はきはきとした高らかな声で宣言をしてしまった後、もしかしたら隣りの部屋まで聞こえてしまったのではないかと今更になって不安になった。動揺したところでその事実は変わらないしどうする事も出来ないので、まぁ大丈夫だろうといつもの調子で気付かなかった事にする。
時刻は既に夜更け。重なり合った時計の針がどちらも天井を指し示し、そして数時間前から摂取していたアルコールのおかげで気分も上々に仕上がれば自然と会話も弾んだ。酒は飲んでも飲まれるな、その言葉通り普段から酔い潰れる事はあまりないけれど、今夜は無礼講だと言わんばかりに日頃抑えているものを解放して自由に飲み明かすのは好きだった。特に親しい間柄、ましてや恋人と二人きりの晩酌はとても楽しい。案外ヒカタも酒は好きで、こちらから今夜一杯どうかと誘えば大抵乗ってきてくれる。
「飲むならいつものやつ」
「大丈夫、ちゃんと買ったよ。桃以外に欲しいのあったらまた連絡ちょうだい」
そんないつものやり取りをメッセージアプリで送り合ったのも数時間前の話で、袋いっぱいに詰められた様々なパッケージの缶とおつまみ用の食材を両手に引っ提げて帰宅し、先に会社から帰っていたヒカタは既に風呂から上がって一人リビングで休んでいるところだった。ただいま、と零せばそっと振り返っておかえりと返され、すぐにおつまみ作っちゃうねと慌ててキッチンへ行き持っていた袋を広げれていれば、いつの間にか何も言わずに床に投げた上着をハンガーに掛けてくれていて、更には面倒くさそうにも二人分のグラスをテーブルに用意しておいてくれる。そんなさり気ない優しさと主張のない気遣いに堪らずにんまりとほくそ笑んでしまうのだった。
「今日はるんるんだから手羽の塩焼きと揚げ餃子にしちゃう」
「またかよ、飽きねえな」
「大丈夫。ヒカタ用にお菓子も色々買ってきたからさ」
料理は得意だ。得意というか、元々好きだったから彼と同じ部屋で暮らすようになってからも自炊は続けていた。それに、出会ったばかりの時に酷くやつれていたヒカタを見てどうにか元気付けてやりたいという思いが今でもあり、それからというものの彼の好きな料理で献立を考えるのが日常茶飯事となっている。勿論、今日作るつもりの酒の肴もヒカタが以前気に入って食べてくれていたものばかりで、近い未来に照れ臭そうに美味いと小さく微笑む彼を見られると思うと自然と自身の顔も綻んでいく。そんな事を考えながら互いにアルコールを摂取し眠気と満足感から程よく気分も良くなってきた今。ヒカタからそろそろお開きにするかと告げられ、まだ今日という日を終わらせたくない自分の口から咄嗟に飛び出したのが以下の台詞である。
「今からここはキスしないと出られない部屋です!」
「……じゃ、俺先寝るわ。おやすみ」
「寂しいから無視だけはやめて!」
驚く程の切り捨て方に泣きそうになりつつも、特に足を止める事なく部屋から出ていこうとするヒカタの腕をどうにか掴み、力ずくで再び引きずり込んでは側へと腰を下ろさせる。明らかに不機嫌そうな表情をしているがこの際気にするのはやめだ。こうでもしないと自身の内で今まさに暴れ回っている欲を沈められずに身も心もギンギンのままで布団に入る事となり、恐らくそのまま一睡も出来ずに朝を迎えてしまうだろう。
「正直に言え。お前もしかして……溜まってんな?」
「ハイ……ソノトオリデゴザイマス……」
「……チッ」
「しくしくしく」
どう考えても面倒くさいと思われている。誰がどう見ても分かる。しかしここでどんな醜態を晒そうともこのチャンスを逃す訳には行かない。何故ならば互いに仕事の都合や私用の日程で折り合いがつかず、こうして二人だけの時間をゆっくりと過ごせたのは実に二週間ぶりだった。
「ヒカタァ……」
「ッ、たく……ボーイのくせに、んな情けねぇ声出すな」
大きな溜息を吐かれ、より一層虚しさが胸の奥へと広がってゆく。もしかして寂しく感じていたのは自分だけだったのだろうか、なんて悪い方へばかり考えてしまうのももしかしたら酒のせいかも知れない。いつからこんなに面倒くさい酔い方するようになったんだっけ、と小さく浮かんだ涙をぽろりと落として慌てて腕で拭い取っていると、いつの間にか自身がゆらりと揺れる影に包まれている事に気付いた。
「へ?」
乾いた唇に重なる熱と大好きな匂い、視界いっぱいに広がる頬を染めたヒカタのぼやけた顔が映ると、ただでさえまだら模様に混濁していた頭の中は理解の追いつかない現状で真っ白に吹き飛んでいた。
「……さっさと来いよ。続き、するんだろ」
「あっ、あ……あぁあッー!!」
「うるせぇな! 夜中だぞ、静かにしろ!」
「うぐうっ、うぅう〜……ずるい、かっこいい、大好き、ビッグラブ……!」
俺の恋人、ホントのホントにカッコいい。これ以上口にしてしまうと小突かれそうな気がして、早々と寝室へ向かうヒカタの背を追いかけながらこれから始まる第二ラウンドに胸を躍らせたのだった。
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