毎日同じ生活を繰り返していれば一ヶ月という月日が経つのはあっという間で、態度には出さずにはいたけれど密かに楽しみにしていた日が気付けば明日へと迫っていた事に今更ながら思い出した。
 そんなそわそわとしたもどかしい気持ちに苛まれる羽目になったのは勿論ちょうど一ヶ月前、世間一般的なイベント故に先輩でもあり恋人でもある彼へ気まぐれに食べたいと言っていたチョコレートをプレゼントした事が切っ掛けである。勿論、自分からの贈り物なのだから当然喜んでくれてはいたものの、問題はその後に彼が発したある一言が未だに頭から離れずにいた。

「…お返し、絶対するって言ってた…けど。何寄越すつもりなんだろ」

 先輩は不器用そうに見えて実は料理がべら棒に上手い。彼が妹のなるじおんちゃんと一緒に二人で暮らしているヒラメが丘団地の一室で、何度もお邪魔してはご飯をご馳走になってきたけれど、今まで口にしてきた料理は悔しい程に何を食べてもいつも文句なしに美味しいものばかりだった(何であの人ナワバリバトルではいつも戦犯かましてるくせに料理はこんなに上手いんだろう。その努力をバトルに何故活かせないのか不思議だ)。
 そういった経験からして、彼が言うお返しとはやはり手作りの菓子かもしくはご飯のお誘いでもしてくれるのだろう、と予想はしていたものの、今のところそういった誘いの連絡はまだ何も来ていないので残念ながら確信はない。
 そして迎えたホワイトデー当日。あからさまに期待しているような雰囲気を齎すのは妙にこっ恥ずかしく感じてしまう為、普段通りにイカノメTブラックに袖を通してはピカピカに磨いたボールドマーカーネオを小脇に抱え、イカスツリーへと足を運んだ先で待ち合わせていた先輩とその友人のあさづけとドラこと合流した。日が暮れるまでナワバリバトルを楽しみながら存分に汗を流しては、おつかれと一言を告げられ現地解散となり、いつの間にやら暗がりの帰路を二人で歩いては何気ない世間話をしているうちに、ついに分かれ道までに辿り着いてしまう。

(もしかして、約束忘れてんのかな…)

 センパンの癖にボクを騙すなんて、こいつはお仕置きが必要か?
 嘘は付かない人柄だと思ってはいたものの、何せ普段から年上とは思えない程にどこか抜けていて頼りない彼がすっかりホワイトデーの事など忘れてしまっていた、と言い出したところで性格的にも展開として有り得る可能性は否めない。そもそも自分が怒ったところで、先月プレゼントを贈ったのも決して要求されたからではなく、なんとなく自分からあのチョコレートを彼に食べて欲しいという純粋な気持ちからでもあった為、そのお返しを強要するなどというかっこ悪い真似はしたくない。

「あっ…の、ひお、くん」

 そんなこんなで一人、正直本気でお返しが欲しいと思っている自分とその欲しい気持ちを押し出したところであまりにダサすぎる自分への苛立ちと、そしてこのまま何も起こらずに終わってしまいたくないという我儘な気持ちがぐるぐると頭の中で混濁していたその時。落ち着かない様子でそわそわと下を向いたまま、胸元で人差し指をつんつんとさし合わせながら自分の名を呼んだ彼に気付いてそっと視線を向けると、ごくりと息を呑み、ゆっくりと喉につっかえていたらしい言葉を振り絞るように呟いた。

「この間の、お礼、なんだけど…」
「えっ! あ、う、うん」
「その…今日、じおんが友達の家、泊まりに行ってて…えっと、だから…」

 今夜、うちに泊まりませんか。そのたった一言を耳にした瞬間、全身の熱がぶわっと湧き上がるかのようにびりびりと体中が痺れ、彼がどんな意図でそのような提案をしてきたのか理解してはすぐにまともな言葉は出せないまま、ただただその目の前でこくこくと頷く事しか出来なかった。


***


 ひおくんからチョコレートを貰ったあの日から今日までの一ヶ月間。自分でも頭がおかしいのかと思うくらいには、ホワイトデーである今日という日に何のお返しをするか一日たりとも考えない日はなかった。元々甘いものが好きだった彼であれば無難に手作りの菓子を贈れば喜んでくれるという確信はあったものの、普段から一緒に食べているものを特別な日に渡すというのも何となく自身の中で納得がいかず、かと言って物で返す事も一度は思い付いたものの、自分よりも財力を持っている彼が欲しいものなど用意できるはずもなく。

(あぁもう…あまりに無力すぎないか、僕!)

 年上であるにも関わらず、気の利いた事一つも生み出せない自身の無能さに思わず頭を抱える。出来る事なら彼が示してくれた気持ちに強く応えられるお返しをしたい、しかし今の自分には彼にとってそれ相応の贈り物が何であるのか分からない。これでは恋人として失格なのではないか、そう暗い気持ちになりつつあった、数日後にホワイトデーが迫りつつある夜も更けてきた頃。

「…あ、そう…か。その手が、あった」

 アパートにある自室、部屋の隅に置かれたベッドに仰向けで寝転びながら、ふと自分からの贈り物を受け取って喜んでいる彼の姿を頭の中で想像してみた時だった。最早これしか思い浮かばないとでもいうように、心の中で即座に採用したアイディアを胸に秘めながら、今となっては少々焦りのせいで早まったのかも知れないと思いつつも既に時すでに遅し。
 そして、ついに到来してしまったホワイトデー当日。日が暮れ二人で帰路を辿っていた矢先、これで喜んでもらえなかったらそれはそれで諦めがつく、と半ば自棄糞気味に顔を真っ赤に染めながら発した訴えに意外にもひおくんはあっさりと了承をしてくれた。そんな彼に心の中で感謝をしつつも、問題はアパートに着いてからどのようにしてその贈り物を渡すまでに至るか、である。
 長時間のナワバリバトルで互いに汗まみれだったので、先にシャワーを浴びるように促せば、いつものように我儘を言う事なくそっと頷いては静かに浴室へと足を運んだ彼に少々の疑問が浮かぶも、そんな事を気にしている余裕などなく。

(はぁあっ〜…い、言うぞ。僕だってこれでもボーイだ! ボーイらしく決めた事はやり通さねば!)

 自室のベッドの上に腰掛けながら両手のひらでぱんぱんと頬を叩き、なよなよと萎んだ自信のない気持ちに踏ん切りをつけ、今回ばかりは思いきり壁にぶつかる勢いで言いたい事を言ってしまおうと大きく息を吐いては心の中で強く覚悟を決めた。

「センパイ。風呂、上がったけど…次、ど」
「ひおくんっ!」
「って、わぁ! な、なんだよ、びっくりしたじゃん! 急に話し掛けない、で…わ、わわわっ」

 悶々と落ち着かない様子のまま、ようやく風呂から上がってきたひおくんが貸してあげたパジャマに着替えてほくほくと湯気を昇らせながら部屋へと帰ってきた直後、自分でも驚く程にびくりと体を震わせては過敏に反応をしてしまい、彼の名前を叫ぶように思わず声を上げた。うお、とその勢いに押され後退る彼を逃がさぬよう、その細い腰へと抱き付いてはどうやら力の加減がいまいち調整出来ていなかったらしく、気付けば密着した二人の体はそのまま床へと倒れ込んでいた。

「あっ…ひお、くん」

 一瞬で暗転する視界、目の前には床に頭をぶつけて苦しんでいるひおくんの姿。そして自分は彼の体に跨るようにその身の上に乗っては温まった胸板へと蹲るように身を預けていた。

「あぁもう、いったいな! ちょっと何すんの、早く、どい…」
「や、やだっ」
「はぁ!?」
「ぼ、僕からの、ホワイトデーの、ぷれ、プレゼン、ト…」
「センパイ、何、言って…」
「…ひ、ひおくんに、食べて欲しい、のっ」

 僕、を。
 ごくりと息を呑みながら振り絞った声は緊張しているのかどこか震えていて、いつもならばもっと恥ずかしいような事を平気で言葉にしている気がするにも関わらず、酷くしんとした部屋の中で零したその一言が妙に重く、どくどくと激しく昂る心臓の音がやけにうるさく響いていた。


***


 そういう事になる展開は予想をしていたものの、まさか自分自身をプレゼントだと言い張るとは思いもしなかった。腹の上に跨りながら顔を真っ赤に染めて、照れ臭いのか視線を合わさずにじっと俯いている先輩の腕をそっと掴んでは、起こした上半身の胸元へと凭れ掛けさせるように無理矢理引っ張ると、急に体を動かされ驚いたのか、うわあと声を上げてはその身を預けるように肩口へと両手を回した。普段はよく自分の名を高らかに叫びながら抱き着いてくるくせに、それらしき雰囲気になると急に緊張し始めたのか、顔を真っ赤に染めながら互いに膨らみつつある下半身にもじもじと視線を外しては顔を埋めていた。

「…ほんと、ダイタン故に安直。先輩らしいよね。それでボクが喜ぶとでも思った?」
「うっ…だ、だって。ひおくん、普段から欲しいもの自分で買っちゃうし。物以外でって考えたら、これしか、思い付かなくて…」
「ふふっ…ま、いんじゃない。だってボク、今すごく興奮してるし」
「えっ…?」

 足を開き自分の下半身に跨っては膝を付いた彼の腰を引き寄せ、もう片方の手を股の下から潜らせてはつうっとスパッツに浮き出た臀部の割れ目のラインと指先で辿る。そのまま張った陰茎をそっと布越しに握っては、ぶるりと震えた体を他所にそのまま擦り上げるように親指の腹で先をぐりぐりと撫でながら上下に扱いていく。

「っ、は…ぁ、んっ! や、あぁっ…ひ、ひおくっ」
「先輩が食べてって言ったんでしょー? …だったら、その前に下ごしらえしないと」
「な、何それぇ! あ、んっ…ひうぅ! お、しりっ、やぁ!」

 次第に固くなっていく彼自身ににやりと口角を上げながら、そっと腰を掴んでいた手を背中に回してスパッツの中へと侵入させる。伸ばした人差し指をずぶずぶと、まだ開ききっていない入り口を抉じ開けるように捩じって突き刺したその奥、熱さに圧迫されたその先でぶつかった壁を指先でとんとんと叩いてやれば、あっあっ、と甘い嬌声を零しながら荒い呼吸を漏らしていた。

「あったかい…そんなにボクとシたかったんだ。興奮してる証拠だよね」
「あっ、ひ、うぅ…ひお、くっ、そんな、ジらしちゃ、やだっ」
「っ…はいはい。あっちもこっちもビクビクさせちゃってさ、ほんと、先輩ったらやらしい…」

 小さな滴を目に浮かべながら、ふるふると首を振る彼のスパッツを器用に脱がせては自身のものを脱ぎ捨てるように足で投げ飛ばし、互いの陰茎がぬちゃぬちゃと水音を立てながら触れる感覚に胸の奥がどくどくと強く唸りを上げてゆく。
 言葉を交わさずとも彼はこちらの反り立つ陰茎へと手を伸ばし、にゅくにゅくと上下に扱く中、上半身を持ち上げて先輩の頬、首、肩、胸へと口付け、そして舌先でちろりと乳首を舐めてはじゅるじゅるとわざとはしたない音を立てながら吸い上げた。

「ふ、あぁっ! ひ、いっ…そこ、だめっ! 今、僕、ひおくんのっ…!」
「うるさいなー。のろまな先輩をぼうっと待っていられる程、ボク心広くないから。そんなにやめて欲しいならそれ、早く大きくしてごらんよ」
「んっ、うぅう〜! ひおくんのいじわるっ! でもそこが好きっ、あ、あぁん!」

 見上げた先からぽろぽろと落ちてくるとろけるような声を耳にして、自身でも驚くくらいむくむくと大きく膨らんでゆく陰茎に苦笑を漏らしつつ、同時に目を細めてはこちらにまで聞こえてくる程に鼓動を高鳴らせる彼からそっと顔を離し、両手で脇を持ち上げてはその拍子に解放された陰茎を臀部へと宛がうと、うっと小さく漏れた呻きもお構いなしにそのままゆっくりとその中へと押し入れた。

「ひ、あぁっ! ん、おっき…い、んうぅっ!」
「自分で大きくしたんでしょ! 頑張った分、堪能してよねッ…!」
「ひゃ、うぅっ! あっ、あんっ! ひお、くっ、激し! あ、やぁん!」

 ずぶずぶと肉の壁を押し破るように奥へと突き進む自身がごつごつと先がぶつかり、熱を帯びながら腰を揺れ動かす度に擦れてはびりびりと痺れるような快感が全身へと回っていく。必死に縋るように肩を掴み、耳元で声が漏れないように耐えるも籠もる息ははぁはぁと吐き出される度に消えていった。

「…こんなんじゃ満足できないなぁ。ほら先輩、もっと動いてみてよ。ボクに喜んで欲しいんでしょ?」
「う、うんっ…ひおくんに、お礼、したいからっ…あっ、やぁん!」

 にやにやと笑みを浮かべては臀部の肉を打ち付けては突き上げ、そのピストンのタイミングに合わせるように腰を落とす先輩のふわふわと目尻の垂れた瞳と赤らめた頬、開いた口元から突く度に零れる快感の全てを受け入れた嬌声にスピードはどんどんと増していく。そして目の前で揺れる彼の陰茎を掴み上げ、腰は動かしたままにびくびくと奮え立つ、既に先からぽたぽたと白濁が溢れかけているそれを握っては上下に強く扱いた。

「あっ…だめ! ひおくっ、それ、いじっちゃだめぇ!」
「…先輩、ボクももう、ちょっと限界ッ…! 中、出しちゃうけどいいよね…!」
「あ、やぁっ!ひ、うぅ…ひおく、ひおくんっ! もっと、こっち、来て…!」

 崩れてきた上半身を凭れ掛かるように胸元へと体を沈めた彼の背に腕を回し、ぴったりと白と黒の肌が合わさるように強く抱き締めながらゆっくりと部屋の壁に背を預ける。そのままゆっくりと膝を立てては、目元に浮いた大きな雫をそっと指先で拭っては、首元に顔を埋めた彼の耳元でそっとその名前を囁きながら、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音と共についに一線を超えたその直後だった。

「ひお、くっ…あっ、んあぁあっ! だめ、だめっ…あっ、うぅ、ふあぁっ!」

 限界まで抑えつけていた熱が一気に解放されて、彼の中をじわじわと満たしていく熱に体中からすっと力が抜けていくと同時にずっしりと重みを感じる先輩の顔を寄せるように腕を回して、意識が朦朧としているらしい彼の唇へとそっと口付けては耳元で荒い呼吸の混じった声で小さく呟いた。

「っ…ゴチソーサマ。ありがとね、先輩」
「はぁ、はぁ…ひお、く」
「最高の、プレゼントだった」
「……あっ。そ、っかぁ…えへへ、良かった…」

 ひお、くん。
 何度呼べば気が済むのか、出会ってから幾度となく繰り返し続けていた彼の自分を呼ぶ声が今は酷く愛おしく感じて、静かに夢の中へと意識を沈めていく彼を、より一層強く胸の中で抱き締めながら見上げた先で大きく溜息をついては一人、小さく笑った。


(2017.03.28)


‐ ‐ ‐ ‐ ‐ ‐