先輩は結構目にした情報をすぐ鵜呑みにするような所があって、そんな事は昔から知ってましたとさぞ自慢気に話してくるものだからその度にうざいなぁと思う。それが生活上で役立つ豆知識だとか、ハイカラスクエアに住む人々の二パーセントしか知らなかった町の秘密だとか、そう言ったどうでもいい事ならハイハイそうですね凄いですねで終えられるのだが、恋愛系に関する事項だととにかく扱いが面倒くさい。ボーイの癖に変に記念日とかプレゼントはあげるあげないだとかで拘るし、星座や血液型で判別する占いとか運命とかいう不確定要素が多すぎる言葉に弱い。なお且つ、うるさい。何がと聞かれれば言動のみならず会話中のリアクションや声の大きさ、というかそもそも存在がうるさい。喋ってもいないのにここまでうるさいなと感じさせるインクリングは先輩が初めてだと思う。
「やっぱりさ、仲が良くてイチャイチャしててラブラブなカップルは、一ヶ月おきにちゃーんとお祝いしてるんだよ」
「ボクそんな話聞いた事ないけど」
「んも〜ひおくんってば。おっくれってる〜! こんなハイカラな町に住んでるんだから、この世のブームはちゃんと把握して、お・か・な・い・と」
そう得意げに言い放った言葉の最後尾に、ね!と強調された一文字が付けられ、苛立ちと怒りが一瞬で容易く沸点へと達した。といえど、ここで挑発に乗ってしまえば先輩の思う壺である気がして、一人胸の中で冷静さを取り戻しながら、未だ鼻を高くして踏ん反り返っている彼の脇腹へと力いっぱい肘打ちをかました。
「そんなブーム、スクエアには出回ってないっての」
「いだいっ、この痛みは愛の重さッ」
「……そもそも。別にブームじゃなくたって、そういうの大事にする人は勝手にしてるでしょ」
「えっ! そ、それってつまり、ひおくんも毎月……いや、毎日僕と一緒に記念日お祝いしてくれるって事!? やったー!」
「何でそうなるんだよ、このアホセンパン!」
都合のいい方ばかりに解釈する先輩に少々呆れつつも、実際のところ祝う事自体は嫌という訳ではない。そう頻繁に祝えと言われれば鬱陶しさのあまり嫌気も差してくるところだが、恐らく先輩の言うお祝いはこちらのイメージを遥かに超えて規模が大きい事が予測される。つまりおめでとうの一言で終わるだけでなく、一体何の祝い事なのか分からない程に無数の料理と部屋中の飾りつけやプレゼントの準備が施されるに違いないのだ。
(先輩、飯だけは作るの上手いもんな)
バトルのセンスは信じられない程ないけど、と心の中で余計な一言を付け加えながらそっと呟いてる間にも、隣りで騒ぎ立てている彼は既に祝い事のスケジュールを組み始めている。
「えーっと、じゃあまずはボクたちがお付き合いを始めて二年と一ヶ月飛んで二週間経った記念のお祝いパーティを今度の日曜日にでも」
「ねぇ、先輩」
浮かれて調子に乗っている辺り正直気に食わないが、先輩は浮かれていない日の方が珍しいのでよく考えてみればこれが普通だった。なんて、うっかり妥協してしまう自分が余程おかしくて堪らず影でそっと苦笑を零すと、急に呼ばれたからか不思議そうにこちらを見遣るその気の抜けたおマヌケ顔の額をばちんと指先で弾いてやった。
「いだいっ! 気持ちいい! 何するの、ひおくん!」
「……肉じゃが」
「へ?」
「あと、唐揚げとわかめの味噌汁に……それから、オムライスは必須ね」
「っ……ぷふふ、あはははっ! ひおくんってば、それじゃあお祝いというかいつもの晩御飯だよ!」
「う、うるさいな! 普通が一番ってよく言うだろ! せっかくのボクからのリクエストにケチつける生意気な先輩なんてこうだ!」
指摘をされて初めて気付いた、自分らしくない素朴で単純な、その上妙に子供っぽい、それを特に疑問を抱かないままに自然と要求として口を滑らせてしまった事に他ならぬ自身が一番驚いていた。よりによってオムライスって、どこぞの小学生だ一体。今まで経験した事のない程の気恥ずかしさを押し隠すように未だケラケラと腹を抱える先輩を足蹴にしながら、それでもやはりどれもこれも譲れないなぁと己の強欲さにそっと溜息を吐いたのだった。
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