時々面倒だと感じた事もあったけれど、体に染み付いた生活習慣というものはそう簡単に崩れるものではない。カーテンの隙間から部屋に射し込む朝日の眩しさで目は覚めるし、スムーズに体を起き上げ次第に覚醒していく意識、そのまま自然と洗面所へ向かって洗顔と歯磨きを済ませ、顔の両脇にだらりと垂れた青を一纏めに縛り上げては脇に寄せておいたアローバンドブラックをしっかりと掛けて視界を鮮明化する。バッチリと決まった髪型を確認して気分を上げると、その流れで朝ごはんの食パンを焼き簡単に作ったサラダとホットコーヒーを添えたセットを嗜むまでがいつものモーニングルーティンだった。
ところがどっこい、随分と世話になったヒラメ団地でのバトルで初めてだいきと出会い、大学進学と共に住居を変えた時から一人暮らしではなくなった今はそのルーティンも崩されつつあるのが現状である。原因も理由も勿論分かっていて、いつもより朝ごはんの時間が遅くなるのは大抵、思い出せば思い出す程顔が熱くなるような一夜を前日に過ごしてしまったからに過ぎない。
「……朝」
目覚まし時計をセットせずとも、自然と目が覚めた先に見えた針はすっかり見慣れた方向を指し示している。それでもベッドから降りられず、横向きに寝転び布団に包まったまま動かずにいるのは決して眠りが浅かったせいではなく、寧ろ動きたくても動けない状況に置かれているというだけで。
「ねぇ、だいき。だいきってば」
「うーん……ナナちゃんのお腹、すべすべ……」
「寝たふりするんじゃないっ」
背を向けて寝ていたせいか、逃がさんとばかりに後ろからがっしりと腰に回された両腕、丸く縮こまった体を包み込むように抱き締められ、体の密着した部分には二人の柔らかな体温が心地良く帯びている。お互いに身を纏うものはなく、何処か遠い昔の記憶にも思えた昨夜の熱をふと思い出してはあまりの照れ臭さで思わず首を振った。
枕元に置いておいた携帯電話の画面を何度確認してもやはり今日は休校の日で、それを知った上でしっかりと甘えてくる彼を愛おしく思わないはずもなく、こうして今日も恋人の腕の中でゆったりとした時間が流れる休日の朝を過ごしてしまうのだった。
「……まぁ、いっか」
「何が?」
「ふふっ、何でもない」
少しやんちゃな弟の手前では兄として見本になれるように規則正しい生活、行い、勉学に励んでいたせいか、微睡の中、何もせずベッドの上でただただ寛いでいるだけという状況には少なからず罪悪感を抱いてしまうもので、しかし二人で過ごすこの時間はとても幸せでこのまま眠ってしまいたいと思ってしまう程だった。
しかし、そんな時でも変なところで真面目な部分を露呈させてしまうのが自身の悪い癖である。せっかくの休日であるのに、このままだらだらと過ごして終わるのはやはり見逃せない。否、そんな自分を許す事は出来ない。閉じかけた瞼をかっと開いては、先程まで確かに動かなかった体を颯爽と起こすもそれでも離れずにいる両腕にがっくりと肩を落とした。
「ちょっと、だいき」
「も、もうちょっとだけ……」
「そろそろお腹空かない?」
「まぁ……でもほら、その時はナナちゃん食べるから!」
「許可なく人を勝手に食べようとするな!」
そういってようやく布団から出てきただいきに、あぐ、と首元へ噛み付く真似をされ、そのこそばゆさに堪らず身震いする。それが面白かったのか、そのまま何度ももぐもぐと貪られ、仕舞いには恥ずかしい程部屋に響かせたリップ音と共に吸い付いてくるものだから、これはさすがにと慌てて振り向き仄かに赤らんだ両頬を指先で優しく抓ってやった。
「いだいっ」
「……朝ごはん、今日はバナナチョコレートクリームサンドにしようと思ったけど、やっぱりやめだ! しばらく作ってやらないから!」
「えっ、そんなぁ! ナナちゃんごめん、それだけは勘弁してー!」
ぷいっと顔を逸らしてきっぱりとそう言い放った直後、目の前に浮かんでいた笑顔が一瞬で崩れ去り青ざめていく様子に危うく吹き出しそうになる。涙ぐむ様子の彼に知らない振りをしたまま延々と泣き言が響く寝室を後にして、やれやれと苦笑を零してはきちんと残しておいた二本分のバナナにそっと包丁の先を入れた。
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