外同様に彼も酷い顔を浮かべていたものだから思わず吹き出してしまった。
「わ、ら、う、な、よ」
「無理言うな」
「ったく、人のこと笑える立場かってーの」
文句を言いつつもケラケラと綻びを見せる相方に、尚更今の状況がおかしく思えてつられるように声を上げて笑った。
浴室の窓から差す朝日の眩しさが重い瞼を持ち上げる。昨晩見た天気予報はどうやら当たっていたようで、きっと今頃ユウマとナギは二人仲良く不動産屋へと出向いていることだろう。こちらはと言えば、少しでも無理をすると腹の底から色々なものを無様に吐き出してしまいそうで、そんな情けない自分に今は溜息しか出ない。
「……酒は飲んでも飲まれるな、か」
「でも、酔ってる時にするのは悪くないよな?」
「懲りもせずよく言う」
「まあ、それはともあれ」
とにかく、腹が減った。同時に放った言葉は正しくぴったりと重なり合って、小刻みに肩を震わせながら朝食用の味噌汁の具を大根にしようと決めた。
(2023.01.14)
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