「いい子だね。優しいんだなあ、君」

 悪い癖だと思う。きっと、ヒナタに今の自分の状態を見られたら物凄い形相で怒るだろう。その程度にはこれが自身の欠点であると自覚はしていた。しかし、それでも万が一のことを考えてしまうと体と思考は彼の声も届かないほど微睡みに溶けて消えてしまう。この身以外に何も起きなければそれでいい。暗闇の中で全て済んでしまえば何も変わらない。そう、何も。
 ヒナタの声が聞こえた。酷く怯えていたように思う。電子機器を通したぴりついた声はすぐに途切れ、目の前でにやつく名前も知らないボーイたちの目的などすぐに察した。初めはその声の主から疑った。何を喋っているかもわからない、ブツブツと途切れ途切れの音。そんなものが脅しの道具になるものかと吐き捨てれば、次に見せつけられたのは動画だった。それも、ビデオ通話で表示された画面にはまさしく、一人部屋で留守をしていた彼が身包みをはがされ今にも暴力を振るわれそうになっているのだから、堪らずかまされた猿ぐつわの布をぎりぎりと咬み込んだ。

「眠くなるお薬をちょっとぶち込んだだけ。死にはしないさ」
「っ、う」
「俺の言うこと、素直に聞いてくれたら彼にはもう何もしないよ。信じて欲しいな」

 ひんやりとしている寂れた地下駐車場、ひび割れた灰色のコンクリートに背を預け、後ろ手に縛られた両腕と口に押し込められた固い布が後頭部まで伸びてしっかりと結び付けられている。目の前に佇むボーイはいやらしく口角を上げながら、掲げていた携帯電話の画面を消してズボンのポケットの中へ突っ込み、ゆっくりと目の前まで歩み寄ってきたかと思えば突然胸倉を掴まれ、そのまま重たい体を軽々と持ち上げられた。

「ぁ、っぐ、」
「いいね、身を弁えてる。俺、察しがいい子好きだなあ」
「うッ! く、がはっ……」

 耳に響くほどの音と共に壁へと打ち付けられた衝撃で後頭部がぶつかり視界が眩む。生臭い匂いがすぐさま辺りに漂い今にも意識を失いそうだったところを無理矢理立て直すと、目の前にはけらけらとさぞ楽しそうににやつくボーイの顔があった。

「ごめんね、ちょっと力入れすぎちゃったかな。でも君、丈夫そうだし。もう少し付き合ってよ」
「は、ぁっ」

 瞬間、手が離れべしゃりと地面へ落とされると、足蹴にされごろりと転がった体が仰向けになった瞬間、一気に真上から下ろされた足に下腹部を押し潰される。う、という呻き声と共に堪らず逆流した胃液が猿ぐつわをされた口の隙間からだらりと漏れていった。

「ああ、いいよ。もっと呻いてごらん。泣きたくなったら泣くといいね。汚い顔もそそられて好きなんだ」

 息を荒げながら馬乗りに覆い被さったボーイは首元へ左手を持って行くと、ゆっくりと締め上げながら今度はもう片方の手で躊躇なく顔を殴ってくる。血の匂いがした。今にも殴り返したい衝動を無理矢理押さえつけながら必死に猿ぐつわを噛み締め、いずれ解放されるだろう未来を待つことしか出来ない虚しさが次第に募る怒りを勝り、抗う気力さえついには消えてなくなっていった。
 気付けば破り捨てるようにボトムスを剥ぎ取られ、着ていたジップアップカモもファスナーごと一気に引き千切られた。インナー越しに露になった胸板、それを目の前に屈んだ彼は血まみれになった猿ぐつわも強引に外して床へと投げ捨てる。荒い呼吸と共に口角からだらりと溢れた赤、中に溜まった淀みで咳き込み文句の一つも零す力もない。

「思った通り、いい身体してるなあ。君のこと、もっといっぱい知りたくなったよ」

 うっとりと蕩けた顔を浮かべながら、手慣れた様子で天井から垂れ落ちた太い電線を引き延ばし下半身が持ち上がるようにそれぞれ両足首へと巻き付けられた。一発、顔面を蹴り付けようとするもギリギリのところで避けると、自然と露になった排泄腔へと躊躇うことなく何かを突っ込んできた。息が詰まる。声にならない、腐った声が思わず漏れた。

「あ、ぐうッ! な、に……」
「俺さあ……自分のインクを、かわいい子のおしりの穴にぶち込むの大好きなんだよね。ねえ、行くよ。いい? いっぱいさ、俺の紫色、感じて欲しいな」
「いッ、あ、があぁッ! クソ、は、あっ、フッー、うう」

 身体がばらばらになりそうな程の痛みが身体の内側から全身へと広がって、まるであちこちが引き千切られそうになる感覚に堪らず見開いた。無理矢理ねじ込まれたであろうペットボトルの先から奥へと浸食してきたのは、紛うことなく目の前のボーイが自分で搾取したのであろう濃い紫色のインクで、ボトルに入っていた量を全て出し切った頃には自身の髪色である山吹色が焦げたような茶色へじわじわと変色しているのを見て、数時間ほど前に見たばかりの海色が次第に酷く恋しく感じて仕方なかった。

(早く、触れたい)

 生きている証をこの手で確かめたい。今はただ、それだけでいい。そう、静かに目を閉じた瞬間、下半身から熱い何かが中へとぶち込まれる感覚に力いっぱい歯を食いしばって耐える。びきびきと浮いた血管が分かるほどに太く固いそれは無配慮に奥底まで入り込み、まるで相手のことなど微塵も考えていないような、己の欲のみに忠実に動く機械のような動きに吐き気さえ覚えた。

「っ、は、っく、ふ、ッうぐ」
「はあ、すごい、俺のインクと君の血が混ざってぐちゃぐちゃになったのが溢れてる」
「だから、ど、したっ」
「少し、足りないなあって、思って」
「は……あ゙、御託は、いいッ、さっさと済ませ……ッぐ、あァ!」

 耳にした言葉の一つ一つ、全てが頭に入ってこない。あまりの興味のなさに小さく鼻で笑うと、どうやら機嫌を損ねたらしい彼は二度三度では飽き足らず、何度も力いっぱいに顔を殴ったあと挿入したままの陰茎を抜き取ると、今度は血の味が充満する口の中へ全てを押し込んだ。

「歯は立てるな? 妙なことをしたら、君の大事なあの子は死ぬと思って」
「ん、う」
「……そうそう、やればできるいい子だね。でももっと、働いてもらう、よッ」

 う、と唸る頃には既にもう喉奥へと貫かんとする圧迫感に吐き気と嫌悪感で溢れていた。声を出させる気はないと言わんばかりにぐいぐいと腰を突き出して、何が楽しいのか高らかな笑い声と共にすぐ果てた陰茎の先から溢れた熱波が血にまみれたまま一気に口から溢れていった。

「っ、ゲホ」
「まだ終わりじゃないよ。もっともっと、たくさん搾り取るんだから」
「……アンタみたいな、下衆相手に……勃てろって方、が、無理だな、っ」
「君の意思なんて関係ないね。方法なんていくらでもある」

 嫌味な笑みに反吐が出そうになった直後、どくりと心臓が大きく唸った。次第に腹の奥底から嫌な熱が沸き上がり、呼吸が乱れる中で感じるはずのない欲の波が静かに震え立っていくのが分かる。その証拠とでもいうように、びきびきと太く反り立ってゆく自身の姿が信じられなくて思わず目を見開いた。

「は、ぁっ……、ぅ、何、して」
「あはは。いーっぱい、俺のナカで出してよ。お腹いっぱいになるまで、君のやつ、ちょうだいっ」
「ぐ、うぅうッ! あ、がっ、は、はあ、ァ」

 こんな異常な状況の中でも、自分の身体と心がゆっくりと離れていくのが分かった。興奮なんてしているはずもない。ましてや不快感ばかりを募らせているはずなのに、相手を問わない無作為な性欲が身勝手にも目の前で馬乗りになり、今にも破裂しそうな陰茎を自ら自身の穴へ深々と突き刺していた。と同時にびりびりと痺れるような刺激と、狭い肉壁に挟まれる圧迫感、気持ちが悪いほどに伝わってくる彼の体温で一層、己の正気を保てなくなってゆく。

「あ……あ、んっ! おっきいおちんちん、奥、ごつごつ当たってる、しゅごいねっ!」
「は、っく、うう、クソ、がッ……! 何を、仕込んでっ、ぁ、あっ!」
「ん、ふふっ、俺の……さっき、飲んだでしょ? っ、は、ああ、その時、おくしゅりも一緒に飲ませちゃった。ア、ハハ! すっごく、気持ちいいっ。もっと、もっと欲しいなあ!」

 眩暈がした。これは本当に今起こっている現実なのだろうかと、視界に写るその世界そのものに疑問さえ浮かぶ。手も足も身動きが取れない体の上で不気味な笑顔を浮かべながら腰を上下し悦んでいるその姿に吐き捨てる言葉さえ生まれない。

「っ、う、うう、あ、ッく」
「ナカでどんどん膨らんでくるのが分かるよ、いっぱい擦れて気持ちいいんだ。君も遠慮せずに解き放ったらいい……ああ、そうか! 分かったよ。大好きな子の声が聞こえたら寂しくないかな。ほら、特別に見せてあげる」

 唇を力いっぱいに噛み締めたところで、口の中は既に生臭さに満たされ痛みも味も何も感じない。このまま暗闇に意識を投じて全てが終わるのを静かに待っていた方が余程幸せなのかも知れない、そう思い瞼を閉じようとした瞬間だった。恋焦がれた声が、確かに聞こえた。しかしその声はあまりにも痛みを伴った苦しいもので。

「ヒナ、」

 頭の中で、叫びが反響している。いつも自身を照らしてくれた太陽が暗く沈んでいく様、そんな光景が小さな携帯電話の画面にただただ映し出されているのを呆然と眺めていた。頭の中は白で埋まっている。きっと、信じたくなかったのだと思う。誰かに綴るように手を伸ばす彼がサキ、と名を呼ぶのを聞いた。あれだけ欲しいと思った声も、ぬくもりも、存在にさえ手を伸ばすのが億劫になって、それが不思議で仕方がなかった。

「向こうもすっごく盛り上がってるみたい! こっちも負けないように、いーっぱい楽しいことしようね。マサキくん」
「……っ、ぁ」

 見えない。あんなにも輝いていた光が、微かにも残っていない。腹の上で一人、甘い声を漏らしながら腰を上下に浮かせる彼が無機物のようにも見えて、次第に視界が黒に埋め尽くされそうになった頃、果てしなく遠いどこかでぱきりと何かが折れる音がした。


***


「おい……おいってば、おーいおいおいおい」

 は、と覚醒してすぐ視界に映ったのは、心配そうに眉尻を下げながら濡らしたタオルを握り締めるヒナタと、今ではもうすっかり見慣れたいつもの狭い寝室だった。自分でも驚くほどに勢いよく上体を起こして辺りを見渡し、ようやくあの絶望が夢の中の出来事だったのだと理解してからは暴れ回るほどうるさく聞こえていた鼓動が少しずつ落ち着いていった。
 こんなにも色濃く記憶に残り、尚且つ酷く鮮明な夢を見たのは初めてかも知れない。眠りは深い方であったし、夢を見てその中身を覚えていても朝にはほとんど忘れていることが多かった。それなのに、今思い返してみてもあの厭らしいボーイの言葉は一言一句漏らさず、暗闇で強いられた淫らな行為の記憶もまるで脳に刻み込まれたかのようにしっかりと覚えている。

「オマエがそんなに魘されるなんて珍しいな」
「……悪い、手間かけさせた」
「別にいいって、俺も気付くの遅かったし。そんなことより、そのひでえ顔なんとかしろよな」

 ほれ、と苦笑しながら手渡された蒸しタオルを受け取ると、そのぬくもりと彼の優しさに乱れた心が少しずつ癒やされていった気がして堪らずその腕を掴み胸元へと引き寄せた。抵抗する間もなく突然体ごと引っ張られた彼は驚きこそすれど、乱れていた心情を汲み取ってくれたらしいヒナタはそのまま素直に腕を腰へ回してゆっくりと背中を撫でてくれていた。

「あったかいホットミルクでも作るか? ちょうどチョコレートもあるし」
「あとでいい。それよりここにいろ」
「な、なんだよ。今日はやけに素直だなあ」

 首元で小さく溜息を吐いている彼の匂い、触れた頬の優しい温かさ、そして宥めるように背を摩る優しさで堪らず涙を浮かべそうになって抱き締める腕に力が籠る。苦しいってば、と文句を垂れながらもどこかふわりと笑みを浮かべたと同時にごくりと息を呑むと、しっかりと自身の下半身が反応を示していることに気付いてそっと目を伏せた。

「ぷ、くくっ。それで誤魔化してるつもりかよ」
「……隠し事は出来んな。特に、オマエの前では」
「隠す気もないくせによく言うよな」

 はは、と声を上げながら笑う彼を抱きしめたまま再びベッドへと背を預け、見下ろされる形で体を白に沈ませ伸し掛かるように凭れてそっと口付ける。小さな文句を零す声を押し込むように舌を入れると、それに応えるように絡めてきた彼の頭の後ろに手を添えて、一分一秒でも長くこうしていたい、そう心の中で一人願いながら貪り尽くしてゆく。
 夢の中で聞いた悲痛な声を思い出すたびに罪悪感とやるせなさで胸が詰まった。言いなりになることでしか助ける術を思い付かなかった自身の情けなさに落胆し、しかしあれが夢であってくれたことに酷く安心して、こうして求めていたぬくもりに触れることのできる今が嬉しくて堪らない。

「ヒナ」
「っ、ん……何?」
「このまま、頼む」
「……体、しんどくないのかよ」
「聞くな。どうしても、今がいい」
「さ、サキ……」

 出来ることならば、彼に溺れて全てを忘れてしまいたい。もう、ありもしない絶望に振り回されたくもない。今はただ、目の前で揺れる海色だけを見上げて、汗ばんだその手に包まれてゆく感覚にただひたすらに綴ろうと決めた。
 ごくりと息を呑むヒナタに苦笑しながら何度も口付けを交わしているうちに、気付けば互いに着ていたフクがベッドの外へと丸まって散乱していた。熱い吐息の中で既に反り立つ陰茎の根元から握る手を上下に動かしながらそっと顔を離すと、もう片方の手の人差し指に舌を擦り付け唾液に塗れたそれを臀部の後ろへと潜り込ませてゆく。数年前と比べて幾分かは慣れてきたらしく、固く閉ざされたその入口の肉壁をぐにぐにと解しながら侵入してくる彼の指に堪らず息が詰まった。

「もうちょい奥……ここ?」
「っ、は、ぁ……っく」
「前から知っておきたかったし、教えて」
「あっ、ふ、う……もっと、中に押し込めッ」
「ん、りょーかい」

 本数の増えた指が指示した通りにより狭い直腸へと沈むと、ある一点を指先で引っ掻かれた瞬間に全身へと流れた電気のような痺れる快感に腰を捩る。すると、乱れた呼吸と混じって漏れる声ににやりと口角を上げたヒナタは上体を乗り上げ胸元へと顔を寄せたあと、突起を歯先で挟み舌で撫でてくる感覚にぞくぞくと体が震えた。

「ぁ、んっ、おいッ」
「お、意外と好きだったりする? 前からちょっと、こうしてみたかったんだよな」
「そんなのはもう、いい、からっ、早くッ」

 胸筋の膨らみを下から解すように手のひらで揉み上げながらまるで赤子のように吸い付く彼を見下ろして、自分もヒナタを抱く時は同じことをしていたとふと思いだし苦笑した。随分とでかい赤子だなと心の中で一人ぼやくも、どこか愛らしさを感じて、もしかして自分が彼を抱く時と同様の思いを抱いたのだろうかと想像したが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。あちこちから与えられる刺激に息を乱している中、もう既に限界を迎えている互いの陰茎は今にも爆発寸前で、勿論それは彼も同じであるらしく、もういいよな、そう一言告げると指を抜きゆっくりと持ち上げた重い両足を肩に掛けると、解し尽くされたそこにそっと充てがわれ、強張った身体を他所にゆっくりと大きく息を吐いた。

「……オマエが今、何に対して不安がってんのか分かんないけど、」
「っ」
「俺は今もここにいるし、明日も明後日も、間違いなく隣りにいるから」

 だから、そんな泣きそうな顔するなよな。優しく温かい声でそう告げたあと、何を返す余裕もないままヒナタの陰茎に奥までずぶずぶと一気に貫かれ、中を擦られる気持ちよさでシーツを握る手に力が籠もった。逃さないと言わんばかりに腰を掴み、何度も繰り返されるピストンにあれだけごちゃついていた頭の中は目の前の海色に塗り潰されてゆく。

「は、ぁっ、ひっぐ、ヒ、ナ……く、あぁっ!」
「ッ、オマエは、いっつも一人で抱えすぎ、なんだってのッ!」
「ん、っう、ぁ、ああっ、は、ぁっく」
「……今だけでも、いいから。俺のことだけ、考えてて」

 熱い息と一緒に耳元で囁かれた声に、必死に返した言葉を聞いたヒナタの瞳がぱちくりと大きく開いた直後、彼が急に頬を赤く染め照れているものだからそれが面白くてつい笑ってしまった。傍からすれば余程恥ずかしい台詞を真剣な顔で言いのけるくせに、変なところで言われ慣れておらずに反論さえ出来なくなる純粋さは彼の好きな部分でもある。

「は、ぁっ……今更、照れるな」
「だ、だって。いやそりゃあ俺だって、一緒だけど」
「……さっきの言葉、忘れるなよ。勿論、手放す気はないが」
「え、あ、さっきのって……うわあ!」

 見るからに行為が原因ではない火照りに堪らず上体を持ち上げ両足をヒナタの腰を挟む形でベッドへ下ろすと、腕を掴み無理矢理顔を寄せては噛みつくように口付けた。ぴちゃり、と水音が聞こえる中で舌を絡め取ると次第に蕩けてゆく瞳にごくりと息を呑む。そして彼の胸をそっと押してシーツを背に身体を倒し、真っすぐ伸びた足、下は繋がったまま太ももの上へと跨ぐように自身の体を乗り上げた。

「お、おいおいおい。さっきの元気のなさは一体どこに……」
「元気なら十分もらった。優しく慰めてくれた恋人にきちんと礼をするのは当然だろ」
「あ、ひえっ……その、ありがとう、ございま……うわああっ」

 こんなにも自分を大切に想ってくれるヒナタが愛おしくて堪らなかった。この手を二度と握ることができなくなるような絶望を見たくない、彼の満たされたかのような困ったような笑顔をずっと隣りで眺めていたい。心の中で渦巻く様々な気持ちが息を荒くさせ、ゆっくりと腰を上下させるとヒナタの熱い吐息が小刻みに浮かんだ。もっともっと、自分にしか見せない、透けて見える彼の表情が欲しい。そう思うと、頭がぼやけたままに解けた髪の先を無意識に手に取り、小さくリップ音を響かせ口付ける。瞬間、びくりと震える身体に共振して不意に奥底へと突かれ、反応した自身の陰茎は今にも爆発しそうな程に膨張していた。

「ぁ、あ、っぐ、はあ、はっ、ぁ、そろそろ、」
「ひっ……ぁ、っくう、うッ! ごめ、も、イきそ……」
「そのまま出せ、俺も、もう……ッ、ん、っん、は、あぁあ!」

 ばちゅんばちゅんと肉と肉がぶつかり合う音、擦れ合う快感に痺れを全身で感じている中で突如、ごりごりと根元まで飲み込まれたヒナタの欲が一気に中で解放される感覚に自分の声とは思えない甘い嬌声が口から漏れた。弓なりに曲がる背とちかちかと光が弾ける視界、慌てて上体を起こした彼が後ろに倒れそうになった自分の腰に腕を回しこの身を引き寄せる。温かくて、好きな匂いに包まれて悪い気はしなかった。背中を擦る手のひらはとても優しくて、いつの日か、昔の記憶の中で誰かに頭を撫でられて嬉しかったことを何故だか今になって思い出す。揺れる赤い瞳を隠すように瞼を伏せて、今だけは何を考えるでもなくそのままヒナタの胸元へ全てを預けることにした。

(次はきっと、夢は見ない)

 夢など、見なくてもいい。次に目が覚めたときに、ヒナタがそこにいれば嘘っぱちの幸せなんて必要ないのだから。

「……おやすみ、サキ」


(いつまでもあなたと一緒/2023.08.22)



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