「…おっし、四人落ち。イケるぞ」
ステージ内に射し込まれた眩しい日差しが重量感のある銀色とその銃口の先で眩しく光り、背と体は自分より小さくも体つきは良く肩に担いだブキで遥か遠くのインクリングに狙いを定める姿は、何度側で見ていてもそのまま目を離せなくなってしまうくらいに感服する程だった。
そもそもはそんな彼が14式竹筒銃を巧みに扱っていた姿を初めて見て自身も強くなろうと心に決め、ある時手に馴染むと確信した重量級のブキであるハイドラントを握っては日々練習に励み続け、上級者向けでもあるブキの扱いに苦戦しつつ次第にバトルの楽しさだけでなくたくさんのチームメイトとそれまでに得た知識や技量を教え合ううちに、人に何かを教える事そのものが自分は好きだったのだと自覚をして大学に入学し現在に至る。
と、そこからまた色々と奇跡的な出会いを果たして今は恋人でもあるヒカタと同じ部屋に暮らして、時より二人でリーグマッチやナワバリバトルに参加しては彼のサポートをしつつ普段通りにバトルに嗜んでいる(上手くコンビネーションを取る事が出来ると時々褒めてくれる。死ぬほど嬉しい)。
なんて、彼がリッター4Kを構えた姿に見惚れながらそんな事を思い出していた最中。ぼうっとしていたのがバレたのか早く行けと少々不機嫌気味なヒカタに尻を叩かれ、はいはいと地面に置いていたハイドラントを軽々と担いでは悠々と前進していくヤグラを後ろから眺めつつ、再びリスポーン地点から慌てて戻ってくる相手チームへとしっかり狙いを定めてはチャージしておいたインクを一気に射出して食い止め、本日も調子良く勝利をもぎ取ったのだった。
***
「おっつかれー! はい、カンパ〜イ」
「へいへい、お疲れ」
今回のリーグマッチのステージでもあったエンガワ河川敷の高架下。今はもう人気もなく日影が涼しい場所で、外から流れ込んでくる清々しい空気が疲れた体を癒してくれるようにも感じ、シナトの提案でロビー近くのカフェでテイクアウトしたコーヒーの紙コップを手に休憩がてら再び足を踏み入れていた。あれだけインク塗れで騒がしかった風景も今ではすっかり静けさが広がり、目の前に流れる川を眺めつつガタゴトと橋の上を走る車両の少ない電車の音を聞きながら飲むコーヒーもたまには悪くない。
「さっきのヒカタ、いつにも増してカッコ良かったなぁ」
「そうやってボケッとこっち見てっから出遅れんだろ。バトル中くらい真面目にやれ、真面目に。それでもお前は教師の端くれか」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない…。俺だって結構頑張ったもん」
「そこそこな」
頬を膨らませながらあーだこーだと文句を言いつつ笑みを零す彼につられてそっと口角を上げる日々も今では日常と化して、バトル以外では仕事に没頭していた以前では自分でも信じられない程自然に笑えるようになっていたと思う。ある意味、彼とあの日の夜に出会わなければ今頃どうなっていただろうか、とまで考えてシナトのおかげだなんて感謝の言葉を言うのも何となく癪に障り、喉元までつっかえていたものは無理矢理に再び奥底へと飲み込んでおいた。
「なぁ、シナ、ト…」
そして大した会話を続けるでもなく、飲んでいたコーヒーも空になってきた頃。突然シナトが何かを確認するかのように、きょろきょろと周りを見渡し始め、何だ何だと訝し気な視線を送ったその直後だった。
「お前、まさか…」
「そのまさか、かなー」
頂点まで昇っていたはずの日が次第に西へ傾き始め、ゆっくりと灰色の領域が広がり始めた時、その色は突然深みを増し、気付けば馬乗りになって自身の下半身を跨いではにやにやと怪しい笑みを浮かべているシナトが立ち塞がっていたのだった。
何の前触れもなく器用にも着ていたF-010のボタンを一つ一つ片手で外し、その中から露になったシャツの上から弄るように手のひらで胸元を撫で回し始めたので非常に腹が立ち、慌てて頭を掴み上げては零れる悲鳴を無視してゆっくりと指先に力を込めてゆく。
「いだ、いだだだ、いだいっ! ちょ、やめ」
「やめるのはテメーの方だろ、クソピンク」
「う、おおっ、ちょ、待っ……流れ的に今のはオッケーな感じ…」
「なワケあるか! どうでもいいから早くどけって」
「やだ。ヒカタが良いって言うまでどかない」
普段からある程度重さのあるハイドラントを抱えているせいか、無駄に筋肉だけは鍛えられているヒカタの力とずっしりと抑え込んでくる体重に敵うはずもなく。
少し油断をしたばかりに頭上へ両腕を纏め上げられ、空いた片手で暴れているうちに乱れたシャツの裾から入り込んだ冷えた手が素肌に直接触れた瞬間、悔しくもびくりと体が震えてしまい、しまったと言わんばかりに見上げればこれまた好色そうな目で眺めてくるものだか苛立ちが募らない訳がなかった。
「…この借りは後できっちり返してもらうからな」
「うぐっ…べ、別にいいし! 今からヒカタとえっちできるなら、なんだって後で返してあげるもん」
割と推しに強く引こうとしない彼の姿勢に根負けして、人気のない事もありしぶしぶ身を任せる事にする。それに気付いたシナトは拘束していた腕をそっと離して、首元まで捲り上げたシャツ、その中から露になった薄い胸板に顔を近付けると、既に淡く色付いた飾りに口を寄せたかと思えばそのままじゅるじゅると吸い上げながら舌先でころころと弄び始め、その度に奥底から生まれる小さな熱に思わず小さく声を漏らしてしまっていた。
「っ、く…ばか、ンなじらすんじゃね…! ぁ、ん」
「かわいいヒカタをたくさん見たいから、まぁ仕方ないよね」
「仕方なくなんか、な…ぁ、んぅ!」
機嫌の良さそうにぺろりと舌を巻き、地面に付いた右膝をそのままぐりぐりと股間に押し付けるように前へ詰めてきたシナトは、そのまま右手を後頭部に回すと貪るように口付けを交わし僅かな隙間から侵入してきた舌と舌がぴちゃぴちゃと厭らしい水音を立てながらねっとりと絡めてゆく。
(こいつ…こんなキス、どこで覚えて…)
熱の籠もる口付けに次第に意識がふわふわと浮き始め、その間にも硬くなり始めた下半身をスパッツ越しに左手で揉み下すシナトに文句一つぶつける気力もなく、ようやく解放をされた頃にはそのスパッツを押し上げる程に自身の陰茎は大きく勃起していた。
「もう、こんなになってる…」
「うる、せっ…この、バカ! やめっ」
蕩けた灰色の瞳を細め視線を落としたその先、レギンスのウェスト部分に手を掛け下着ごと一気に下ろし脱がされ、ぶるりと目の前に露出した陰茎をあろう事か根元を握り締めながら口で咥えじゅぽじゅぽと水音を立てながら吸い上げ扱くシナトの舌遣いに抑え込んでいたはずの甘い声がどんどんと漏れていった。
「ぁっ、ん…シナ、ト…ッ! も、無理…!」
「…んっふふ、結構上手くなったでしょ?」
「はぁ、はぁっ…それの腕上げてる暇あったら、バトルの練習でもしてろ、この、あほっ…」
「全くもー、ほんと素直じゃないんだから。やっぱり…こっちの方が好き?」
ようやく解放されて体全体に流れる微かな快感に思わずずりずりと後退り、ちょうど高架下にあるコンクリートの支柱に背がぶつかった時、じりじりと迫って来ていたヒカタが突然両足首を掴み上げ、そのまま持ち上がった臀部とずりずりと引っ張られたせいか再び上体のバランスが崩れ地面に頭をぶつけそうになったものの、咄嗟に側にあった錆びたコの字ボルトを必死に掴みなんとか体制を整える。
余裕がないのか息を荒げながら無茶苦茶な攻め方をくるせいで危うく痛い目に遭う所だった自分を他所に、ヒカタ自身もいつの間にか履いていたものを脱ぎ捨てており、掴んだままの足首をぐいぐいと胸元に膝が付くまで押し上げられたかと思えば、恐らく露になっているであろう後孔にひたりと宛がわれたものをすぐさま理解してごくりと息を呑んだ。
「っ、あ、ちょっと、待っ…」
「もう散々待った。ね、もういいよね…ヒカタ、挿れるよっ…!」
「シナ、ト…ぁ、ひ、あぁあっ! ん、く、うぅう」
熱の篭った彼の陰茎の先がゆっくりと侵入を果たしたその直後、まだ狭まったままの中の肉壁を引き剥がすようにぐりぐりと押し込まれ、何度も腰を前後してはごつごつと奥底にぶつかるまで全てが挿入される度、唇を噛み締めていた口元から自分でも信じられない程の甘い嬌声が次々と零れていった。
「や、あぁあっ! そん、な…力任せに、動かすんじゃ、ねっ…ぁ、ひうぅっ!」
「っ、はぁ、はっ…そんな事、言って…自分から腰、浮かせてるくせにっ」
体は素直に快感を受け入れているのか、気付かない間に自身の下半身がまるでもっと彼を欲しているかのように腰を浮かせ前へと押し出すような体勢になっており、シナトに言われるまで意識していなかったせいもあってか唐突に訪れた照れくささに頬を熱くさせながら小さく舌打ちを打った。
その気まずさに居ても立っても居られず、最早言い訳にもならない文句を零しながら慌てて後ずさろうとしたその時。それに気付いたシナトがチャンスを逃さぬと言わんばかりに腰を掴み上げ、その勢いで捩じ込むように奥へと挿入された陰茎、そしてぐちゅぐちゅと水音を立てながら更に激しさを増し中で擦り合う互いに驚く程に甲高い声を吐き出してしまった恥ずかしさに自然と涙が溢れていた。
「っ…今の、ヒカタ、すっごく、かわいいよっ…!」
「ぁ、うぅうっ…この、クソッタレ…ざっけんな…! ぁ、ひぁ、あっ! も、さっさと、終わらせろっ…!」
「はいはい。さっさとね、さっさと一緒にいっちゃおうね、ヒカタ…っ、ん…中、出すよ…!」
ふよふよと浮いた視界と、その中で耳元まで寄ったシナトの真っ赤に染まった顔、そして荒々しく吐かれた熱い吐息にじんわりと頭の中は何も考えられない程に真っ白に溶け、知らない間に膝が胸元に付くくらいに持ち上げられた腰、そのまま彼の鍛えられた胸元へと抱き留められながらぐいぐいと押し込まれる痺れるような快感に今にも溢れてしまいそうな熱がすぐそこまで沸き上がっていた。
「ぁ、うぅっ…ヒカタ、ヒカタッ」
「あ、あっ、ひあぁっ、シナ、トッ…ぁ、や、あぁああっ!」
自然と重ねた口付けと中で熱い波が一気に満たされていく感覚、そしてびくびくと震えを帯びた自身の先から勢い良く溢れた白濁が互いを斑に染めて、全てを出し切りふわふわと空へと浮いていくぬくもりの篭った息が幾度となく吐かれ、頬を伝ってコンクリートへと流れ落ちた涙など気にする余裕もなく、今はただ普段では感じられないシナトの力強い腕の中で未だ暴れ回る心臓をただ落ち着かせようとそっと瞼を下ろしていた。
***
「次! フライドポテト。揚げたてな、焦がしたら殴るぞ」
「はいはいはーい! 仰せのままに!」
散々好き放題をしてしまったエンガワ河川敷からなんとか互いに乱れたフクのままどうにか人の目に晒される前に二人で暮らしているアパートへと帰宅する事に成功したものの、ヒカタの機嫌は想像していた以上に頗る下の下、寧ろ闇の底までに陥っており、一人テレビの前でゲームを嗜んでは次々とおつまみを要求してくるものだから帰ってきてからも休む暇は全く無かった(自業自得と言われれば反論する術も立場もない)。シャワーを浴びるまではまだ口を聞いてくれたものの、その際に再び手を出してしまったものだから後戻りできないレベルでの怒りを買ってしまったらしく(あまりの節操のなさに我ながらアホだと思いました)、今はただこうして彼の我儘を素直に聞いているしか打開策はないと考え現在に至る。
「おい、サラミこれ。一口サイズに切って持ってこい。二分以内な」
「あぁん! ヒカタってばほんとサド! でもそういう所も好…ぐぼほっ!」
淡々と厳しい注文を容赦なく叩きつけてくるヒカタに懲りもせず興奮しながら(無言でクッションを投げつけられた)、慣れた手つきで颯爽とヒカタ用おつまみを準備しキッチンから居間のテーブルへと運んでいた最中。ようやく怒涛の注文ラッシュが止まった時、その間にも食べ終えたらしい綺麗に乗った食材がなくなった皿を片付けようとしたその時、ふと名前が呼ばれた気がしてどうしたのかと言葉を返すと、視線はテレビの先のまま、しかし仄かに赤く染まった耳と小さく呟かれた彼の言葉に思わず感動して、持っていたものを全てテーブルへ投げ捨て、彼の背後から腰へと両腕を回し力いっぱいに抱き締めていた。
「んんんぅぅうっ、ヒカタ大好きぃい」
「あーもう! ちょっと褒められたくらいで泣くな! あと邪魔!」
「ヒカタぁああっ…夜もえっちしよ!」
「……お前、今夜は外で寝ろ。布団は敷いといてやる」
「その微妙な優しさいらない!」
お前の飯が一番美味い。
彼からのそんな褒め言葉に一喜一憂する自分の単純さに一人心の中で苦笑するも、それでもその瞬間に垣間見えるヒカタの笑顔と不器用な愛情を感じながら、文句を言いつつも引き剥がそうとしない優しさに今は存分に甘えてしまおうと心から思うのだった。
(2018.05.26)
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